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中島が公然の敵であることは、患者さん同士の中だけではなく、病棟の看護師や看護婦、それに先生の間でも周知のことだった。
そんな中島でも、将棋の腕前だけは自信があり、例の将棋の天才に勝負を挑んだ。中島としては、こんなところに入院しているクルクルパーに負ける訳がない、と最初のうちは余裕しゃくしゃくだった。しかし、時間が経つに連れて、中島の顔色が変わってきた。時間と共に中島の方が次第に追い詰められて、中島の形成がみるみる不利になってきたからだ。中島は「こんなバカな…」と愕然とした。
対する将棋の天才は形成が有利になっても、一言も言葉を発することなく、無表情のまま淡々と将棋の駒を動かしていた。
その様子を、取り巻くように見ていた他の患者さんたちは、興奮気味に大喜びしていた。最後にはとうとう中島が対戦相手に王手を打たれて、中島の負けが確定した。負け犬とはまさに中島のことを意味していた。




