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 おれはその日、何事も無かったような顔をして、郵便局で仕事をしていた。神内の奴はおれの身に起こった出来事なんか、何にも知らずにいた。おれは仕事中に、わざと乱雑に郵便物を神内に投げ出すように渡した。すると神内はすぐに反応して、「投げるんじゃねえよ」と、腹を立てて言った。おれはその言葉を無視して、敢えて何も言わずに仕事を続けた。

 すると、神内は集配課の大林課長や副班長に言いつけて、辺りは大騒ぎになった。 

 「大河君、郵便物を投げつけたそうだが」と、大林課長がおれに言った。おれはヘラヘラ笑いながら「投げつけてなんか無いですよ。みんなコイツのデタラメです。他の人にも訊いてみてください」と、言った。

 課長は神内に向かって「投げつけてないって言ってるよ」と、言うと神内は「投げました」と、言った。課長はおれに「郵便物は投げないようにするんだぞ」と、言い残してそれ以上は何も言わず、その場を離れた。

 神内は仕事をしながら、なんか様子が変だなあ、と思っていたが、神内がいくら考えても、何にも分かりはしなかった。 

 おれはそこで、班の職員に以前神内に聴こえるように言ったセリフを、再びみんなの前で言ってやった。

 「すいません。学生会館の人がポストが壊れたから、中の受付まで郵便物を直接持って来てくれ、って頼まれたんですけど」   

 「学生会館にポストなんか無いじゃん」

 「エッ?ポスト無かったでしたっけ?ああ、そうだ、無かったですよね。間違えました」 おれは白々しくそう言いながら配達に出た。

 その直後、神内は大林課長に直訴した。

 「課長、大河君が言ってることは全部ウソです。全部デタラメです」

 課長はその言葉を受けて「よーし、それじゃあ、後で話を聴こう。配達が終わって時間になったら、上の会議室まで来てくれ」と、神内に言った。 

 その様子を見ていたみんなは、心の中で拍手喝采した。  

 「やった。これで神内もおしまいだ」ここの班にいる職員は黙っていたが、みんなそう思っていた。


 そのあと、おれは配達の仕事を終えて、退出時刻になるとユニホームから私服に着替える準備をしようと、ロッカールームに行った。神内は帰り際、着替えもせずに「今にみてろ」と、言う顔をして課長に言われた通り、上の階にある会議室へと向かった。

 おれは着替え終わると、集配課のすぐ下の階にある郵便課まで行った。そこでお昼休みで休憩中だった、前の郵便局からの旧知の仲である、畠中を見つけて声をかけた。 

 「短時間職員の大場さんにことづけて欲しいんだけど、帝鉄線の田口駅前にあるエスカレーターを降りてまっすぐ行くと、コンビニがあるんだ。そこを通り過ぎて、さらにまっすぐ行くど、交番がある。そこに橋本課長代理がいるって、そう伝えておいて」

 おれはそう言って郵便局をあとにした。 


 畠中はさっそく小沼サユリを探して見つけると、人気のないところまで彼女を連れて行き、こう言った。

 「短時間職員の大場さんにって言われたけど、多分サユリに言えば良いと思う」畠中はそう言うと、さっきおれが言った、なぞなぞのようなセリフを彼女に伝えた。

 「大ちゃん、お前のアパートまで行くつもりだぜ。行ってやれよ」と、畠中は彼女に言った。 

 「そうね。分かった。それじゃあ、お先に失礼します」小沼サユリはそう言うと仕事を切り上げて、早退することにした。

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