23.杞憂民の自治厨ファン襲来です!
※事前解説
・『杞憂民』
小さな物事すら大きく捉えてしまい、いつも過剰な心配している。そして、わざわざ相手にメッセージなどで些末な事柄を伝える。本人的には気遣いのつもりなので、不器用な優しさとも言える人たち。魔王のこと。
・『自治厨』
独自のルールを掲げた者。その心はまさしく警察官。しかし、率先して活動するので一線こえて悪目立ちする。バランサーという使命感で闘志を燃やしているので、他者の考えとすれ違いが多めの人たち。魔王のこと。
ルリ達は獣っ娘カフェで、飲食より主にエンターテインメント系のサービスを頼んでいた。
例えば獣っ娘と一緒に撮影し、話しながら食べさせ合ったり、歌やダンスのライブで盛り上がったり、本の読み聞かせで小芝居もしてくれる。
それから簡単なボードゲームで遊んだ後、ルリは未だ興奮が収まらないアズミに話しかけた。
「どうアズミ、満喫してる?」
「はい!もちろんです!今までの人生の中でも確実にトップ3に入る楽しい時間です!特に絵本の読み聞かせのとき、迫力と可愛さが混同していてハラハラさせられました!」
「獣人なだけあって、物語に出てくる狼の遠吠えが完璧だったからね。そして村娘役の演技も上手だったから、あれだけ臨場感があった読み聞かせは私も初めてかも」
「もちろん私の方で撮影してあるので、あとで見返しましょうね!ちなみに、さっきのアクロバティックなライブ映像もありますよ!ほら!」
いつも通りオタクモードを発揮するアズミは、先ほど披露されたライブパフォーマンスの映像を見せてくる。
それはバレエのように軽やかで美しくあり、時には猛獣の狩りのように鋭く俊敏なダンスだ。
また物珍しさとパフォーマンスの派手さを重視した大道芸も含まれているので、ややサーカスじみている。
何であれ、愉快な想いを馳せされてくれる光景には変わりないので、どれも一見の価値がある演出だ。
「本当ここって何でも用意しているし、何でもしてくれるよね。それだけに他のお客さんが見当たらないのが気になるけど」
「むしろ貸し切り状態で最高じゃないですか!スタッフが多いおかげで寂しさは全くありませんし!それに、どれだけ騒いでも他の人の迷惑になりません!ところ構わず撮影し放題です!」
「最後の一言が一番の理由でしょ。言われてみれば、他のお客さんが居たら気軽に撮影できないもんね。……いや、アズミにはあまり関係ないことか」
「えぇっ!?わざわざ言わなくても分かっている事だと思いますけど、私はちゃんと許可を取りますからね!いつも好き勝手に無断撮影していると思ったら大間違いですよ!ブッブー!」
「へー、そうなんだ?私の思い込みだって言いたいんだ。ふぅーん……?」
「あれ?それって信用してない時に向ける目つきじゃないですか?むぅ~……。あぁ、そういえば!ちょっと趣向が違うカフェエリアもあると聞きましたので、そっちへ行ってみますね!偵察はアズミにお任せあれ!」
アズミはあからさまな口ぶりで突飛も無い事を言い出すなり、ルリから早歩きで離れて行く。
それは追求から退散する者の動きであって、ルリの信用していない目つきとやらで先の事態を察したのだろう。
「あっ、逃げた。人前で堂々と盗撮しかしてないクセに、口先だけで誤魔化せると思ってたのかな。さすがに無理があるでしょ」
ルリはそう呟きながら、今度はアカネとミャーペリコの方へ視線を移した。
あの2人組、特にミャーペリコは絵本の読み聞かせがお気に入りで、熱心になって聞くほど夢中になっていた。
子どもっぽい頼み方で何度もスタッフにお願いしている上、次はどの絵本にしようか目を輝かせながら選んでいる。
そしてアカネも読み聞かせに協力していて、普段とは真逆の振る舞いで迫真の演技を魅せていた。
「ふふふっ、ワタクシは愛の魔法使いブレザーサン!だけど、このことはクラスのみんなには内緒なの!さぁ、今宵も皆様方のお悩みを解決してみせましょう!名家のお嬢様として、ジェントルかつエレガントに月夜を駆けるわ!」
「わぁーアカネママ!とってもステキですー!」
「ワタクシはブレザーサンよ!さぁ、そこのお嬢さん。実はお困りごとの最中ね?……ふむふむ。自動販売機の下に小銭を落としてしまった?分かったわ!このワタクシの超破壊魔法で解決してみせますわ!最終奥義サンブレイク・デストロイバースト!」
アカネは魔法を放つ仕草を織り交ぜながらポーズを決めつつ、空いたグラスから数枚のコインを瞬間的に取り出してみせた。
それは魔法の力では無く、手品師スキルによるものだ。
だがミャーペリコを楽しませるのには充分で、スタッフ達が笑顔で歓声と拍手を送ってくれるから場は大盛り上がりする。
続けてアカネはコインを花に変えるなど手品を次々と披露していき、その度にミャーペリコは飛び跳ねながら歓喜の声をあげている。
とても和やかな光景だ。
何気なく傍観していても心温まる場面であると共に、ルリはアカネに対する尊敬の念を強めた。
「アカネちゃんは凄いなぁ。物語を上手くアレンジして、ミャーペリコに合わせた理想の遊び場を作ってみせるんだから。遊び心という部分ではアカネちゃんに敵う気がしないや」
しかも、よく見れば彼女は魔法少女スキルを併用することで同じ手品ネタでも小さな変化を作り出している。
差別化に抜け目が無く、何度見ても飽きさせないエンターテインメントを魅せられる辺り、彼女のアイドルとしての才能はやはり本物だ。
全知全能で不可能が無くなった今のルリであっても、アカネみたく相手を喜ばせる才能を備えているのは羨ましく思えた。
同時に誇らしくもある。
「私は、そんな素敵な人と結婚したわけだからね。最初は意味が分からなくて戸惑ったけど、もう自慢のパートナーだよ。ミャーペリコという無邪気でかわいい娘もできたしさ」
知り合った日数は浅くとも、自慢の親友で自慢の家族だと胸を張って言いきれる。
そんな気持ちをルリが自然と抱く中、エフが2つのソフトクリームを両手に持って近づいてきた。
「ルリちゃん。はい、どうぞ」
「ありがとーエフちゃん。って、これ両方ともチョコミント?」
「えぇ、そうよ。チョコミント好きでしょ?」
「好きかどうかはともかく、それってどこ情報なの?」
「私の勘よ」
「じゃあエフちゃんの勘は当たらないね。ふふっ」
いつになく幸福な気分に満たされていたため、ルリは友人らしく砕けた雰囲気で笑みをみせる。
それに合わせてエフも微笑みで返しつつ、ソフトクリームを食べながら別の話題を喋り始めた。
「ところでさっき、ここの場所についてスタッフから聞いたわ」
「ふぅん。なにかオススメスポットあった?あと売店とか」
「それよりも大事なことを教えられたわ。ここは、そもそも私達が行くと決めていた天空城ラピタじゃないみたいよ」
「はっ?ホントですか?」
「本当よ」
薄々そんな気はしていた。
というより、迎撃してきた時点でアミューズメントパークなわけが無い。
だからルリは濃厚すぎるチョコミントの味と教えられた事実により、ちょっと苦々しい表情を浮かべる。
「それじゃあ、ここはどこなのさ」
「稀代にして伝説の錬金術師王マスター・ベーションの錬金工房と教えてくれたわ。ついでに実験を担った施設でもあるみたい」
「その割には娯楽が充実してない?まだカフェしか見て無いけどさ」
「これらの場所と食べ物、そして獣っ娘というホムンクルスを一から創造したそうよ。そして、その錬金術師は様々な学問や文明に手を出していて、ここがカフェなのは研究の一端ね」
「うーん……。それが真実なら、どおりで飛行船が停泊しないわけだ。最初は、機体が損傷したから安全を優先して別の場所へ緊急着陸でもしたのかなー、と自己完結していたけど。私の思い違いだったかぁ」
「あら、疑問があったなら私達に相談してくれれば良かったのに。それで、これからどうするのかしら?その気があれば、ルリちゃんの転移で簡単に飛行船へ戻れるのでしょう。なんなら天空城ラピタへ直行するのもありだわ」
エフの提案は真っ当で断る理由が無い。
更に言えば、わざわざここに長居する理由すら無い。
しかしルリは楽しむ彼女らの姿を眺めた後、首を小さく横に振った。
「別に焦って戻らなくても良いかな。天空城は観光地だから好きな時に行けるけど、ここは偶然発見した場所だし。それに快く歓迎してくれているから、そのマスターとやらに挨拶でもしておこうか」
危険を妙に軽視しているのはルリが万能なせいだ。
仮に揉め事が起きても難なく解決できると踏んでおり、彼女の小さなワガママにエフは同調した。
「分かったわ。それならスタッフに話を通してもらうよう言っておくわね」
「あっ、わざわざ伝えなくていいよ。せっかくだから他の場所を見回りながら、ゆっくりと探そう」
「ルリにしては珍しい意見ね。もしかして、それらしい理由づけでのんびり観光したいって事かしら。それなら私も錬金術師として興味があるから賛成するわ」
「おぉ、たった一言でよく私の考えが分かったね。さすがエフちゃん、ご明察の通りだよ」
「ありがとう。それにしても、いざ冷静な時にちゃん付けで呼ばれると、ちょっとムズ痒いわね。ホワイトハウスの時に交わした約束は取り繕いだと思っていたのに」
確かに名前の呼び方については曖昧なもので、全員が基本的にそのとき気分だ。
ただ今は相手が喜ぶと分かっていたから、あえてルリはエフちゃん呼びした。
また、予想以上に相手の心が揺らいでいる様子だったので、すぐにルリは距離を詰めながら愛嬌ある意地悪を始める。
「んー?にっひひ~、エフちゃんって呼ばれて照れてるのかぁ~?可愛い所があるねエフちゃん~。えいえい~」
「あまりからかわないでよ。わざだと分かっていても顔が熱くなるんだから」
「そんなに照れるほど私のこと好きなの~?」
「えぇ好きよ。そして信頼して、感謝もしているわ」
「おぉ。そこまでストレートに言ってくれるんだ」
「当然よ。だってルリは私の性癖を理解して、協力までしてくれたもの」
至福に満ちた笑顔と眼差し。
だが、ルリは対照的に表情を曇らせた。
「うわぁ、めっちゃ真面目に不純な動機を語るなんて。もう雰囲気ぶち壊しだよ……」
エフは一癖あるが美人であり、気立てが良ければ長所も多い。
けれど、彼女が他者から恋愛感情を抱かれづらい理由が何となく分かってしまう。
それは類を見ない変わり者で、掴み所が難しい性格だ。
また彼女の性格を理解しているルリですら呆れて反応に困った直後、アズミの悲鳴が店内に響いた。
「きゃあああぁああぁああ!!」
「えっアズミ!?どうしたの!?」
不意なことでスタッフ含めて全員が驚く中、ルリは助けに行くつもりで声が発せられた場所へ一目散に走る。
アズミは壁一枚に隔てられたカフェの個室スペースを見に行っていて、とても恐ろしい目に遭ったようだ。
だからルリは助ける一心で同じ場所へ駆けつけたのだが、扉を押し開けて入室した途端に顔を引きつらせた。
「うわっ!?あのヤバい不審者だ!」
彼女の目の前には腰を抜かすアズミと、ホワイトハウスの魔王が太々しく居座っていた。
アズミが無事な所を見ると、思わぬタイミングで魔王が出現したことに驚いてしまっただけなのだろう。
とは言え、目的地の天空城とは関係無い場所だと先ほど聞いたばかりなので、なおさら魔王が居る意味が分からなかった。
「いやいや、なんでこんな所に居るの!私達の行く先々で現れるつもり!?」
「うむ、そう邪見にして怒鳴るな。実はな、我としたことが1つ大事な用件を忘れていたのだ」
魔王は威厳たっぷりに喋る。
だが、彼の頭には可愛らしい花の髪飾りが付けられていた。
更にテーブルの上にはイラストや写真があることから、彼もずっと獣っ娘サービスを堪能していたのだろう。
それからアカネ達も現場へ駆けつけてくれたとき、相手は言葉を続けた。
「これはちょうどいい。前に、アカネちゃんからサインを貰うのを忘れていたものでな。なにせ我は父親の遺産と国家予算を全て投げ銭にしてしまったほど、アカネちゃんの大ファンだ。だから是非ともサインを一筆書いて頂き、一族の家宝にしたい」
「願望目的で追い掛けるなんてストーカーじゃん。しかも、今アカネちゃんはプライベート中だしさ」
「熱心な追っかけファンと言ってくれ。あぁ、それと遅れながらもご祝儀代わりに、これを贈ろう。これは7つ集めると願いが叶うと言われているセブンスターボールだ。集めきれておらず、渡せるのが1つのみになってしまい申し訳ない」
魔王は礼儀正しく喋りつつ、手の平サイズの青黒いボールを取り出してきた。
その渡し方からして祝福するために用意してきたとは考えられず、手持ちの物をプレゼントしてきただけに思える。
そして願いが叶う話については眉唾だが、ボール自体には高い価値がありそうだ。
宇宙を彷彿させる色合いをしており、玉の中では輝かしい星が泳ぐように流動している。
ただ魔王からのプレゼントだと考慮したとき、なぜか強烈な抵抗感があって受け取りづらい。
しかしミャーペリコは魔王のことを何も知らないので、お小遣いを貰う子どもみたくテンションを上げていた。
「アカネママ凄いですよ!とってもキレイです!」
「んー……。まぁミャーペリコが気に入っているみたいだし、受け取っておくかなー。ちなみに発信機や盗聴器は付いて無いよね?」
「用心深いな。我を何だと思っている。前まではウケ狙いコメ投稿の弄り大好き厄介ファンだったが、今は生粋の杞憂コメ連投自治厨ファンだ。そのような卑怯な真似はしない」
「おぉー……。私が読んでないコメントに反応して、配信で『荒しやめろ!』や『ケンカやアンチ目的でコメするな!』、あと『そんなこと言って大丈夫?』って連投しているウワサの人かー……」
「フハハハ。我の気遣う努力が認知されていると思うと、少々照れてしまうな。手動入力で注意を呼びかけた甲斐あって、もはや自動変換で全文が出るようになったぞ」
魔王は勝手に自己満足していたが、あの寛容なアカネですら戸惑い気味な様子だったことにルリ達は一目で気づく。
おそらく、こうして武勇伝気取りで自慢に語る魔王についていけないのだろう。
ネット上の対話なら軽いファンサービスで流せば穏便に済む。
だが、その処世術が通じない現状に直面してしまった上、こうも自分のことを平気で棚上げする魔王に言い表し難い恐怖を覚えているはずだ。
そもそもアカネの言い方からして、魔王のコメントは既にブロックか非表示の手段が取られている。
何であれ、あまり深い関わりを持たない方が得策だとアカネは直感した。
だからテーブルの紙ナプキンを手に取り、サインを素早く走り書きして渡す。
それによって魔王はおぞましい笑みと感動の涙を流し、その反応だけで獣娘の数名が短い悲鳴をあげて失神してしまう。
その場に留まるだけで相手を傷つける様は、まさしく凶悪な災害そのものだ。
「我のワガママを聞いてくれて感謝する。そして、これからも自治活動に精を出させてもらおう。……さて、用件を果たしたから我は先に帰ろう。見送りはいらんぞ」
魔王はアカネの前だから格好つけるものの、元からスタッフの誰一人も近づこうとしなかった。
当然だ。
ただ怪しいだけなら気にしなければ済むが、彼の一挙一動のみで被害が続出している。
だから下手に注意もできない。
しかしミャーペリコは高い耐性と朗らかな気質持ちなので、唯一彼女だけ魔王の危険性に気づかず、明るい笑顔で見送っていた。
「えっへへ~、アカネママのファンさんー!今度遊びましょうねー!」
「是非ともな。今度、新生ホワイトハウスへ招待しよう。我ら一族が手掛けたサークル作品全てを用意しておくぞ」
魔王は背を向けたまま手を軽く振るい、優雅な足取りで歩き去っていく。
それから魔王の姿が見えなくなるまで別れの挨拶を続けるミャーペリコを見て、ルリは無邪気な子どもは凄いと心底思った。
「つくづくミャーペリコには感心させられるよ。一応、元がスライムだからSAN値減少の影響を受けづらいのかな。っと……、それよりみんなに話しておかないといけないことがあるんだった」
気を取り直し、ルリはこの場所についてエフが教えてくれたことを説明した。
ここが天空城では無く、錬金術師王マスターの工房だと。
そして、そのまま一通り見回るつもりだと話した後、全員が快く納得する。
「私は良いと思いますよ。それに想像もつかないステキな撮影スポットが沢山ありそうですから。さっきのことは忘れて、楽しい思い出をいっぱい作りましょうね」
「どんなものがあるのか、ミャーペリコも楽しみ!アカネママ、次はお魚さんを見たいな!」
「おぉー、ここなら水族館もありそうだよねー。最初来たとき、空を飛ぶ魚群の姿もあったしー」
「私は純粋に錬金術談義をしてみたいわね。それで、私の趣向をより豊かにする新しい錬金術を見出して………うふふふ」
エフだけ怪しい気配を放っているが、アズミ達は楽しみたい一心で期待を寄せていた。
この先に何があるのか分からないという未知の要素が、彼女達からすれば最高のスパイスになってしまうようだ。
だから、しばらくしてルリ達は獣っ娘カフェを後にしようとしたのだが、スタッフの1人が親切に声をかけてくれた。
「お気づきでしょうが、このまま歩きで移動すると事故に繋がる恐れがあります。ですから次の場所へ向かわれる際には、こちらの部屋の転移装置をお使い下さい」
最初にルリ達が気にかけたように、ほとんどの道は足元が悪いのに安全柵といった最低限の対策が施されてない。
それに外で流れる風も決して弱くないので、ルリ達はスタッフの気遣いを素直に聞き入れた。
「そうだね、そうするよ。えっと、こっちの扉かな?」
「はい。そちらの扉を開けて、そのまま通路を真っすぐ進めば魔法陣があります。そして魔法陣の上に立ち、少々お待ちくださいね。あと部屋は少し薄暗いですので、転倒なさらないようお気をつけ下さいませ」
「うん、ありがと。凄く楽しかったし、また来るね」
「えぇ、こちらこそありがとうございました。では、いってらっしゃいませ」
最初から最後までスタッフは笑顔と優しさが溢れた丁寧な接客であって、ルリ達は気持ちよく退店する。
そして扉を開けて進んだ先は説明された通りの部屋となっており、何の警戒心も抱かず床に描かれている赤い魔法陣の上へ乗った。
「これでいいのかな?すぐに作動はしないのかな。起動ボタンとか見当たらないし……」
ルリは夜目が利くので問題無く見渡せるのだが、それでも魔法陣の起動スイッチを発見できなかった。
スキルで干渉して強制的に作動させても良いが、無理に触るのは相手に悪いし正常な動作になるのか分からない。
だから大人しく待ってみると、間もなくしてスピーカー越しに男性の声が聞こえてきた。
『偉大にして創造主の住処に、よく足を運んでくれたお嬢さん方。重ね重ね礼を言おう。そして私が錬金術で創り出した世界を心ゆくまで楽しんでいってくれ。なにかと調整不足であるため、命の保証は出来ないがね』
「は?」
もしかして危険な事に巻き込まれようとしている。
それに気づいた頃には手遅れで、既に魔法陣が作動してしまっていた。
そのせいで逃げる間も無く、全員が即座に各々の場所へ強制転移させられてしまう。
アカネとミャーペリコの2人はキメラが潜む水槽の庭園へ。
エフとアズミの2人は、屈強な戦闘ホムンクルスとアンドロイドが激しく争うシミュレーション戦場へ。
そしてルリは機械仕掛けの空間へ飛ばされた。
「なにこれ、どんな罰ゲーム?私、前世で大罪でも犯したの?あぁ女神様ゆるして」
ルリはこれまでになく唐突な自己嫌悪に陥った。
そこまでして大げさに嘆くのも仕方ないことで、彼女の隣には先に帰ったはずの魔王がなぜか一緒に居るのだった。