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番外 ガードナー姉弟と王妃

12月27日フェアリーキス様より発売予定の「お助けキャラも楽じゃない2」書影公開記念の番外編です!

時系列的にはジェパニ編の、アナベルがわざと怪我をして、ランスロットとギクシャクしている辺りのエピソードです。

「姉さん! お待たせ!」


 学院の来客受付で待っていると、弟のノアが笑顔で走ってきた。

 銀の髪にアメジストの瞳。同じ色彩を持つ十六歳の弟は、会う度に亡き父親に似てきている気がすると、アナベルは口元ををほころばせた。


「ノア、予定を空けてくれてありがとう。親善大使様達の滞在中は会えないと手紙で書いたけれど、お休みを貰えたから顔だけでも見ようと思って……」

「姉さんならいつでも大歓迎だよ! 今日はちょうど休講日だからカフェに行こう!」


 そう言うとノアはアナベルの鞄を奪って歩き出す。女性の手荷物を持ってあげる紳士に成長している事を、アナベルは嬉しく思いながらカフェへと移動した。



 学院近くのカフェは、休講日を満喫する学生達で賑わっていた。

 学院の在籍期間は十三歳から十六歳の三年間。頬がふっくらとして、まだあどけなさが残る子達はきっと一年生。

 ノアにもあんな頃があったなとアナベルは懐かしくなった。そこからわずか二年で、目の前のノアはすっかり背が伸びて声も低くなり、立派な青年になっていた。


「姉さん、何だか疲れてる? 元気がないように見えるけど……」


 席に着くなり、ノアはじっとアナベルの顔を見つめた。


 アナベルは内心冷や汗をかきながらも、何事も無いように微笑んだ。


「そうかしら……? 最近仕事が忙しいから、言われてみれば少し疲れているのかもしれないわね……」

「無理しないように気をつけてね? 姉さんは仕事熱心すぎるんだから、ランス義兄にいさんや周りの人に心配かけちゃダメだよ?」


 どちらが年上か分からない口ぶりに思わず苦笑が浮かぶ。


(昔は「ねねたま」と呼んでヨチヨチと後ろを着いてきたノアが、いつの間にか「姉さん」と呼ぶようになって、更にはこんなしっかりした事を言うなんて……)


 ついつい親のような気持ちになってしまうアナベルに、何も知らないノアは爆弾を落とす。


「そういえば、ランス義兄さんは元気? 今日は一緒じゃないの?」


 ノアには正式に婚約が決まった後すぐに、ランスロットを紹介してあった。

 まさか姉の婚約者になった人が、貴族なら誰しも名前を聞いた事があるだろう有名人だとは思わなかったようで、ノアはつぶらな瞳をさらに丸くして驚いていた。

 二十三歳のランスロットとは歳が離れている為、顔合わせの際に二人の間で会話が成立するのかアナベルは心配していたが、意外にも意気投合して、ノアは早くも「義兄さん」と呼ぶようになっていた。


「ええ……。今日はお仕事じゃなかったかしら……?」


 アナベルが視線を泳がせるのをノアは見逃さなかった。


「姉さん? 義兄さんと何かあったの? まさか喧嘩したとかじゃないよね?」

「……」


(言いたくない事を上手く濁して誤魔化す事は出来るけど、ウソは苦手なのよね……)


 アナベルが何も言えないでいると、ノアはわざわざコーヒーカップをテーブルの端に寄せて、ズイと身を乗り出した。


「姉さんも義兄さんも口数が少ないんだから、お互いの言い分をよく聞いた方がいいよ? 今も勘違いのすれ違いとかしてるんだよきっと」

(本当に、どちらが年上か分からないわね……)


 アナベルは苦笑を噛み殺しながら、自分のカップに口をつけた。


「次から次へと言い寄ってくる男を片っ端から斬り捨ててたっていう姉さんが、やっと結婚する気になったっていうのに……」


 ノアの呟いた言葉に、アナベルはせた。


「ちょっと……! どこでそんな話聞いたの? そんなに言い寄られていないし、斬り捨ててないわよ……!」


 ――官吏を目指す学生達は王宮内の情報に耳聡い。アナベルが王妃様の庇護を受けた高嶺の花である事は、学生の間では有名な話だったが、そんな事を知ったらアナベルが驚いてしまうと思ったノアは、慌てて話を逸らした。


「そ、そんな事どうでも良いじゃないか。とにかく! 僕は姉さんがあの時・・・の王妃様の助言をひたすら守り続けて、誰とも結婚しないんじゃないかと思っていたから、義兄さんみたいに素敵な人を見つけられて良かったと思ってるんだよ!」


 あの時──。それは両親が亡くなってひと月も経たない頃に起こった、とある騒動の事。

 ノアの言葉に、アナベルはその時の事を思い出した。



 ──六年前。

 喪服に身を包んだ十三歳のアナベルと十歳のノアは、ガードナー邸の応接室のソファーで身を寄せ合って硬くなっていた。


「だから、儂の息子とアナベルが結婚して、ノアが成人するまで息子が一時的に爵位を預かるのが一番良い方法なんだ。分かるだろう?」


 対面のソファーから身を乗り出して幼い姉弟を威圧しているのは、アナベル達の亡き父であるガードナー伯爵の又従兄弟という、限りなく遠い親戚を名乗るモリス男爵とその息子。

 まだ十歳のノアには、十六歳の成人までの間、爵位と財産の管財人を置く必要があり、その管財人に名乗りを上げたのが、この親子だった。


 恰幅が良く、年老いた熊のような男爵。その息子は細身で、若者の間で流行っている格好をしているが、アナベルよりひと回り以上は年上に見える。こちらに笑顔を向けているが、その視線が蛇のように全身に絡みついてくる気がして、アナベルは思わず鳥肌が立ってしまった。


「既に王宮に結婚を承諾してもらう為の書類を送ってある。もうじき許可印の押された証明書が戻ってくる頃だ」


 この国では貴族の結婚は王の許可がいる。その許可を貰う手続きを、モリス男爵はガードナー家に何も知らせず行ったという。


「そんな……! 勝手に困ります……!」


 アナベルが顔を真っ青にして抗議すると、モリス男爵はローテーブルを拳で叩いた。


「お前達だけでは何も出来んだろう!? だから儂らが助けてやると言っているんだ。大人しく言う事を聞かんか!」


 大きな声と音に驚いたノアは怖がってついに泣き出してしまった。

 アナベルは泣き出す事はしなかったが、今にも涙が零れそうになるのを必死で堪えていた。

 応接室に控えていた使用人達は、相手が仮にも貴族という事で、何も出来ずに幼い主人達をただ見守るしか出来なかった。


 すると男爵の息子が立ち上がり、アナベルへ近づいた。


「アナベル嬢、父が怖がらせてごめんね? 僕はあんな事言わない優しい男だから安心して欲しい」


 そう言うとアナベルの手を取り、立たせようとする。

 いきなり触ってきた息子の手は不自然な程に汗ばんでいて、生理的嫌悪にまたしても鳥肌が立った。


「ちょっと二人で話をしよう? そうすれば僕がどれだけ優しい男か分かって貰えると思うんだ……」

「お断りします……!」

(二人きりになったらきっと良くない事が起きる……)


 アナベルは握られていた手を振り切って、きっぱり断った。

 息子は舌打ちをすると、嫌がって立ち上がらないアナベルの腕を強く掴んで、強引に引きずって行こうとする。


「姉さんに触るな!」


 ノアが立ち上がり、男爵の息子をアナベルから引き離そうとするが、大人の男の力にかなうはずもなく、突き飛ばされて尻もちをついてしまった。


「ノア……!」


 ノアを助け起こそうとして、ソファーから腰を浮かせた所を狙って息子はアナベルの腕を捻りあげた。


「痛っ……!」


 見かねた使用人達が抗議の声をあげるが、男爵に一喝されてしまう。


「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。ちょっと話せば僕達の言う通りにした方がいいって良く分かるからさ……」

(このままでは得体の知れない男と結婚させられて、爵位を奪われてしまう……)


 何故か鼻息も荒い息子への恐怖と、腕の痛みに耐えかねて、アナベルは恐慌状態に陥った。


(誰か……神様……助けてください……!)


 アナベルが思わず神に祈ったその時、なんの予兆もなく応接室の扉が勢いよく開かれた。


「お邪魔するわよ?」


 扉から入って来たのは、騎士を引き連れた美しい女性だった。


 女性は部屋の状況を見るなり、眉を吊り上げてアナベル達の所へ一直線に歩いてきた。

 上質なドレスに美しい髪型、その所作は洗練されていて、貴族の中でも特別な階級にいるだろう事がひと目でわかる高貴なオーラを放っていた。

 女性はアナベルの腕を捻りあげたままの息子の目の前に立ち、怒りを露わにして一喝した。


「今すぐその手を離しなさい!! か弱い女性、しかも伯爵家の令嬢に手をあげるなんて、不敬罪で投獄決定ね!」


 有無を言わせぬ女性の迫力と、投獄という言葉に怯んだ息子は手を離して後ずさった。

 すかさず、その息子と女性の間に騎士達の一人が立ち、睨みをきかせる。


「だ、誰だ! 断りもなくいきなり入ってきて失礼じゃないか!」


 激高して女性に詰め寄ろうとするモリス男爵の前にも、別の騎士が立ち塞がった。


「こちらは王妃陛下にあらせられます。言動にはお気をつけください」

「お、王妃だと……!?」


 騎士達の言葉を聞いてざわついた使用人達は、慌てて一斉に頭を下げた。

 アナベルも急いでノアを立ち上がらせて頭を下げさせ、自身もカーテシーをして王妃の言葉を待った。貴族社会では、位の高い者から声を掛けられるまでは話しかけてはいけない。流石のモリス男爵も黙って待つしかなく、この場の主導権は王妃が握っていた。


「アナベルにノア……! 大きくなって……!」


 王妃はアナベルとノアの頭を上げさせて、それぞれを愛おしそうに抱きしめた。


「アナベルはお母様にますます似てきたわね……! ノアは目元がお父様にそっくり! 背もお父様に似て高くなるかしら……?」


 貴女達が小さい頃に会った事があるのよと、王妃は懐かしそうに目を細めて、アナベル達の頭を撫でた。


「お、お会い出来て光栄です王妃陛下……。今日はどうしてこちらに?」


 王妃の優しい眼差しと暖かい手の感触に放心していたアナベルは、我に返り改めて王妃に挨拶をした。


「それはモチロン、貴女達を助けに来たのよ? ……それから、ご両親のお墓に花を手向けに来たの」

「私達を……助けに?」


 神様に祈りが届いたのだろうか。

 助けに来たというその言葉に、ついに堪えていた涙が零れた。

 王妃は慈しむような笑顔で幼い姉弟達の涙を拭って安心させた後、威厳に満ちた表情でモリス男爵をひたと見据えた。


「モリス卿だったかしら……? アナタが申請した結婚承諾書に関して調査を行いました。アナタはとある金貸し業者と、ガードナー伯爵の爵位を担保に莫大な金を借りる契約をしましたね?」


 王妃は幼い姉弟を庇うように前に立つと、同行していた事務官に視線をやった。

 心得た事務官が調査内容に関する書類を取り出し、証拠となる事柄を次々と読み上げていく。


(つまりは、一時的に預かると言っていた爵位を既に売ろうとしていたという事……!?)


 事務的に述べられた言葉は難解だったが、聞き取れた内容から分かった事実にアナベルは息が止まるかと思った。

 あのままモリス男爵の言いなりになって結婚していたら、ノアの成人前に爵位は人手に渡ってしまっていたという事だ。


「よって、この結婚を許可する事は出来ない。なお、ガードナー伯爵家は貴族法の特例に則って、嫡子ノア・ガードナーが成人するまでの期間、グレイス侯爵家当主を管財人として、その支援を受ける事が決まった」

「な……! そんな血縁でも何でもない侯爵家に介入される筋合いは無い!!」


 貴族社会は血縁を重んじる慣習があり、モリス男爵の言う通り、なんの関係もない侯爵家が管財人になるというのは異例の事だった。

 しかし王妃は少しも動じることなく、艶然と微笑んだ。


「あら? モリス卿は貴族名鑑を隅から隅までお読みになっていないのかしら? 両家に血縁がないだなんて、もう一度貴族名鑑を全て確認してから仰ってくださる?」


 貴族名鑑とはその名の通り、この国の全貴族の家系が載っている書物。だが、あまりにも内容が多い為、全てを読んだ事がある者がいるとは到底思えない。

 自信に満ちた王妃の態度に、モリス男爵はそれ以上何も言えなくなってしまった。


「というか、金貸し業者から詐欺罪で訴えられているアナタ達にはそもそも管財人になる資格はないの。それに付け加えて、伯爵令嬢に対する暴行罪も追加ね。逮捕状もバッチリ持ってきているから、このまま身柄を拘束しちゃいましょう!」


 王妃がそう言うと、騎士の合図と共にさらに数名の騎士が入室してきて、あっという間にモリス男爵と息子を拘束した。

 騎士達に連行され男爵達が部屋を出ていくと、王妃は振り返ってアナベル達の肩に手を添えた。


「来るのが遅くなってごめんなさいね……。伝染病はこの領地だけじゃなく各地で流行してしまって、その対応に追われていたの。ご両親の事を知った時は涙が止まらなかったわ……」


 そう言うと王妃は瞳を潤ませた。


(王妃様が両親の死を悲しんでくれている……)


 遥か遠くの王都に住む雲の上の存在。そんな人と両親は親しい間柄だったのだろうか?

 そんな幼い姉弟の驚きが顔に出ていたのか、王妃は目元を拭ってクスリと笑った。


「ご両親には王立学院の学生時代にとても仲良くしていただいたの。卒業してからも季節の折々には手紙のやり取りをしていたし、社交シーズンに王都に来た時は、お茶会をしたりもしていたわ」

「そうだったのですね……」


 王立学院と聞いて、アナベルは胸が痛んだ。

 予定ではこの秋に王立学院に入学する予定だったが、両親が亡くなり、相次ぐ災害で領地の経営が傾いている今、幼い弟を独りにして領地を離れる訳にはいかないと、辞退していたのだ。

 王妃は腰を落として、アナベルと視線を合わせた。


「学院はとても楽しい所よ? 素敵な友人との出会いも沢山ある。さっき男爵に言ったけれど、ノアが成人するまで私の実家のグレイス侯爵家がこの領地を支えるわ。金銭面はもちろん、領地経営に詳しい人を寄越してサポートさせる。だから、アナベルは予定通り王立学院へ入学しなさいな」


 アナベルは驚きに目を丸くした。

 まさか入学辞退した事まで知っているとは思わなかったのだ。

 王妃の言葉はアナベルにとって、飛び上がって喜びたいほど嬉しいものだった。何故なら、学院に通える事をずっとずっと楽しみにしてきたのだから。


(学院には行きたい! ものすごく行きたい! でも……)

「……王妃様、お気遣いありがとうございます。でも、ノアを置いては行けません。私もノアと共に領地の為に働きます」


 アナベルは王妃の目を真っ直ぐ見つめてそう答えた。

 祖父母はだいぶ昔に他界し、近しい親戚も皆、伝染病に奪われてしまった。

 たった二人だけの家族になってしまった弟と、こんな状況で離れて暮らす事はとても考えられなかった。

 王妃は暫くアナベルを見つめた後、目元を和らげて苦笑した。


「そういう芯の強い所も、お母様にそっくりね」

(お母様に似ている……)


 亡き母の容姿だけでなく、その精神も自分に宿っている。そう思うと少しだけ悲しみが癒されるような気がした。


「ところで……我が家とグレイス侯爵家は親戚なのですか?」


 両親からもそんな話は聞いた事がなく、家系図を見てもそんな記録はなかったはずだった。両親の葬儀の知らせを出していなかったので、本当に親戚ならば失礼にあたるのではと、アナベルは心配になった。

 アナベルが不安げに王妃を見つめると、王妃は大輪の薔薇のように華やかな笑顔で堂々と宣った。


「アナベルにノア、良く覚えておきなさい? 人類遡れば皆、親戚なのよ?」

「……」

「……」


(それはつまり、親戚と名乗れるほど親戚ではないって事……よね?)


 モリス男爵達も親戚と言って良いのか疑問なほど遠い血縁だったが、それの遥か斜め上を行くような生物の進化論レベルで遠い話に、アナベルもノアもポカンと口を開けて固まった。

 王妃は更に、何やら悪そうな笑みを浮かべて、内緒話をするように囁いた。


「貴族名鑑なんて全部読んだ事のある人間がこの世にいたら、勲章を授けたいくらいだわ」


(王妃様は貴族名鑑を全部読んで確認しろと仰ったけど、親戚だという事が載っているとは言わなかったわね……)


 あまりにも堂々とハッタリをかます王妃に、アナベルはつい笑ってしまった。つられてノアも声を上げて笑った。

 幼い姉弟達の、両親が亡くなって以来初めての笑顔だった。


 王妃は子供達の笑顔を嬉しそうに見つめた後、少し真面目な顔に戻って二人に言い聞かせた。


「ガードナー家をグレイス家が支援すると正式に公表されたら、グレイス侯爵家との繋がりを得る目的で、貴女達への結婚を申し出る家も出てくると思うわ」


 結婚と聞いて思わずアナベルは、先程掴まれた腕をさすった。

 モリス男爵とその息子の顔が思い出され、またあんな事が起きるのではないかと思うと怖くなったのだ。


「だから、成人して自分でしっかり判断出来るようになるまで、私を盾に使うといいわ。言い寄ってくる相手には、王妃の決めた人と結婚する事になっているので無理です、と断りなさい」


 その言葉を聞いて、アナベルは心の底から安心した。


(王妃様のご命令とあらば、それ以上強要してくる人はいないよね……)


 両親の死をゆっくり悼む間もなくトラブルに巻き込まれてしまった姉弟達は、もうこれ以上余計な事で悩みたくなかったのだ。



 その後、アナベル達は王妃と共に両親の墓に花を供えた。

 王妃が持参した花はジニア。

 花言葉は「不在の友を思う」

 墓の前で静かに涙を流す王妃につられて、幼い姉弟も泣いた。

 両親を想って、思いっきり泣いた。

 夕日が頬を赤く染めるまでそうして泣いて、王妃はハンカチでアナベル達の涙を拭いた。


「さて、明日からまた頑張らなくちゃね! 天国のお父様とお母様に安心してもらえるように、強く元気に生きていきましょう!」

「「はい……!」」


 忙しいだろうにこうして駆けつけてくれて、両親の死を悼んでくれた王妃に、アナベルは心から感謝した。


(私も王妃様やお母様のような、強くて優しい素敵な女性になりたいな……)


 その時から、アナベルにとって王妃は神にも等しい存在となった。


 その後、グレイス侯爵家が管財人になる事が公表されると、王妃が言った通り、姉弟には婚約の申し込みが殺到した。

 没落寸前と評判だったガードナー家だが、グレイス家が後ろ盾となるならば安泰だろうと、どの貴族も考えたようだった。


 アナベル達が王妃の助言通りに断りの返事を返すと、直接息子や娘を送り込んでくる家も現れた。

 本人同士が恋に落ちてしまえば、王妃も反対はしないだろうという魂胆らしかった。

 手紙での申し込みは手紙で返せばいいので気が楽だったが、対面で申し込まれてしまうと、直接言葉にして断る事になってしまい非常に憂鬱だった。

 そんな経験からアナベルはすっかり男性が苦手になり、ランスロットと出会うまで、王妃の盾を使い続ける事になってしまったのだった。



 ──「姉さん? 聞いてる?」


 ノアの言葉に、アナベルは我に返った。

 六年前の記憶より、うんと大きくなった弟の怪訝そうな視線、カフェのざわめき。

 何をしていたのかようやく思い出したアナベルはノアに謝った。


「ごめんね、ちょっと昔を思い出してぼうっとしていたみたい……。それで、なんの話だったかしら?」


 それを聞いたノアは、やれやれといったように肩を竦めた。


「だから、喧嘩なんかしてないで、義兄さんと早く仲直りしなよ? って話をしてたんだよ。結婚式の準備も進めなきゃだし、まだお会い出来ていない義兄さんのお母様も、顔合わせの為に王都に来るんでしょ?」


 ランスロットとの婚約が決まって、アナベルはアンバー侯爵家のタウンハウスに挨拶に行ったのだが、ランスロットの父と兄には挨拶が出来たが、夫人は領地にいて会えていなかった。

 その後も領地で体調を崩してしまったとの事で、その年の社交シーズンは一度も王都に来る事がなく、未だに会えずにいる。

 最近になってようやく首都に来る事になったので、今度会う約束をしているのだ。


「王妃陛下のように親しみやすい方だといいね!」

「ええ……そうね」


 しかし、未来の姑に会う前にランスロットとの婚約が無くなってしまう可能性を考えると、アナベルはまた落ち込んでしまうのだった。



ページ数の関係で書籍に入れられず、王妃陛下が拗ねていましたので、この機会に供養投稿させていただきました。王妃様これでお許しください……(合掌)

活動報告の方にザックの会報と書影画像アップしていますので、そちらも覗いてみてくださいませ。

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