17
その日の午後の配達も無事終わり、おれは郵便局までバイクを走らせた。帰ってからすぐ、書留の配達証を提出しに行った。そこの特集室にいた小沼サユリは、相変わらずの笑顔で配達証の枚数を確認してからおれに言った。
「お疲れ様でした。配達大変ですよね」
おれは「なあに、すぐ慣れますよ」と、軽く応えた。
その後、班の方に行くとまだやることが残っていた。転居した人たちの郵便物をファイルを見ながら、転居先の住所を手書きで記入する作業だ。おれは臼井にそのやり方を教わりながら、黙々と作業をした。すると今朝方、おれをジロジロ見ていた土方風の職員がおれに話し掛けた。
「郵便課がイヤになったからこっち来たのか?」
おれは思わず苦笑いをした。当の本人は別に悪気があった訳でもなかったんだろうが、帰宅してから親父にそのことを話すと、そりゃあ不愉快だな、と、親父はすぐに郵便局の坂下に電話をして、抗議してしまった。
その翌日、郵便局に行くと坂下はおれに詫びを入れてきた。
「大ちゃん、昨日はごめんね。あの人は悪い人じゃないんだけど…」
おれもことを荒立てる気持ちなかった。「ああ、そうですか。すいませんでした」坂下にそれだけ言って、その時は終わりにするつもりでいた。
しかし、そのあと班内で再び土方風のその職員が、おれに向かって「郵便課の方がラクだったろ?」と満面の笑みを浮かべて、おれに言ってきた。おれその一言が気に入らず、集配課の橋本という名前課長代理にあの人おれ変なことを言って不愉快なんですけど」と、訴えた。
橋本課長代理は、すぐに対応してくれれ、土方風の職員のところまで行って、口頭で注意をした。
すると土方風のその職員は「おい、このヤロー」と、おれ向かって声を荒らげた。
橋本課長代理は「不愉快だって言っているよと、言うと「そんなことは知らねえだったら辞めればいいじゃねえかと、土方風の職員は抗弁した。
おれは別に、この職員に対して悪気は全然なかった。ただ、一般的なことを言っているつもりでいたので黙っていた。
実際次の日郵便局に着いた時から、班長や副班長から何か言われたりしないか、気にしながら作業していた。しかし滋賀も臼井も他の班の人も、何事もなかったかのようにしていた。だからおれも、これ以上引きずらないように、ギリギリ正気を保とうとしていた。
その日は昨日とは違い、一日中穏やかな感じで終わってしまった。
集配課には郵便課の篠原とは別の課長代理二人いた。一人は昨日の件で土方風の職員の相手をしてくれた橋本課長代理。もう一人は堀之内という名前の課長代理。二人とも篠原なんかよりも全然普通で、はるかにマシだった。堀之内課長代理は橋本課長代理に比べると、若干口やかましい人だった。それに対して橋本課長代理いつも穏やかで、やかましいことは一切言ってこなかった。仕事上でおれや他の人を叱ることもあったが、それでも優しい口調だった。
それから、おれの班にいる副班長の山下という人は、普段はみんなに優しく接していたが、仕事のことでは厳しい人だった。おれはそのことを後々に痛感することになった。




