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5.個性的な友達たちに歓迎されます!

※キャラ総括


・ルリ。女の子、基本的に場に流されるタイプだけど色々と強い。


・アズミ。撮影が好きすぎて盗撮魔になっている。緑髪と透明の羽持ちで普通に妖精。


・エフ。村の領主。やや当たりがキツイ性格だけど仲間意識が強い。性癖も凄い。


・アカネ。小さな女の子。なにかと余裕ある様子で包容力がある。呑気に見えて立派な経歴持ち。

ルリは新しい友達のアズミ達に案内されながら、村に多く残された空き家を見て回った。

どうやら無人となった建物は、村人達が最低限ではあるものの管理してくれているらしい。


ただ神隠し同然に転移されてしまう者。

そして村へ転移してくる新住民が多い上、種族によって生活模様が異なるので満足いく管理は難しいと領主のエフは教えてくれた。

また、わざわざ田舎村に留まる理由が無い事も相まって、常に一定数の空き家が存在しているとも説明された。

それらの説明を受ける一方で、ルリは彼女らについての身の上話も積極的に深掘りするのだった。


「へぇ、アカネちゃんも元々は転移して来た身だったんだ。幼いのに慣れた感じだったし、この世界生まれだと勝手に思っていたよ。それなら最初は大変だっただろうね」


意図せずルリはアカネの大親友という位置づけになったようで、少女はぬいぐるみを抱えながら身の回りについて快く話してくれた。

とても小さな子だから単身で異世界転移なんて可哀そうに思えたが、その本人は満喫していると答えてくれる。


「もちろん最初はビックリしたよー。でも、この世界には動画配信サイトがあって、そのおかげで楽しく過ごしているよー。それに配信しているだけで収入が入って来て、生活に困らないんだー」


「配信?え、アカネちゃん(みずか)ら生配信しているの?こっちの盗撮魔が言葉(たく)みに(そそのか)して……じゃなくて、アズミと協力して動画作ったりとかじゃなく?」


「うん。アズミやエフのおかげで色んな衣装が用意できるし、寝転んでいるだけでもお金が入ってきて最高なんだよー。特に川で遊んだり、お風呂に入るだけで沢山お金くれて、感動したなー」


「それは………うん、まぁ本人が満足しているなら良いのかな。個人的にちょっと心配だけど」


「オフ会やライブも開いているから、だいじょうぶー。前の世界ではアイドルの職業をマスターしていたから、歌ったり踊ったりも得意なのでー」


このアカネの発言には、素直に感心できることが多くあった。

なぜならアイドルという職業は、他の職業より運に左右されてしまって格段に険しい難易度を誇る。

完全マスターするとなれば、全人類から疑いの余地なく最高のアイドルとして認知されなければならない。

つまり本人の実力でマスターするのが不可能だと断言できる目標が要求されるのに、賄賂などの小細工もあまり効果的では無いのだ。


一応ルリもアイドル職業はマスターしているが、それは絶対神の職業で身に付けた因果律操作スキルで制覇したに過ぎない。

だからこそ真っ当な方法でマスターした上、まだ幼い年齢である彼女に対しては驚嘆の一言に尽きた。


「アイドルをマスターしているなんて、とんでもなく凄いね。私が知る限りだと、どれだけ奇跡的な幸運に恵まれても無理だよ。……でも、アカネちゃんはお金があっても朝食はインスタントで済ませちゃうんだ」


「うん。いつかの配信で特技はカップラーメンの早食いって言ったら、なぜか沢山贈られてきたからねー」


「あぁ……。そういう感じなのね」


「体調を心配する人は他にも居たりするけど、何でもおいしいから良いんだー。私、口にさえ入れば好き嫌い無いのでー」


恐ろしいことを言っているが、アイドル職業はマスターすれば非常に高い補正値を得られる。

その補正値により毒類の耐性が向上し、また本人が幼くてステータス値が低くても強力な補正がかかるため、結果的に自然と厳しい境遇からカバーされてしまうのだ。

なんなら不審者集団に襲われても逃走は容易で、逆に打ち倒すかもしれない。

そんなことを2人が話している間に、領主エフがオススメという空き家へ辿り着いた。


「ここなら要望通りじゃないかしら。ほら、充分な広さの畑まで付いているもの」


そこは周辺に隣家が無く、畑に囲まれた3階建ての家だった。

建物に小さな綻びは見受けられるが、造りはまだまだ頑丈そうだ。


「でっか。本当にいいの?畑も使われてないのが不思議なレベルで広大過ぎるというか……いや、この上なく理想的な拠点だけどさ」


「元々は大家族が住んでいたのだけれど、一身上の都合で引っ越してしまったのよ。そして場所が良いから私が買い取ったわ」


つまり現在は彼女が所有している家なので、借家になるのかとルリは気づく。

だとしてもゼロからスタートとして考えれば充分すぎるほど恵まれていると思う中、ふとアズミが囁き声で耳打ちした。


「ちなみにですが、その大家族は学校のクラスみたいに本当に大勢でして、エフちゃんが生活資金にして欲しいと思って強引に支払ったのですよ」


「わぁお、優しいじゃん。領主の器量ってやつ?」


このルリの一言で何を伝えられたのかエフは気が付き、若き領主様は顔を軽く紅潮させて咳払いした。


「こほん。家は自由にして貰って構わないわ。どうせなら大胆な改築をしても良いわよ」


「良いの?話を聞いた感じ、エフちゃんが所有している家でしょ」


「長く使ってくれる気持ちがあるなら明け渡すわ。正直、私に管理責任があって大変なのよ。こう見えても色々と忙しい身だから」


「そこまで理由をつけて推してくれるなら、ありがたく使わせて貰うかな。ありがとうエフちゃん。だけど、うーん。中々にやりがいがありそうだなぁ」


見渡せるほど広大な畑が残されているから、これなら家畜を育てる場所も確保できそうだった。

なんなら新たな事業も拓けそうであり、いつの日か『私が作りました』という顔写真でも張った商品を工場から出荷したいとルリの想像が膨む。

ただ、家の大きさ含めて1人では何もかもが広すぎるためか、アズミが当然のように訊いてきた。


「これだけ広いなら住み込みしてくれる働き手が必要ですね。まだ無一文と変わりませんし、奴隷でも斡旋(あっせん)するのですか?」


「えっ、この世界って奴隷が身近に居るの?」


「はい。場合によっては奴隷で居る方が安全だったりしますので。それと先ほど話したように突発的に転移が起きる関係で、孤児院の子も結構多いですね」


「孤児かぁ。個人的には奴隷と雇用関係を結ぶより、年齢が近い孤児の方が人間関係を築きやすそうではあるかな~」


孤児を引き入れることに抵抗は無い。

だが、根本的な問題として作業効率が気になってしまう所だ。

本音を言ってしまえばルリ1人でも余裕たっぷりに全てこなせるのだが、農民らしく生きると考えたら一緒に作業してくれる存在は必要不可欠かもしれない。

そして、この先のことで彼女がどうするか悩んでいると、どこからともなくエフは紙とペンを取り出してきた。


「先々のことを真剣に考えているところ悪いけれど、この家に決めたなら正式な契約を交わしなさい。ほら、契約書に目を通して」


「ん、まぁ……特に気になることは書いてないかな。でも、住宅購入に関する記述が無いのはなんで?」


「金銭の支払いは求めないわ。不要よ。代わりにしっかりと管理することよ。それにすぐに払えないことは分かっているし、いつ消えて未払いになるのか分からないじゃない」


「わぉ、異世界転移が盛んだと領主様も大変だね。じゃあ早速サインしちゃうかな」


ルリはそう応えながら忘れかけていた日本語の文字を契約書に書き記し、自分の名前を明記した。

こうしてようやく彼女は自分の家と畑を手に入れた。

すると同時にランク1の目標を達成したらしく、唐突に農民のランクが2へ上がる。


「お、なんか懐かしい感覚。ってか、ランクの目標を確認してなかったなぁ」


ルリはランクのことを思い出した直後、世界の時間を止めてから神スキルでステータスオープンする。

わざわざ時間停止したのには理由がある。

彼女のステータス情報量があまりにも膨大過ぎて、全て表示された際には世界の理を破壊してしまう可能性があるからだ。


「真っ当な方法でランク上げなんて凄く久々だったから、逐一(ちくいち)確認すること忘れてたよ。えっと、最初の目標が自分の畑だけを持つ。そして次が共に働いてくれる相手を見つける、か」


結局はランク上げのためにも、誰でも良いから一緒に働いてくれる人材を見つけないといけないようだ。

ただ急ぐ必要性は無いので、機会が巡った時にでも探せばいいだろう。

ひとまず彼女はステータスを閉じると同時に、時間を再始動させる。

するとエフがサインを確認するところで始まった。

そして彼女はルリのサインを確認するなり、今度は急に明るい声色で愛想良く接してくれた。


「よかったわ!これで晴れてルリも私達の仲間入りね!女の子が増えるのは領主としてだけじゃなく、1人の女性としても嬉しいわ!改めて歓迎させて貰うわよ!」


急変と言っていいほどエフは態度を一変させてきたが、初対面時はやはり出て行くのかもしれないと心配していたのだろう。

すぐ打ち解けた様子となって、それからアズミが思いついたように言い出した。


「では、村に新しくやって来たルリ様を歓迎して、盛大にパーティーを開きましょう。もちろん歓迎方法はコスプレ大会です!文化を知ってもらいます!」


「駄目よ、アズミ。それだと歓迎会らしい雰囲気が無くなってしまうわ。だから果物狩りをしましょう!きっと彼女も乙女チックな事が好きなはずよ!」


朝食は果物派だからなのか、エフは1人楽しそうに果物狩りを提案してきた。

けれど、おっとりしながらもアカネが自分の意見を主張し始める。


「私はカラオケ大会が良いなー。それなら配信映えもするし、良い収入になるよー。あとルリさんも歌が好きそうなのでー」


「それぞれやりたいことを言っているだけな気もするけど、みんな凄く積極的だね。惚れ惚れするほど我が強い」


歓迎してくれるのは素直に嬉しい話であっても、3人とも我こそはという姿勢なのは長い田舎暮らしで刺激に飢えているのかと思わせた。

何にしてもルリを歓迎したいのは共通の想いかつ本心で、最初に提案を否定されたアズミが訊いてきた。


「では、ここはルリ様に選んで貰いましょう!この3つの内からどれかで!コスプレ!果物狩り!カラオケ大会ですよ!」


「え、まさかの選択式になるんだ?……うーん、でも私は農民だし、ここは農民らしく今後の生活に役立つよう白いミルク絞り体験でもしようかな」


「提案以外の選択は却下です!」


「私からの提案という扱いにはならないの?じゃあ、この際3つとも同時にすれば良いんじゃないかな。ちょうどできなくも無さそうだし」


「なるほど、それは素晴らしい考えですね!少々いい加減が過ぎる気もしますが!」


ルリの言葉にアズミは強く賛同する意を示した。

すると会話の波に乗るようにしてエフとアカネの二人まで似たことを言い出す。


「そうね!主役はルリだから私も良いと思うわ!浅はか過ぎる気がするけれども!」


「おぉー、私もルリさんに賛成―。投げやりで雑な気がするけどねー」


一瞬、本当に心から歓迎してくれるのかルリは疑わしく思ってしまう。

しかも自分で言っておいて、本当にデタラメな発言をしたと彼女は考え直してしまうのだった。

だが反面、意味も無く愉快に賑わい、純粋に遊ぶことだけを楽しむ交流は今も残る童心を再び輝かさせてくれた。

何もかもが懐かしく、人間らしく時間を過ごせるのが嬉しい。

だから、この出会いだけでロープレイングしようと決心した意味があったなと、彼女は密かに想うのだった。

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