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【会報】筋肉、アンバー卿に同情す

 団外秘!

【天使と書いてベルたんと読むの会】会報 号外


 〇月✕日 曇り

 報告者

 ランディ・スミス



 事件だ。重大事件が起きた。


 今日は王宮で、ジェパニ御一行の歓迎舞踏会が開催され、俺達も警備として会場にいた。

 繊細なレースをあしらった、淡いミントグリーンの上品なドレスという出立ちのベルたんは、今日も今日とて語彙力が死滅するほどに美しかった。

 皇女スズ様の傍付きとして参加しているからか、アクセサリー等は控えめにしているのに、圧倒的に輝いている。ベルたんを前にすると、尊さのあまり瞳孔が散大するから余計に眩しく見えるのだろうか……。

 そんなシャイニーベルたんの傍には何故かランスロット・アンバー卿の姿が……。

 なんでも、急遽スズ様の護衛騎士に任命されたんだとか。


 ……は? ルイス殿下の妃選考会に引き続き、またベルたんとペアだと? 

 それでなくても、ベルたんの婚約者という身分だけでも充分羨ましいのに、同じ職場ってズルくないか!?


 誰だ! そんな任命したやつは!


 確かにアンバー卿の腕はピカイチだ。それは俺達第一騎士団の団長さえも認める事実。

 けどなぁ……。優遇されすぎじゃないかと思っちまう奴は、俺だけじゃないハズだ。


 そんな訳で俺は、直立不動を保ちつつ、最強かつ最凶にやさぐれた目線でアンバー卿を見ていた。

 だが、それは間違っていたとすぐに分かる事になった。


 すまねぇ、アンバー卿。謝るぜ。


 冷静に考えたら、任務中に可愛い婚約者が傍にいるって、これ程気が散る環境はない。俺だったら護衛対象そっちのけで、ベルたんをガン見しちまう。

 その上、さらに気を散らせる厄介な要因が存在しているのだ。


 それはズバリ、ナギ皇子。


 この国の男と全然違ったその異国情緒溢れまくりの雅やかな容貌は、それだけで貴婦人達の熱い視線のマトな訳だが、この御仁が笑顔で何かとベルたんに話しかける!

 ベルたんはジェパニ語が出来ない設定なのに、何故かやたらと話しかける!


 その度にベルたんは片言のジェパニ語で懸命に応対せざるを得ない。距離が離れているから内容までは聞こえないが、きっと可愛い事を言っているに違いない!


 ……今度読唇術を学びに行こうと俺は決意した。


 そんな訳で、ナギ皇子とベルたんが何か話す度に、アンバー卿がチラリと二人を見るのだ。

 気になるよなぁ……。

 婚約者でも何でもない俺だって気になるぐらいだからなぁ……。


 近くに配置された同志も同じ気持ちだったのだろう。いつの間にかアンバー卿を見る目が、やさぐれたものから、同情的なものに変化している。

 未だにベルたんの婚約を受け入れられていない同志も多数存在するが、俺としてはベルたんの幸せのために二人には円満でいて欲しい。

 これ以上ナギ皇子が変なちょっかいをかけて、二人の仲が拗れたりしないといいが……。


 そんな事を考えつつ、会場をぐるりと見渡していると、ダンスを終えたらしいスズ様が歩いているのが見えた。

 と、次の瞬間、スズ様が転びそうになった。

 遠目だったが、視力の良い俺には見えた。とある令嬢がスズ様に足を引っ掛けたのだ。ボリュームのあるドレスのスカートに上手く隠れていたが、間違いない。


 そのまま転んでしまうかと思われたスズ様は、風のように駆けてきたアンバー卿によって支えられ、事なきを得た。

 あれだけ気が散る環境で、咄嗟に動けるアンバー卿、パねぇ。

 その場で思わず拍手しそうになったぐらいだ。


 そんなアンバー卿の勇姿に気を取られていたら、ガラスか何かが大量に割れる音がした。

 すぐにそちらを見ると、なんと、俺らの天使ベルたんがびしょ濡れになっているじゃないか!


 なんという事だ!!


 状況を推測するに、ベルたんがナギ皇子を庇って、給仕が転んだ拍子にぶちまけたグラスの中身を浴びたのだろう。グラスの破片で怪我をしていないか心配になる。

 皇子の周りには人だかりが出来ていたから、もしかして、皇女の時と同様、何者かが作為的に給仕を転ばせたんじゃないだろうか?

 付近を警備していた同志よ、目撃情報求む!


 その後ミリオン卿が何やら騒ぎ立て、ルイス殿下に鎮圧されていたが、そんな事は正直どうでもいい!

 ベルたんのあんなに綺麗だったドレスが汚れてしまったんだ!

 普段無表情のベルたんも、流石に動揺を隠せないようで、泣きそうになっているように見える。

 任務を忘れて駆け寄りたくなる気持ちをグッと堪えて、その場からジリジリと見守る。


 アンバー卿も、スズ様を置いて駆け付ける訳にもいかず、拳を握りしめてその場に待機している。

 辛いよなぁ……。

 大切な婚約者が酷い目にあったんだから、真っ先に駆け寄って抱きしめてやりたいだろうに……。

 でも実際そんな事されたら、俺達が精神的に撃沈するんだがな……。


 そんな中、ベルたんに真っ先に手を差し出したのは、例のナギ皇子。

 ちくしょう、美味しい所を持っていきやがる……!

 アンバー卿を見ると、今日一番我慢してる表情だ。なんなら僅かに殺気が漏れている……!


 その後、そばに来たキャロル様がハンカチで拭いてあげて、何やら言葉をかけると、ベルたんの表情が少し和らぎ、俺はホッと胸を撫で下ろした。


 着替えの為に一旦退場する事になったベルたん。

 そんなベルたんを護衛したい……!


 去り際にベルたんはスズ様のそばにいるアンバー卿を見つめ、また沈んだ表情になってしまった。


 違うんだよベルたん! アンバー卿もホントはベルたんに付き添いたいんだよ!


 けど、国賓の護衛任務中にそんな事が許されるわけがない。ベルたんもそれは分かってるから、何も言わずに退場していく。もどかしい……! もどかし過ぎる……!


 アンバー卿、後でちゃんとフォローしないとダメなんだからねっ!? 無表情だからって、ベルたんが傷ついてない訳じゃないんだからっ!!


 それにしても、次から次へとトラブルが起きるこの舞踏会。やはりルイス殿下から事前説明があった通り、鎖国派が動いているんだろうか……?

 スズ様の近くにいるベルたんが巻き込まれないよう、今後も細心の注意を払って警備に当たらねばならん。


 同志諸君には、今回の舞踏会での目撃情報や、鎖国派に対する今後の対策など、多くの意見を求めたい!

 なお、ジェパニ語検定三級合格者を対象とした、バーソロミュー先生の『もっと分かる筋肉による筋肉の為のジェパニ語講座』を、明日午後七の刻から団長の執務室で開催する。

 ジェパニ語への理解をより一層深め、薔薇の宮での警護任務に活かす為、三級保持者は奮って参加されたし!

 以上。



 回覧者サイン欄


 いや……もう慣れたよ、団長室ジャック【団長】

 お陰で団長も何気に四級取ってるじゃないですか。ありがたく思いなさい【副団長】

 副団長に同意!【副団長補佐】

 俺は見た! 招待客の男が、給仕に背中からぶつかっていった! だが、ワザとかどうかは何とも判別し難い感じだった!【キングスリー】

 遠くて何を話しているのかは聞こえなかったが、ミリオン伯爵がジェパニの随行員とコソコソ話しているのを見たぞ!【ニコラ】

 今日初めてアンバー卿に同情したぜ……【クリス】

 ナギ皇子邪魔すんな【アーロン】

 スズ様が『なんでお兄様のイベントの相手がアナベルなの……?』と呟いてたっす!【イーサン】

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 とにかく誰も怪我がなくてよかったわ。ランスロットはちゃんとアナベルをフォローしたのかしら?【アイリス】

 その件に関しましてはコメントを控えさせて頂きます【ランスロット】

 ミリオン伯に関しては至急調査させよう。上手く鎖国派の尻尾を掴めるといいけど……【ルイス】

 危ないところを助けられて恋に落ちるってありがちすぎて怖い! ナギ皇子、これ以上ベルに近付くと二人の仲がこじれそうだからヤメテ! 【キャロル】


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