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季節がクリスマスに近くなってきた。おれは小沼サユリに何かプレゼントでも贈ろうかと思った。それも高価な香水や時計やアクセサリーなどではなく、社交的な彼女が仲間たちとワイワイやりながら、お互い分け合えるようなお菓子の詰め合わせが良いと考えた。彼女は甘いもの大好きなようだったし。
おれは早速デパートの食料品売り場へと足を運んだ。そこでいろいろ探しているうちに、ディズニーのミッキーマウスやアニメのキャラクターのイラストが描かれている、見た目が彼女も喜びそうな、可愛らしいお菓子の詰め合わせが目に入った。おれは迷わずこれにしようと購入することにした。
その翌日今日が彼女が休んでいないよう、祈りつつ郵便局に出勤した。昨日、購入したプレゼントは彼女に直接手渡しするまで、大事に自分のロッカーの中にしまっておいた。
午前中の配達を終えて、局まで戻ると遅番でたった今、彼女が出勤してきたことを確認した。おれは急いでロッカー室へと行き、菓子折りが入った手提げ袋を片手に彼女がいる特集室に向かった。
おれは特集室の窓口で、菓子折りが入った手提げ袋を彼女に差し出した。
「小沼サン、これ良かったらみんなで…」
彼女は一瞬、怪訝な顔をしたが、すぐにパッと明るい表情でおれに言った。
「食べ物ぉ?」その言い方が気に入った。
「クリスマスプレゼントです」
「どうもすいませ〜ん。みんなで…」
彼女はおれが今まで見た中で、最高の笑顔で嬉しそうに言った。
おれは彼女が喜んでいる姿を見て、ホッと胸を撫で下ろした。
そのあと、昼休みになって、彼女は女性専用の休憩室で、手提げ袋から中身を取り出した。
「わー、可愛い❤️」彼女は大喜びして、そこの部屋に一緒にいた仲間たちと、ワイワイ言いながら、お菓子を分け合った。
その翌日には、今度は早番で彼女は朝早く郵便局に顔を見せた。彼女はおれの顔を見るなり、プレゼントのお礼を言った。
「大河君、昨日はありがとう。みんなで分けたけど、余っちゃうぐらいだったよ」
おれは特に気にも留めず「ああ、そうですか」とだけ言った。おれのその様子を見て、この人なら大丈夫だ、と彼女は気持ちが落ち着いた。どうやら、おれの気持ちが充分伝わったようだった。彼女は嬉しかったのだろうが、おれの方はもっと嬉しかった。
おれは学生時代から好きな女性にアプローチしては、失敗の連続だった。しかし、おれの目の前にいるこの美人とは、上手く付き合っていけるような気がして、それだけでもおれは幸せだった。




