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 カーテンが引かれている薄暗い寝室に入ると、いつもは寝起きの悪いキャロル様が、寝衣姿のままソファの上で膝を抱えて俯いて座っていた。


 淑女にあるまじき姿勢だが、そこは今は指摘せずにおく。



「キャロル様おはようございます。昨日は休暇を頂きありがとうございました。ランドルフ公爵令嬢のお茶会に出席なさったと聞きましたが、何かございましたか?」



 首が痛くなりそうな勢いで顔をあげたキャロル様は、暗がりでも分かる程憔悴していた。


「アナベルどうしよう!マリアとカチュアにハメられて軍資金がゼロになっちゃったよぉ〜!!」



 軍資金とは、この選考会に参加している令嬢達に支給される支度金の事だろうか…?


 言うなり泣き出したキャロル様をなだめながら、昨日の事を聞き出した。





 昨日のお茶会にはキャロル様しか招待されておらず、キャロル様曰く『タイマンのガチンコ勝負』だったそうだ。


 しばらくはイヤミの応酬だったが、そのうち支度金の話になった。

 令嬢達に支給される支度金の使い途の制限は特に無い。


 ドレスや宝飾品を買ったり、お茶会を主催したり、語学やダンスの教師を雇ったり、令嬢によって様々だ。


 その中で最近、殿下の心象を少しでも良くしようと、孤児院への寄付という使い方が流行っており、マリア様も既に何度も寄付しているという。


 実はキャロル様も殿下の好感度が上がるからと、当初から寄付は計画していたが、語学とダンスの教師を雇うつもりだったので、必要な分を使い終えてからその余剰分を寄付するつもりだった。

 そう伝えたら、


「まぁ!すぐに寄付も出来ない貧乏な方は大変ねぇ?貴女のお家にもワタクシから寄付いたしましょうか?」


 いかにも驚いたという風にマリア様に言われ、「プチンとキレちゃったのよ!」とキャロル様。


「失礼ね!アナタからの施しなんて無くても孤児院への寄付くらい出来るわよ!!」


「でも、微々たる額では寄付とは言えませんわよ?」


「アナタと同じ額寄付するわよ!」


 そこまで言ってしまったと思ったが遅かった。


 そうですかではと、提示された金額がなんと図ったようにキャロル様の支度金の残額と同じ額だった。


 気が変わらないうちにと、その場で決済の書類に署名させられ、カチュアに回収されてしまったという。

 カチュアの残忍な笑みが脳裏にチラついて、思わず眉根が寄る。


 やはり休みなど取るべきではなかった…。




 夜眠れていないというキャロル様をもう一度ベッドに戻し、幼子にするように頭を撫でながら、昨日読んだ弟からの手紙の事を思い出した。


 手紙にはちょうど孤児院についての気になる噂が書いてあったのだ。




 王妃様の女官の中で年齢が若い私とカチュアは、お忙しい王妃様の名代で月に一度郊外の孤児院への慰問を任されていた。

 カチュアが実家の屋敷に近い北の孤児院を希望した為、私は南の孤児院を担当している。


 どちらも王宮から馬車で三時間ほどかかるので、滞在時間も考えると一日がかりの重労働になる。


 朝一番に出発して昼前に到着。院長に王妃様からの寄付金を渡して、会計帳簿で収支を確認する。

 南の孤児院の院長は誠実な人柄なので心配ないが、世の中には寄付をくすねる性根の悪い管理者もいる為だ。


 その後子供達と共に同じ食事を摂り、子供達の健康状態などを確認する。午後は小さな子供達と少し遊んだ後、年長の子供達に語学の授業をする。


 私が教えるのは、ここ数年で交流が盛んになってきた海の向こうのジェパニという国のジェパニ語だ。


 国語の読み書きや計算、裁縫などは院長や職員が教えているし、隣国の言葉も教師を雇って教えている。

 そこで私に出来る事と考えてジェパニ語になった。


 近年ジェパニ語の出来る人材の需要が増えている為、ジェパニ語が出来ると卒院した後就職がしやすいのだという。

 自分の休日を合わせても月に数える程しか授業が出来ない為、その間は教材を作成し孤児院に送ったり、子供達がジェパニ語で書いてきた手紙を添削したりしてフォローしている。



 昨日読んだ弟の手紙には、特待生として学院に在籍している南の孤児院出身の子と仲良くなった事、学院に入れるよう尽力してくれた王妃様と私に感謝していたという事が書かれてあり嬉しかった。


 そして、南の孤児院と比べて北の孤児院の評判が良くないと書かれてあった…。


 北の孤児院は、建物など外見は南の孤児院にくらべてとても綺麗だが、子供達の待遇は良くない。万が一子供を預けなければならなくなったら南の孤児院へ。市井でそう噂になっているという。


 王妃様の名の元に寄付を行っている孤児院の評判が悪い事は、王妃様の権威に傷をつける恐れもあり見過ごせない案件だと考え、昨日のうちに王妃様へ弟の手紙を託しに行ったのだ。

 しかし王妃様はもうご存知で、既に調査を開始しているとの事で安心して帰ってきた所だったのだが…。



 隣室で話し声が聞こえ、思考の海から戻ってくると、キャロル様は起きている時の激しさはどこへやら、健やかな寝息をたてて眠りはじめていたので、その頭からそっと手を離した。


 キャロル様を起こさないように静かに扉を開けて隣室に戻ると、ランスロット様が待っていた。

 傍に控えていたメリーに、キャロル様に付き添ってもらうよう頼むと、私は昨日の事を話すべくランスロット様をソファへと案内した。


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