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35.監獄といえば大脱走!アズミ死刑囚が壁尻の刑を処す!

アズミは狭苦しい独房へ入れられた後、(さび)れた壁に寄りかかりながら呆然としていた。

何もかもが唐突すぎて理解が追いつかず、イマイチ実感が湧かない。

しかし、どれほど彼女自身が事態に納得できなくとも、これから死刑執行されてしまう現実は変わらないのだ。

刻一刻(こくいっこく)と近づく人生終了の時間。

その恐怖に耐えきれず、とにかく彼女は無実を訴えかけるために独房の扉を叩いた。


「うぅ~看守さぁ~ん。私、何もしていませんよ~。無実ですから~」


「静かにしろ。囚人番号C(シー)1032(いちまるさんに)


不幸中の幸いながらも、すぐに刑が執行されるため男性の看守が扉前に居てくれた。

ただ当然ながら相手の役割は監視であって、アズミが何を喋りかけても事態は好転してくれないだろう。

それでも彼女はこの会話に命を賭ける他なかった。


「だって色々とおかしくないですか?私、なにも罪を認めてない以前に調書すら取られていないですよ。多分、裁判長は私の罪が何か把握してないですって」


「関係ない話はやめろ。……しかし、その様子からして。へへっ、もしかして死刑は初めてなのか?」


「当たり前じゃないですか!二度も三度も死刑の経験があったらヤバいですよ!」


不手際(ふてぎわ)で生き残る可能性はあるかもしれないが、死刑なんて一度体験させられたら終わりだ。

それなのに看守の言い方からして、何度も死刑を経験するのが前提の口ぶりだ。

そして看守はアズミが何も知らない無知者なのだと理解したとき、より大きく笑った。


「あっははは!どうやら本当に初めてみたいだな!いいだろう。それなら新参者に特別教えてやるよ。ここでの死刑ってのは、最低でも数週間は長く続けられる罰なんだよ」


「えっ、つまり拷問ですか?メチャクチャ恐いんですけど。具体的にはどんな死刑方法を?」


「簡単に言ってしまえば、体が壁に()められて身動きが取れなくなる。一応、手足は動かせるけどな。あとは……、まぁ場合によりけりだな」


体が壁に()められる。

その説明にアズミは戦慄(せんりつ)を覚えながらも、自身の知識に該当する単語を口にした。


「へっ!?それって壁尻じゃないですか!」


「おっ、なんだ。知っているじゃねぇか」


看守はいきなり気軽に接する声色へ変えて、馴れ馴れしく言葉を返してきた。

まるで偶然居合わせた相手と共通の趣味だと知ったような態度だ。

しかし、そんなことよりアズミは死刑方法に対して眩暈(めまい)を覚えた後、一気に(まく)し立てるのだった。


「そんなの嫌ですって!私、壁尻なんて1日も耐えられる自信がありません!無理です無理です!絶対に無理です!身動きが取れない間に、好き勝手イタズラされるのでしょう!?」


「安心しろ。壁尻の最中でも、頼み方次第によっては再捜査が入るとか何とか。それで執行中に釈放された前例があるくらいだ」


「それ何も安心できませんからね!そもそも死刑じゃなくて壁尻の刑ですよ!何が悲しくて別の惑星まで強制連行されて、そこで壁尻体験させられないといけないんですか!これ単なる拉致ですよ!人権侵害です!」


「俺に文句を吐かれても知らねーって。一応、性別関係無く大人気な死刑方法なんだけどな。いつも大盛り上りだ」


「大人気な死刑方法ってパワーワードが過ぎますよ!あぁ、ルリ様。どうか私をお助けて下さい。このままだと私、よりによって壁尻で純潔を奪われてしまいます~……」


もはやアズミは神に祈る思いで、ひたすらにルリの救援を望んだ。

とは言え、まさか即日どころか捕まって1時間後に死刑執行されるとはルリも想像していないはず。

そう考てしまうと刑執行までに間に合う望みが薄い。

だからアズミの気持ちは諦め半分、壁尻に対する覚悟半分となっていた。

最悪、これまでの報いだと捉えて純潔は諦めるしかない。


「はぁぁ……」


彼女の口から深い溜め息をこぼれる。

そんなとき、けたたましいサイレン音が監獄中に響き渡るのだった。


「えっ!?今度は何事ですか!?」


唐突な騒音にアズミは驚くが、扉前に立っている看守は彼女以上に驚いていた。

よほどの緊急事態であるらしく、遠くからはパニックで怯えた声が聞こえてくる。

そして看守は焦燥感を(つの)らせつつ、危機迫る声をあげた。


「嘘だろ!このサイレンは襲撃だ!」


「襲撃って……、まさかルリ様が!?」


アズミの頭の中はルリの救援でいっぱいだったため、彼女が実力行使で来てくれたのだと直感した。

だが今回に限り、それは大きな勘違いだ。

彼女はそのことを、間もなくして流れる監獄内のアナウンスで知る。


『犯罪組織レジェンドが攻撃を仕掛けて来ました。脱獄の手引きだと思われるため、至急看守は武装し、持ち場の防衛と維持に努めて下さい。また他の刑務官及び宇宙警備隊は……』


「はい?」


アズミは数秒間ほど聞き間違いかと思って、疑問に感じながらも再び呆然とする。

どうして不幸は続くのだろうか。

ここで何が起きているのか全く把握できてないが、武力衝突が発生していることは何となく理解できた。


同時に、争いに巻き込まれて死んでしまう可能性まで出てきたわけだ。

おそらく壁尻されるより最悪な状況であり、死んでしまう時間が短縮されてしまったと言っても過言では無い。

だからアズミは更に必死になって、扉を叩きながら呼びかけた。


「ちょっ……看守さん!ここから私を出して下さい!冤罪のせいで戦闘に巻き込まれるなんて、本当に最悪を通り越えて…あぁ、もう!うまく言葉が出てこないです!」


「うるさい!黙ってろ!とにかく俺は武器を取りに行くから、大人しく………うぎゃ!」


「か、看守さん?あの~?」


扉越しから断末魔のような声が聞こえた。

アズミの方からは通路側は何も見えないため、どのような事が起きているのか分からない。

それでも脅威が迫っているのだと察するのは難しくなく、彼女は恐怖から少しでも離れようと独房の隅へ逃げる。

更に身を(ちぢ)こまらせながら息を殺すことで、少しでも謎の襲撃者に気づかれないよう最善を尽くした。

その間も扉越しからは何者かが漁る物音が聞こえており、やがて独房の扉は無情にも開かれるのだった。


「ひっ……!」


恐怖に耐えかねて、ついアズミは目を逸らす。

だが、扉を開けた相手はすぐに襲い掛かることはしなかった。

それどころか怯える彼女を見て、粗暴な態度ながらも(いた)わるように喋りかけてくるのだった。


「おい、助けに来たぞ。アヅミ」


「……へっ?誰、ですか?」


アズミは(した)しそうに名前を呼ばれたことで僅かながらも冷静を取り戻すものの、相手の姿を見て()頓狂(とんきょう)な声を漏らした。

相手の肌色は緑色で、全身タイツのような宇宙服を身に纏っていた。

しかも手にはアサルトライフルと同形のエネルギー銃が握られており、その装備と風貌からして警備員で無い事は一目で分かる。

きっとアナウンスにあった犯罪組織の一員だ。

ただ、その人物の正体が誰であろうとアズミは助けられる意味が分からなかった。


「あの、すみません。誰ですか?」


「さっきから何を言っている?お前……いや、貴方様が我が組織の幹部、アヅミなんだろう?前も死刑にされていたが、再捜査の時に賄賂で手引きして一度解放された……。違うのか?」


「なんだか名前の発音が違う気が……。えっとアヅミ(↓↓→)?私、アズミ(↑→→)ですけど」


「よく分からないが、とりあえず出ろ。もし人違いだとしても、余計に騒がなければ悪くしない。ここら辺は死刑囚の牢屋だと聞いているからな。どちらにしろ、我が組織にはおいしい人材だ」


「えっ、ちょっと待って下さい。今あの……、人違いだとしても?…人違い……?はぁっ……人違い!?もしかして人違いですか、これ!?」


人違い。

その単語を聞いた瞬間、アズミの頭の中でパズルのピースが一気に揃い始める。

どうやらアヅミと呼ばれている犯罪組織の幹部が居て、その人物は一度壁尻の刑から逃れたようだ。

それこそが先ほど看守の言っていた再捜査によるもの。


そして警察官と裁判長はアヅミ本人だと勘違いしていたために、あれだけのスピード裁判が(おこな)われた。

それでも杜撰(ずさん)な裁判だったが、きっと始める前から適当に理由をつけて死刑執行にすることを事前に決めてあったのだと想像つく。

だから事情聴取やら罪状確認の段取りが(はぶ)かれた。

何であれアズミからすれば冤罪でしか無く、どうして間違えたのか理解不能だ。


「なんで人違いなんかするのですか!?だいたい貴方も、自分の幹部くらい把握して下さいよ!」


「無理を言うな。アヅミ様は変身と変装の達人だ。いくらでも経歴は作れるし、瞬時に別人へなりきる。その技術は飛び抜けて高く、身内ですら中々見抜けないほど凄い方なのだ」


「はぁっはぁ、くぅ~……っ!は、犯罪者ならそれくらいすると思いますけど……。だとしても、こんな……こんな目に遭わされて……!」


アズミの心に言い表し難い混乱と怒りが芽生えて、顔が熱くなる。

自分を犯人だと間違えた警察と確認を取らない裁判。

そもそもの元凶である犯罪組織レジェンドの幹部アヅミ。

更に死刑執行が直前だった事も合わさったとき、彼女は突発的ながらも謎の使命感に駆られるのだった。


「もう私がアヅミを見つけ出しますよ!そして私が捕まえて、自分の無実を証明してやります!そしてエフちゃんの触手で、最高の壁尻を堪能させますから!」


「何だ?お前、もしかして我らレジェンドに歯向かう…」


「私は急いでいるので、そっちが大人しくして下さい!中位魔法・妖精幻影(ファントムフェアリー)!」


「なっ!?魔法だと!?」


アズミは普段あまり使うことが無い魔法を発現させ、相手の五感を奪う。

すかさず彼女は妖精の羽で推力を生み出しながら敵に向かって走り出し、全身全霊の突撃を仕掛けるのだった。


「そしてアズミタックルです!」


「うごぉ…!」


相手は衝突されたことで(うめ)くと共に、頭を壁へぶつけてしまう。

その衝撃によって敵が気絶したあと、追い込まれた事でかつてないほど本気となったアズミは武器を奪って1人で宣言する。


「もう私は容赦しませんよ!徹底的に粛清です!中位魔法・自然妖精旋律(ネイチャーメロディー)!中位魔法・不明の不可視(ノットクリア)!」


アズミは周囲の完全探知、更には自身に対する認識不可の魔法を発現させる。

こうして彼女はたった1人で危機的状況に立ち向かうこと、そして元凶である人物を壁尻にするため行動を起こすのだった。


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