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 それからおれは自分の班に戻った。まだ組み立ての作業が途中だったが、志賀が地下の駐車場まで行って配達用のバイクを乗って、上まで上がって来るよう、おれに言った。

 おれはバイクのキーを渡されて、キーホルダー書いてある番号と同じバイクがないか、駐車場で探した。

 「あった、こいつだな」おれはバイクにキーを挿して、いざ出陣と思った。しかし、そいつはホンダのスーパーカブだったが運転の仕方分からず、エンジンを何度も空吹かしさせてしまった。それからいきなりギアを踏んだ為、バイクをウイリーさせてしまった。おれは思わず驚いて、駐車場スロープを怪しげな走り方でなんとか上まで行き、郵便局の納品口にバイクを停めた。

 おれは中に入ると臼井に、バイクの運転の仕方が難しいね、と言った。

 「ウン?エンジンを空吹かしにするとウイリーするよ」と、そのままズバリと言われた。

 「おれ、ちょっと練習してくる」と、言い残しておれは外の駐車場をバイク乗ってグルグルと走りまわった。側から見ると、まるで遊んでいるようにしか見えなかったがこれでも真剣にやっているつもりではいた。おれは運転の仕方がいくらやってもよく分からないまま、諦めて郵便局中に入った。すると、臼井も志賀も既に準備が整っているようだった。

 副班長の山下が「まずは、志賀について教えてもらいながら行ってくれ」と、指示した。おれは志賀に、よろしくお願いします、と言って郵便物をバイクの後部にある赤い箱に詰め込んだ。

 それから志賀が運転するバイクの後について走らせた。その途中に、赤信号で一時停車する度におれはバイクをエンストさせていた。前にいた志賀がそのことに気づいて、バイクを降りておれの方まで来た。

 「これ、チョークになってますよ。走る時は手元のレバーを走行にしないと」

 おれは志賀の言われた通りにすると、今度は少しまともになった。それから5分ほどで配達区域の団地内入って、本番がスタートした。

 志賀の指導に従いながらおれは配達をした。そこは開発されてから間もない団地の中で、それも比較的覚えやすい場所であった。それでも物覚えの悪いおれにとって、初めのうちは大変だった。今はおれと志賀の二人で配っていたから何とかなった。いずれはおれ一人で配達することになるんだろうが、うまくいくかな?と一抹の不安が残った。それでも慣れれば何とかなるさ。おれは楽観的に思った。

 午前中の配達が終わり郵便局に戻ると、すぐに昼休みの時間になり、おれはお袋が作ってくれた弁当を休憩室で食べた。食事が終わると、おれは持参したポータブル音楽プレーヤーで、音楽をイヤホンで聴きながら、休憩室のテーブルの上で腕に頭を沈めて、ひと眠りすることにした。

 それからあっという間に昼休みも終わり、おれは下まで階段で降りた。一階の出入り口の近くには、女性職員専用の休憩室があった。小沼サユリはいつも他の女性職員と共に、そこで休憩していた。そこはまるで男子禁制の聖域のようで、おれはもちろんのこと、他の男性職員や男性バイトの連中がその部屋に入ることはなかった。

 その部屋の中から時折、みんなと楽しそうにおしゃべりをしている小沼サユリの声が外まで聞こえた。おれはその声を聞くのが好きだった。その反面、部屋の中に彼女が一人しかいない時は、普段からの楽しい感じではなかった。それは一人暮らしを強いられている、うら若い女の悲哀のオーラが部屋から漂ってくるような、寂しげな感じだった。普段は明るく振る舞っていても、その裏で寂しい想いをしているんじゃないかなあ。おれはそう思って気になった。

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