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引続き他者(テンション低い脳筋)視点
「よ、よう、ザック。今日はエラいへこんでるな?腹でも痛いのか?」
「あ、分かるぅ?今日は北の女王様の護衛の日なんだよ…。」
「そっか…まぁ頑張れ!帰ってきたら天使の回覧に癒されようぜ!」
「おう…。」
夜勤明けの同僚に励まされ、俺は足取り重く集合場所に向かう。
今日は北の孤児院へ向かう女王様こと、カチュア・グリーズ伯爵令嬢の護衛当番の日だ。
こちらはベルたんと違って志願するヤツが居ないから、やむなく順番制になっている。
女王様と呼ばれているところでお察しだろうが、カチュア嬢はベルたんとは正反対の人柄だ。
まず朝は、集合時間に必ず遅れる。現に今も、集合場所の北門に着いてみれば相棒のジェイドがぼんやりと馬車の馬と戯れていた。
それから待つこと半刻。
二人の侍女をつれて悠然と現れた女王様は、朝の挨拶をするでもなく、遅れた事を謝るでもなく、御者の手をかりてさっさと馬車に乗った。
はぁ…ベルたん成分が足りない…。
女王様は道中もやたらと休憩を取りたがり、降りた先々で買い物を始める。あまつさえ荷物持ちに俺達を使う。
ベルたんのように、子供達へのお土産的な買い物ならまだ許せるが、この女王様は自分の物しか買わない。
その後、孤児院へ行く前に自分の実家の屋敷に寄り、そこで昼食を摂る。俺達は放置プレイだから街の食堂で食べる。
午後になってやっと孤児院へ到着すると俺達は門の外で待たされる。
曰く、むさくるしい男などついてきたら子供達が怯えるからとの事。
ああ…ベルたんに会いたい…。
待つ間に見るともなしに中を覗くが、子供の姿はおろか笑い声も聞こえず不気味なくらい静かだ。
外観はきちんと整備され、建物も南の孤児院とは比べ物にならない位に近代的で綺麗だが、中の子供達の様子はどうなんだろうか…?
南の孤児院は、子供達の食事や衣服、教育を最優先に資金をやりくりしている為、門構えや建物まではお金が回っていない。だからパッと見オンボロ屋だが、子供達は皆幸せそうに暮らしている。
王妃様は北と南に等しく寄付をしていると聞く。
…同じ資金量でこの外観を維持している事の意味に吐き気がしてくる。
そうこうしているうちに、女王様と侍女達が出てきた。滞在時間は四半時にも満たない。
朝から日暮れ前まで孤児院で奉仕活動をするベルたんと大違いだ。会計帳簿を見るだけでももっと時間がかかるはずなのに。この女はきちんと仕事をしているんだろうか?
それとも世の貴族令嬢というモノが皆こんな感じなんだろうか?
それでも一つ確実に自信を持って言えるのはベルたんマジ天使という事だ。
女王様は孤児院を出発すると銀行に寄り、そのあとまた買い物が始まる。そして日暮れ前にやっと帰路につく。
俺達はいる意味があるのか?と任務の必要性を問いたくなる、なんの実りもない一日がやっと終わる…。
護衛対象の行動は当然、任務報告書にきっちり記載し団長に提出している。この報告書がいつか国政の上層部の目にとまり、ベルたんの天使っぷりと、女王様の悪女っぷりがキッチリ評価される日が来る事を切に願う。