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おれがここの郵便局で働くようになってから、2年が過ぎようとしていた。ある日のこと、おれたちバイト組にとって不穏な話が持ち上がった。それまでパートとして働いていたおばさんたちが、例の短時間職員の試験に合格して、そのせいでおれたちバイトの仕事が大幅に減らされるか、もしくは最悪の場合クビにさせられる、という状況になりかねない、という話だ。

 職員坂下はその話を聞いて「大丈夫だ、そんなババアどもに仕事を盗られてたまるモンか」と、義憤した。しかし、上役の方針は覆りそうにもなかった。おれはそこで仕事から帰るなり、親父に事情を説明した。

 「だからお前も短時間職員の試験を受ければ良かったんじゃないのか!」親父は怒りをおれにぶつけた。

 しかし、待てよ、おれは思った。内勤ダメなら配達の方をやれば…。おれは密かに頭の中で画策を始めた。おれは自動車の免許も持っているしバイクの運転も出来る。

 しばらくすると、親父は何も言わなくても察したらしく、おれに考えと同じことを口走った。

 「お前、内務から外務の配達の方にまわったらどうだ?お前は免許も持っているんだから」

 「おれもそう思っていたんだよ。明日なったら職員の人にちょっと訊いてみる」

 おれがそう言うと、親父も納得した。


 その次の日、おれは郵便局に出勤するいなや、早速坂下に相談してみた。

 「坂下さん、おれ内務から配達の方にまわりたいんですけど」

 坂下はおれの言葉を聞くなりこう言った。「そうか。ちょうど配達も人手不足だったんだ。分かった。話をつけてみるよ」と、前向きな返事が戻ってきた。


 その他の田中、仲原、荒井バイト組はもう半分以上諦めの空気満ちていた。仲原なんかは「一種の公務員試験でも受けようかなあ」と半ばヤケクソな口調でブツブツ言っていた。

 朝のミーティングの時間なると、短時間職員として新たに辞令がおりた三人か四人の顔馴染みの元パートのおばさんたちがみんなの前で正装姿で紹介された。この時点でもうおれたちバイト組の命運は尽きた。荒井だけはなんとか残留決まったが、田中と仲原は不本意ながら、とうとう辞めることが決定した。つまり事実上のクビになったという訳だ。

 おれはと言えば、内務から配達の仕事に就くことが既に決まっていた。おれはたまたま側に居合わせた田中にそのことを伝えて、お世話になりました、と挨拶した。田中は固い表情をして不機嫌そうにしながら、何も言えなかった。

 田中と仲原には悪いが、おれはこの二人にあまり同情する気持ちになれずにいた。逆境に負けるようでは男廃るし、世の中は調子の良いことばかりではない、と思っていたからだ。やがては弱肉強食で食われちまう、そうとも思った。

 そこへ坂下がおれのところまでやって来た。 

 「ああ、大ちゃん。フリーエージェントの話はもう決まったから、明日から外務の配達に入ってもらうからね」おれは二つ返事で引き受けた。

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