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2.農民に転職して異世界転移します!

転生者として大冒険を成し遂げたルリは、いざ転職する際に初めて知る。

職業については想像より遥かに種類が多く、また場合によっては一つの職業をマスターするだけで生涯を終えるであろう事を。

しかし彼女は転生者となって『封印されし魔王』を打ち倒したときランク10となり、更に転生するという特殊スキルを得た。


そのスキルを活用することで彼女は多くの異世界を渡っていき、やがて新たな職業への道が(ひら)く。

例えば、ルリは数多の大魔王すら統べる存在の超大魔王になって、いくつもの世界を支配した。

また神の中でも最上クラスである全知全能の絶対神になることで、概念や因果律を自由自在にコントロールできるようになった。

更には創造主になることで大量の宇宙を作ったり、魔王や神といった高位存在まで(みずか)らの手で誕生させる。


それから神に比べたら有象無象同然の職業をこなしてみたが、その頃にはあらゆる事が容易に可能だった。

このためルリからすれば職業のランク上げは造作も無いことであって、一瞬足らずで次々とマスターしていってしまう。

常時発動のパッシブやオート系スキルだけでも100恒河沙(ごうがしゃ)の種類を越え、ステータス値は当たり前のように無限へ至っていた。

しかも実際は表示限界を突破しているため、本当なら更に高いステータス値を誇る。

そんな全てを凌駕して規格外となった彼女は、とある天界で数々の宇宙を眺めながら(くつろ)いでいた。


「うーん。私って無駄に強くなったなぁ。でも、万能になるほど達成感が薄いと言うか……。目標らしい目標が余計に定められないって感じだよ」


「唐突に何を言い出すのですか?(シン)ルリ」


彼女の言葉に反応を示したのは、かつてルリに色々と説明してくれた女神だった。

女神は(しゃけ)おにぎりを片手に天使達の演奏を聴いており、自分の思うがままに過ごしている。

それはルリも同じだったのだが、女神と違って虚しい気持ちに(さいな)まれていた。


「私さ、(いま)だに人生における目標を探し求めているんだよね」


「最初の転生から依然と変わらず、ってことですね。たった一息で複数の宇宙を消滅させられる者が言うことでは無いと思いますが。その気になれば、どのような理想も瞬時に成せるのでしょう」


「逆だよ、逆。何でもできるからこそ、人生を通して達成したくなる目標を掲げられないままなの。つまり……、私はとにかく一生涯の目標が欲しいのぉ~!」


もはやルリは子どもみたいに駄々をこね、オーラで形成された床へ寝転がった。

品に欠けた行動だが、これでも今の彼女は全知全能で唯一至高の存在だ。

ただ女神は彼女に物事を教えた案内役として接し、軽い口調で訊いた。


「どれほどの高みに至っても、目標を追い求めるのは立派な志です。ですが、それは必要なことなのですか?」


「必要な事というか、私が唯一叶えられてない願いなの!あーあ、何か一発逆転できる素晴らしい案が舞い込んでこないかな~!」


言い分が子どもだ。

またルリは幼稚な様を恥ずかしげなく晒しながら、再び宇宙の観測を続けることで他人の生き様を眺めた。

こうしてアイディアを得ようと努力するあたり、本気で名案を求めているのだろう。

そんな彼女の様子を見かねて、多くの転生者を誕生させた女神が提案を出した。


「それならばロールプレイングしてみてはどうでしょうか?今の神ルリでは、厳しい制限を設けなければ目標を立てる事すら不可能でしょう。それに完全に一から始める、というのは転生と同じく心機一転になります」


「おぉロールプレイングかぁ……。要するに、役になりきるってことだよね」


「そうです。元より人生は、自分という役者になりきること。そもそも神ルリは目標の輪郭(りんかく)すら思い描けてない現状であるため、あれこれ細かいことを気にするのは後で充分です」


「まぁ少なくとも、今みたく漠然とした思いで観測していても意味無いよね」


「えぇ。まずは人間らしく実行あるのみです」


転生者のナビゲーターというだけあって、迷っている相手を導くのが上手な女神だ。

しかもルリはまだ『とりあえず』という考え方は何も変わってないので、彼女の意見を素直に受け入れる。

だが、ほとんどの職業を制覇してしまった彼女には、最初の一歩目が思いつかなかった。


「それじゃあロールプレイングに適した土台って何になるのかな。心機一転するための職業すら思いつかないんだけど」


「数兆年前から手付かずの娼婦がありますよ」


「あっはっはっはー。いいねー。あまりふざけたことを言うと、私の力で女神を娼婦にしちゃうよー」


「本気に聞こえてくるので、その乾いた笑いはやめて下さい……。それにしても、他に未修得の職業となると神ルリの場合は農民くらいですね」


「あー……農民か。私って、農民は放置したままだったんだ」


ふと思い返せば、農民は確かにマスターしていなかった。

なぜなら初めての転職時に、農民をマスターした所で新しい職業が(ひら)くことは無いと説明された事があるためだ。

また、覚えられるスキルのほとんどが他の職業の下位互換らしく、最初は一人の冒険者として生きていた彼女だけに農民は自然と対象外にしていた。

だが、この特殊な状況へ至った今、徹底としたロールプレイングには最適かつ魅力的な職業に感じられるのだった。


「あえて平凡な人生を歩んでみるのは良いかもね。それに最初から正解に辿り着けるとは思って無いし。とりあえず実行あるのみ!」


「えぇ、その意気です」


「ちなみに女神様。私が農民に転職するとして、どうしたら農民らしく人生を謳歌できるか助言してくれる?」


「自身がイメージする範疇(はんちゅう)でよろしいので、農民らしい振る舞いを貫くのが良いでしょう。そうすれば、きっと望むモノを得られるはずです」


「おぉ~。らしく振る舞うってのがロールプレイングっぽくて凄く良いね。よし、分かった!じゃあ今から農民になって、私は私らしく生きるよ!そして目指すは農民のランク10だ!」


この瞬間、時には神や魔王として生き、また女王として生き、または多種多様な種族に変わって巨大ロボットやら触手として生きた事もあれば、殺伐とした神話世界を呑気に生きた事がある彼女は一つの目標を定めた。

それは自分らしく生きながら農民のランクを10まで上げるという、小さくて大きな人生の目標。

この時点でルリは胸いっぱいの期待を抱いており、既にちょっとした満足感を覚えて浮かれていた。


「ということで女神様!私を農民にして!」


「それくらい神ルリ自身の力で変えられるでしょう?」


「スタート前から農民として生まれました感を出しておきたいの!大事でしょ!」


「そうでしたか。……それでは神ルリ。これからあなたは農民ルリとして生きるのです。今ここに新たな農民の誕生を祝福しましょう」


女神はおにぎりを持った手で魔法陣を描き、ルリに転職の儀を施した。

それは数秒のことで外面的な変化は見られない。

しかし、それでもルリは農民へクラスチェンジしており、早速彼女は自分のステータスを確認した。


「よしよし、ひとまず全ステータスが農民のランク1になっているね」


「ステータスが1人1つという(ことわり)からは解放されたままなのですね」


「それは仕方ないよ。とにかく私は、もう平凡で未熟な農民だから!次、女神様に会った時には私が作ったおいしいお米をプレゼントするね!」


「あら、私が生粋(きっすい)のお米派であることを覚えてくれていたのですね」


「なんて言っても私は全知全能だからね!今は農民だけど!」


「そんなことで全知全能の肩書きを出さないで下さい……。それでは農民ルリ、新しい世界へ行ってらっしゃい」


「うん!今日はありがとうね、女神様!また遊びに来るから!」


こうして農民となったルリは女神に見送られながら、新たな異世界へ転移した。


「よいしょー」


早速彼女は農民になりきった気持ちで言葉を発し、適当に転移した先の新天地を見渡して絶句しかける。

なにせそこは異世界であることには変わり無くとも、どことなく見覚えある風景だったからだ。


「うわぁ、ここって日本じゃない?」


一帯の景色は田舎っぽい雰囲気に満ちていたが、目の前には間違いなく日本語でバス停と書かれた看板が掲げられていた。

またそのバス停の近くには、淡い黄色のワンピースを着た一人の少女が偶然にも立っていて、不意に現れたルリを見て呆然としていた。

しっかりとした作りでお洒落なショルダーバッグを肩にかけているあたり、彼女が知る現代日本と大差ない文明が築かれているのだと察せる。

そのはずだったが、次第にルリの方も呆然とした表情へ変わり、少女の姿を眺めながら呟いた。


「え?この子、妖精の羽が生えてるじゃん……」


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