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 それにしても、ウチの班で配達のパートとして働いている赤口という女性は、驚くほど仕事が出来る女性だった。いつも同じ場所を配達していたが、慣れているせいもあるのだろうが、午前中には全ての仕事を終わらせて、そのまま帰っていた。

 そのうちおれも赤口さんと同じ地区を受け持つことになった。その初日は赤口さんの手ほどきを受けて、一緒にバイクで配ったが、次回からはおれ一人で配ることになった。比較的覚えやすい団地だったが、初めてということもあり、なかなか思うようにスピードが上がらず、結局全部配り終えたのは、午後3時頃までかかってしまった。

 おれは局に戻ってから、課長に残業を申し出た。

 「ウン?あそこを配ったのか?随分と時間がかかったな。赤口さんはいつも午前中で終わらせているぞ」課長が嫌味ったらしく言った。それでもおれは遊んでいた訳でもなければ、サボっていた訳でもなかったので、敢えて黙っていた。

 そのうち課長から目をつけられて、翌週におれがその団地の仕分け作業をしていると、橋本課長代理に何かケチをつけていた。

 「大河は時間がかかり過ぎるんじゃないのか」

 「でも、遅くはないですよ」橋本課長代理が言った。

 それでも課長は釈然としなかったらしく、事務机の前でカカシのように突っ立って、おれを睨みつけていた。おれはそんな課長を横目で気にしながら、なんだかイライラしてきた。

 そのうちおれも多少は慣れてきたが、赤口さんのように午前中で上がる、なんて芸当は出来なかった。自分なりに一生懸命やっているつもりではあったが、どんなにスピードを上げても、最後まで配るのに午後2時か、3時頃までかかった。

 まったく赤口さんには舌を巻いた。それがおれの感想だった。


 それから志賀の方だが、おれ以外の職員やバイトやパートの人に対しては腰が低く、丁寧な言葉遣いだったが、おれに対しては相変わらず陰険な態度で臨んだ。その上、休憩時間になると、一人で「倫理」とか小難しい本を読んだり、小中学生向けの英字新聞を広げて偉そうに読んでいた。おれはもちろん英語は好きだったし、読書も好きだったが、ここの郵便局中では必要以上に自分を大きく見せることを嫌った。だから、郵便局の中で読書をしたり、英字新聞を読む気にはなれなかった。

 志賀の奴はいったいどういう了見の持ち主なんだ?と、疑問に思うことがしばしばだった。

 その疑問が少しだけ晴れる出来事が一度あった。志賀が学校で勉強に使っているという、電子辞書を郵便局に持参してきたことがあり、班のみんなはそれに興味津々だった。みんなは志賀を取り囲んでいろいろと使い方を訊いていた。志賀はみんなから注目されて一人で浮かれて嬉しそうな表情をしていた。

 おれはその様子を見て、ああ、コイツはみんなから注目されて、チヤホヤされるのが好きなんだな。おれはそう理解した。おれの場合は必要以上にみんなから称賛されたり、注目されるのがあまり好きではなかった。そんな志賀とおれとでは、まるで対照的だった。

 

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