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 第二王子妃選考会が始まってから7日が経った。


 キャロル様はルイス殿下を囲んでのお茶会に参加したり、ダンスや語学の講義を受けたりと、忙しく過ごしている。


 当初懸念された周囲に対する不敬地獄はランスロット様曰く「予想したほど酷くない範囲で収まっている」との事。

 というのも、キャロル様が私のアドバイスを素直に聞き入れてくれるからだ。


 最初こそ会話が通じず途方に暮れたが、彼女の垂れ流す心の声を根気強く聞いてみると、どうやら私はキャロル様に色々なアドバイスをして助ける役割なのだということが分かった。

 また、彼女は殿下やランスロット様の好感度を非常に気にしている。

 であればと、彼女が何かマナーから外れた事をしそうになる度に、「こうした方が殿下の好みだ」「ああした方がランスロット様はお喜びになる」とやんわり軌道修正した。


 キャロル様も、「アナベルがそう言うなら…。」とブツブツ言いながらも意外と素直に聞いてくれる。


 それもこれも私が『お助けキャラ』だと信じて疑わないゆえに。



 キャロル様曰く、この世界はキャロル様が夢で見た物語の世界に酷似しているそうで、その物語でキャロル様は私の協力を得て、ルイス殿下やランスロット様や他の『攻略対象者』との恋愛を楽しむのだという。


 でも最近の流行で、『逆ハー』を目指すと『悪役令嬢』に『ざまぁ』されるので、殿下かランスロット様に的を絞って頑張るという。



 絞る的がかなり大それているのはこの際置いておくとして…。



「そんな訳だから、アナベルが頼りなの!頼むわね?!」


 中身はともかく、ストロベリーブロンドのふんわりした髪に甘くたれた空色の瞳。庇護欲をそそる可愛らしい外見でそんな事を言われてしまうと、なんだか憎めなくてついつい親身になってしまう。

 年齢的にも19歳の私より3つ下で、王立学院に通っている弟と同じだからか、姉のような気持ちになってしまうのも要因の1つだ。


 そんな私の気持ちが伝わったのか、キャロル様もすっかり打ち解けてくれたばかりか、私に対して気を遣ってくれるようになった。


 キャロル様が落ち着くまではと休日を取らず傍に居た私に、『労働基準法』というどこかの国の法律について熱く語り、ランスロット様を通して女官長に許可を貰い、せめて1日だけでもと強引に私を休ませてくれた。


 これに関してはランスロット様も驚いていたようだったが、「良かったな。」と目を細めて笑ってくれた。


 そうして、休日でリフレッシュしてキャロル様の元へ戻ったその日に事件は起きた…。


 朝一番にキャロル様のお部屋へ行くと、待っていましたとばかりに、部屋付きメイドのメリーが話しかけてきた。


 私が休んでいた昨日、キャロル様は急遽誘われたお茶会に参加したのだそうだが、帰ってきてから寝室に閉じこもりきりなのだと。

 その主催者が、キャロル様曰く『悪役令嬢』のランドルフ公爵令嬢マリア様だった。


 キャロル様はいつもの如く、


「悪役令嬢のお茶会なんて、フラグの匂いしかしないわ!受けて立ってやる!」


 と、超理論を展開して鼻息も荒く参加を即決。


 生憎その時はランスロット様も居らず、誰にも判断が仰げなかったメリーはせめて状況把握だけでもと、健気にキャロル様に付き従っていったそうだ。

 ところが、会場の前でカチュアに入室を拒否された。


「メイドは間にあってるから、帰って大人しく部屋の掃除でもしてなさい?」


 その見下した態度がとても感じ悪かったとメリーは拳を震わせた。


「私がキャロル様のお傍に居なかったせいで嫌な思いをさせてごめんなさいね。」


 そう謝ると、絶対に私が居ない日を狙っていたのだとメリーはスッパリ断言した。


 もしかしてそうなのかもしれない…。


 カチュアの担当は今回の参加者の中で一番高貴な身分のランドルフ公爵令嬢マリア様。だからなのかカチュアはマリア様と一緒になって他の人間を見下し、ぞんざいに扱う事が増えた。

 キャロル様も何度かマナーの覚束無い所や、言動について揚げ足を取られたり心無い言葉をかけられたりした。


 もっともキャロル様は「いじめイベント、ゴチです!」と、何故か喜んでいたが。



 そういえば何日か前、一人で廊下を歩いていて偶然カチュアと出くわした時、彼女は憐れむような笑みを浮かべて、


「庶民とそう変わらない鄙びた男爵令嬢のお相手だなんて、アナベルも大変ね…?」


 と言ってきた。いつも通り無表情で応対したけれど、キャロル様風に言えば「何アイツ!ちょームカつくんですけど?!」といったところだろうか。


 私もだんだんキャロル様の不可解言語に染まってきたなと考えてつい笑みがこぼれてしまった。

 それを見たカチュアは自分が笑われたと思ったのか、アイスブルーの瞳を怒りに細めた。


「笑ってられるのも今のうちなんだから…!!」


 そんな捨て台詞を残して去っていくカチュアにまた脳内のキャロル様が呟く。


「悪役令嬢も真っ青の悪役女官だわ。」



 誰も居ない廊下で私はまたひっそりと笑ってしまったのだった。


 あの時のカチュアの悔しそうな様子から考えて、昨日のお茶会で何か仕掛けてきた可能性が高い。

 しかし、マリア様主催のお茶会で何があったのかはキャロル様しか分からない。


 何はともあれキャロル様に事情を聞こうと、キャロル様の寝室へ足を進めた。



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