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【会報】トイレは隅々まで確認しよう!

ザック:おっと!最新話をポチッたそこの君!本日は2話(29、30話)更新されているから要注意だ!

ウッカリ1話飛ばすなんて団長みたいな事しないでくれよな!

団長:ハ、ハックショーイ!誰かが俺の噂してるな……(悪寒)

 団外秘!

【天使と書いてベルたんと読むの会】会報 号外


 ○月✕日晴れ

 報告者

 アルジャーノン・ウィッティントン


 親愛なる団員諸君! 昨夜はそれぞれの持ち場で、全力で任務にあたった事と思う。まずはお疲れ様だった!

 無事に返礼パーティーを終えられたのは、第一騎士団の働きによるところが大きいと、陛下からもお褒めの言葉を頂けたと団長が言っていた! 素晴らしい栄誉である!


 さて、俺は宮殿内警備担当になっていたので、パーティー中に起きた事件の一部始終を見ていた。

 宮殿外周警備担当だった団員諸君に、この場を借りて顛末を報告しようと思う。


 並々ならぬ緊張感が漂うなか始まったパーティーは、終盤までは何事もなく順調だった。これも、外周警備組が侵入者を見事に鎮圧してくれたお陰である。グッジョブ!

 このまま無事に終わるかと思いきや、スズ様とキャロル様、そして我らが天使ベルたんが仲良くお花摘みに行った時、事件は起きた。


 なんと女子トイレの中に、秘密裏に指名手配中だったスオウが隠れていたのだ!


 スオウはベルたんを人質にとり、上の階のバルコニーへ移動していく。ベルたんに触れている事だけでも許せないのに、か弱い天使に銃を突きつけて恐怖のどん底に陥れるなんて、度し難い最低野郎だ!

 すぐにでも救出したかったが、それもままならず、スオウに「それ以上来たら撃つ」と脅されバルコニーの入口で足止めをくらってしまった。


 約十メートル先、バルコニーの先端の柵を背に立つスオウとベルたん。何とかベルたんから銃が逸れない限り、俺達は身動きが取れないし、動けたとしても距離があって直ぐに奴を取り押さえられない。

 どうすればいいんだろうかと、ジリジリと焦りを覚えていたその時、スオウのすぐ後ろ、バルコニーの柵から伸びる太い柱の影に隠れるように何かが見えた。


 なんと、そこにはランスロット・アンバー卿がいたのだ!


 俺は思わず目を疑った。

 バルコニーは大広間のちょうど真上に位置している。そして大広間は開放感を意識して、通常の建物の二階分をぶち抜いた高さで作られている。

 つまり、アンバー卿はどうやってか、二階分を登ってスオウの背後を取ったという事だ。当然ながら命綱なんてモノはない状態だろう。


 アンバー卿パねぇ……!!


 ベルたんへの愛の深さと共に、それを貫く為の筋肉をしっかり育てていることもヒシヒシと伝わってきて、俺は不覚にも胸が熱くなった。

 近衛隊の制服はマントやら装飾が多くて普段はあまり分からないが、アンバー卿……脱いだらスゴいんだろうな……。

 未だにアンバー卿を許せない団員達の好感度もこれでグンと上がったハズだ。筋肉好きに悪いヤツは居ないからな!


 とにかくこれで、ベルたんから銃が逸れさえすれば、アンバー卿がヤツを瞬時に制圧してくれるハズ。

 いかしにてスオウの気を逸らすか……。俺達は頭を捻らせた。

 そうこうするうちに、ナギ皇子が駆けつけて説得を始めたが、全く手応えがなかった。

 すると、キャロル様がおもむろに声をあげた。


『さっきから疑問だったんだけど、スオウは昨日の夜からずっと女子トイレに隠れてたの?』


 いきなり何を言い出すのかと思いきや、意外にもスオウに動揺の色が走る。

 口元をひくつかせたスオウがそうだと答えると、途端にキャロル様はゴミを見るような目でスオウを見て言い放った。


『え……変態! 最低! キモッ!!』


 これは痛いっっ! 男が言われて傷つく言葉トップスリーの揃い踏み!!


 更に追い討ちをかけるようにスズ様も死んだ魚のような目でスオウを見て吐き捨てる。


『いくら何でも女子トイレに隠れるとか、有り得なくないですか? 痴漢! トイレ臭そう! キモッ!!』


 こんな事を言われて心が折れない男がいるだろうか?

 いや、いない(反語)。


 スオウは自尊心をいたく傷つけられたらしく逆ギレした。

 女子トイレに隠れるなんて変態と言われても仕方ないのに、全くもって度し難い野郎だ!

 キレたスオウは、なんとキャロル様とスズ様にむかって銃を向けたのだ。


 と、その瞬間、我らがベルたんが、スオウの腕に噛み付いて拘束から逃れた。あれだけ恐い思いをしながら、咄嗟に動けるベルたん天才すぎんか!?

 スオウは噛まれた弾みで銃を一発撃ち、その場に蹲っているベルたんに再び手を伸ばそうとする。そこにすかさずアンバー卿が身を躍らせ、渾身の飛び蹴りを食らわす。


 ヒュー! やるぅ!


 その場に女性が居たら、そのカッコ良さに黄色い声が飛んだ事だろう。

 実際飛んだのは、アンバー卿に吹っ飛ばされ倒れ込んだスオウめがけて突進する、厳つい俺達の地鳴りのような怒号だった。


 亀のように丸くなり床に這い蹲るスオウに、分厚い筋肉達が覆いかぶさり逃走を防止する。何とかスオウを床からひっぺがして立たせたところでキャロル様の叫び声が聞こえた。


「爆弾!! 火がついてるっ!!」


 見ると、スオウが蹲っていた所に、導火線に火がついた爆弾が落ちていた。

 スオウが亀になっていた時に火を付けたらしかった。


「逃げろ!!」


 誰かがそう叫び、俺達は不覚にもその場からスオウを引き摺って退避してしまった。そのまま爆発すれば、バルコニーが崩壊し、下のパーティー会場が大変になるって事を失念していたんだ。

 ヤベェ! とその事に気付いた時には既に団長とアンバー卿が爆弾に向かって走っていた。


 俺、団長に恋しそう……。


 銃を向けられたスズ様とキャロル様の前に立ちはだかり、スオウの撃った銃弾を見事弾いたばかりか、危険を省みず爆発を阻止しようと走るその姿、まさにおとこの中の漢!!


 団長が過去に銃弾を弾いて国王陛下を守ったという話は聞いていたが、正直、誇張された話だと思っていた。しかし、実際に目撃して、俺らの団長って実は超スゴい人なんじゃね? と入隊六年目にして初めて気づいてしまった。


 団長は爆弾をむんずと掴むと、爆発を止められないと判断したらしく、助走をつけて宮殿の庭へ向けて空高く放り投げた。

 そのまま星になりそうなレベルまで到達した爆弾を、アンバー卿がスオウの短銃で狙い撃つ。


 短銃は他の種類より威力も弱く、精度も低い。それなのに誤たず爆弾を撃ち抜き、見事何処にも被害が及ばない空中で爆発させることに成功したんだから、俺は開いた口が塞がらなかった。

 軍ではマスケット銃射撃の訓練はするが、短銃の訓練はしていない。それなのに何なんだこのお人は……! 独自で訓練してたって事か!? パねぇ!!


 俺がアンバー卿にも恋しちゃいそうになっていると、爆発の音に驚いた招待客達が下のテラスに集まり出す音が聞こえる。バルコニー崩壊という最悪の事態は避けられたが、どう誤魔化すんだコレ……?


『爆発は阻止されたが、騒ぎにはなりそうだ……』


 嬉しそうに呟くスオウの頭を、俺の臭い軍靴でスパンとはたいてやろうかと思ったその時──。

 ドォンとまた大きな音がして、空が明るくなった。


「花火だ!!」


 誰かの声を皮切りに、いくつもの花火が上がり冬の空を彩る。


「ナイスタイミングだな、ミュー先生達」


 アンバー卿と健闘を称えあって戻ってきた団長が、満足気に空を見上げて呟いた。

 どうやら外周警備担当のうち、更に別働部隊がいて、ルイス殿下の指示で花火の打ち上げ準備をしていたらしい。

 万が一何処かで爆発が起きてしまった際にも、花火の音で誤魔化せるなら誤魔化そうぜ大作戦らしい。

 ルイス殿下天才かよ!


 そしてもう一人……。

 なんと我らがバーソロミュー先生は、花火師の資格まで持っていたのだ!


 後でミュー先生にインタビューしたところ、「資格を持っていれば、いつかこういう機会もあると思っていた……」とのこと。


 ……思うか普通!?

 ミュー先生実は未来から来たヒトじゃねーか説浮上!

 というかミュー先生は資格マニアなのか!?


 色々ツッコミ所は満載だが、何はともあれ一件落着。


 ベルたんの方を見ると、アンバー卿にひしと抱きついて泣いている。

 怖かったよなぁ……。本当に無事で良かったぜ……。


 最近お互いの仕事のせいですれ違っていた二人。けど今日はアンバー卿がばっちり駆けつけてベルたんを護ってくれた。

 陛下の護衛隊に居なかったのはこの為だったのか。アンバー卿やるじゃねぇか……! 良かったねベルたん……!!

 二人がようやく元の形に戻れたんだと分かって、俺の涙腺は崩壊しかけた。


 すると、すぐ側でバキッという音がして、拘束されていたハズのスオウが地面に転がっていた。

 スオウの目の前には、怒りも露わに拳を握りしめたハヤテが立っていて、どうやらハヤテがスオウを殴り倒したらしかった。


 そりゃあな……仲間だと思ってたヤツが裏切っていたんだから気持ちは分かる。そしてこのハヤテもなかなか良い筋肉をしている……。

 その後のジェパニ語でのやり取りはあまり聞き取れなかったが、どうやらこの主従も色々すれ違っていた模様。


 ……思っている事は腹を割って話さないとダメって事だな!

 諸君らも普段から思っている事は伝え合おう!

 例えば団長の隊服のボタンがかけ違ってたり、食堂で塩と砂糖かけ間違ってたりするのも、いつもは生温かく見守っているが、これからはきちんと言葉にして伝えようじゃないか!


 スオウ達のやり取りが一段落すると、その場に居た面々は慌ただしくパーティー会場へ戻っていく。

 ベルたんはアンバー卿にお姫様抱っこされて医務室へ向かうようだ。アンバー卿、我らが天使の事、しっかり頼みますよ!

 次々と空を彩る花火を背に、何やらものすごく良い雰囲気になっている二人を置いて、邪魔者達はそそくさと退散したのだった。


 以上が昨夜の事件の顛末である! 事件をふまえての教訓は三つ!


 一つ、トイレは隅々まで確認しよう!

 一つ、思いは言葉にして伝えよう!

 一つ、アンバー卿は良質な筋肉をお持ちである!


 先の二つは、新たに団則に追加する事を検討中である。

 なお、本日午後八の刻より『天使の渚亭』にて、ミュー先生と、ついでに団長の活躍を労う会を開催する! 夜勤以外の団員諸君は奮って参加されたし!

 以上。


 回覧者サイン欄

 途中まで良い調子だったのに、俺の扱い結局いつも通りじゃん!? てか、色々気付いてるなら言って!?【団長】

 様式美ですが何か?【副団長】

 お約束ですが何か?【副団長補佐】

 あと、トイレは隅々まで確認しよう!って、団則掲げる騎士団どうなの!?【団長】

 斬新でいいんじゃないすかね(適当)【オリバー】

 魅力的な団則で入隊希望者続出じゃないすかね(適当)【ツァイラー】

 そんなウッカリな団長を見守るのも密かな楽しみだから、思いは言葉にして伝えよう! は団長は適用外にして欲しい【カール】

 団長愛されてんなー(棒)【レックス】

 もういいっ!(泣)【団長】

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 私も団長のウッカリはそのまま自然保護すべきだと思うわ【アイリス】

 ランスロットはどうやってバルコニーまで行ったの?【ルイス】

 アリスティド副団長からフック付きロープを借りて、壁を登りました。【ランスロット】

 第一騎士団の団則を全部見てみたい!【キャロル】


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