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8.魔王との死闘を演出します!

※事前解説

・『NTR(ネトラレ)』は第三者が相手の愛人と交尾して、結果的に愛人を奪うこと。寝取りとも言う。

そのジャンル作品を見たら脳が破壊される。

2019年末にあったC97で被害者が爆発的に増加し、脳を破壊された人を見たという目撃情報がネット上で後を絶たない。

ちなみに海外でも、そのまま『netorare』というタグで使われる……らしい。


・『SAN(さん)値』は正気度で、分かりやすく言えば気力。

そのため失えば精神が正常じゃなくなり発狂する。あるTRPGで使われている。



外界で警報が鳴り響く一方、魔王城内は平常運転で穏やかな状態だった。

おそらく組織内で連携が取れておらず、担当部署に任せっきりという気が抜けたスタイルなのだろう。

そんな杜撰(ずさん)な管理体制のせいで、異常事態を迎えている最中であることを知らない魔物達すら居た。

だから、城内巡回している魔物はすっかり肩の力を抜いており、気楽に談笑している始末だ。


「それで魔王様がさァ。今朝のアカネちゃんの生放送で、間に挟まりてぇ~とかコメントしていたんだよ。休憩時間にアーカイブを視聴したとき、そりゃあ死ぬほど驚いたね。マジで何考えているんだろうな」


「えっ!?身内グループでの冗談なら許せるけど、生放送でそのコメントは女神様への冒涜行為だろ!大企業の社長……じゃなくて、魔王様のサークル仲間だってアカネちゃんの放送を見ているんだろ!?」


「洗脳やネトラレ物の見過ぎで脳が破壊されているんだよ。先代魔王と違ってオンリーイベントで百合合同本に参加しなければ、サークル活動せずに貢いでいるだけだしさ。そろそろ潮時かもな~」


そんな平凡で他愛も無い話をしているときだった。

会話している2体の近くで壁は音も無く消失し、物の見事に開通して外界へ繋がってしまう。

同時に凄まじいサイレン音が城内へ響き渡る上、間も無くして黒龍やら四人の少女が勢いよく侵入した。

この緊急事態に魔物は驚き戸惑うものの、ちょうど話題に出していたアカネの姿を見て更に激しく驚愕するのだった。


「やっば!おいおい生のアカネじゃねぇか!リアルで見ると本当に小さくてかわいいな~!」


「アカネママ~、俺のツルツル頭をなでなでしてくれー!ついでにリアル投げ銭を受け取ってくれぇー!」


こうして目の前で恥ずかし気も無くキツイ声援を披露されると、友達の変態行為を見逃していたルリですら戸惑いを隠せない。

オタク文化に理解あるアズミも実際に耳にすると険しい表情を見せていて、唯一アカネだけは慣れた様子で健気な反応で返した。


「おぉー。さすがにファンへの逆リア(とつ)は生まれて初めてかもー。これで自宅花火以来に特技欄を追加かなー」


中々大胆な発言であって、ルリはすかさず反応した。


「えぇっ?アカネちゃんって自宅内で花火なんてしたの?」


「新しい空き家へ引っ越す記念にねー。そのときは村ごと大盛り上がりしたよー」


「それって大惨事になってるよね。まぁ……とにかく案内役として、この愉快な魔物達には催眠魔法をかけておこうかな」


ルリは居合わせていた魔物を黙らすことも兼ねて、城内を案内させるために催眠魔法で意識を支配下においた。

ついでに深層心理を洗脳することで、朝食を自身と同じパン派に変えてしまう。

それから4人は順調に城内を進んで行くわけだが、あまりにも順調なのは(かえ)って問題だった。


なぜなら魔王退治は過程であって、最終的な目的はアズミがエフを好きになることだ。

願わくば道中でイベントが起きて欲しい所だが、思惑通りに行かないのが世の常としか言いようがない。

彼女達はまるで観光ピクニックに来たぐらいの感覚のまま、魔王が居座っている空間にあっさり辿り着いてしまう。

当然、魔王が権威を示す場所となれば天井が異様に高く、とにかく広い。

まさしく古代の王を連想させる過剰な広さを誇るが、それ以外の部分については似つかわしくない光景になっていた。


「この部屋、ちょっと臭くない?」


奥を見ればパソコンを必死に操作している魔王の姿があった。

また、せっかくの大広間がタバコのヤニ臭さや酒のアルコール臭に包まれていることが問題だ。

その他には怪しいDVDや薄い本で埋まった巨大な棚があったりと、この異世界はアズミに似た趣向の人種で埋め尽くされているのかとルリは心配する。

ただ相手の見た目は筋骨隆々な巨体だから、一応魔王らしいと言えば魔王らしい威圧感を少なからず放っていた。

とは言え、別の意味で関わりたくない雰囲気だったのでルリはエフの心変わりを期待した。


「あー……エフ?その、どうする?さっさと魔王倒しちゃう?」


「待ちなさい。このまま威厳無い状態の魔王を倒しても感動が薄れるわ。あと肝心の達成感もね」


今更達成感なんて必要なのかとルリは疑問を抱く。

しかし、今回の主催者がそう言うなら仕方ないと後ろに下がった。

その直後、魔王の視線はパソコンの画面からアカネの方へ移り、何やら生暖かくヌルヌルした気配が(ほとぼし)った。

もしかして、またオタク特有の声援が飛んでくるのか。

そう思って身構えかけたが、魔王は意外にも堂々とした態度で笑い飛ばしてきた。


「っぐははははは!ついに来たようだな、可憐な英雄共よ!どうやら我のお気に入りが混じっているようだが、戦うとなれば決して手を抜かぬぞ!我が直々に抵抗できないボロ雑巾にしてやろう!」


それっぽい事を言っている間に魔王は変身してみせ、凶悪な怪物としか言い表しようがない形態へ変り果てた。

とても邪悪にして力強い殺気を放っており、冒険経験が無い彼女達でも察知できるほどだった。

先ほど聞かされた個人的な声援とは比べ物にならないほど鳥肌が立つ。


ただし『魔王は一体誰のことを英雄と呼んでいるんだ?』という疑問が拭えず、4人揃って仲間同士で顔を見合わせてしまう。

そんな緊張感が無い行動を取っても相手は雄々しい調子を変えず、更に独りよがりな演説を続けた。


「さぁ!今すぐお前達を屈服させ、我が百合の間に挟まることで世界中の心を恐怖と嘆きに染め上げてやろう!そして隙あらばNTR(ネトラレ)展開を挟み込み、皆の脳を徹底的に粉砕してやるのだぁああぁあぁ!!」


鼓膜にダメージが受けそうなほどの大声量で叫ばれ、(たま)らず4人とも表情を渋くする。

それら数多の衝撃に呑み込まれて怯みかける中、ルリだけは率先して言い返してみせた。


「あなたが何を言っているのか、1つも理解できないよ!さっきから自分の趣向を押し付ける主張ばかり!」


「っくははは、お前こそ何を言っている!……ん?いや、さてはお前は転移者だな?ならば、世の真理を知らぬのも無理はない!この世界は心が(すさ)まないよう素晴らしき百合を尊び、美しい光景を愛でるのを第一としている!その幻想のせいで先代魔王は夢見たが、我は毒々しいNTR文化に触れ……!!」


「はい、お約束のボスとの言い合いは終わり。催眠魔法」


「うぐっ!?な……なんだ。これ、は……。頭が……?」


ルリは形式だけでも盛り上がるようにお膳立てしたらしく、もう充分に段階を踏んだと考えて相手の意識を奪った。

それから彼女は演技で冷や汗をかき、懸命とした表情を即座に作って叫ぶ。


「エフ、今だよ!私が全力の魔法で動きを止めているから、貴女の錬金術で生み出した傑作で……あの憎き魔王にトドメを刺して!」


「えぇ分かったわ!この天才錬金術士である領主様に任せなさい!」


エフはルリの呼びかけに対して格好よくポーズを取りながら応える。

そしてアズミとアカネの2人が呆然としている間を掻い潜り、単身で魔王の所へ突撃し始めた。

だが、ずっと何かと張り切り過ぎて既に体力が消耗していたのだろう。

彼女は走っている途中で息を切らし、速度が露骨に落ちてしまう。


「はぁはぁ、横腹が痛くなってきたわ……」


「もう世話がやけるなぁ」

我の

ルリは彼女の疲労に気が付き、こっそりとエフの体力を回復させる。

更に催眠魔法で魔王には反撃する素振りを(おこな)わせ、両者が決死の真剣勝負へ挑む定番シチュエーションを作った。


「おのれぇええぇ!こんな所で我がやられてたまるかああぁあぁあ!返り討ちにしてやるぞぉおおおおぉお!こ、声が勝手に……!?なぜだ、我の体まで……!」


えげつない事にありきたりな台詞まで吐かせた後、ルリはタイミングを見計らって魔王を大転倒させる。

すると魔王はまるで首を差し出す体勢になってしまい、戦闘の素人からしても絶好のチャンスが訪れるのだった。


「観念しなさい魔王!」


エフは隙を見逃さず、強力な媚薬が入った瓶を丸ごと魔王の口へ突っ込む。

それなら無理に吐き出せば魔王が助かる余地はあったかもしれないが、ルリの催眠魔法は抵抗を許さなかった。

むしろ体を操り、積極的に飲ませていた。


「ぐ、ぐわああぁあぁぁあぁ!なんという劇薬!この我が……、この我が負けるだとぉおおおぉおぉお!?ありえぇんんんふぅおおぉお!」


もちろん、この悲鳴や負け惜しみはルリが言わせている。

それから魔王を操る彼女はもっと徹底的な敗北を与え、尚且(なおか)つ生物を殺めたことでエフが気を重くしないよう思いつきの手段を取った。

その手段とは極悪非道であり、魔王は残酷無残な痴態を晒すことになる。


「んおっほぉおぉおぉおおぉおぉぉ!もうらめえぇええぇ!らめなのぉおぉおぉ!我、薬に屈し……ちゃったぁあぁあぁあぁ!これからは我がメスとなり、自分から百合の花を咲かせたいのぉおおおぉおぉおぉおおぉお!!」


モラルの欠片が無く、目撃者の人格を破壊してしまうレベルの気持ち悪いアへ顔ダブルピースだった。

そもそも見た目が怪物過ぎて、オスなのかメスなのかも分からない姿だ。

またこの姿はアカネの生配信を通して全世界に広がり、かつてない史上最低な上に最速でコメントが溢れ返ってしまう。


『キッモw魔王軍抜けるわw』

『NTR好きの末路』

『これはさすがに引く』

『アカネちゃんがBANされるぅうううぅ』

『×すぞ××野郎』

『アカン』

『放送事故過ぎでしょwwww』

『これはスパチャ不可避』

『メス××はマズイですよ!』

『切り抜き 決 定 !!』

『親の前で言ってみたいセリフ』

『音MADの素材にするわ』

『なんで言葉が通じてるの?』

『画面壊れた』

『おほ声が職場に流れちゃったんだけど』

『人と魔物の歴史的和解』

『さすが魔王。人類には早すぎる』

『普通にグロい』

『今日はこれでいいや』

『ウケるww』

『彼の声は素晴らしいね。亡くした友人を思い出すよ』

『これが諸行無常ってやつなのか』

『なんか感動した』


もはやコメントの早読みが得意なアカネでも目を通せない量であり、異常な勢いでコメントされるのは多くの人がショッキングな映像を目に焼きつけてしまった証拠だ。

そして間もなくして、被害に巻き込まれたと言っても過言では無い配信者の彼女は呟く。


「あれ、アカウント停止された。しょうがないなー、サブ垢サブ垢―」


アイドルをマスターしていれば精神的にタフになれるのか、または補正値で精神的ダメージが緩和されているのか。

魔王の意図しない最大火力の精神攻撃をアカネは気にかけていなかった。

対して一番近くで見てしまったエフへのダメージは重すぎたらしく、あまりにも想像を超える何かを見たせいで卒倒してしまっていた。

だいぶ遅れてルリは媚薬の影響を考慮せず加減を間違えたと気が付くが、その間にもアズミは勇気出してエフの救出に向かっていた。


「エフちゃん!どうか気をしっかり!くっ……!私までSAN(サン)値を失いそうです!」


近づけば近づくほど魔王の雄叫びが心身を容赦なく犯し、醜い姿を鮮明に見なければいけなくなってしまう。

ルリは彼女のために催眠魔法を一旦解除しようとする。

だが、改めて冷静に状況を見れば、懸命に助けようとするアズミの姿は姫を助ける勇者の構図に思えた。

ただし、それは本当に一瞬のことでルリは冷静に呟く。


「うん、感動的では無いかな。全くね」


すぐさま催眠魔法で魔王の意識を奪い、完全に意気消沈させて黙らせる。

これにより気を失いかけたアズミはエフを背負うことに成功して、すぐ脱出する行動を取った。


「急いで離れましょう!またいつ魔王に反撃されるか分かりません!」


どうやらアズミの中では魔王のオホ声は最後の抵抗だった認識らしく、真っ当な発言を残して大広間から出て行った。

あのまま2人を行かせるのは危険だ。

そのため精神共々ボロ雑巾に果てた魔王を捨て置き、ルリは変わらずのんびりしているアカネに声をかけた。


「アカネちゃん、行くよ」


「えー、ピクニックはー?前にリスナーが教えてくれた超激辛ロシアンルーレットを用意したのにー」


「それは後でね。このまま居たら、またアカウント停止させられるよ」


「それもそっかー」


こうして魔王を無事に打ち倒した彼女達4人はホワイトハウス(魔王城)の一室へ駆け込み、時間をかけて休憩を取るのだった。

だが、まだ魔王との死闘は終わっていなかった。

意識を失っていたはずの魔王はオートスキルによって自動復活を果たし、涙目で震えながら心底恨めしそうに呟いた。


「一体、脳を破壊することの何が悪いと言うのだ……!もう、こんな(はずかし)めを受けては生きていけん。こうなったら我が城塞を爆破だ!全てを無に(かえ)し、我も無へ還ろう……!」


そう言いながら魔王はパソコンまで必死に這いつくばり、なぜ備えたのか誰にも分からない自爆装置を起動させてしまう。


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