表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/41

19.神の一族が総出で触手プレイされます!

「よーい、ドン!!」


開始の合図が大声で発せられる。

これは真剣勝負というわけでは無かったが、それでも農民ルリと海の神ポセイドンはお互いにフライングを感じさせない完璧なスタートを切った。

また、2人ともスキル関係を抜きにしても素で高いステータスを誇る。

そのせいで開始地点だった砂浜には、スタートダッシュの勢いだけで爆発した跡ができあがっていた。

また泳ぐ推力も桁違いであるため、水飛沫では無く大波が発生している始末だ。


Yeah(イェア)!やるねぇお嬢ちゃん!」


ポセイドンは波の影響を受けないよう深めに潜りつつ、既に前方を泳ぐルリに喋りかけた。

だが、ルリはあえて反応せず、人魚より綺麗な動きで前へ突き進む。


「スマートな泳ぎっぷり。それがお嬢ちゃんの本気ってわけだ!確かにスピードだけなら俺を上回っている。だけどYo(ヨォ)、海の扱いは俺の方が上に決まっているじゃねぇかYo(ヨォ)!」


「むぐ、もしかして……」


「上位スキル・ノアの洪水!」


ポセイドンがあっさりと攻撃スキルを使用することにルリが驚くとき、海域全体に多大な変化が起きる。

複雑にして急激な勢いがある海流の発生。

あらゆる海洋生物の自由すら奪う突発的な渦潮(うずしお)

更に海底からは泡が湧き立ち、次の瞬間には鋼も貫く威力の水鉄砲が噴出された。


挙句の果てには上から降り注ぐ照明の光りが遮られて、海中のほとんどが深淵に包まれてしまう。

それでもルリは直感、加えて持ち前の身体能力だけで危機を回避し、適切に状況対処しながら泳ぐ。

これにはポセイドンも予想外だったらしく、本気で驚愕した。


「これはスゲェじゃねぇか!スキルを使わず(いま)だに動けるなんてYo(ヨォ)!どうやらお嬢ちゃんは神に匹敵する実力者みたいだ!となれば、俺が本気でやっても死ぬ心配は無いな!」


「なんか早くも勝負の趣旨が変わってない?」


ルリは平然と海中でぼやきながら、ポセイドンに対する警戒を強めた。

まだ本人はコントロールできる範疇(はんちゅう)に抑えているが、このままだとアズミ達が居る海辺を気にかけず戦闘系スキルを連発し始めそうだ。

それで手遅れになる事態を招くことだけは避けたく、彼女は保険で認識系スキルを使う。


「スキル・五感情報伝達領域……。って、アカネちゃん達は海辺で花火してるし。楽しそうで羨ましいよ」


ルリは浜辺にいる全員の五感情報を一方的にキャッチする。

すると2人が競争を始め間も無く観戦できないと皆が気づいたらしく、それぞれ遊びの続きを楽しんでいた。

とは言え一応ゴールを待ってくれているだけ、ありがたい話かもしれない。


「まぁ楽しんでくれている方が良いか。私も、この競争を思い出の一つにさせてもらうよ」


「さぁドンドン行くぞ!スキル!上位スキル!超上位スキル!」


「うるさっ」


予想通りポセイドンは戦闘系スキルを連続で使い出す。

それによって大規模な自然災害の発生のみならず、もし当たれば即死は免れない直接的な攻撃まで放っていた。

だが、やはりルリからすれば全てがそよ(・・)風同然で造作も無いことだ。

どれだけ仕掛けられても速度を落とす要因にもならないし、反撃した方が時間ロスに繋がるくらい。

そんな一方的な攻撃が続く中、やがてルリは目的地であるサンゴ礁の小島へ一足早く辿り着いた。


「色とりどりで綺麗な場所だね。これはこれで皆と見たかったかな」


サンゴ自体も色鮮やかで綺麗だが、更に海水と照明の反射が入り混じって幻想的な雰囲気が生み出されていた。

それに小島と言っても海中を覗けば無数のサンゴが積み重なっており、合わせて多種多様な魚群も生息している。

まさしく自然の美しさと生命の素晴らしさが詰まった神秘的な場所。

ただ場所に似つかわしくない異物も混ざっており、全身が焼き焦げた怪人がサンゴ礁に居座っていた。


「あっ、さっきの不審者だ。あれで無事だったんだ?」


ルリが声をかけた相手は、先ほどポセイドンに槍で吹き飛ばされた魔王だ。

サンゴ礁の一角に挟まっており、上手く身動きが取れないらしい。

しかし魔王本人は気にしておらず、何食わぬ顔で喋り出す。


「うむ。我は完全復活のオートスキルを習得しているからな。たとえ肉片になろうとも絶命することは決して無い」


「良いサンドバッグになれるね。ところで、なんで嬉しそうな顔をしているのさ」


「少女に妙な薬を飲まされて以来、敏感体質になってしまってな。どんな状況や刺激でも興奮してしまうのだ。おかげで創作意欲が湧いて活動に身が入るようになった上、炎上による誹謗中傷すら心地良くなってしまった」


「ホンモノの変態さんじゃん」


ルリからすればこの魔王こそが宇宙一の変人であって、本当に世界は広いなと感心する。

それから2人が会話している間にポセイドンも追いつき、彼は威勢よく叫んだ。


「お嬢ちゃん、まさか俺より先に着いているとはねぇ!だがな、お遊びは終わりだYo(ヨォ)!ここで確実に仕留めてやる!」


「あの海の神、どうして自分で言ったことも覚えて無いんだろ」


「いくぜ!神スキル・神族召喚(ゴッドアベント)!」


ついに海の神ポセイドンは超上位スキルより強力な神スキルを発現させ、この場に神々を召喚させ始めた。

このスキルはステータスと練度が高いほど、より多くの神々を召喚できるもの。

そのためルリの実力なら別宇宙の神々すら召喚は容易だろう。

一方ポセイドンの練度は決して高くないため、召喚できた神は血縁関係があるものだけだ。


「どうも、ポセイドン父です」


「初めまして、ポセイドン母です」


「こんにちは、ポセイドン妹です」


「ハロー、ポセイドン親戚デェス」


「それがしは、ポセイドン先祖でござる」


「我、ポセイドン始祖なり」


今、名乗りあげた者以外にも大勢のポセイドン一族が出揃ってしまう。

その数は100を大きく上回る。

これにはルリでも顔を引きつらせる他なく、人間的な感性で言葉を返した。


「一家総出どころか、一族総出でナンパの手伝いって恥ずかしくないの!?ドン引きだよ!」


素直な感想を包み隠さず言いたくなるほど、やはり様々な意味で耐えられるような状況では無い。

そんな中、魔王だけは場違いな訴えかけを始める。


「おい。我はそやつに武力行使されたぞ。一族で賠償しろ。その賠償金をサークルの活動資金にしてやる」


当然、誰も魔王のことなど無視しており誰一人反応を示さない。

そして喚き続ける魔王を気にせず、ポセイドンはとんでもない脅しを言い始めた。


「へいへい、そろそろ降伏しなYo(ヨォ)!さもないとトライデントの一斉放射が始まるぜぇ~!?」


「そこまで全力で卑怯な手を使うなんて、神としてのプライドが無いわけ?」


「神にとって大事なのは結果!過程なんて誰も気にしない!そして持てる力を使ってこそ、勝者で有り続けられる強者の証!Yeah(イェア)!」


「あっそ、今さら問いかけるまでも無かったみたいだね。じゃあ私はサンゴ礁を持って帰るから。これ記念品にするね」


「交渉決裂ってわけだな!それじゃあトライデントを受けな!いくぞ皆ぁ!」


ポセイドンが指揮した直後、一族全員が全スキルを駆使した上でトライデントを全力投擲(とうてき)した。

一発一発が星を半壊させる威力であり、数多の防御手段を穿(うが)ち抜く効力が付与されている。

少女1人を始末するという点で考えれば、あまりにも過剰な猛攻撃だ。

だが、それでもルリはスキルを使わない。


戦闘経験も豊富な彼女にとって、他者の攻撃が脅威になることは絶対に無い。

威力の問題では無い。

更に能力や工夫の問題でも無い。

とにかく結論だけを言ってしまえば、どのような理由付けしても彼女には通用しないのだ。

何より緊張感を持つほどの事態でも無いため、彼女は欠伸(あくび)を噛み殺していた。


「ふぁ……うぅ~…。まぁ、流星群みたいで綺麗だよ」


呑気に呟くルリの手には、紙屑同然に丸め込まれたトライデントだった鉄くずがあった。

それは数百本のトライデント………つまり神の武器が1つのゴミに変えられてしまった瞬間だ。

スキルを使った様子は無く、いつ止められたのかポセイドンは認識できなかった。

もはや次元が違うという言葉で済まされない歴然(れきぜん)とした差がある。

彼女は自然体のまま全てを超越(ちょうえつ)していて、周囲にも影響を出さず終わらせていた。


「う、嘘だろ……?ぃ…っ、Yeah(イェア)……」


ついにポセイドンもルリの段違いな実力に気づき、冷やかせが噴き出る。

しかし、彼は神の中でも特に傲慢(ごうまん)だ。

変わった性癖に加えて精神面も優れているので、一瞬で立ち直った。


「なんて魅力的な子なんだ!俺は海の神だけど、それでも崇拝したくなる!この世に、こんな最高の女神が居るなんてYo(ヨォ)!」


「うーん。高位存在に近い奴ほど、ことごとくタフだから疲れるなぁ。諦めが悪いというか、結局はどこまでも自分本位というか……」


ルリは終わりが見えない相手の態度に呆れかえって、もう手っ取り早く一時的な封印を仕掛けようと考え出す。

そんなとき、これまでの泳ぎで手首に付けていた紐が(ほつ)れてしまい、今ここでエフの触手玉がサンゴ礁へ落下した。


「あっ、やば」


ルリが言葉を発した瞬間、想像を遥かに上回る触手の群れが発生する。

しかもサンゴ礁と魚群を温床に増殖していき、あっという間に一帯を浸食してしまうのだった。

また、サンゴ礁に引っ掛かっていた魔王も数秒で触手の餌食(えじき)となり、あの日の惨劇を突如1人で再現していた。


「んほぉおぉおぉおおぉおぉぉ!もうらめえぇええぇ!らめなのぉおぉおぉ!我、快楽に屈し……ちゃったぁあぁあぁあぁ!これからは我が苗床となり、自分から触手を産んじゃうのぉおおおおぉおおぉおお!!」


これだけでも酷い光景なのだが、更に触手はポセイドン達にまで襲い掛かってしまう。


「な、なんだこの気色悪いモノは!?つーか、アイツが一番気色悪くて……!なんだ!?急に視界と耳が……!?」


ポセイドンは魔王の雄叫びによってSAN(サン)値を根こそぎ削られ、まともな判断を下せなくなる。

そのことから一族全員が触手漬けにされるという地獄絵図が始まり、全員が痴態を晒し合う悪夢と化した。

あらゆる声色、あらゆる年代、そして老若男女問わずの喘ぎ声が飛び通う。

たまに発狂が原因で新鮮な体験を楽しんでいる神も居たが、それでも魔王が一番おぞましいと断言できる。

そんな目を背けたくなる光景の中、ルリは密かに退避した。


「あーやばやば。今回は目撃者が少なくて良かったよ」


エフの錬金道具による被害者は増えてしまったが、あれだけ自分勝手なポセイドンには丁度良い罰ゲームかもしれない。

それに彼が神であることを思えば、あの程度では深刻な事態へ陥らないことを彼女は経験則で知っている。

後ろから波音に負けない声量の快楽堕ちした叫びが聞こえてくるが、何も無かったと思うのが一番だ。

それからルリがサンゴ礁を手に浜辺へ戻ったとき、なぜか触手と(たわむ)れているアカネが待っていた。


「えっ、アカネちゃん。なんで触手で遊んでいるの?」


「おぉー。なんか急に砂の下から生えてきたのー」


「私のせいか。だとしても影響範囲が広すぎるでしょ。陸へ打ち上げられた魚同然に威勢が落ちているみたいだけど」


アカネはリスを可愛がるような仕草で触手を撫でているが、粘液でベトベトにされていて珍妙な状況だ。

しかもアズミが、その様子を興奮した顔でカメラ撮影している。

もはや何も言うまいとルリは思いつつ、この触手の創造主であるエフに尋ねた。


「ところでエフ。この触手って放置しても大丈夫?凄い勢いで増殖しているよね」


「私の錬金道具は不安定だから、これらの触手はすぐに動かなくなるわ。あと触手はスライム成分を配合したもので、最終的には水に溶ける粘液へ変わるの」


「勝手に無力化、それから無害になるって事だね。じゃあ多分、このままでも大丈夫なのかな」


「えぇ。それについては私自身で検証したから安心して」


「検証済みなの……?まぁそうなんだ。そういえば、海の神のお連れさんは?」


ポセイドンの勇姿を伝えておこうかと思ってルリは浜辺を見渡したが、黒髪の男性が見当たらなかった。

するとアズミが待っている間に少し会話を交えたらしく、代わりに説明してくれた。


「あの人ならプールの方へ遊びに行きましたよ。自分もペイントの陣地取り合戦したいとか何とか。ちなみにモーセさんと名乗って、暇つぶしに海割りの一発芸を披露して下さいました」


「ふぅん。いつもワガママに振り回されているだけって感じだったのかな。とりあえず、落ち着ける場所で休憩しようか」


一悶着(ひともんちゃく)はあったが、ルリとしては彼女達と海水浴を楽しんだことが一番の思い出だ。

そして4人は小さな触手とサンゴ礁の欠片を持ったまま、シャワー室で汚れを洗い流し、水着と遊び道具を返却してプールを出るのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ