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34.アズミ被告人、死刑執行!?

ある晴れた日のこと。

アズミはいつも以上に上機嫌だった。

なぜなら彼女が勝手に映画化させた『ホルスタインの逆襲!ミャーペリコと賢者の石』が大人気を(はく)し、村のPRとして使われるようになったからだ。

同時に、映画の主役となったミャーペリコは世間から注目されて、アカネの娘ということで人気に拍車をかけた影響は大きい。

またルリの農業は上手く事が進んでないものの、龍族からは大好評で一般流通が強く望まれていた。


「いやぁ~。こんな私にも、ちゃんとした活躍の機会が巡ってくるものなんですね~。我ながら予想外な結果を出せて、もう鼻が天狗になりますよ~」


アズミは自室でパソコンを操作しながら、浮かれた声で独り言を口にする。

彼女の表情筋全てが最大限ににやけて(・・・・)おり、もはや今が人生の有頂天だと言わんばかりだ。

実際ルリ達や村人たち、更には龍族にまで褒められたので、いくら幸せを噛み締めても幸福な気持ちが絶えず溢れてくる。

そんなとき、彼女の家の玄関チャイムが鳴らされるのだった。


「すみませーん。アズミさんのお宅ですよねー?ちょっと良いですかー!?」


「あれ?知らない男性の声ですね。……はっ!もしかして私のファン!?映画監督の情報を調べて、リア凸に来た系ですか!うっひょ~!」


あまりにも舞い上がり過ぎて、彼女は普段以上に正常な思考では無かった。

そのため最高に楽観的で、ほぼ奇声と変わりない歓喜をあげながら玄関へ向かってしまう。

そして躊躇(ためら)いなく玄関扉を開けた瞬間、アズミは笑顔のまま固まる。


「えっ……警察?」


訪問者は一目で警察だと分かる服装をしており、更に10人ほど玄関前で待機していた。

しかも警察官の群れの僅かな隙間を覗けば、パトカーのみならず装甲戦車まで止められている。

それどころか武装ヘリも周辺を飛んでおり、アズミは目を眩むほどのサーチライトを当てられることになる。

一気に湧き上がる危機感。

それでも彼女は何とか平静を装い、必死に声を絞り出した。


「これはドッキリ……」


「ドッキリでは無い。アズミ、お前は重罪を(おか)した。よって現行犯逮捕する」


「はぃいぃ!?せ、せめて罪状を教えてくれませんか!?犯罪の心当たりなんて無い……とは言いきれない気もしますけど、少なくとも大勢に連行されるほどの事はしてませんって!」


「話は監獄(かんごく)へ収監してから聞かせて貰う。来い」


「いきなりKANGOKU(カンゴク)!?私って、どれだけ罪深い女なんですか!?」


「いいから抵抗せずに来い。あと自宅の物は証拠品として押収するぞ」


Oh(オゥ)………。私オワタ」


アズミは幸福の絶頂から一気に不幸のドン底まで転落する。

まだドッキリだと疑いたい。

そう思いながら彼女は連行され、輸送車へ乗り込むよう促された。

しかし、その直前に偶然にもルリが通りかかる。

彼女は当然ながらアズミの様子を見て仰天し、走って駆け寄るのだった。


「ちょっとアズミ!まさかついに()ったの!?アカネやミャーペリコのポルノをネットに流すのは止めなって、あれだけ散々注意したのに!」


「あぁルリ様!そんな事してませんし、容疑を増やさないで下さい!そもそも、どうして連行されているのか私自身が分かって無いんですから!」


「そうなの?でも……まぁ、アズミだからなぁ」


「自己完結で納得しないで下さい!私、絶対に冤罪(えんざい)ですからぁあぁぁぁぁ~!!」


アズミは連行される寸前まで叫びつつ、強引に輸送車へ連れ込まれる。

その際に警察官から見苦しいと怒られているが、さすがに可哀そうな扱いだ。

だからルリは残っていた警察官の1人に話しかけ、詳しい事情を訊こうとしていた。

別に冤罪(えんざい)だとは思っていないが、事情が分からないまま親友を見放すわけにはいかない。


「ねぇ。あの子は私の親友なんだけど、どうして捕まったの?」


「守秘義務がある。職務上、私からは何も教えられない」


「ふぅん。じゃあ久々に使うかな。催眠魔法っと」


ルリは周りに気づかれないよう、気配を殺して相手に催眠をかける。

あっという間に警察官は素直な操り人形と化して、朦朧(もうろう)とした表情になるのだった。


「さぁ、もう一度質問するね。どんな罪で捕まえられたの?」


「……アズミ被告人は、犯罪組織レジェンドと繋がっているという証拠が出てきた。そのためだ」


「レジェンド?なにそのダサイ名前」


「レジェンドは善良なる高位存在を殺し、惑星を滅ぼした事もある凶悪な大組織だ。よって、こちらとしても厳重に対処しなければならない」


「あぁ、なるほどね。そんなにヤバいんだ。何であれ、とりあえずアズミは本当に冤罪なわけか。だったら私が出向いてあげようかな。アカネちゃん達を巻き込むような事じゃないし」


そう言いながらルリはアズミの跡を辿ろうと、遠視スキルを使った。

しかし既に彼女の姿は地上には無く、正確に(とら)えられない。

そのことにルリは戸惑いを覚えかけるが、この異世界では地中や天空に大きな敷地が当然のように存在する。

また空間圧縮技術とやらで通常の遠視では確認が難しい場合もあるため、ルリは再び警察官を問い詰める他なかった。


「ちなみにアズミって、どこに連れて行かれたの?」


「デスボールだ」


「いや、そう言われても私は分からないから。建物名や地名とかじゃなく、どこら辺?」


「ここから別の惑星だ。ここからだと、およそ4140万km離れている」


「はぁあぁぁあぁぁあぁぁああぁ!?」


まさかの事態にルリは絶叫と変わらない大声をあげた。

いずれ別の惑星へ行くことはあるだろうと心構えはしていたが、親友の冤罪が理由で向かう事になるとは予想していなかった。

何より、この惑星ですら行って無い場所ばかりで予想外続きなのに、更に別の惑星など何が待ち構えているのか想像できない。

だから色々と覚悟を決めるしか無いのかなと、ルリは頭を抱えながら思うのだった。


一方で肝心のアズミは宇宙船から降ろされて、地獄監獄デスボールという惑星の簡易裁判所で判決を受けていた。

異星人が並び揃った素朴な裁判所であり、裁判長はアズミに求刑を言い渡す。


「アズミ被告人に反省の色無し。よって無期懲役」


「ちょっと待って下さい!まだ事情聴取もされていませんよ!」


「反抗的。よって死刑」


「これ、やっぱりドッキリですよね!?」


「ドッキリでは無い。よって1時間後に死刑執行」


「はひ……。あ………、あははは……。も、もう駄目なんだ……。私、終わるんだ………。何を言っても無駄で……あはは、あははは……うぅ…ぐぅ~……」


ついにアズミは絶望で心が壊れ、涙を流しながら立ち崩れてしまう。

視界が歪み、世界が暗転しているように感じられた。

頭が痛くて呼吸も難しい。

そうして力が抜けて動けなくなった彼女は座り込み、あとは力()くで独房へ連れ込まれるだけの無気力な囚人に成り果てるのだった。


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