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29.錬金工房を調教で占拠します!前編

降伏した術師マスターは工房全区域の罠やロックを解除し、更に転移装置を自由に使えるよう制限解除した。

それによってルリ達は集団行動で改めて工房内を見回る。


すると彼の研究室であるアトリエへ足を踏み入れたとき、すぐにエフが目の色を変えて錬金資料や研究機材を漁り始めた。

そして算出されたデータや記録された情報全てが彼女にとっては世界一の財宝であり、どれも興味深く、参考になるものばかりだった。


「さすが伝説の錬金術師の王と呼ばれるだけあるわ。あらゆる万物を錬金できるレシピまである。賢者の石を素材にすることで他の素材が不要になるなんて……。こんな神業が可能なのね」


エフは感心して興味津々に読み(ふけ)るが、他の仲間達からすれば専門的で小難しいだけだ。

そのためアカネとミャーペリコは絵本を探しており、アズミは周りの視線を気にかける素振りも無くデータバンクから映像記録を盗んでいる。

だから代わりにルリが彼女の言葉に反応し、適当に本を読むふりをしながら応えてあげるのだった。


「それはエフちゃんでも再現できそうなの?」


「詳細に記述してあるから理論上は可能ね。でも、あくまで理論上。同じように賢者の石を素材に(もち)いたとしても、まだ私の腕だと問題が(しょう)じるわ」


「ふぅん。そういえばさ、それで農作物や家畜って錬金できる?今のエフちゃんなら生物錬成が簡単にできるでしょ」


「面白い考えね。でも、わざわざ錬金術で生み出した家畜じゃなくて良いと思うわよ?」


「そうもいかないんだよね~。ほら、私達の住む村って龍族のバーベキューが凄いでしょ。あれの影響で農業が困難なの。だから炎や煙を栄養にしちゃう特殊な農作物が欲しいなぁ~って」


この問題に気付いたのは昨日のことだ。

そしてルリが悩みを打ち明けると、エフは慌て気味に本から目を離して謝るのだった。


「ごめんなさい。言われてみれば、龍族による影響があったのね。気づいてあげられなくて申し訳ないわ」


「責めているわけじゃないよ。むしろ協力してくれたら感謝したいくらい。それで錬金できそうなの?」


「可能なはずよ。でも、まだ試したことが無いから確実に成功するとは答えられないわ。それこそ大量の賢者の石があれば存分に試行錯誤できるのだけれども」


「実用化するための研究材料が欲しいんだね。まぁエフちゃんの場合、特に調整が必要そう。触手が生えた家畜とか困るし……」


「あら、ミャーペリコみたく愛着を持てるようになるかもしれないわよ」


「それとこれとは別だから。とりあえずエフちゃんへの先行投資として、まずは賢者の石を栽培するかな」


ルリは何気ない様子で言い放ったが、エフからすれば首を傾げるほど突拍子も無い発言だった。

このアトリエを借りて、賢者の石を生成するというのなら理解できる。

しかし栽培ということは、彼女は自分の畑で収穫するつもりなのだろう。


「妙なことを言うのね。賢者の石を栽培するなんて初耳だわ」


「実は賢者の石って、色んな製造方法があるんだよ。そして結論だけ言ってしまえば、媒体は何でもいいから莫大なエネルギー量が足りればいいの。一応、媒体によって必要エネルギー量が変わってくるけどね」


「莫大なエネルギー量ね。でも、私達の村にエネルギーを生み出せるものなんて無いはず……。いいえ、一応あるわ」


「察しがいいね。うん、龍族の炎を使う。収穫した農作物をバーベキューの材料やオツマミに渡す約束をすれば、きっと喜んで手伝ってくれるから」


「賢者の石で作った農作物と聞けば、きっと龍族以外の種族も興味を持ってくれるわ。素晴らしいアイディアね」


「えっへへ。そこまで褒めてくれるの?さすがに照れるなぁ」


「問題解決に結び付けながらも村の利益に繋がる手段を思いつくなんて、領主としては感動ものよ。成功した暁には皆の前で表彰したいわ」


エフが分かりやすいほど浮かれた様子で褒め(たた)えてくれるので、ルリは素直に嬉しくなった。

どれほど万能になっても、こうして率直な褒め言葉で感心されるのは気持ちがいい。

そして気分が舞い上がれば、次々とアイディアは浮かんでくるものだ。

更に先の見通しが立ってくると、とりあえずルリは思いついたことを口に出したくなった。


「将来的には、みんなの朝食を用意したいな~。私はパン派だから小麦を育てて、アズミはヨーグルト派だから牛さんを飼育して、そしてエフちゃんは果物派だから果樹園も必要だね!」


「ふふっ、アカネちゃんが好みのインスタント食品は除外するのかしら」


「それは~……うん、なんとかするかな!アカネちゃんが好きなのは厳密にはカップ麺だからね」


「それならカップ麵に(こだわ)らず、麵類にすれば良いわ。求められる性質は異なってしまうけれども、そうとなれば小麦ね。賢者の石を栽培しようとするルリちゃんなら、スープの出汁(だし)も容易に作れるでしょう?」


「そうだね!これでブランド食品の研究をして、他にも地元産商品として出荷したり……。あと個人的に女神様のためにお米も作らなきゃ!う~ん、一気に夢が膨らむなぁ~!」


まだ彼女は、最初に想定していたライフスタイルのスタートラインにすら立てていない。

だが、ようやく本格的に農民ロールプレイングを始められるイメージができて、一気に湧き上がるワクワク感を抑えられなくなった。


農民のランク10を目指すというのは着地点の一つに過ぎない上、この異世界に降り立つ前に掲げた目標だ。

だから1人の農民として、何を成し遂げたいという具体的なプランは未定のままだった。

しかし今現在、一生涯をかけて達成させたい目標が少しずつ自分の中で形となってきている。


自分の農作物でみんなのご飯を作りたい。

ブランド品を作り、世界中に出荷したい。

そのためにも畑を耕し、水田を作り、家畜を育て、果樹園も用意しなければならない。


それらを実行する前準備として、まずは賢者の石の栽培。

やるべき事が多く、やりたい事が多いのはルリにとって幸せだ。

そんな彼女はトキメキとやる気に満ち溢れ、目を輝かせながら(たま)らず大声をあげた。


「よーし!そうとなれば善は急げだね!帰ったら不眠不休で頑張るよ!」


「張りきり過ぎね。それに水を差すようで悪いけれど、どれほど急いでもルリが思うように事は進まないわよ」


エフも乗り気であったはずなのに、意外にも制止させる言葉をかけてきた。

積極的に協力する姿勢なのは変わらないようだが、何やら別の問題があるようだった。

ただルリは消化すべき課題が簡単には思いつかず、やや子どもっぽい口調で訊く。


「えぇ~、どうして~?」


「これら錬金術の記録は、このアトリエに保管されているものよ。あくまで彼の私物で勝手に持ち出せないわ。そして習得するのに時間がかかるの」


「じゃあ、このアトリエというか工房を丸ごと村へ移しちゃおうか!なんならエフちゃんの工房にしよう!」


ルリは突飛も無く、笑顔のまま大胆な提案を口にした。

前向きな言い方からして本気で言っているらしく、普段エフ達に比べたら堅実的な彼女にしては珍しい意見だ。

何よりエフですら思いつかなかった強行策の提案だったため、つい呆気に取られた。


「あら、思いきったことを言うのね」


「せっかくのチャンスを(のが)すわけにはいかないからね!それに、このアトリエならエフちゃんも研究しやすいでしょ?」


「それはそうね。ここは設備の取り揃えも素晴らしいわ。ただ、あのマスターが許してくれるかしら」


「大丈夫じゃない?私達に迷惑をかけるどころか、命を奪おうとしていたわけだしさ」


「わざわざ大げさに言い直したわね。あながち間違いじゃないのでしょうけれども」


「とりあえず直談判(じかだんぱん)しよう!これまでの非を反省するなら、きっと私達の要求に従ってくれるから!」


従うという単語を使うあたり、もしかしたら脅迫まがいになるのかもしれないとエフは予感した。

とは言え、おそらく強気な姿勢に出るだけでお互いに譲歩する形で終わるはず。

そう彼女は楽観的に思いながら、ルリと共に錬金術師王マスターが居る獣っ子カフェへ転移した。


そこでは彼の最高傑作であるウルフキングがメイド服を着て接客の練習をしている最中であり、その接客をマスターが受けているというもの。

ウルフキングは繊細な動きを苦手としているようで洗練された接客には程遠いものの、事あるごとに術師マスターがにやついて褒めていた。


「ふふっ、さすが私の最高傑作だ。できないことが何も無いな」


その光景は親バカそのものではあるが、それだけ彼にとってはウルフキングは自慢の子であり、最高傑作として大事にしているのだろう。

そんな和やかな雰囲気をルリは気にかけず、問答無用に彼のテーブルへ同席した。


「ここ失礼するね。マスター君」


「なんだ。今は最高傑作の修行で忙しい」


単に育成熱心なのか、または錬金術師として研究(だましい)に火が付いているのか。

彼はあれだけルリに理解不能な力を見せつけられた後でも物怖(ものお)じしない。

それどころか非常に気分が良いようで、相手は接する態度をコロコロと変えてきた。


「いや、修行の成果を披露するには丁度良い機会かもな。お嬢さん方、よく来てくれた。ほら、ウルフキング。ルリさんに紅茶を出してやれ」


「はイ。ダージリンにしますカ。それともアールグレイ?」


行儀は良いのだが、如何せん戦闘用モンスターなので近寄られるだけで威圧感を感じずにはいられない。

それに一定の距離は保たれているはずなのに、翼や角のせいで窮屈だ。

こうなってしまうと、さすがに適材適所があるんじゃないかと教えたくなる。

一方でルリはメニュー表を眺めた後、彼女は彼女でとんでもない呪文を(よど)みなく唱え始めた。


「じゃあ、リストレットベンティツーパーセントアドソイエクストラチョコレートホワイトモカバニラキャラメルアーモンドトフィークラシックチャイチョコレートソースキャラメルソースパウダーチョコレートチップエクストラローストアイスホイップトッピングダークモカチップクリーム白玉フラペチーノと温玉のせニンニクヤサイマシマシアブなしカラメマシミニカットガーリックトースト添えを大至急でね。あとエフちゃんにミントチョコジュース」


「は、はイ?」


「あっ、難しかった?それなら私がメモに書いてあげるよ。……はい、これで良し。お願いね」


(かしこ)まりましタ……。ご注文、ありがとうございまス……」


ウルフキングは彼女が書いてくれたメモを片手に、そそくさと厨房へ行く。

彼は賢いモンスターであり、本来ならば疑問を抱く注文内容のはず。

だが、今は盲目的にマスターの指示を従っているため新米店員のように接客する一心で動いてしまう。

それに対して同席している術師マスターは意図的な嫌がらせだと受け取って、エフとルリの2人にそれぞれ視線を送った。


「やれやれ、あまり私の最高傑作を(いじ)めないでやってくれ」


「……なんのこと?えっ、もしかしてさっきの注文?普通に注文したつもりなんだけど」


「冗談だろ……?」


正気を確かめるように訊いたのは術師マスターだけだが、エフも彼と同じことを口走りたくなっていた。

ただルリは指摘されても何も問題だと思っておらず、至って何気ない態度で本題に入るのだった。


「そんな事よりさ、術師マスターさんにお願いがあって来たんだよね」


「お願い?(ことわり)を意味が成さないほどの(きみ)が、稀代の天才である私に?」


「うん。ここの工房を全部くれないかな?この獣っ子カフェも、もっと大勢のお客さんが入るようになった方がプラスになるだろうし」


ルリは真っ直ぐに見つめながら率直に言ってしまう。

それこそプレゼントを強請(ねだ)る子どもみたいに一切の悪気など無く、まったく躊躇(ためら)いを感じられない軽い声調だ。

だが、当然ながら術師マスターは目を丸くして、つい先ほどとまったく同じ言葉で呟き返した。


「冗談だろ?」


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