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6.凄い陰謀に巻き込まれます…!

それから彼女達4人はコスプレ大会しながら果物狩りを(おこな)い、更に野外カラオケという大芸道か宴会なのか分からない歓迎会で盛り上がった。

そして心置きなく親睦を深めた後のことだ。

予想外の事態に見舞われ続けたせいか、はたまた新天地に来た疲労が許容範囲を越えてしまったのか。

ルリは大半のスキルを任意で機能停止させていた影響で睡魔という生理現象に勝てず、気づかない内に一晩過ごしてしまう。

薄っすらと目が覚めた頃には4人とも大胆に大の字で床へ倒れていて、まるで酒飲みの夜会でも開いた後の惨状を迎えていた。


「うぅ~。なんか、みんなで可愛いおパンツを被ってるよ~……」


最初にルリだけが目を覚ます。

間も無くして意識が僅かに覚醒してきて、周りを見れば民家の一室なのは分かった。

ただ、きっと友達の家であってルリの新住居では無い。

それと全員は着崩れた状態ではあるものの私服を身に付けていて、心なしか見覚えあるパンツを誰もが被っている姿だった。

彼女は自分がノーパン状態であることを静かに確認し、昨夜の行動を思い出して呟いた。


「そういえば最後おパンツ交換会で、みんなパンティーウーマンになったんだっけな………」


自分で言っていて頭がおかしいとルリは感じたが、あまり深く考えないように精一杯努める。

次第に落ち着きを取り戻し始め、彼女は頭に被っていたパンツを手に取った。

見れば驚くほど布面積が狭い上に透けて見えたから思考停止しかけるが、記憶を辿れば一番幼いアカネが身に付けていた下着だと思い出せた。


「これアカネのだよね。まだ幼いのに、ずいぶん破廉恥(はれんち)な下着を履いているんだなぁ」


彼女は感慨深そうに眺めながら昨日の出来事を思い出した後、被っていたパンツを記念にポケットへ突っ込む。

それから食パンを食べたいと思いつつ、まずは友人達を起こそうと体を揺すった。


「うぉ~い、アズミ~。朝だよ~。情けない姿を世界中に晒されたくなかったら起きなさ~い」


「ん……うぅん…?」


アズミは呻き声を漏らし、ルリと同様の寝ぼけ眼を見せてくれた。

しかし、すぐに(まぶた)が降りて再び眠ってしまう。

彼女に限らず全員揃って朝に弱いのだろうか。

昨日の快活とした調子からは想像できないほど、反応があったと思った数秒後には誰しもが寝息を立て始めてしまう。


「ここまでぐっすり眠るなんて、みんなも歓迎会を心から楽しんでたって事なのかな」


好意的に考えたルリは無理に起こすのは申し訳ないと思った後、すっかり眠気が吹き飛んだので1人行動を始めた。

そして次に目についたのはアズミ持参のカメラと、もう1つ別にある謎のビデオカメラと箱型のパソコンだ。


「あれ、なんかパソコンが配信中の画面になっているし……。絶対にアカネの仕業でしょ、これ」


アカネは本当に配信業に力を注いでいるらしい。

ただ同時に、みんなの寝相が世界中に晒されてしまっていたのかとルリは気づく。

すると妙なコメントだらけで

『脳が回復した』『下半身が寒い』

『ヤバすぎでしょwww』『間に挟まりてぇ~』

『リスナーも配信者も変態だらけだな』『この部屋酸素薄くね?』

と色々表示されているが、あえて彼女は無視して配信を落とす。

それからアズミが(かたなく)なに録画映像を見せてくれなかったカメラを手に取り、(いま)だぼんやりとした意識のまま暇つぶし気分で映像を眺めるのだった。


「へぇ、これって昨日の歓迎会じゃん。アズミは本当に撮影が好きなんだなぁ。あとこの世界のコミケも魑魅魍魎なのね」


たまたまコミックマーケットの盗撮記録が残っていたから見てみたが、異質にして異形の存在が多く居合わせており、もはやコスプレの意味を成していない光景だった。

どれも本物の異星人に怪獣、人型ロボットや魔物類、獣人にエルフ、更には妖怪から危険な神話生物まで日常生活の一コマみたく闊歩(かっぽ)している。

これほど強烈な存在が一カ所に集結しているとなれば、よくアズミは無事で帰って来られたなと感心するレベルだ。


「想像していた100倍は凄い光景だなぁ。こんな見た目のインパクトが強い生物ばかりなんて、そりゃあアズミは人間と同一だろうね」


映像について他にも気になることを言えば、やたらローアングルの撮影が多いことだろうか。

しかもバックにカメラを仕込んで撮ったようなシーンもある事から、筋金入りの盗撮趣味だと分かってしまう。

何となく彼女の趣向を理解した頃、ルリは突如トイレへ行きたくなる。

そういえば昨日から花を摘んでいないことに気が付き、カメラは本人の胸元へ優しく置いて部屋から出ようとした。

その矢先、ルリは扉の上に妙な看板が設置されていることに気づく。


「なにこれ?配信のためのネタ?看板にエッチしないと出られない部屋って達筆で書いてあるけど」


「それは私が設置したものよ」


「ひぃっ!?」


あまりにも不意に後ろから声をかけられ、ルリは若干大げさに驚いて短い悲鳴をあげる。

すぐ振り返れば、乱れた髪の領主エフが真後ろに立っていた。

その様子は先程の映像で見たコミケにも劣らないインパクトがあり、ルリは一気に目が覚めた感覚で相手を見つめた。


「起きてたんだ……。凄く久々にびっくりしたよ」


「ついさっき目が覚めたわ。まずはおはよう、ルリさん」


「う、うん。おはよう、エフ。……それで怪しい看板について、何か説明してくれたりするのかな?」


「それは私が錬金したマジックアイテムの1つで、看板に書かれた事が起きる効果があるのよ。言い忘れていたけど、私って村の領主だけじゃなく錬金術士の職業も兼ねているから」


まさかの事実だった。

確かに場合によって兼業は可能だが、相応の素質を求められる。

けれど、気にかけるべき点は当然そんなことでは無くて、なぜそのマジックアイテムとやらに『エッチしなければ出られない部屋』なんて書いてあるかだ。

また、つい先ほどの配信コメントで変な言葉ばかり流れているわけだとルリは同時に気づく。


「あー……、えっと。とりあえず看板そのものについての説明というか、あんなことが書いてある意味の説明が欲しいかも?」


「実はね、私。アズミのことを普段はあーちゃんと呼んでいるのだけれど、彼女が好きなのよ」


「なんとなく知ってた」


「なら、話が早いわね。つまりはそういうことよ」


「あっ、はい。よく分からないけど、間違いで看板に変なこと書いたわけでは無いのね」


積極的に盗撮活動するアズミと同等か、それ以上の変態だと喉まで出かけてしまう。

別に同姓を愛するのは趣向に関する話で済む。

だが、マジックアイテムで強制的に交わるシチュエーションへ持ち込むのは、どう考えても倫理的に問題があるのは指摘するまでも無い。

とは言え、変態同士お似合いカップルの気がしなくも無いが、この看板には他の問題があることにルリは気が付いた。


「でも、これ確かに効力を発揮しているみたいだけど、この看板自体が力の発生源になっているね」


「当然ね。それがどうかしたのかしら?」


「いや、取り外すだけで効力が切れるなぁって」


「そんなわけ……」


本人も知らない様子だったので、その場でルリは背伸びして看板を手にかけ、いとも簡単に取り外した。

すると効力が切れるのを肌で感じ取れて、何事もなく部屋の扉を開けてみせる。


「ほら、開いた」


「……なるほど、接着面の改良が必要ね。仕様確認も甘かったわ。ありがとうルリさん。今後の参考にさせて貰うわね」


「気にする所そこ?多分だけど、こんな強引な手段じゃなく、もっと丁寧に手順を踏んだらどうかな。錬金術と一緒で、人付き合いにも工程って大事だよ~」


ルリは真摯な態度を示し、誰もが思う真っ当なことを言葉にして教えた。

どんな職業をしている時でも相手に説教じみた真似をするなんて、本当はしたくない。

だけど、それよりも友達関係が(いびつ)になるのは優先的に避けたかった。

ただ、どんな説得力ある言葉をかけようとも全ては受け取り手次第だ。

実際エフは錬金術士としての才能があっても、次に出てくる言葉は貧しい発想に(もと)づくものだった。


「一理あるわね。なら、やっぱり地道に果物狩りで好感度を上げていく方法を実行するべきかしら」


「それってゲーム脳みたいな発想だよ。ってか、もしかしてゲームを参考にしていたりする?」


「もちろんよ。ゲームであっても立派な参考資料になるわ。時には人生の教訓にもね」


「その解釈は人それぞれだから反応に困るなぁ。ちなみにどんなゲームなのかな?」


「私自身は詳しく無いから説明が難しいけれど、遊ぶゲームは全てアズミがプレゼントしてくれたものよ。ついつい気になって、クリアまで一気にプレイしちゃうのよね」


楽しそうに語る彼女の話を聞き、ルリは二度目の胸騒ぎを覚えた。

盗撮好きのアズミが買うゲームなんて、おそらくロクでもないジャンルだと直感で理解したせいだ。


「ちなみに、あのパソコンでゲームしているの?」


「そうよ。アカネちゃんがここで配信する事もあるから、たまに貸しているわ」


「そういうことかぁ。というか広い部屋だとは思っていたけど、そもそもここってエフの家だったんだ」


ルリは話題とは別のことに納得しながら、パソコンに再度近づいて勝手ながらもデータチェックした。

持ち主は傍らに立つだけで不思議と気にしていないようだが、デスクトップ画面は彼女達3人のローアングル写真であり、すぐに『新しいフォルダー (2)』というフォルダーを見つける。

フォルダーをクリックすれば案の定なタイトルだらけのゲームアプリが大量に並んでいた。


「わぁお、とんでもないアプリ名の宝庫。最早(もはや)そうだろうねって感じがするよ」


ルリは彼女が同姓好きや不自然な強制シチュエーション思考になったのは、アズミがオススメしたゲームによる影響かつ原因だと悟った。

加えて、これらの物的証拠からエフがオタク趣味となって、昨日アズミと一緒にコミケを行きたがっていた態度の真相を何となく察せる。

色々と辻褄が合う。

おかげ様で今のルリの気分は、さながらミステリー小説でトリックを(あば)く探偵だ。


「事の発端については、よーく分かった。でも、いくら相手が変態の張本人だとしても倫理観は大切にしないとね。だからアズミに対して効果的かどうかは一旦置いて、もっと王道な攻め方をしようか。尚且(なおか)つ、錬金術士らしい方法でね」


「何かアドバイスがあるなら是非とも聞きたいわ」


「強力な媚薬を錬金して、あくまで相手から望んで持って行くシチュエーションで」


「残念、それは既に試したわ。あと私が言うのも何だけれど、それって王道なのかしら?」


「雑でも良いから外的要因の理由をつけて、最終的にお互いの合意でイチャイチャするのは創作において王道だから……。じゃあ、サプライズな吊り橋効果はどうかな?これぞ分かりやすい王道だよ」


「恋心を錯覚させる作戦ね。それは試して無いから良いと思うわ。……でも、ちょっと不思議だわ。どうしてそこまで私の意をくみ取ってくれるのかしら。まだ会って間も無いのに貴女って親切なのね」


さっきまでエロ看板という飛躍した手段を実行していた彼女が急にまともなことを言い出すので、ルリは本気で面をくらいかけた。

だが、もっともな疑問であって、エフのさりげない問いかけに対して率直な想いを伝える。


「知り合った期間なんて些細なことで、何も重要じゃないよ。私を歓迎してくれた友達なんだし、助け合うのは当然でしょ?」


ルリとしては、実際そうだと思って言っただけだ。

そのはずなのにエフはどこかハッとした表情を見せてきた。

次第に彼女の眼つきは驚きへ変わっていき、次に出てくる反応は感動混じりなものだった。


「まさかそれって『スケバン女子寮のドッキドキ生活!ナウでヤングな私達はイケイケのズッ友だよ!』の名シーンじゃない!?お、驚き過ぎて嘔吐しそうだわ。恥ずかし気も無く言える人が本当に実在するのね……!」


「あれ?なんか微妙に(けな)されてる?」


「心の底から感心しているのよ!そしてサプライズな吊り橋効果を狙う場所も決定したわ!」


エフは急激に意欲が湧いてきたのか、鬼気迫る様子で大声をあげる。

それでもアズミとアカネはぐっすり熟睡したままだから、本当によく眠るなとルリは思いつつ相手に話を合わせた。


「とんでもなく勢いづいたね。で、どこに行くつもりなのかな?誰も立ち入らない村の秘蔵スポットとか?」


「ユリユリ合衆国にある魔王城(ホワイトハウス)よ!そこで私の錬金術を駆使しつつ、皆を守ることで大活躍して、そして私の力によって魔王を打ち倒し、あーちゃんと私は幸せなキスをしてハッピーエンドにするの!」


「興奮のあまり一言に情報を詰め込み過ぎでしょ。あと、やっぱり発想の元はゲーム脳なんだ。軽い恐怖を覚えるよ」


ここまで一貫して突き抜けた言動を続けられるのなら、呆れが一周回って感心すら抱ける。

また領主として振る舞わなければエフは元気あふれるオタク少女なんだなー、という印象を受ける他なかった。

それにしても今の話を聞く限りだと、4人全員で魔王城へ行く前提となっているのがルリにとって気がかりだ。

自分から提案したことだからエフの作戦には最後まで付き合うつもりだ。

しかし、農民らしい生活以前に新住居に住めるのが何時(いつ)になるのか、ほんの少し心配になってしまうのだった。

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