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エピローグ

 

 団外秘!

【天使と書いてベルたんと読むの会】会報 号外


 ○月✕日 タンクトップ日和

 報告者

 第一騎士団宴会部長ザック・エーカー


 五月のベルたんの結婚式から早二ヶ月が経ち、俺自身ようやく心が平静を取り戻してきた今日この頃。団員諸君におかれてはいかがお過ごしだろうか?


 ベルたんの結婚式の直後は、どいつもこいつも情緒不安定すぎて悲惨だった。一心不乱にスクワットをする者、プロテインをやけ飲みする者、天使の渚亭で脱ぎ散らかして出禁をくらう者、やり場のない感情の表し方も様々だった。

 だがしかし、俺達の気持ちは同じ。


 ──ベルたんの幸せを心から願う。


 それに尽きる。そうだろう諸君?



 天からの祝福のように良く晴れた日に降臨した、煌めくウエディングドレス姿の超絶美しすぎるベルたん。その幸せそうな笑顔が今も眼裏にくっきりはっきり焼き付いている。

 そんな尊いエンジェルスマイルを脳内で一千万回再生しつつ、抜け殻のように日々を過ごし、六月には第二王子夫妻の結婚式を迎えた。


 ルイス殿下とキャロル様の結婚式は、それはもう盛大なものだった事は、諸君らの記憶にも新しいだろう。

 ロイヤルウエディングに相応しく、各国から名だたる来賓が参列し、由緒ある大聖堂の周りにはお二人をお祝いしようと多くの国民が集まっていた。


 パレードの沿道警備をする俺達の近くへ、屋根なし馬車から笑顔で手を振りつつ近付いてくる第二王子夫妻。

 そもそも普段から眩しいくらいの美男美女なのに、天使のシルクを身につけた二人は、もはや色眼鏡をつけないと直視出来ないレベルで輝いていた。


 煌びやかな騎馬兵に囲まれたキャロル様達の馬車が通り過ぎ、その後方から控えめな造りの馬車が付き従うように走って来るのを二度見、三度見して、俺は思わず天を仰いだ。


 筋肉の神は俺達を見捨てなかった……!


 なんとその屋根なし馬車にはベルたん達ブライズメイドが乗り、パレードに華を添えていたのだ!


 ベルたんの結婚式の時は、心の狭いアンバー卿のせいで屋根付き馬車に速攻で隠されてしまった我らが天使。

 もっとベルたんの一生に一度の尊い晴れ姿を拝ませてくれたって良いじゃないかと、ブーブー文句を垂れていたのをきっと神様が聞いていてくださったのだろう。

 主役ではないが、屋根なし馬車でパレードをするベルたんを見られる日が来るなんて……!


 等間隔に立つ団員達も直立不動で警備にあたっていたが、俺には分かる! その軍服の下の厚い筋肉が歓喜に打ち震えている事が……!

 状況さえ許せば五体投地して、万物に感謝を捧げたいところだったが、よく耐えた俺達!


 ジェパニの一行が帰国して以降、ベルたんに会えるのは孤児院慰問の時のみという、ベルたん成分欠乏生活に戻っていたから、あのパレードはまさしく日照りに雨! 闇夜の灯火! 筋肉に高タンパク質だったのである!

 そんな風に思いがけずベルたん成分を摂取でき、なんとか生きながらえること更に一ヶ月――。


 ここからが本日の本題だ。


 昨日無事に、我らが英雄アレックス団長とスズ様の結婚式が執り行われた!

 まずは団員を代表して、改めてこの場で祝福を贈りたい。

 団長おめでとう! 羨ましいぜコンチクショー!


 友好国ジェパニの皇女の輿入れを祝う為に参列する、第二王子夫妻の警護を兼ねる事として、偉大なる王はなんと、第一騎士団全員の参列を許して下さった。

 なぜそんな事が可能だったかというと、アンバー卿をはじめとする近衛隊や、第二、第三騎士団の有志たちが任務の代役を買って出てくれたらしい!


 ……なんて良いヤツらなんだ! 今度会った時、投げキッスを贈っておこう! いや、投げキッスだけじゃ足りない! ハグしてほっぺにチューも特別サービスしてやろう!


 何故なら……我らが永久不滅の大天使ベルたんも、団長の結婚式に参列したからである!

 つまり、団員全員が同時にベルたん成分を補給できるという事!

 これはまさに、宇宙誕生、そしてウッカリをやらかさない団長に匹敵する奇跡である!


 まだこの国に親しいご友人が少ないスズ様の為に、キャロル様の時と同様、ブライズメイド達のリーダーとしてスズ様に付き添っていたベルたん。

 季節は夏、しかもスズ様の希望で、海の見える教会での挙式。

 そんな開放的なシチュエーションに合わせ、シフォン生地を幾重にも重ねた透明感溢れる涼しげなドレスに身を包むベルたん。


 てぇてぇ……! ありがとうございますありがとうございます……!


 俺は森羅万象に感謝した。


 ここ数ヶ月の慶事ラッシュのお陰で、いろんな装いのベルたんを見る事ができて眼福の極みである。

 ベルたんの結婚式の時も、キャロル様の時も、警備として遠くから拝見するだけだったそんな尊いお姿……。

 なんと今回は至近距離で網膜に刻みつけさせて頂くという、大変貴重な機会を得られたのだ!

 というのも俺達、第一騎士団宴会部は団長の花婿介添人アッシャーを務めていたからである!


 毎年団内M・U・Pモースト・ウッカリ・プレイヤーの称号をかっさらっていく団長が、挙式やパーティーでうっかりをやらかさないように徹底的に見張り、教育的指導をし、イベントに関わる準備や進行役を担うと共に、場の空気を盛り上げるという、俺達にピッタリすぎるお仕事。

 自然と花嫁側とやり取りする機会も多く、ベルたんと会話をする栄誉まで与えられたのだ!


 ありがとう団長! 俺達をアッシャーに指名してくれて……!!


 団長はまぁアレとして、スズ様とベルたん、そして両家の方々の為にこの結婚式を素晴らしいものにしてみせる……! そんな決意を分厚い筋肉の内側に宿し、俺達は頑張った!


 朝日に煌めくトロピカルオーシャン。カモメの鳴き声や波の音が絶好のBGMとなってセレモニーを盛り上げる。


 この日のために駆けつけたナギ皇子と共にバージンロードを歩くスズ様は、夏らしい華やかな彩りの花冠を被り、やはりシフォン生地をふんだんに使った可愛らしいドレスに身を包んでいる。

 歩く度にドレスがふわりふわりと可憐に遊んで煌めき、参列者の目を楽しませる。


 ちなみにその参列席を見渡すと、団長側は九割が筋肉で構成されていた。何故なら辺境伯家の人々も皆、良い筋肉をお持ちだからである。

 そのガチムチな光景を見てナギ皇子がぎょっとしていたが、安心して下さい……。筋肉はスズ様にも優しい成分で出来てますから……!


 筋肉バンザイ!


 ナギ皇子と歩いていても小さいなと感じたスズ様だが、どデカい団長の横に立つと更に小さく見える。

 年齢、身長、生まれた国、あらゆる差をものともせず一緒になる二人。

 スズ様の雪の日の逆プロポーズ大作戦からようやく迎えたこの善き日に、永遠の愛を誓い合う二人の幸せそうな顔を見て、俺の涙腺は崩壊した。もちろん参列席にいた他の筋肉達も……!


 スズ様! 俺達の団長は趣味うっかり特技うっかりだけど、俺達の英雄で、漢の中の漢です! どうか幸せにしてやって下さい……!


 筋肉達のすすり泣きは危うく賛美歌もかき消すほどだったが、スズ様やキャロル様、そしてベルたんも瞳を潤ませて微笑んでくれたので、良いBGMになったと思う事にしよう……!


 挙式後は辺境伯家の豪華なタウンハウスでのパーティー。

 お貴族様のパーティーだからオシャレな感じなのかと思いきや、筋肉含有率の高さも手伝って、まるで普段の天使の渚亭での飲み会のような雰囲気だった。


 いつの間にか辺境伯領の腕力自慢達とウチの団員とで腕相撲大会が始まったり、酔うと泣き上戸になる副団長が、団長の結婚を喜びながら盛大に泣いていたり、筋肉を自慢したい辺境伯がスズ様達の前で脱ぎ出して、夫人に速攻でどつかれていたり……。


 やがて夜も更けてきた頃、団長とスズ様は招待客に挨拶をして退出していく。

 団長、初めての共同作業、頼むからウッカリなしでビシッとキメてくださいよ……!


 という訳で俺達のお役目もほぼ終わり。団長のお守りから解放された俺達は遠慮なく酒を飲んだ。


 仕事終わりの一杯って最高だよな!


 しかもキャロル様と楽しくお喋りしている我らが天使なベルたんを拝見しながら飲む酒ときたら、筆舌に尽くし難い美味さ……!

 聞くともなしに、ベルたんとキャロル様の結婚後の生活とか、新婚旅行の話とか……聞いててご馳走様ですってなる話も漏れ聞こえてきて、胸が痛んだが……。


 でもいいんだ! 好きな人が幸せいてくれたらそれだけで……!

 そう思えるようになった俺、かなりイケメン度が上がったんじゃないだろうか? そうだろう諸君!?


 現に、ベルたんを迎えに来たらしいアンバー卿を会場の入口に見つけて、それはもう嬉しそうな顔で微笑んでいる我らが天使を見て、俺も最高に嬉しくなったのだから。


「ベルたん!」


 酒の勢いも手伝って、俺は思い切って天使に声をかけた。

 ベルたんはその宝石のような美しい瞳をぱちくりと瞬かせてこちらを見た。


「ザックゥゥ!? 酒のせいで呂律ろれつが回ってないのかなっ!? ベルたんじゃなくてアナベル様だろぉぉ!?」


「すみませんアナベル様! コイツ酔っちゃってるみたいで……!」


 周りの同志たちがアワアワとフォローに入ってくれるが、そんな事はお構いなしに俺はベルたんを真っ直ぐに見つめて聞いた。


「ベルたん、今、幸せですか……!?」


 ベルたんは俺の質問に驚きつつも、最高すぎる笑顔で答えてくれた。


「はい、幸せです……!」


 色んなモノが込み上げて、息が出来なかった。

 その言葉を聞けただけでもう…………。分かるだろう諸君?


 このまま天に召されるんじゃないかと思うくらい俺は満ち足りていた。

 傍に来たアンバー卿を愛おしげに見上げるその眼差し。

 そしてアンバー卿も、でろ甘に愛してるんだろうなってのが分かるその優しげな微笑み。


 愛はここにある……。感無量……!


「末永くお幸せに……!」


 そう言って団長みたいに白い歯見せつけて、ニッカリ笑ったつもりだけど、顔に力が入らなくて、にへらっとした情けない笑顔になっちまったかもしれない。

 そんな俺に微笑んでお礼を言ってくれた天使なベルたん脳内永久保存……! この笑顔を思い出せば、なんだって出来る気がする。

 俺はキッとアンバー卿を見据えた。


「アンバー卿! ベルたんを泣かせたら俺達が承知しねーからな……!」


 ベルたんの笑顔と、酒のチカラを借りて、ずーっとずーっと言いたかった事を言ってやった!

 ふ、不敬罪? このめでたい席では適用外なんだからねっ!


「ザックのお馬鹿っ! アンバー卿怒らせたらダメでしょぉが!」


「アンバー卿すんません! コイツ本当に酔ってて……!」


 またもやアワアワ騒ぎ出す同志達。

 するとアンバー卿はその胸に拳を当てて頼もしげに笑い、しっかりと頷いた。


「ああ、この名にかけて誓うよ」


 ……かっっっこいいじゃねぇか!


『この名にかけて誓う』


 俺もいつか何処かで絶対使おうその言葉……!

 あと、アンバー卿の言葉にぶわっと頬を染めたベルたんマジ女神……!



 夜も更けて、アンバー夫妻や、ルイス殿下夫妻、その他のレディ達が帰った後──。


「よぉぉぉし! 今日は朝まで飲むぞぉぉ!!」


「「「うぉぉぉぉ!」」」


 堅苦しい式服を脱ぎ捨てて白いタンクトップ姿となり、解き放たれし筋肉になった俺達は、朝まで団長を祝い、ベルたんへの不滅の愛を叫び続けた。


 そうして一夜明けて今現在、辺境伯邸から追い出されて何とか辿り着いた詰所にて、オール明けの二日酔いのままこの会報を書いている。周囲には力尽きて雑魚寝をする屍が累々。今日ちゃんと仕事出来るヤツいないなコレ……。

 とにかく言いたい事はただひとつ。



 これからも、未来永劫いついかなる時も、我らのベルたん愛は永久に不滅であります!!



 以上!!


 回覧者サイン欄

 団長は結婚休暇で数日不在です【副団長】

『団長の結婚休暇』……都市伝説のタイトルかと思いました【副団長補佐】

 動ける人員足りないから嫌がらせも兼ねて団長呼ぼうぜ! シリル呼んできてー!【オリバー】

 えーと、昨日騒ぎ過ぎで近隣から苦情来たらしくて、辺境伯邸は現在、筋肉出入り禁止なので無理です【シリル】

 俺は今年中に結婚すると、この名にかけて誓う(キリッ)但し彼女は居ない【マックス】

 俺は今日、食堂の『一日十食限定! 超☆肉盛ランチ』をゲットすると、この名にかけて誓うっす(キリッ)【イーサン】

 誓いの内容が薄っぺらすぎて草【副団長補佐】

 アホな事言ってるとアンバー卿に斬られますよ【副団長】

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 団長不在で正しく破棄されそうになる会報の回収に特殊部隊を使うのは気が引けるから、可及的速やかに副団長を味方に引き入れる事を、この名にかけて誓うわ(キリッ)【アイリス】

『この名にかけて誓う』今年の流行語大賞争いに食い込んで来そうだね【ルイス】

 この名にかけて誓う……! ランスロットは厨二病!【キャロル】

 ……この会報、灰にしていいですか?【ランスロット】


お読みいただきありがとうございました!

ここで一旦完結となります。

キャロルの結婚式や、ベルたん結婚式の会報は、本編に入れると流れが悪くなるので、番外編でと考えています。

そして、大人の事情で、書籍「お助けキャラ2」でのお披露目となる予定です。楽しみにお待ちいただければ幸いです。加筆修正頑張ります!

その他の書籍に収まりきらない番外編などを今後こちらで不定期更新していく予定です。コミカライズに関する情報などと併せて投下出来たらと思っています。

最後に……各会報の回覧者サイン欄に仕込んだメッセージにお気づきの方いらっしゃるでしょうか?是非探してみてください。

いいね、感想、レビュー、誤字脱字報告、お待ちしています!


花待里

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― 新着の感想 ―
[一言] 大変、楽しく読ませていただきました。 特に、会報。。。
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