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番外:兵士は見た

 

 団外秘!緊急回覧!!


【天使と書いてベルたんと読むの会】会報番外


 〇月✕‬日 怨みたくなるぐらい素敵な月夜


 報告者:ザック・エーカー




 ベルたんをこよなく愛する全ての団員諸君…。

 まずは深呼吸をして、心を落ち着け、倒れると危ないからどこでもいいので座ってからこの会報を読んでくれ。

 倒れなかった者も、いいか、ヤケを起こしてはいけない。落ち着け。そう心に念じておくのだ。


 俺自身今にも気を失いそうなコンディションで本会報を記載してる為、悪筆、心の汗の付着による文字の滲み等、非常に読みづらい状態になっている事を許して欲しい。



 さて…本日は第二王子妃選考会の最終日で、薔薇の宮にて舞踏会が開催された事は諸君らも知っていると思う。


 我ら第1騎士団も一部警護に加わるようお達しがあり、ベルたん見たさに血みどろの選抜戦を経て警護権を勝ち取った同志数名と意気揚々と警護の任務についた訳だが………。


 すまない、思い出しただけで目から心の汗が止まらないのだ……。落ち着け、俺。




 …………よし、諸君待たせたな。すまない。


 この舞踏会はベルたん達女官も慰労の意味を込めて招待客として参加していた。よって、いつもの女官然としたお姿ではなく、ドレスアップしたスーパー(きよ)らベルたん爆誕なのである。


 俺のお粗末な脳みそに高尚な語彙は詰まっていないので、ベルたんの美しいお姿を的確に言い表すことは出来ないが、尊い。尊すぎる。尊死する。マジ天使。

 これで伝わると信じている。


 そんなベルたんの尊いお姿でひとつ気になったのはドレスの色だ。


 若草色…。


 その色は目下我ら第1騎士団の共通の敵である『名前を言ってはいけないアノ人』を彷彿とさせ…非常に、非っ常ーに嫌な予感がした。




 舞踏会が始まって直ぐにマリア・ランドルフ嬢のご乱心と断罪が始まり、ハラハラ見守るそんな姿もマジ天使なベルたんをハラハラ見守りながらも無事に片付いた事は良かった。

 そこまでは良かった。


 その後、名前を言ってはいけないアノ人が、スーパー清らベルたんをダンスに誘いくさりやがった。


 その様子に奥歯を砕かんばかりに歯ぎしりをしたが、頬を染めるベルたんマジ天使。網膜に焼き付ける。永久保存版である。


 ダンスだから当然ピタリと密着する二人は、血反吐を吐くほどに認めたくないが、クソお似合いだった。


 途中彼女の頬に手を添えたりするのを見た時には、思わず警笛を吹いて割り込んで反則一発退場を宣告したくなった。


 等間隔に配置されていた団員諸君も1歩足が出ていた事を鑑みるに、おそらく同じ心境だった事だろう。


 婚約者でもない二人だから、ダンスは一曲で終わりのはず。


 曲よ早く終われ、楽団さん巻いて巻いて!アップテンポでパリピーヒャッハーな感じでやっちゃって!と念じて、やっと終わったと思ったら、頬を上気させたハイパー清らベルたんの腰に手を添えながら二人でこちらへと歩いてくるではないか!

 俺はバルコニーへの扉の脇で警護をしている。折しも後ろのバルコニーは月明かりを浴びて幻想的でムード満点な空間と成り果てている。



 まさか。



 こんなムード満点な、暗がりに、ハイパー(セイント)清らベルたんを、連れ込むと?!



 絶対アカンやつ!!


 ベルたん逃げて!!!



 そんな焦りも虚しく、バルコニーの扉を開けようとするアノ人。


 そうはさせるか!!


「閣下、畏れながら…外はご令嬢にはいささか寒いのでは…。」


 心のままに言葉にすると不敬罪一発アウトになるので、薄絹に包んだ上から更に手ぬぐいでぐるぐる巻きにした感じの、ベルたんの体調を気遣うダケの言葉になった。


 あぁ、ヘタレと罵ってくれて構わない。だって怖いんだもん!!

 それでも、我らの天使が風邪でも引いたらどうするんじゃい!!と、殺気を込めてアノ人へ警告する。


 すると、殺気をいなすように淡く笑んだあの人は、男の俺も見惚れるほど優雅に上着を脱ぎ、あれよという間にドレスから覗くベルたんの輝く柔肌を包んで隠した。


「それほど長い時間は居ない。彼女に風邪をひかせたりはしないと約束するよ。」


 そう言うや、ベルたんの肩を抱いてバルコニーへ出ていってしまった。


 やばいよやばいよ!

 このシチュエーション、マジでヤヴァイ!!


 でもこれ以上何か言う事も出来ない俺の心臓が、嫌な予感に震え、厚い胸筋の下で暴れ出す。


 等間隔に配置された同志達の、オマエ何とかしろという鬼気迫る視線も確実に俺の寿命を縮めている。


 いや、無理無理の無理!!


 警備上、会場に目を向けていないといけないため、バルコニーに張り付いて二人を監視する事は出来ないが、アサシン並に気配を殺し、そっと扉を少しだけ開けて、せめて会話が拾えるように頑張った俺、褒めて。



 でもその後は聞きたくない言葉のオンパレード。



 アノ人が俺たちのベルたんに求婚しやがった。求婚。球根の間違いか?HAHAHA!笑えねーよドちくしょう!!


 しかも王妃陛下に球根(笑)の許可まで貰っているという徹底ぶり。外堀埋まりまくってる!ベルたんマジ逃げてぇぇ!



「…私もランスロット様をお慕いしています。こんな私で良ければ求婚をお受けします。」



 オワッタ。



 ウォォォォォオォォォ!!



 その場で膝をついて慟哭したかった俺のキモチ…諸君なら分かってくれると信じている。というか、今、そういう状態になってるだろう諸君を思うと心の汗が止まらない。

 俺の目はいつから壊れた水道の蛇口になったのか。




 その後は二人の名誉のために…というかもう俺の心がブロークンで聞いてられない…そっと扉を閉じ……同志達に虚ろな目で目配せをする。俺の目が死んでいたから状況はお察しな事だろう。

 同志達の目から一様に光が消えていた。




 しばらくして室内に戻ってきたベルたんを歪む視界に必死で映すと、なんとも言えない幸せそうな表情で微笑んでいて……。


 そうさせた相手が俺じゃない事に再度絶望を覚えたけど、マジ天使なベルたんが世界一幸せになれたんだということは諸手を挙げて大声で叫びたいほど嬉しかった。


 同じ心持ちだろう同志達とやけっぱちに第1騎士団を讃える軍歌を歌って行進してやろうかと思った。


 ちくしょう!羨ましすぎるぜランスロット・アンバー!!


 俺たちの天使ベルたんを泣かせることがあったら第1騎士団一丸となって復讐を果たす所存だ。そうだよな皆?!


 不敬罪なんて…ち、ちっとも怖くなんてないんだからねっ!!




 舞踏会が終わって詰所に戻ってきた現在。

 折れた心に何とか添え木をして、当直の同志達には血反吐を吐きつつこのことを伝え、同じように心の折れた屍を量産し、明日の朝何も知らずに出勤してくる諸君らに急ぎこの事を伝えるべく筆をとっている。


 団長、すんません、明日は誰も仕事出来ないっす多分。アンバー卿に責任取ってもらってください。


 尚、明日午後8の刻より天使の渚亭にて、『我らのベルたん愛は永久に不滅ですの会』を開催する。夜勤以外の団員諸君は奮って参加されたし。

 恐らくは未だかつて無く熱い想いの滾る会となる事だろう。


 という訳で団長、明後日も誰も仕事出来ないっす多分。アンバー卿に(以下略)



 回覧者サイン欄


 ・いや、仕事しろぉぉぉ!!?【団長】

 ・無理ですよ団長【副団長】

 ・副団長に禿同【副団長補佐】

 ・いやいやいや、てかね、その前にね、アンバー卿への不敬発言箇所は今すぐマスキングしろ?!ヤバいからこれ!【団長】

 ・団外秘なんだから大丈夫でしょ。団長がちゃんと破棄しますもんね?【副団長】

 ・も、もちろん!破棄するさ!情報漏洩ダメ、絶対!【団長】

 ・いやーそれにしてもなんでこんな短期間にベルたん攻略されちゃったんですかねぇ?それに、我らの報告書が横領事件解決の鍵になったとお褒めの言葉を頂きましたけど…どっちの報告書の事なんですかねぇ?【副団長】

 ・おっといかん、仕事だ仕事!【団長】

 ・団長は天使の渚亭へ強制連行して尋問決定【副団長】

 ・団長を逃がすな【副団長補佐】

 ・了解です。縄と猿ぐつわ用意しときます【オリバー】

 ・権力には逆らえない中間管理職を労わってぇぇぇ!?【団長】

 ・今夜は飲むぞ!【ワーグナー】

 ・ベルたんベルたんベルたんんんんん泣【リカルド】

 ・

 ・

 ・

 ・団長、骨は拾ってあげるわね【アイリス】

 ・王家に忠誠を誓う団長がまさか会報破棄なんて出来る訳ないよね?ニコリ【ルイス】

 ・今の私は幸せに満ちているのでなんでも許せます【ランスロット】

 ・やっぱりベルはお助けキャラじゃなくてヒロインね!【キャロル】

2020.09.27一部表現を変更。流れに変わりはありません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 回覧者サイン欄、最高に面白かったです! 面白い小説、ありがとうございます!
[一言] 凄く面白かったです!
[一言] とても良いものを読ませてもらいました 会報が良い仕事してる
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