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その年も残すところ、あと二日か三日となった。おれは午前中の配達を終えて昼休みになったので、弁当を食いに2階の休憩室に向かうところだった。その途中、ふと郵便局の窓口の方を見ると、お客さんがわんさか来ていて非常に混雑していた。その中で、小沼サユリが一人でお客さんを相手に応対していた。その彼女の仕事ぶりは目を見張るモノがあった。彼女は忙しくなればなるほどエンジンがかかり、まるで女性戦士が闘いを挑んでいるように見えた。おれはそんな彼女の姿を見るのが好きだった。
それからあっという間に夕方になり、おれも今日の分の仕事を全て終わらせて、帰ろうかというときに、窓口から郵便局の中の方にたまたま顔を出した小沼サユリとバッタリ出くわした。彼女はおれの顔を見ると、嬉しそうに挨拶をした。
「あー、お疲れ様」
「今日の窓口はどうですか?」おれは彼女に訊いた。
「大変だよ。もう忙しくって」その言葉とは裏腹に、彼女は明るい口調で言った。
「おれ、もう上がりなんですけど、頑張って下さい」
「ウン、ありがと」彼女が言った。
その日はこれでおしまいだった。
その翌日の大晦日になると、郵便局の窓口は昨日とはうって変わり、お客さんの姿もほとんどなく、閑散としていた。集配課の班内でも、その日の作業は夕方までに全て終わり、あとは明日の年賀状の配達若い待つだけとなった。
おれが帰り際に郵便課の仕分け台の所まで行くと、彼女と畠中が二人で仕事をしていた。おれは彼女に声をかけた。
「お疲れ様。昨日は大変だったね」
「大変だったよ。今日は天国だったけど」
「明日は出ます?」
「出ます。アッ、大河君も良いお年を」と、彼女がペコリお辞儀をした。
「ハイ、良いお年を。それじゃまた明日」
彼女にそう言うと、おれは郵便局を後にした。
それから自宅の部屋に帰り、両親とおれとで年越しそばを食べた。そのあと風呂に入って一晩ぐっすりと眠った。
翌日、新年がスタートすると、郵便局では朝早くから年賀状配達があった。配達に行く直前に、集配課の赤いバイクが駐車場にズラリと集結して、出発式が始まった。そこで局長や、市役所のお偉いさんの挨拶があり、それが終わると、みんな一斉にバイクが動いて配達へと向かった。
そのあとおれは年賀状を全て配り終えて、局に戻るなり早速彼女に新年の挨拶をしに行った。彼女も丁寧に挨拶を返してくれた。
それから間もなくして、おれと同じ班にいる船木という名前の若い男性職員に彼女が挨拶している姿が目に止まった。この船木という奴は、いわば臼井などの若い連中の兄貴分のような存在で、グループ交際ながら毎年彼女たちと一緒にスキーに行ったりしていた。この男が彼女を巡って後々恋敵になるとは、その時は夢にも思っていなかった。




