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ところでこの郵便局では、普段からのみんなの労をねぎらって飲み会が幾度となく催された。コロナ禍が起こるずっと以前話だ。今日も局内の会議室で飲み会があると聞かされて、参加することにした。午後の6時ぐらいに始まるとのことで、時間まで少し猶予があったので、おれは休憩室で缶コーヒーを飲みつつ時間が来るのを待っていた。
やがて時間になると、おれは会議室の中に入った。そこには白いテーブルがいくつか並べてあって、テーブルの上には瓶ビールやお寿司や、日本酒の一升瓶などがところ狭しと置いてあった。もう既に飲み会に参加する職員やバイト組のほとんど全員が集合していて、乾杯が始まるのを今か今と待ち構えていた。
しばらくすると、局長や副課長やらのお偉いさんたちが次々と部屋の中に入ってきた。それからみんな、待ってました、と言わんばかりにビールをグラスに注いだ。
局長から簡単な挨拶が済むと、みんなカンパーイと各々飲食を始めた。おれと同じくバイト組の臼井や志賀、それに坂下もその場で一緒だった。
おれはしばらくの間、一人で黙々と飲んでいたが、やがて同じ班の職員である酒井という職員が仲間に加わった。その話の中で酒井はこんなことを口びにした。
「おれたちがいないと宇宙が無くなっちゃうんだよ」
そのセリフと似たようなことを、おれが高校生の時に親父がおれに言い放ったことがあった。
そのことを酒井に伝えた。
「じゃあ、君も多分そうなるよ」と、酒井が言った。
その時はまだ実感が湧かなかったが、数年後にはその言葉の意味がとてつもなく大きいことを思い知ることになった。何も知らなかったその時は、さらりと受け流す程度で終わってしまったが。
飲み会も終盤に差し掛かり、臼井がそろそろ帰ろうかなあ、と言い始めた。おれはそれを引き留めて、もう少し飲んでいけ、と軽く言ってやった。臼井の場合、志賀とは違って気の良いアンちゃんといった風情だった。一見すると、志賀と仲良くしているように見えたが、志賀とグルになっておれに意地悪なことはしてこなかった。
おれは臼井をギリギリまで粘るように言ったが、志賀の奴が臼井を自分の舎弟のように振舞っていたので、臼井も半ば強制的に従った。臼井は帰り際におれに挨拶をしたが、志賀はおれを最後まで無視していた。
坂下は他の仲間と一緒に飲んでいたが、臼井が消えたことに気づいた。
「あれ?ウスの奴はどこ行った?」と、おれに訊いた。
「志賀と一緒にもう帰っちゃいましたよ」と、おれ。
「クソ、あの野郎。明日来たらお仕置きだ」と、坂下が酔っ払って言った。
小沼サユリは以前、みんなの前で話したようにお酒は全く飲めないようだった。結局飲み会があっても参加することは一度もなかった。おれは彼女とも、みんなと一緒に一杯やりたい気持ちがあったが、その想いが叶うことは最後までなかった。
それから飲み会が終わり、おれはほろ酔いの良い気分で、駅まで歩いて電車に乗って帰宅した。




