38.偽りの巨乳で母乳が大噴射です!
スーパーマーケット。
それは主に食料品や日用品を売り出している小売店で、交通手段が少ない村にとって必要不可欠な存在だろう。
しかし、これはルリの勝手な認識に過ぎない。
実際に彼女が目にしたスーパーマーケットは想像から大きく掛け離れていて、店へ到着するなりルリは顔をしかめていた。
「うーん、アズミ。ここって本当に赤ちゃん用品を仕入れているの?」
「あははっ、ルリ様ったら変なことを言いますね。ほら、店の看板に堂々と書いてあるじゃないですか。それなのに、どうして疑わしい目をしているのですか」
「あのね。今アズミって、私と同じ物が見えてる?」
「当たり前じゃないですか。ピカピカ光っている色とりどりのイルミネーション。派手なデザインで描かれた無数の看板。あと……」
アズミが他の特徴を言おうとしたが、ルリが勝手に引き継いで喋り出した。
「全体のバランスや調和を無視した宣伝広告の集合体。店前に並べられているパーティーグッズとジョーク系おもちゃ。で、沢山の大型車両や重機」
「色々な商品があって面白い場所ですよね。ポーションやマジックアイテムも豊富に取り扱われていますよ。ちなみに店内では魚や虫、あと動物なども売っています」
「情報過多だね。あと建物の隣にある遊具の数々は何?まさかあれって商品……あっ、よく見たら値札がついてる……。他にも船とか戦闘機まで売っているし、意味が分からないよ」
店の隣には大型遊具が試遊商品として設置されているだけのみならず、ゴルフ場やテニスコートまである。
つまり統一性が欠片も無く、とにかく何でも取り扱っている特殊なディスカウントストアだ。
特殊すぎて、もはやファンタジーな存在と言っていい。
しかも目に入る全てが売り物だというのだから、錬金工房より摩訶不思議だ。
そのためルリは村人達にスーパーマーケットの定義を問いたい気持ちに駆られたが、全員がスーパーマーケットだと認識しているなら訂正する意味なんて無いだろう。
ひとまずルリは足を進めるが、まだ入店前なのに商品に目移りする状態が続いた。
「なんか別の異世界で見かける組合掲示板があるんだけど。この世界で使われていない言語だし、張ってある紙もクエスト関係じゃん」
なんてことない掲示板に目を付けたルリは、張り紙に書かれている内容を流し見しながら呟いた。
するとアカネが感心を示し、異世界の文明を知る彼女に感嘆した。
「おぉーさすがルリさんだー。当然みたく別世界の文字が読めちゃうんだねー」
「まぁね。だけど、どうやってこんな物を仕入れて……って、あぁ、そういえば転移が多いんだっけ。それで別世界から流れてきた遺物を売っているってわけね」
「多分そうだよー。でも安心してー。ちゃんと一般流通の物も仕入れているって、ここの店長が言っていたからー」
「それなら良いけど、こういう物を平気に売り出すってどんな変わり者店長なんだか」
そう言いながらルリは片手でエフを抱え直しつつ、もう片方の手では好奇心に駆られているミャーペリコを無理やり引っ張っていた。
先程から全ての商品に飛びついて行きそうな雰囲気があったので、事前に抑止しているのだ。
事実、ミャーペリコは好奇心旺盛の犬同様に落ち着きが一切なく、目についた物を片っ端から「あれは何ですか~!?あと、あれも何ですか~!?」と絶えず訊いている。
そんな終わりが見えない調子が続いてしまっているため、強引に突き進むことで会話を無視しようとした。
だが、入店した直後にルリの視線は別商品で釘付けにされた。
「うわっ、アカネちゃんのグッズが店頭販売されてる……。そういう層のお客さん向けってことね」
「ルリ様!ちなみに、この私アズミがアカネちゃんのライブDVDを作っています!これ凄い事じゃないですか?凄いですよね!」
「はいはい、凄いよ。アズミの涙ぐましい努力に私ルリは感動しました。そして商品が凄い見づらい。どういう陳列センスなの。商品で通路スペースが侵略され過ぎて、歩ける場所がほとんど無いし」
ルリが愚痴った直後、可愛らしい女性店員が焦った表情で一直線に走って来た。
その女性店員は鬼気迫る覇気を纏っている上、実際に彼女の頭には鬼らしき角が一本だけ小さく生えている。
また急接近して来たと思ったら、更にグイグイと距離を詰めながら接客してきた。
「商品をお探しですか!?それなら店員であるわちき……じゃなくて、あたしに任せて下さい!全力で対応させて頂きます!初々しさが売りです!是非ともご贔屓を!」
鬼娘の店員はまだ接客に不慣れなのか、どことなく呂律の回り方が怪しい。
おまけに緊張が過剰に高まっていて表情が硬い。
そして懸命に頑張っている彼女を、別の女性店員達が離れた商品棚の影から心配そうに眺めていた。
ルリが見たところ、他の店員も人間では無い。
目の前の鬼娘含めて全員の種族がハーフだ。
ピンク髪にしてオッドアイの魔女。
常に小さな精霊を浮遊させている容姿端麗のエルフ。
アカネのように小さく愛嬌がある死神。
やたら厚着のゴスロリ半獣神人。
以上、4名が鬼娘の必死な姿勢を見守っている。
商品に加えて店員まで変わっているなんて増々不思議な店だと思う一方、鬼娘の店員は1人で焦燥しきっていた。
「あ、あれ?反応が薄い……?もしかしてわちき、上手く言えて無かった?それとも、また空回りして……はぁっ、うぐぅ~……」
たった数秒間のみルリが視線を外している間に、鬼娘は涙目になって呻き声を漏らした。
そんなとき他の店員が小声で応援を送り始めたので、ルリは少し呆然とした気持ちで反応した。
「え?あぁ、ごめんね。別に無視したわけじゃないよ。それでね、私たち赤ちゃんの生活用品が欲しいんだけど」
ルリが声をかけた途端、鬼娘はパッと明るい雰囲気で笑顔になる。
また鬼娘は再び店員らしく振舞おうと、自身に気合を入れ直しながら喋り出した。
「それなら、わちき……わたち?あれ、えっと……とにかく付いて来て下さい!あります!その、赤ちゃんが商品になってます!」
「うん。とりあえず落ち着いてね?だいぶ凄いことを言ってるから」
「あと赤ちゃんのオモチャもありますよ!ぶるんぶるんのぐるんぐるんのオモチャもあります!それと、ばぶばぶでオホホってなるわちきが今でも好きなオモチャがあって……あるんです!」
「ありがとうね。それじゃあ、あとでオモチャも見てみようかな~」
「ありがとうございます!ひぐっ……ロゼラムお姉ちゃん。わちきやったよ……。初めての接客、できたよ。うぅ~……!」
ルリは親切心で適当に話を合わせていただけなのに、鬼娘の店員は本気で嬉し涙を流していた。
他の店員たちも拍手を送りながら感動しているので、よほどの偉業が成されたような雰囲気となっている。
一体、どのような事情を抱えていて何が起きているのやら。
そうして鬼娘が気を取り直した後、ルリ達は必要となる赤ちゃん用品を一通り買った。
ついでに店員がオススメする赤ちゃんの玩具を買った後、いざ退店する時には鬼火と生物の魂による花火が打ち上がるなど熱烈な見送りをされてしまうのだった。
「なに、あの仰々しいスーパーなマーケット……。愉快すぎるでしょ」
ルリは帰路に着いた頃、エフが幼児退行した問題とは関係ないことで気疲れを覚えた。
対して、スーパーマーケットの常連であるアズミは呑気なもので「かわいい店員がいっぱいで素晴らしいお店ですよね!」と熱弁してくる。
きっと店内で盗撮して捕まるのは近い未来の話だろう。
それから、なぜかアカネの胸がさっきとは比べ物にならないほど大きくなっていた。
もはや体格には不釣り合いなレベルで肥大化している。
その胸は見るからに道具を装着した事による変化であり、スーパーマーケットで変な物を見つけて購入したことが想像できた。
だが、ミャーペリコは偽物の胸だと気づかず、自分の胸とぶつけ合いながら遊ぶ。
「ルリママ、見て下さい!アカネママのおっぱいが成長しました!牛さんのおっぱいです!」
「それ成長って言っていいのかな……。とりあえずアカネちゃんはどうしたの?胸のこと気にしてたの?」
ルリが哀れみある声で聞くと、巨乳になったアカネは普段より自信に満ち溢れた顔で答える。
おそらく巨乳効果だ。
「これ、母乳が出るマジックアイテムだって店長さんが教えてくれたんだー。これで私も母乳を大噴火できるよー」
「噴火するの?あとエフちゃんに合わせた哺乳瓶を買ったから、そんなの使わないからね」
「えぇーそんなー。それじゃあ赤ちゃんプレイでしか母乳を大噴射できないのかー」
「噴射しなくて良いし、赤ちゃんプレイもしなくて良いから」
「でも、ルリさんは私と赤ちゃんプレイしてみたいでしょー?」
アカネはいつになく強気な姿勢で、マジックアイテムで得た偽りの胸を強調しながら迫った。
さりげない巨乳自慢に見えるが、慣れない胸の大きさに動きづらそうにも見える。
「いや、私は別に赤ちゃんプレイに魅力を感じたりは……」
「したくないのー?」
「遠慮しておくかな」
「遠慮しなくてもいいよー。赤ちゃんプレイの練習しておくからー」
「いつもより諦めが悪いね。うーん……?もしかしてアカネちゃんって、そういう趣向が好物なの?ミャーペリコじゃなく、わざわざ私に言うわけだし」
どうやらアカネは自分より年上の人を甘やかすのみならず、自分の子どもみたく可愛がりたい性癖の持ち主のようだ。
そこに幸福と満足感を見出すという、中々に特殊なタイプ。
しかしアカネ本人には自覚が無く、ルリが伝えようとした言葉の意味を理解しきれていなかった。
だからアカネは適当な相槌で一旦話を流し、今は胸を揺らせる状態を無心で堪能する。
「胸ってこんなに重くなるんだねー」
まるで見せつけているように思えるが、本人は新しい感覚を楽しんでいるだけみたいだ。
まったくもって不思議な楽しみ方だ。
ただ長々と揺らし続けていると、大人しく眺めていたアズミが我慢を堪えきれなくなった。
「失礼します。アカネちゃん」
アズミは相手から了承を得るより前に、アカネの胸を鷲掴みにする。
いくら完全な作り物とは言え、中々に大胆な行動だ。
しかも遠慮なく揉み出す彼女は感嘆の声をあげる。
「凄いです。この胸、触り心地が本物そっくりですよ!」
「おぉー、そうなんだー。ということは、もうこれは私本来の胸ってことだねー」
「ここまで再現に力を入れているとなれば、母乳も本物同然なのか気になりますね」
「じゃあ、アズミで試してみよっかー。魔法&マジックアイテム・母なる生命の活力ー」
「えっ?」
アズミが間抜けな声を漏らした直後、胸の先端に魔法陣が浮かび上がった。
アカネは魔法少女であるため、それなりに魔法が扱える。
そして魔法&マジックアイテムは効果を倍増させる使用方法であって、前にアズミがカメラのフラッシュで魔王すら昏倒させてしまったほどだ。
つまりアカネの先ほどの言葉通り、母乳が大噴火してしまう。
「おぉー」
それは厳密には白い液体が魔法陣から放出されているだけだ。
だが、そもそも魔法で炎や雷を発現できるならば、ここで本物の母乳が放出されても驚く話では無かった。
とにかく液体が雷撃の如く噴出したのは間違い無く、強化された母乳の威力は途方も無い。
更に必殺の母乳攻撃は物の見事にアズミへ直撃し、そのまま吹き飛ばした。
「ひでぶっ!?」
彼女は戦艦の主砲でも受けてしまったのか、高さ距離ともに数十メートルは軽々と舞っていた。
また魔法の母乳は消防車の放水とは比べ物にならない勢いを保ち続け、その放出量は小さな湖を生成してしまうだろう。
これにより空から母乳が降り注ぐ中、ルリは吹き飛ぶアズミに向かって叫んだ。
「アズミぃ~!」




