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おれはこの当時から、というよりも中学生の頃からロック・ミュージシャンになりたい、と夢を見ていた。しかし、一緒に演奏する良い仲間に恵まれず一人でやるしかなかった。
自作の歌詞を書き、ギターを自分で弾いては、コード進行やリフを考えて安物のラジカセを使って録音していた。マルチトラックレコーダーでもあれば良かったが、あいにくとカネもなかったし、高価で手が出なかった。
自宅部屋で近所迷惑も顧みず、ひたすらCDラジカセに合わせてバカでかい声を張り上げて歌うこともあった。それでも音楽というのは誠実で、一生懸命やれば歌もギターの腕前もそれなりに上達した。
歌やギターは上手く出来るのに、郵便局では日ごろからつまらないミスをやらかしては、ガミガミ怒られている自分がそこにいた。歌やギターでメシが食えたらどんなに良いだろう。おれは常にそう思っていた。
作曲などの創作は下手ではあったが、自分はニルヴァーナのカート・コバーンや、パール・ジャムのエディ・ヴェダーの仲間だ、と気持ちだけはいっぱしのグランジ・ロッカーだった。
おれは幼い頃から学校の勉強もスポーツも苦手で、そのせいで同級生たちから笑われたり、イジメられたりしていた。短大に通っていた時に、仲間を見つけてバンドを組んで、一緒に演奏することもあったが、最終的に仲間外れにされた。おれはその度におれをバカにした連中を見返してやりたい、と悔しさをバネにして、自分一人で音楽の演奏と、創作活動を続けていた。
90年代の音楽シーンは、アメリカでのニルヴァーナの成功で、80年代のメタル時代よりも、もっと面白いバンドやミュージシャンが次々と出現していた。おれのはそんな連中仲間入りがしたかった。
グランジ/オルタナティブ・ロックは、おれの感性にピッタリと当てはまった。




