15
内勤の仕事から、配達の仕事に移るのは今日が初日だった。おれは朝来るなり坂下とこまで行き、どこに配属されるのか訊いてみた。坂下はすると、3班に配属してもらう、と言ってそこの班の副班長を紹介してくれた。山下という名前の副班長は坊主頭でメガネをかけている男性だったその山下さんという副班長は、おれを見てニコニコしながら、後でみんなにも紹介するから、ちょっと座って待っていてくれ、とおれに言った。
そこ班の中にはちょび髭を生やした土方のような、いかつい風貌の職員が1人いた。その職員は胡散臭そうな顔をしながら、おれの方を見ていた。
おれはしばらく黙ってイスに座っていたが、同じ班に若い男子2人組がいたので、自分の方から声をかけた。
「スイマセン。今日から配達の仕事まわった大川というモノです。よろしくお願いします」
と、そこへ副班長の山下もその二人組に声をかけた。
「今日からだから二人とも、よく教えてやってくれ」
おれはとりあえず、自分の受け持つ場所を確認して、郵便物を区分棚に仕分ける作業を始めた。区分棚にはそれぞれ団地や住宅地に居住している人たちが順番に書いてあるプラスチック製のファイルが入っていた。そのファイル通りに郵便物を並べていく作業を「組み立て」と呼んでいた。その組み立ての作業を手伝うパートのおばさんが全ての班に数人ずつ入っていた。
新たに仕事仲間となったバイト二人組は、どちらも駅前にある大学に通っている学生だった。それぞれ臼井と志賀と言う名前で、臼井は最近の若者らしく髪の毛を茶色に染めていて、人懐っこく親しみやすい男だった。一方、志賀の方はひょろっとした痩せた体格で、顔つきはまるで南京豆のような顔をしていた。
おれは配達の仕事自体何もかも初めてで、緊張した面持ちで作業にあたった。坂下その様子を見て「大ちゃん、緊張しているな」と、すぐに察しがついた。
おれが組み立てをしていると、書留の用意ができたので受け取りに行って下さい、と、外務の課長代理みんなに声をかけた。おれは郵便課で書留などを取り扱う「特集室」と呼ばれる部屋の窓口まで、書留を受け取りに行くことにした。
そこには小沼サユリをはじめ、昨日まで同じ郵便課で働いていた短時間職員の人たちが数人いて、おれと顔を合わせることになった。小沼サユリはニコニコしながら「どこの区域ですか?」とおれに訊いた。おれが配達する区域を言うと書留の郵便物と、枚数をチェックする用紙を手渡してくれた。おれは書留の枚数と用紙に記入してある数字が同じなのを確認すると、自分のハンコを押した。これで準備完了。




