26.催眠アプリと主人公最強無敵チート!FPS害悪チート&利敵行為でゲームセット!
一方エフとアズミの2人は謎の勢力に捕らえられ、狭い個室に押し込まれていた。
体は椅子ごと縄で縛られているせいで身動きが取れず、如何にもそれらしい軍服姿のエイリアンが彼女達を見張っている。
その手には警棒が握られており、これから厳しい詰問が始まることに疑いようが無いシチュエーションだった。
「うぅ~。私、こういうの苦手ですよ~。まるで私が悪い事をしていたみたいじゃないですか~」
アズミはうなだれた。
本当なら部屋の隅へ縮こまりたいくらいだが、今は縛られているから口と頭しか動かせない。
比べてエフは気楽な様子であって、彼女と同じ状況であるのにも関わらず軽い受け答えをする。
「あらあら。そんな冗談を言うより先に、まずは日頃の行いを悔い改めるべきね」
「もう、なんでエフちゃんは余裕があるのですか~。もしかしてマル坊時代に培った気力のおかげとか……?」
「縛られるのは苦じゃない体質なのよ。きっと触手訓練の賜物ね。あと2人っきりだからと言って、隙あらばマル坊呼びするのはやめなさい」
「マル坊って呼ばれるの、そんなに嫌になったの?」
「だって、それはずっと小さい頃の呼び方でしょ」
エフは別に怒っているわけではなく、ひたすら緊張感が無い態度で言い返した。
窮地のはずなのに、あまりにも呆気ない態度だ。
それは見張っている軍人エイリアンからすれば舐められているみたいであり、少なからず苛立ちを覚えるもの。
しかしアズミもエイリアンが威圧する視線を気にかけず、いじけるように口先を尖らせた。
「うーん。私的にはマル坊という呼び方もしっくりくるんですけどね。今のエフちゃんは、身も心もすっかり女の子ですか」
「何も知らない人が聞いたら誤解しそうな言い方ね。私は生まれた時から疑いようの無い女の子よ。それより、本格的な縛りプレイも堪能したから行きましょうか」
「本当、エフちゃんは性癖を拗らせちゃったなぁ……。私の趣味に影響されたと思うと、エフちゃんを慕う村人さん達に申し訳ない気持ちを覚えてしまいますよ」
「どんな物事も楽しめるよう寛容な心に成長したのよ。さてと、錬金術スキル・エフの催眠アプリ……再起動」
エフがスキルを発現した瞬間、2人を見張っていたエイリアンは急に丁寧な立ち振る舞いで縄を解いてくれた。
更に他のエイリアンが尋問室の扉を開けてくれて、エフとアズミは閣下気分で部屋を出る。
そして通路で待ち構えていたエイリアン全員が当然のように敬礼しており、下手の態度で接してくる。
こうしていきなり2人の待遇が急変する中、アズミは感心しながら呟いた。
「いざ目にすると、私達が作ったアプリとてつもない効力ですね。ここまで自由に自我の操作をできるなんて。しかも、今のところ制限無し状態じゃないですか」
「ルリの催眠魔法を参考に作成してみたけど、どうやら頭数や相手の知能指数は関係ないみたいね。時間制限無しで耐性貫通までするなら、念のために錬金した戦闘アプリの使い所が無いわ。私的には、そっちの方が力作なのだけれども」
「その、もう1つの戦闘アプリとやらはどんな効力なんですか?私は催眠アプリ作成の手伝いで、同人作品から得た知識で常識改変とかの機能を追加させただけですし」
「もう1つの戦闘アプリは、簡単に言ってしまえばチート系ね。もし使う場面が訪れたら見せてあげるわ。こっちは時間制限があるけれど、催眠アプリ同様に強力よ」
2人は自作したアプリについて話しながらエイリアンの基地を出て、近くの見張り塔へ移動する。
そして塔の頂上から景色を見渡したとき、辺り一帯は悲惨な戦場が広がっていることが視認しやすかった。
「一面、瓦礫だらけね。戦場だから当然とは言え、破壊された跡は寂しいものだわ」
「エイリアン……とは言っても実際はホムンクルスらしいですけど、それでアンドロイドと戦う使命を創造主から課されていると言ってましたね。まるで一昔前に流行ったデスゲーム作品みたいです」
「催眠アプリは情報収集でも便利で助かるわ。……それにしても、戦争をリアル体験させられるのは面白くないわね。もっとサバイバルゲームや戦争ゲームみたいな作りであれば、一緒に戦場を駆けたりして楽しめたでしょうに」
設定を自由に組めるゲームマスターが存在する戦場だからこそ、よりエフは惜しむ。
錬金術師王マスターがその気になれば、きっとルール変更で着色弾による陣地取り合戦も可能だろう。
それだけに遊び心が足りない現実的な戦争に対し、アズミも残念に感じていた。
「もったいないですよねー。私も、少し待機や注射するだけで体力回復とか経験してみたかったです」
「またはリアルでリスポーンを体験してみるのも悪く無いわね。もしアズミが1人で勝手に倒れても、お気持ち表明でリスポーンや突撃を急かすシグナル連打はしないでちょうだい。いつもゲームでパーティーを組んだ際、ずっとうるさいんだから」
「それじゃあ代わりに煽りメッセージ飛ばしますね。そして死体漁りと屈伸に激昂した私は、乗り物や貴重な武器を手に入れるなり奈落へ身投げします。それからメッセージ連打です」
「どんなゲームマナーよ。利敵行為と害悪プレイのフルコースじゃない。晒し行為が生ぬるいくらいよ」
2人は戦場を眺めながらゲーム談義しつつ、それとなく脱出ルートを探していた。
実は錬金術師王マスターが逃走できないよう仕組んだのか、エイリアン側はこの空間から抜け出せるルートを知らなかった。
そのため敵勢力であるアンドロイドに訊くしかないのだが、遠距離砲撃があるせいで不用心に近づけない状態だ。
「どうしたものかしらね。空があるし、戦闘機か脱出用ポッドでも降って来ないかしら」
「あはははっ、エフちゃん。それはさすがに都合が良すぎ……」
アズミが軽い気持ちでツッコミを入れようとした直前、戦場へ1機の人型ロボットが降り立った。
それは全長400メートルはある巨大サイズで、人間の視野では見上げても姿を捉えきれない。
しかも武装しており、突如出現したことを考えたら機動性も充分だった。
「あら、乗り物として巨大ロボットが来たわね。こんな大きいものが自由に動き回れる空間なんて、ますます自力で脱出できる場所じゃないわ」
「それよりもロボットということは、アンドロイド側の兵器だと思うのですけど」
「もし純粋な兵器であれば、きっと催眠アプリは通じないわね」
「えぇ?それなら私達、ここで死んでしまうのですか……。まだ有名サークルの新刊や予告された新作を楽しみにしているのに。こんなところで死んでも死に切れませんよ!」
「いつまでも延期を続ける製作チームを恨みなさい」
危機が直面しても2人は普段と変わらない態度を貫いている中、エイリアン達は全力かつ必死に抵抗していた。
だが、全軍で迎撃行動を起こしてもロボットの装甲に傷一つ付けられない有り様だ。
大量の地対艦ミサイルや爆撃が直撃しても無傷なほどで、いくら攻撃を与えても敵兵器はビクともしない。
合わせてエフ達は爆発と爆音で顔を渋らせながら、他人事のような表情で状況を見ていた。
「凄いわね。レーザー兵器が直撃しているのに効果が無いわ」
「ただ頑丈なだけではなく、特殊兵器すら無効化されてますね。私の目利きスキルで見たところ、エイリアンの重力操作やワープも弾いているみたいです」
「つまり主人公である私の出番ということね」
待ってましたと言わんばかりに、エフは不敵に口元を緩める。
一方で、もはやエイリアン側に打つ手が残されてなかった。
だから抵抗は続けるものの、心が絶望に支配されつつある。
そうして巨大ロボットがエイリアンの軍事基地を踏みつけようとしてきたとき、すかさずエフは催眠アプリに引き続き2つ目のアプリを起動させた。
「錬金術スキル・主人公最強無敵チートアプリを起動」
そのアプリ効果は、まさに名前通りだ。
物語におけるメタ的な主人公補正、更に最強無敵チートの力が発揮される。
それは本人のステータス等による低減は無く、今この瞬間だけエフは最強無敵チートを備えた主人公と遜色ない。
「いくわよ!主人公エフ・マルボーロの最強パンチ!てやっ!」
もはや本人の気分も主人公になりきっている。
また一撃必殺の掛け声にしては気が抜けているものの、エフは鋭い跳躍で巨大ロボットに急接近した。
それは光速を超え、軽々とロボットの踏みつけを押し返した上、彼女の体が巨大ロボットの機体を貫く。
同時に敵の兵器は爆散し、たった一撃の余波で残骸が遥か遠方へ吹き飛んだ。
この場に二次被害を出さないあたり、まさしく主人公補正の賜物だろう。
「ふふっ、こんなものかしら」
エフは華麗に着地し、ひとまずポーズを決めてみせる。
そして彼女の活躍によりエイリアン側は窮地を脱したので、すぐに彼らはエフを救世主だと称賛し始めた。
この一連の活躍は巨大ロボットが襲撃してきてから数分足らずに起きた出来事であり、彼女が規格外の強さを発揮した事も含めてアズミは戸惑う他なかった。
「こ、この異様な持ち上げぶりは催眠アプリとチートアプリのどっちの影響なんでしょうか……。何であれ、無事に危機を退けられて良かったですが」
アズミが安堵する中、秘密兵器が破壊されたアンドロイド陣営の遠距離砲撃は一時的に止んでいた。
2人は知る由もないが、実は吹き飛んだロボットの残骸が都合良くアンドロイドの砲台へ直撃していた。
これもチートアプリによる主人公補正だ。
ひとまず脱出できる隙が出来た今、この絶好の機会を見逃すわけにはいかなかった。
「エフちゃん!いつまでも胴上げされてないで、この隙に潜入しますよ!」
アズミが高台から降りたとき、エフはいつまでもエイリアンに盛大な歓迎を受けていてた。
しかし、ルリ達への心配を忘れているわけでは無い。
だから、すぐさま2人は気を取り直してエイリアン達から小型の軍用車を借りることにした。
その準備は英雄に失礼が無いようにと迅速だったが、相手はエフ達が出発することを激しく惜しんでいた。
だが、2人ともエイリアンに対する別れの挨拶は淡々としており、それよりどちらが運転するか揉めてしまう。
「あーちゃん、私が運転するわ」
「えっ、エフちゃんって運転できましたっけ?」
「当然1回も無いわ。でも、それはあーちゃんも同じでしょう?」
「そうですけど……、エフちゃんより上手な自信はありますよ」
「どうしてそんな自信があるのかしら」
「だって、エフちゃんって余所見が凄そうなんですもん」
ここでエフは即座に否定できず、むしろ一理あると思ってしまう。
しかし、運転は命にかかわる問題であったので、別の手段を模索することにした。
「ちょっと待って。今から運転用のアプリを錬金するわ。自動運動なら文句無いでしょう」
「ついでに安全を考慮して、オートエイムと加速機能を付けましょう!」
「それなら戦場の兵器を錬金媒体にすれば可能ね。あと、どうせなら空飛ぶ機能も欲しいかもしれないわ」
「透視と壁擦り抜けはどうします?それと敵の自動探知」
「面白いわね。採用しましょう。ふふっ、やっぱり錬金には遊び心が欠かせないわ」
まだゲーム感覚で話す2人は思いつきで機能候補を決めていき、錬金するための素材集めをエイリアン達に手伝ってもらった。
中には先ほどの巨大ロボットの部品も含まれており、収集した全ての部品を有効活用する。
それからエフは、主人公最強無敵チートと錬金術を併用することで見事に成功させてみせる。
だが、彼女らの前には最初に提供された軍用車の姿は無い。
代わりにあるのは銀色で円盤型の乗り物だった。
「これって……完全にUFOね」
「UFOですね。まぁ、エイリアンから頂いた乗り物らしくて良いと思いますよ。イメージ通りです」
「むしろエイリアンという要素にイメージが引っ張られた結果な気がするわ……。空飛ぶ乗り物で多機能となると、こうなるのも当然よね」
「とりあえず乗りましょう!またいつ砲撃再開されるか分かりませんよ!」
「えぇ、そうね」
2人はUFOから発っせられる光線を受け、まるで連れ去られる家畜動物のような光景で乗車する。
ただ、あいにく内部の作り込みは甘かったらしく、見た目に反して中は戦闘機の搭乗席みたく狭い空間だった。
「ちょっとエフちゃん!どうして広く快適な空間にしなかったのですか!窮屈ですよ!」
「FPSゲームのチート要素を取り入れていたら、機内の見た目が戦闘機になったわ」
「意味が分からないですから!もう作り直せないのですか!?」
「近くで騒がしいわね。とにかく作り直しは無理よ。また一から素材を集めることになるもの。それより戦闘機に乗った気分を素直に味わいなさい」
「そ、そういう考え方もできますけど~……。まだ不穏要素が潜んでいるのでは無いかと不安ですよ~」
「ふん……1割くらいの可能性で成功すから大丈夫よ。さぁ出発進行!全速前進ダ!」
「ひぇえぇえぇ~!明らかに出発に繋がる発言じゃなかったですって~!」
嘆いても手遅れだ。
あとは何が起きても大丈夫なよう覚悟を決めるしかない。
それからついにUFOが発進した直後、なぜかUFOは自動でエイリアンの基地を攻撃し始めた。
「あれ、おかしいわね」
その一言を呟いている間に無数のレーザーが放出され、ものの見事にエイリアンの兵器を破壊していく。
突然のことにエイリアン達には成す術もなく、必死に抵抗しようとしてもUFOが自動回避する上、巨大ロボット並の装甲なのでダメージを受けつけてくれない。
更には透明化で姿を消すので、巨大ロボットの襲来より甚大な被害を与えるのだった。
「エフちゃん!これって怒られるレベルじゃないですよ!運営……錬金術師王マスターに通報されますって!」
「所詮、この戦争はゲームと同じでお遊びだから何しても良いのよ」
「それ、ゲームで利敵行為しながら言ったら袋叩きされますからね!?」
「それじゃあ第三勢力となって、両陣営を潰しましょう。そして戦争終結すれば平和になるわ」
「どんな極論ですか!それで実行に移しちゃうのは悪の親玉だけですよ!」
「そうね。こんな悲しい戦争を終結するためなら、悪役という汚名を被ることも辞さないわ。まさしく気分はダークヒーローね」
「カッコいい事を言って失敗を誤魔化さないで下さい!」
そんな調子で2人が言い合いしている間に、エイリアンの基地を完全壊滅させてしまう。
その後、間も無くしてUFOは次の目的地へ超高速で飛行した。
移動中もあらゆる戦線を破壊し尽くしていき、残るのは残骸とアズミの呆然とする声だけ。
2人は状況に身を任せる他なく、ついにはアンドロイドの本拠地まで壊滅させてしまっていた。
どれほどの時間が経過したのか分からないが、長いようで短い体験だった。
それから灰が舞う空にはリザルト画面が映し出されるのだった。
「空を見なさい、ゲームセットよ。つまり私達は正しいことをしたの」
「害悪プレイした後に正当化するのは、本当にやめて下さいね?ゲームどころか世界から出禁されても文句言えなくなりますから」
「それにしてもチート行為はつまらないわ。こうして他人に迷惑がかかるから、チート行為はやめましょう!ストップ、チート!」
「教習講習みたいな締め方しないで下さい」
相変わらず言い合いを続ける中、2人は結局UFOに備えたワープ機能で強引に戦場空間から脱出するのだった。