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13.ルリはアカネと出演することが決まりました!

※あらすじ

ルリは盗撮大好きな友人アズミと共にキャラクターカフェへ行くものの神々や悪魔、神話生物などと対峙した後に村へ帰還した。


ルリがアズミの家で戦利品を片付け終えた後のことだ。

気が付けば外は夕暮れ間近となってしまっており、彼女は窓から差し込んでくる橙色の日光を見て呟いた。


「あぁ、もうこんな時間かぁ」


昨日の魔王討伐に続き、また農作業とは無関係な事で丸一日の時間が潰れてしまった。

だからルリは明日こそ農民らしい生活を送ろうと決意するわけだが、このタイミングで早くも新たな騒動が舞い込んできた。

それは今までの事とは方向性が違う騒動であり、カチコミみたく駆け込んできた領主エフによって知らされる。


「ちょっと貴女達!一体何をしているのよ!明日はアカネちゃんのコンサートなんだから準備を手伝いなさい!」


「えぇー、もう今度は何なの?」


アカネのコンサートという報せを聞いたとき、ルリの脳内には一瞬で色々な思いが駆け巡った。

しかし第一リアクションは率直な戸惑いで、比べて隣に居合わせていたアズミは普段と変わらない様子で謝罪の言葉を口にしていた。


「ごめんね、エフちゃん。今日はどうしても行きたいイベントがあって、私が無理を言ってルリ様を付き合わせてしまったんです」


「なによ、二人でデートしていたわけ?……あとで私ともデートしなさいよね。それより早く行くわよ!ほらほら!」


ろくな説明も無く、ただ強引に手を引かれる形でルリは外へ連れ出される。

遅れてアズミも付いて来てくれているが、今までの事があるだけに正直あまり良い予感はしない。

そのためルリは内心疲れ果てながら、ぐいぐいと前に進んで行くエフに声をかけた。


「ねぇねぇ。私なにも知らないんだけど。アカネちゃんのコンサートってなに?あと私って必要?」


「村の行事みたいなものだから必要よ。最初はアカネちゃん個人で始めたイベントだったのだけれど、段々と規模が大きくなって村全体で支援するようになったの」


「へぇ。というか、アカネちゃんって本格アイドルらしい活動していたんだね。ネット配信だけかと思ってた」


「活動とは言っても、本人は趣味に留めているつもりらしいわ」


「コンサートするくらいなのに趣味なの?ってか、アカネちゃんの職業ってアイドルでしょ」


「本人(いわ)く元アイドルよ。この世界に転移してからすぐに転職して、今は……」


どこかへ向かって歩きながらもエフが喋っている最中だった。

道の前方では大勢の人々が集まっている様子が見受けられて、そちらの方に気を取られた彼女は露骨な溜め息をついてしまう。


「はぁ……、サービス精神が旺盛なのも考えものね。コンサート自体は明日開催なのに、もう観客が集まっているわ」


言われて見れば確かに村人とは違う雰囲気の人達ばかりであり、キャラカフェと同じように徹夜待ちの客が居るみたいだった。

ただコンサートである以上、チケット制だろうから徹夜で待った所で大した意味は無いはず。

そうルリは勝手に思っていたのだが、いきなりエフは集団に向けて大声をあげた。


「アカネちゃん!ルリを連れて来たわよ!」


その呼びかけと同時に、人だかりはモーゼの海割りみたく一つの隙間を作って分かれてみせた。

それから私服姿のアカネが悠々と間を通って行く様子が見えて、自由に外を闊歩するアイドルが集団を作っている原因なのだとルリは知る。

またアカネは小さな手でファンと握手しながら通り抜けて行き、2人の前に立つなり挨拶の動作をしてみせた。


「おぉー、ルリさん待っていたよー。それじゃあ早速打ち合わせしよっかー」


「打ち合わせって、なにか裏方仕事すればいいの?まぁ肉体労働は得意だから良いけど」


「んー、そういう説明も含めての打ち合わせかなー」


どんな理由があるにしろ、人が集まっている状況下の野外では落ち着いて説明できないのだろう。

だからアカネは別れ際までファンに向けてアピールをしつつ、すぐアズミ達と合流してから村人以外の目がつかない場所へ移動した。

そこは空き家の一つであり、このようなイベント時であれば無人の建物が多いのは便利だなとルリは知る。


「それでアカネちゃん。私は何をすれば良いのかな。観客誘導や警備とか?」


自分であれば暴動の類が起きても容易に対処できると考え、それとなく自身の希望を口にした。

だが、アカネから聞かされた頼み事は予想していた内容より遥かに斜め上だ。


「ルリさんがやることは既に決まっているよー。ずばり、私と一緒に舞台へ立って欲しいんだー」


「へぇ……はん?えぇっと、どゆこと?」


「これから私がネット上で配信するとき、ルリさんが映ることもあるだろうからねー。だからルリさんの紹介を含め、一緒に歌ったりして欲しいんだー。あと、できればダンスもかなー」


「意外にも要求が多いね……。どこを指摘すれば適切なのか判断できないんだけど。とりあえず一番に言いたいのは、急過ぎない?ってことかな。しかも明日でしょ?」


「うん、そうだよー」


何一つ問題が無い様子でアカネは言いきる。

だが、常人の感覚で言うならば準備不足の一言に尽きるだろう。

それでもルリの優れた能力であれば、流れさえ覚えてしまえばトッププロと同レベルで歌とダンスをやり遂げられるのも事実だ。


ただ、可能だからと言って不安を全く抱かないかどうかは別問題であり、少なからず躊躇する気持ちが芽生えていた。

何よりアカネがコンサートの主役である以上、一友人でしかない私なんて場違いという意識が拭い切れない。

よってルリは少し呆然とした後、なんとか言葉を捻りだして心配を吐露した。


「いやぁ……。普通に考えて、私が出ても盛り下がるだけじゃないかなぁ?」


当然の不安要素を口にしたつもりであるし、実際誰もが気にする重要ポイントだ。

けれど、単なる杞憂扱いとしてエフがきっぱりと答えてしまう。


「別に何があっても平気よ。所詮はスポンサーすら付いてない村内コンサートだもの。そんな身構える必要なんて無いわ」


「ちなみにエフやアズミは同じ経験あるの?」


「一応あるけれど、その時は今と違って本当に小規模だった覚えがあるわね。当時は大して告知もしていなかったし、合計集客数は5000人くらいだったかしら」


「5000人!?いやいやいやいや、村人全員含めても充分に多すぎるよ!それで小規模って、今回のコンサートは何人ぐらい集まる見通しなのさ!」


「開催する毎に相当な勢いで増えているから、30万人前後の見通しよ」


この桁違いの数字を聞き、一瞬ルリは頭真っ白になりかけた。

なぜなら30万人という単位は村全体を都会化させるような人数であり、どう考えても一日コンサート規模の客数とは言えない。

しかも、それだけの観客が動員されるのなら、既に村中が人で溢れ返っていても何ら不思議じゃないくらいだ。


「さ、30万人って……。口で言うのは簡単だけど、定期コンサートで集まる人数じゃないからね。そもそも、そんな大人数が集まったところで村のどこでやるのさ」


「舞台会場は村の地下に設営してあるから、そこで開催するわ」


「へぇ地下があるんだ。……あれ、地下?30万人が?アリの巣かな?」


あっさりと村の地下だと答えられても、単純に地理的な問題があるため納得はできなかった。

だからルリは首を傾げてしまい、不思議そうな眼差しで問いかける。


「そんな広い空洞があるの?ここ一帯って畑だらけだよね」


「安心しなさい。一概に地下と言っても地下3000kmよ」


「深すぎでしょ!遠出で慣れたつもりだったんだけど、何でも規模が凄すぎるから!もう地下というか完全に地中世界だし!」


「規模が大きくないと活用しないわよ。その地下も元々は謎の秘密結社が怪獣の飼育場にしていたのだけど、転移のせいで空き部屋となってしまったの。だから、ついでにコンサート会場へ改装したわ」


「一手間感覚みたいに言っているけど、その規模を改装するのも割かし凄い話だからね?」


「とにかく30万人の観客前で披露するわけだから、今から歌を練習しておくべきじゃないかしらって話よ」


既に夕暮れ時となっているにも関わらず、最大規模かつ注目度が高いコンサートを前日に練習する。

それだけ聞いてしまえば、完全に昨日同様の目に遭ってしまうと想像できた。

さすがに二徹は自分の精神面に辛く、もう呑気に農民らしいロープレイングしている場合じゃないと判断する他なかった。


「もう分かった!練習はする!でも、練習は一回だけだよ!必ず一回で完璧に習得するから!」


本当はスキル関係のおかげで練習の必要すら無くラーニングできる。

それでも完璧にできるようになるのはルリだけの話であって、一緒に舞台へ立つアカネまで完璧に合わせた行動ができるかは別の話だ。

そういう意味合いを含めて答えたとき、黙っていたアズミが何か思い当たるように言ってきた。


「ルリ様は高ランクのラーニングスキルを持っているのですね。たしか瞬間完璧習得パーフェクトラーニングって名前でしたっけ。アカネちゃんも同じスキルを持っていますよ」


「そうなの?でも、アイドルの職業だと瞬間完璧習得パーフェクトラーニングって習得できなかったような記憶があるんだけど……」


そのスキルは相手の行動を先読みと変わらないほど同時かつ瞬時に真似られるという、優れた効力を持つ。

ただ強力な能力であるだけに複数の職業をマスターしていない限り、習得不可能な上位スキルだ。

だからこその発言だったわけだが、この疑問にアカネ本人が意気揚々と教えてくれた。


「私、そのスキルなら生まれつき持っているからねー。あと瞬間記憶のスキルも持ち合わせているよー」


「えっ!アカネちゃんって才能持ちの超秀才っ子なの!?うわぁそっか。それなら幼くてもアイドルをマスターできちゃうわけだ。凄く羨ましい話だなぁ」


如何せん彼女には無かった才能で、素直に驚く気持ちと共に本心から感心する想いを抱いた。

強いて言うなら、ルリには何をやり遂げても満足できず挑戦し続ける貪欲(どんよく)な意欲という、大器晩成の才能はあった。

だが、並外れた能力を結果的に得ても満足感は得られないまま。


むしろアカネみたく最初から満足できる人生を送れる方が断然に良いと、とてつもなく長い人生経験を得た今の彼女なら思う所だ。

何にしろ、相手が同様のスキルを持ち合わせているなら本当に一回の練習で済みそうであり、ようやく安堵する気持ちが湧いてきた。


「よし、少しやる気が湧き上がってきたよ。主役はアカネちゃんだし、なんとか盛り下げ無いよう張り切っちゃおうかな」


「本当?前向きに受けてくれて良かったー。私とルリさんの共演は一時間以上続くからねー」


「ガチですか?こうオマケの役割みたいな……一曲歌うだけとかじゃなく?」


「ついでにMCもあるよー」


「MC?MCってさ、ライブ中にあるトークタイムの事だよね」


「うん、そうだよー」


今ここで口には出さなかったが、アカネと2人きりでする会話なんて想像つかなかった。

ただ和気あいあいとした話をするくらいなら、初対面の時からしているため何も問題ない。

けれど、ライブ中にする話となれば相応のトーク力を求められてしまう。


しかも単純にアカネに合わせれば良いものでは無く、観客が求めているセンスを発揮しなければ冷ややかな反応になる。

そのためルリは困惑して表情を若干曇らせたが、すぐにアカネが言葉を続けてくれた。


「MCとは言っても、その時に話すのはルリさんの紹介だからねー。だからルリさんの受け答えは自己紹介する程度でいいよー。あとは私が適当に質問して、上手く繋げるからー」


「あぁ、そうなの?それなら良かった。その点はさすがアイドルマスターだね」


「おぉー、私に全て任せろー」


冷静に考えてみれば、アイドルに関する場数はアカネの方が圧倒的に積んでいる。

そう思ってしまえばルリが過剰に気張る必要は無く、今回の出来事はアカネに率先して貰うのが一番得策だ。


「能力が高いからといって、何でも一人で片づけようとするのは私の悪い癖みたい。うんうん、反省反省」


ルリにとって初めて他者に安心して頼れる場面が訪れたので、少しだけ余裕が持てるようになってきた。

思えば、コンサートなんだから観客達と楽しめばいいだけだ。

最終的な評価を気にせず、自分なりに頑張ればいい。

そう気楽に考えれば考えるほど、ルリはコンサートが楽しみに感じられた。


「じゃあアカネちゃん、本番は頼むね!とりあえず私は練習かな!さぁ、今夜は熟睡できそうだし頑張っちゃうぞー!」


「おぉー、一緒に頑張ろうー」


こうしてルリはアカネのコンサートに出ることになり、一通りの練習を経てから明日の本番に備えて眠ることになる。

しかし、彼女が練習を通して知ったのは舞台上で自分がやることだけであって、他の事やコンサート周りについては全く把握しないまま挑むことになってしまう。

そのせいで実は知らないことが多いまま、彼女はアカネの家で一晩過ごした後にコンサート当日を迎えてしまうのだった。


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