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ここの郵便局に来てから、半年が過ぎようとしていた。季節はクリスマスシーズンなり、来年の年賀状の受け付けも始まり、年末年始の繁忙期になろうとしていた。おれたちバイト組も、新森主任に頼まれて、朝早くから夕方なるまで、年賀状やその他の郵便物の仕分け作業に追われた。
そんなある日郵便局で働いていると、時刻は午後の5時になった。新森主任は休憩室自販機で缶ジュースや缶コーヒーを買って来るようにおれに言った。新森主任は千円札をおれに渡してくれたので、さっそくおれは適当な飲み物を買ってきた。それからおれたちは郵便課の職員ともども休憩に入った。
郵便課の職員の中では紅一点の小沼サユリも仲間に入り、おれたちはくつろぎながら雑談をした。小沼サユリという女性は不思議な女性だった。大した学歴がある訳でもないのに、ひどく知的で頭が良さそうに見えたからだ。その上気取ったところはまるでなく、天真爛漫でみんなの前ではいつもニコニコしていた。
田中が小沼サユリに何気なく話しかけた。
「小沼さんはお酒は飲めるんですか?」
「アタシ、お酒は全然飲めないんですよ」
おれは缶ジュースをあおりながら言った。「甘酒でも顔が赤くなるってやつですか?」
どうせおれなんかには興味ないんだろうと、思いつつも思わず声を出した。
しかし、意外にも小沼サユリはおれの言葉に反応した。
「甘酒は大好きですよ」
おれは多少驚いた。なぜなら無視されておしまいだろうと思っていたからだ。
「そうなんですか?」おれは口走った。
と、そこへ小松優も仲間に加わった。おれは小松優にも話しかけた。
「いつもハタケさんと一緒に毎朝通勤してますね。お手手繋いで仲良さそうに」
おれがそう言うと、小松優は恥ずかしそうにした。
すると畠中その様子を感じ取って小松優の手を叩きながら、ぶっきらぼうに言った。
「帰るぞ」
「痛いわねえ。言われなくても帰るわよ」
おれがふと外の様子を中から見ると、もう辺り一面真っ暗だった。新森主任「じゃあ、もう暗いしバイトの人たちは帰っていいよ」と、言ってくれたのでおれたちは帰る準備をすることにした。
おれが手荷物をまとめて郵便局の仕分け台の前を通りかかると、職員の坂下と小沼サユリがまだ仕事をしていた。おれは二人に「お疲れ様でした」と声をかけると、小沼サユリはいち早く反応して、おれに挨拶を返してくれた。
おれは帰り道を一人で歩いている途中、なんだか小沼サユリのことばかり脳裏によぎって仕方がなかった。




