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先ほどの電話では、小沼サユリは帰宅した、とは言ったモノの、実際はまだ郵便局で勤務中だった。電話を受けた郵便局の女性職員は、すぐさまに小沼サユリのところまで飛んで行った。
「サユリちゃん、今さっき橋本って言う人から電話が圧迫わよ」
「橋本?誰だろ」
「若い男の人の声だったわよ」
それを聴いた小沼サユリはすぐにピンときた。
「エエ!?じゃあ、全部分かったんだ!今、どこにいるの?」
「そこまでは聴かなかったんだけど…。でも、サユリちゃんの住所と電話番号を教えてくれって言われたんだけど、教えなかったのよ。その後、しつこく訊いてこなかったから、間違い無いわよ」
「アア、せめて今どこにいるのかぐらい彼に訊いて欲しかった。まてよ。そうだ。あの先生なら知っているかも」
小沼サユリは人気の無い場所へと移動して、自分が持っていた携帯電話で、おれが通っている病院に電話をかけた。
ちょうどその頃、松田先生は外来の診察室から医局の方へと戻っていた。と、そこへ外来から、松田先生の携帯電話に一本の電話がかかってきた。
「松田先生、小沼サンと言う方からお電話です」
「小沼サン?ああ、小沼サンね。待って、男の人?」
「いえ、女性の方です」
「ああ、そう。じゃあ、間違い無いな。繋いでくれる?アア、どうも久しぶり」
「ご無沙汰してます。あの…大河君、そちらに来てませんでした?」
「ああ、さっき来ていたけど」
「来ていましたか!今、どちらにいるか分かりますか?」
「ちょっと待っててね。外来に繋いで訊いてみる」
松田先生はもう一度外来の受付に電話した。
「さっき来ていた大河サンはどこかに行くか、何か言ってなかったかい?」
受付の女性職員は、おれが公衆電話で話していることを思い出した。
「八王子駅の…。駅前にあるホテルだって言ってました」
「そうか、ありがとう」松田先生はそれを聴くと、再び小沼サユリに電話を繋いだ。
「もしもし。八王子の駅前にあるホテルだそうだよ」
「八王子駅の駅前のホテルですね。分かりました。ありがとうございます!」
小沼サユリはそのことを聴くと、いても立ってもいられなくなり、勤務中にも関わらず、郵便局を早退しておれがいるホテルまで一人で直行する決意をした。




