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 年の瀬も迫りつつあったある日、おれはその日の仕事を終えて帰宅しようと郵便局から外に出た。それから駐輪場まで行き、原付乗ろうとした。すると、おれと同じ班の菊田という男に声をかけられた。そいつの見た目いかにも気が弱そうに見える男で、正規の職員ではなく、おれと同じく非常勤アルバイトとして働いていた。何でも以前勤めていた会社をリストラされて、ここの郵便局で働くことになったそうだ。

 「大河君今ちょっと時間ある?良かったらお茶でもしていかない?」と、おれを誘った。おれは「良いですよ」と快諾して、駅前にある喫茶店で少し時間を潰すことにした。

 おれはコーヒーを飲みながら、菊田を相手にその当時から夢中になって聴いていたオルタナティブ・ロック等の音楽の良さを熱く語った。菊田はと言えば、特に音楽に詳しい訳でもなく、せいぜいバブル期に流行った日本のポップ・バンドぐらいしか知らない様子だった。

 そのあと、おれたちはまだアルバイトの身分だし、お互い頑張って正規の職員を目指しましょう、と意気投合して、喫茶店を後にした。

 駅の近くまで菊田と一緒に歩いていると、おれが密かに期待していた通り、小沼サユリが男性職員と2人で年賀ハガキの出張販売をしているのが目に飛び込んだ。おれは喜び勇んで彼女に声をかけた。

 「アアッ、大河君。仕事の帰り?」彼女が言った。

 「ウン、そうだよ。寒い中ご苦労さま」と、おれは言いながらタバコを一本取り出して、その場で吸った。

 菊田も彼女に興味を持ったらしく、彼女の名前や年齢をいちいちおれに訊いてきた。

 「小沼サンって歳はいくつ?」菊田の代わりにおれは訊いた。

 「ゴメンなさい。あたし嘘ついてました。今年で24。大河君よりも歳下なの」

 おれはちょうど25歳だった。彼女は普段からまるでお姉さんのように振る舞っていた。その方が嬉しかったが。

 「今日は寒いね。でもね、あたしが生まれた所はもっと寒いんだあ」

 「ん?小沼サンってどこの生まれ?秋田だっけ?」

 「青森だよ。秋田はハタケ君」

 続けて彼女が言った。

 「ねえ、大河君も良かったらハガキ買わない?」

 「おれはもうよそで買ったばかりだからなあ。そうだ。菊田さん、買っていったら?」と、おれは菊田に話を振ってみた。

 菊田は小沼サユリに淡い好意を持ったらしく、50枚ほどまとめて年賀ハガキを購入した。

 おれはそろそろいいかな、と思い「じゃっ、頑張って下さい」と、彼女に声をかけた。

 「ウン、ありがと」彼女が応えて、おれと菊田は再び一緒に歩いて行った。

 帰る途中、菊田は彼女が気になったらしく、ずっと小沼サユリのことばかりをおれに訊いてきた。おれは軽く受け応えをしたが、内心「彼女はおれのモンだ」と、思っていた。

 それから菊田にも、お疲れ様、と言って郵便局の駐輪場まで一人で行き、原付に乗って帰路に着いた。

 



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