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11.キャラカフェでのんびりします!

ルリとアズミの2人が、キャラクターカフェという名の超巨大ドームへ到着した直後のことだ。

最初に周囲から聞こえてきた第一声は、開店を待ちかねたファンの喜びや期待の明るい声とは正反対だった。


「おいやめろ!俺は並んでいただけなんだ!ただ開店を待っていた客だぞ!」


「うるさい!徹夜待ちは重罪だ!抵抗するなら消失させるぞ!」


「くっそ!このまま連行されてたまるかぁ!俺は転売するために来たってのに!この、このぉおおお!うわぁああぁああぁあぁあ!?ひぎぃ……っ…!」


悲鳴らしき叫び声が不自然な形で途絶えてしまう。

ルリは揉め事があった方向にあえ(・・)て視線を向けず、聞こえなかったフリを通した。

だが、今の断末魔は現状を象徴しており、この場所が戦場と同等に酷く殺伐しているのは把握できた。


「なんだか魔王城より危険な気がするんですけど」


善良な客からすれば対応が徹底されているのは喜ばしいことのはずなのに、ルリは安易に気が抜けないと認識する。

そのため彼女は警戒心を高めるが、比べてアズミは純粋な楽しみを抱いている上に穏やかな心情のままだ。


「やっぱり今回も徹夜待ちが居たんですね~。もうイベントにおける風物詩(ふうぶつし)ですよ」


「ねぇアズミ。色々な経緯があって今の厳重体制になったとは思うよ。とりあえず、そう思ってみるけどさ。対処方法が極端じゃないかな」


「仕方ないですよ。ずっと昔、客同士の揉め合いが原因で街が吹き飛んだらしいですからね。それ以来、どんなイベントでも対応が厳しくなっちゃったそうですよ」


「あー……だろうね。客層を見た感じ、1人暴れるだけでも小競り合いで済むレベルじゃなさそうだし」


もし本格的な争いが勃発するものなら、(またた)く間に大陸が丸ごと消失しても不思議では無い実力者がチラホラ見受けられる。

だから警備する側にも世界的な実力者が居るのだろう。

そうだとしても危機感は拭えず、安全な所へ避難するだけでも相当な実力を求められそうでルリは険しい反応を示した。


「とりあえず暴動が起きないよう願うばかりだよ」


「ルリ様!それよりファンブックを読み込んでくださいね!限定グッズ入手のためだと思えば、当然ながらこの1秒すら惜しいです!」


「う、うん。頑張る。はぁ……私には願う暇すら無しか」


すかさず読み込みを促してくるあたり、意気込みの強さだけならアズミはトップクラスだろう。

そして係員から整理券とパンフレット類を受け取った後、ルリは周囲の様子を伺いながらファンブックに目を通す。

すると客層を確認している内に気になる点が他にもあって、彼女はページを(めく)りながら何気なく尋ねた。


「ふと思ったんだけど、ここに神みたいな高位存在(こういそんざい)が居るのは変じゃない?一般人みたく律義に買わなくてもグッズを入手できるだろうし、その気になれば複製だって容易だよね」


「ふふふっ、なに冗談を言っているんですか。わざわざ言うまでも無い事ですけど、本家に認められた場で公式グッズを手に入れることに意味があるのですよ。あと複製は犯罪です」


「それは理解できるよ。それでも悪魔っぽい種族の人達までそういう秩序を気にしているのか、私としては(いささ)か疑問だよ」


「お気に入りの作品に(みつ)ぐのが真のファンというものです。悪魔だって感謝する気持ちがあれば、作者や制作関係者のためであったり、またはキャラや作品を応援するためにお金と時間を費やします。当然、労力もです」


「うーん、一応は納得できたかな。そうだよね。そういうことを含めて楽しめる人こそ熱烈なファンって呼べるもんね」


あくまで善良なファン観点に(もと)づいているが、アズミの説明には説得力があった。

確かに自分の能力が万能であっても、好きなコンテンツを楽しみ、尚且(なおか)つ存続して欲しいとなれば正攻法の応援をするのが効果的だ。

そもそも公式イベントを純粋に楽しむこと含めて考慮すれば、グッズ入手だけに着眼したルリの指摘は的外れと言える。


「我ながら安易な考えだったかな。ここに来ている人達は既に俗世に馴染んでいるわけだし、種族どうこうは偏見だったよね。ましてイベント初日となれば、熱意あるファンしか居ないか」


ルリは浅はかなイメージで決めつけてしまったと自身を(いまし)め、冷静に思い直す。

きっと皆が期待を胸に抱き、ファン同士で楽しもうと一心に思っているに違いない。


だが、いざ開店した時には、アズミ含めた全員の目の色が変わることを間もなく知る。

その変化を知る僅か数十秒前。

責任者と思わしき人物がメガホンを手に現れるなり、どう見ても百鬼夜行となっている行列へ呼びかけ始めた。


「皆様!本日はポケットソードスレイヤーのカフェ開店日に多くお集まり頂き、心より感謝を述べさせて頂きます!本当にありがとうございます!」


「こっちこそ予定通りの開店ありがとー!」


「はい、ありがとうございます!それでは間もなく開店致しますので係員の案内に従い、しっかりルールを守って行動して頂くよう、どうかお願い致します!それでは皆様、心ゆくまで楽しんで下さい!キャラクーカフェの開催です!」


「『「『うぎゃがああぁああおおおぉおおぉあああしゃああアァアアアアアアァひひゃいううううほおお゛ぉおいぃいいい゛い゛へぇえあやああああシャシャシャぁあああぁぐるぅおおおりゃあアアアァギギギギギィイイぎゃああああオオォオォおぉ!!!!』」』」


開店宣言と共に、世界中の空気を震わす凄まじい雄叫びが一帯を包み込んだ。

もはや規模が大きいお祭りというより、先ほどのスピーチは大統領就任の演説だったのかと錯覚させる大げさな反応だ。

しかし、どのような理由であれ、あらゆる種族が集まって心から一体感を生み出して歓声をあげているのは感動的な光景かもしれない。

ルリがそんな呑気なことを思ったのも束の間、次の瞬間には死地へ一斉突撃する兵士で溢れかえった。


「うわわっ!?これは凄すぎるって!そして場慣れしているアズミも凄い!」


先ほどまで整列させられていた行列など無意味に等しく、すぐにルリは人混みで押し潰れされる被害に遭う。

対してアズミは普段と変わらぬ笑顔のままでいて、すいすいと流れるようにして先行してしまった。

その後ろ姿はまるで激流を鮮やかに泳ぐ魚みたいであり、ルリは自分が人魚だった頃を思い出させられる。

それから徹夜明けなのもあって、彼女は何重にも苦しい思いをしながら人混みを掻き分けて進んだ。


揉みくちゃにされながら出入り口への接近を果たせば、あとは惚れ惚れするほど素晴らしい速度で客を捌いていく係員によって会場内へ案内される。

そして入場してみると外見こそはドームであっても、中はまるでホテルにある大ホールを連想させられる構造となっていた。


「うっわぁ、本当に凄いなぁ」


特に驚くべき事なのは内装が完璧に作品の世界観を再現していることだ。

そのため知ったばかりのルリですら「あぁ、作中に出てきた街並みの再現かー」と一目で気づけるほど卓越しており、簡単に没頭できた。

他にも色々と()った要素は多いが、巨体の団体客や慌ただしい雰囲気のせいで世界観に浸る余裕が全くない。

ひとまず彼女は立ち止まるわけにもいかず、すぐさまアズミを探しに向かった。


「アズミぃ~!どこにいるの~!」


「あっ、ルリ様ー!こっちですよー!こっちこっち!」


「おっと、見っけ。良かった。無事だったんだね」


アズミが呼び掛けてくれたおかげで発見できた。

しかし、テーブル席に近づいて見れば彼女の手には愛用のカメラが握られていた。

一瞬また盗撮かと思って注意しかけるが、さすがにイベントだから記念撮影だと考えてルリは訊いた。


「なになにアズミ、記念撮影?」


「はい!いつものように動画撮影ですけどね!」


「まぁ、この雰囲気は動画じゃないと残せない気がするよ。装飾の造形に限らず、客の勢いとか……何もかもが本当に凄すぎるもん」


「凄いのはこれからですよ!きっと度肝を抜かれますから!」


「あっははは。女の子の口から度肝を抜かれるなんて言葉、初めて聞いたかも」


今更何が起きても不思議じゃないせいか、ルリは普段の調子を取り戻しつつあった。

またカフェ側は事前に客層を考慮していたらしく、足運びと立ち回りが洗練されたウエイトレスが愛想良く接客してくれる。

それから2人が頼んだドリンク類とフード類、更にスイーツ類が丁寧かつ素早く運ばれてきた。

ただ注文した量と種類が多く、それらによりテーブルの上はあっという間に埋め尽くされてしまう。


「ねぇ、ちょっと多すぎない?」


「注文によってステッカーとか貰えるので致し方ないことです。ちなみに付き合わさせているので全額奢りますし、今日のために資金は用意しておいたので安心して下さい」


「そういう心配じゃなくて、ちゃんと食べきれるかどうかなんだけどさ」


「作品に対する愛があれば食べきれますよ!ふふん!」


どことなく自慢気で勢いある返事だった。

実際、運営も多く注文されることを想定しているのか、1つ1つの商品は割かし小さめのサイズである。

またルリは雰囲気の流れで言っただけで、食事関係のスキルが機能しているから膨大な量は平気で食べられる。

それでもトイレへ行きたくなる生理現象は別問題であり、ルリは先が思いやられる気分で呟いた。


「勇ましい返答だけど、根拠が無さ過ぎるよ。しかも言っていることが精神論だし。うぅ~ん、トイレが混み入りそうで後が怖いなぁ」


「えっと、ルリ様。一応注意しておきますが、トイレに行くふりして食べ物を流したりしないで下さいよ?」


「そんなことしないって!」


こんな話ばかりしている2人だったが、食事さえ始めた後は女子らしい会話が繰り広げられる。

それこそ他愛ない世間話であったり村のことだったり、エフやアカネとの昔話を聞かせてくれたり。

店内は絶えず騒がしいが、その和やかな話題のおかげで一息つける時間に感じられた。


ようやくのんびりできて、こういう外出なら友達と何度もしたいと望みたくなる。

更に話題が何度も移り変わったとき、アズミは突拍子も無く思いがけないことを口にしてきた。


「ところでルリ様って、前の世界に好きな異性というか、旦那様が居たりしなかったのですか?」


「ぶはっ!?ごほっごほっ……!」


「す、すみません!まさか噴いてしまうとは思わなかったです!」


「こっちこそごめん……!はぁ、びっくしたぁ。部屋の模様替え話から、いきなり恋愛話って温度差が凄いよ!」


「すみません。ただルリ様がこちらの事情を訊く一方で、あまり自分のことを話さないのが気になりましたので。もしかしたら過去に触れない事で、なるべく寂しく思わないようにしているのかもと考えたのですけど」


結局は好奇心に勝てず訊いたと、アズミの申し訳なさそうな目つきが物語っていた。

対してルリは自分の事を思い出そうとするものの、どこか他人事のようなあっさりした口調になっていた。


「そんな気遣わなくても大丈夫だって。私は自分の意思で転移した変わり者だからね」


「あれ?そうだんだったんですか?てっきり災難に巻き込まれたものかと……。でも、確かに最初会ったときは落ち着いていましたね」


「あと私は自分の過去について、どうこう感じたりはしてないかなぁ。なんというか私って、ずっとぼんやり過ごしていたせいで思い残しみたいなのが頭に浮かばないし、印象深い場面ってのがあまり無いんだよね」


遠くを見る目つきに加え、答えをはぐらかす気が全く無いと分かるほど淡々とした口ぶりだった。

その人間らしかぬ執着心の無さは寂しく感じられて、アズミは彼女の冷えた血を沸かそうとする。


「それでもルリ様には特別思い入れがある好きなものとか、叶えたい夢があったんじゃないですか?私の場合、カメラを手放せとなったら発狂しますよ」


「どうだったかな~。とりあえず話を戻すと、旦那様みたいなパートナーは居なかったね。入れ込むことが億劫(おっくう)だったわけじゃないけど、しっくりこなくて。だからずっと清純な身。あとこの世界に比べたら、どの出来事も印象が薄いことばかりだなぁ」


「そうでしたか。しかし、この世界ってそこまで変わっていますか?一応私も異世界転移してきた身らしいのですが、物心ついた時には村に居ましたし、実質この世界生まれなんですよね」


その身の上話を聞き、ルリは少しだけ疑問を覚えながら相槌を打った。


「へぇ、アズミってこの世界の出身じゃなかったんだ?」


「はい。元々は奴隷でエフちゃんに気に入られて村に引き取られたと、お年寄りさんの方が教えてくれました」


転移や奴隷の経緯を聞いたら、妖精の特徴を持つ彼女が人間だと言い張る部分と密接な関係あるように感じられた。

ただ突っ込むほど気に掛ける事でも無く、ルリはそのまま思ったことを口にしていく。


「何にしても、この異世界は変わっているかな。色々なことが盛んで技術が発達しているのに、他の世界と比べて文明統一が感じられないとかね」


「見た通り、この星に収まるべきじゃない人達で溢れていますからね」


「個人的に気になるのはそこなんだよね~。どうしてこの異世界だけ、やたらと凄い存在が集結しているのか謎だよ。普通なら、こういう歴史を歩んだから今の生活模様やら社会体制がこうなって~って話になるけど、なんでかなー」


またもやルリは他人事みたく言っているものの、実際は全知全能の能力を兼ね備えているから彼女も特殊な存在に分類される。

ある意味、他と同じくして無意識に引き寄せられたと言えるはずだ。


「うーん。もしかしたらこの異世界自体、何かもっと大きな規模で仕組みが出来上がっているのかも」


話題の軌道が何度も()れていて意味不明な発言だ。

また何気ない雑談なので真面目に推測を立てるわけでは無いから、この場で答えを求めるようとする意味も無い。

まして異世界の仕組みを理解したところで、ルリ達の生き方に変化が訪れるわけが無い。

つまり気にかけるべき疑問でも無いだろう。


そもそも彼女達は世界の姿に興味など無く、今という瞬間を気楽に楽しむだけだ。

だから他愛ない会話を続けていたのだが、やがてファンにとっては待ちに待った時間が訪れる。

それは唐突な店内アナウンスで、楽しい雰囲気に包まれていたドーム内が更に一変する放送だった。


『皆様、楽しんでくれていますか~?そしてお待たせしました!これから待望の早押しクイズを始めまっス!ちなみに進行はポケットソードスレイヤーのマスコットであり、天井知らずの愛嬌が溢れたボク!タチノ・セメが務めさせて貰いまっス!』


どうやら作中のキャラが進行するというサプライズらしく、今度は開店時と違って混乱が無い大盛り上がりに包まれた。

更に作品に対する理解が浅いルリにとっても聞き覚えある声であり、飲み物を(すす)りながら呟いた。


「あ、性別不明の子だっけ。たしか、なぜかやたら敵に腹パンされる不憫要素を持ったキャラ」


「性別不明なことを作中でネタにしない辺り、またあざとくて良いですよねぇ。あと目の色がころころ変わる要素なんて露骨に隠し設定を匂わせているのに、作中で一度もツッコまれないですし」


しみじみと作品についての語り合いつつ、続く店内アナウンスに全員が耳を傾けた。


『そしてそして!早押しクイズを見事に制覇した解答者には、なんと超技術で完全再現されたカタナをプレゼントっス!特殊ギミックまで再現してあるのみならず、神殺しや悪魔殺し、はたまた不死身の神話生物を滅する効力まで付加された本物の一品っス!これはファンなら喉から手が出るほど欲しい!』


「ねぇアズミ。そこまで再現したらグッズじゃなくて兵器だよね。凄すぎでしょ」


「それほど珍しい事ではありませんよ。とある他の作品では、等身大スケールの巨大ロボットがグッズとして販売されていましたから。それは全長400メートルで、月を破壊できるギミックや変形も再現していたとか」


「わぁお、そんなのばかりだと感覚が狂っちゃうよ」


ルリは世界に順応し始めていて、大げさに反応をするほどでも無いという雰囲気で言葉を返していた。

そんな会話をしている間にもイベントの段取りが進行されていき、これから間もなく彼女は今まで経験した事ない出来事に遭遇する。

そしてルリは世界の広さというのを、早押しクイズを通して思い知らされることになるのだった。


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