本部召集
後日、境界保全機関の本部からの呼び出しに応じ、真依と水姫は、車で3時間程かけてG県の山奥へと向かっていた。
当然、運転手はみんなお馴染みの間壁である。
車内では、真依がいつものように、一人で騒いでいた。くろと水姫は、我関せずといった様子で、窓の外を眺めている。
そんな中、人が良い間壁だけが、苦笑いを浮かべながら真依の他愛のない雑談の相手をさせられていた。
ようやく真依が落ち着いたところで、くろが水姫に尋ねた。
「ねぇ、何で干渉者って山奥に拠点を置きがちなのよ 」
「理由は様々だろうけど、干渉者は、霊脈を利用して拠点に結界を張ったりするから、認知されてないパワースポットに拠点を作りがちなのは確かだな」
「ふーん」
くろは、さして興味が無さそうに返事をする。
「ねぇ、霊脈ってなに?」
今度は、真依が会話に割って入る。
「アンタはどうせ説明聞いても、分かんないんだから静かにしてなさい」
くろは、騒々しい車内、延々と続く山道に苛ついていたこともあり、ついつい口調がキツくなる。
「くろちゃんこそ、興味が無いんなら聞かなきゃいいのに」
真依が珍しく、くろに対して反論する。二人が口喧嘩をしているうちに車は目的地へと到着した。
「ほら、お前ら、じゃれてないで、さっさと行くぞ」
「はーい!」
水姫の声掛けに、真依とくろは、今しがたの口喧嘩が嘘のように切り替わり、仲の良い姉妹のように揃って返事をする。
車から降りた一行の前には、立ち並んだ木々の中に、およそ似つかわしくない高層ビルが建っていた。周囲は数メートルはある巨大な鋼鉄のフェンスに囲まれている。
フェンスには僅かな隙間しかなく、中の様子は窺い知れない。正面にゲートが設けられていて、迷彩柄の服を着た自衛隊らしき2人がゲートの両端に立っていた。
「お待ちしておりました。どうぞ、お通り下さい」
自衛隊らしき1人が手を挙げると、ゲートが右にスライドして、真依たちは、すんなりと通された。
「案外、簡単に通れるのね」
「ああ、ここの周囲には結界が張り巡らされてい る。結界とコンピューターを連動させていて、結界通過者の特定が出来る」
「へぇ…便利な世の中になったものね」
「くろちゃんって、なんだかおばあちゃんみたい」
「真衣、うっさいわよ。アンタの髪を全てクルクルパーマにしてもいいの」
「くろちゃんやめてよ~。これ以上、私の髪をイジめないで」
ミズキは、真依たちを一瞥して、ため息をついた。
「お前ら、バカやってないでさっさと入るぞ」
真依たちがゲートをくぐり抜けると、敷地内から現れた別の自衛隊員が誘導を始める。
高層ビルの入り口は、重厚な鉄の扉が取り付けられていた。扉が開くと、細長い通路の先にエレベーターが設けられている。通路内は、無機質で白一色の壁に囲まれていた。
真依たちは、自衛隊員とそのままエレベーターに乗り込み、19階へと到着する。エレベーターを降りた先には案内板があり、ミーティングルームと表記されていた。
「よく来たね諸君。元気そうでなによりだ」
部屋に入ると、九尾討伐で陣頭指揮を執っていた相模辰五郎が出迎えてくれた。
ライオンの鬣のような髪型。2メートルはあろうかという身長に圧倒され、真依とくろが後ずさる。
そんな真依の事など気にも止めず、水姫は親しげに手を振る。
「よぉ、相模のオッサンも元気そうじゃねぇか」
「この人、A樹海で集まった時に前で説明してた人じゃない?九尾も最終的にはこの人が倒したそうよ」
真依にしか聞こえないように、くろが、こっそりと耳打ちする。
「くろちゃんって私と一緒に行動しているのに、どうして私よりいろいろと詳しいの?」
「アンタが気絶している間に聞き出したのよ。頭が足りないアンタの代わりに、私が脳ミソの役割をしてあげてるんだから。感謝しなさいよね」
「くろちゃんってば、また私をバカにして!」
真依とくろが言い合いをしていると、辰五郎が声を掛けてきた。
「君は確か竹取さんだったね。九尾討伐では助かった。君が九尾の尾を一本削ってくれていたお陰で、楽に倒せたよ」
「いえいえ。私なんて全然…」
普段、他人に褒められることのない真依は、赤面し顔を伏せてしまう。
辰五郎は、真依にお礼を言い終えると水姫の方へ向き直る。
「水姫くんも元気そうで良かった。この前はあまり話す時間もなかったから、今日の聞き取りは私が担当するよ」
「別に、変な気は遣わなくていいから」
「その間、私たちはどうすればいいの?」
「そうだね、せっかくだから、もう1人の御三家にも手伝って貰おうか」
そう言い終えると、辰五郎はスマホを取り出し、誰かに電話を掛け始めた。
…数分後、真依たちがミーティングルームにて雑談していると、白シャツに、だぼったいズボンを履いた少年が入室してきた。黒髪の長髪で、いかにも草食系男子といった風貌だ。真依と比べても、さほど歳は変わらないだろう。
「こちらは郡山家、相模家に並ぶ御三家の一つである天草家当主、天草十兵衛くんだ。コミュニケーションに難有りだが、圧倒的な力で7歳には当主に決まっていたスゴい子だよ」
「十…兵衛です…」
十兵衛は、辿々《たどたど》しく挨拶して、軽く会釈する。
しかし…それ以上、彼が言葉を発することはなかった。
「何よこのもやし」
くろが嫌悪感むき出しで悪態をつく。
「 まぁまぁくろちゃん。私は竹取 真依です。よろしくね!」
真依は、くろをなだめつつ、十兵衛に握手を求め手を差し出す。しかし、その手が握り返されることは無く、暫し沈黙が流れる。
いたたまれない空気を察して、辰五郎が間に入る。
「十兵衛くん、ここに籠りっぱなしで退屈だったろ。せっかく、同年代の子と話す機会が出来たんだ。竹取さんの干渉力を測定するついでに、話してみてはどうだい?」
十兵衛は露骨に嫌悪感を顔に 浮かべ声を漏らす。
「ええっ…」
「十兵衛くん、なんだか嫌そうなんだけど…」
「本部も人手不足なんだ、お願いできないかな。自衛隊の一般職員では、干渉力の測定機を起動することすらできないんだよ。頼む…このとおり」
辰五郎は両手を合わせ、十兵衛に頼み込む。
「わかり…ました。竹取さん…こちらへ」
十兵衛は、辰五郎のお願いを渋々承諾する。さっさと測定を済ませたいのか、足早に真依を別室へと案内する。
十兵衛の様子に、多少の不安を覚えつつも、真依はその後に続いた。
10階へと案内された真依の目に、研究室と書かれているフロアの案内板が映り込む。
先へ進むと、長い通路にいくつもの扉があり、その中の測定室と書かれた一室に十兵衛は真依を案内する。
部屋の中には、部屋一面に何かの機械が敷き詰められていた。促されるまま、真依は部屋の中央に設置されたリクライニングの椅子に座らされた。
「もっと…リラックス…して」
そう言うと、十兵衛は、真依の頭に仰々しいヘルメットのような機械を被らせる。その機械からは壁の機材に繋がる無数のコードが伸びていた。
「なにこれ?頭に変な感じがする」
「少しの…間だから…我慢して」
不安を覚える真依を残し、十兵衛は別室へと移動する。直後、真依の頭に装着された装置が赤い点滅と共に機会音を発す。
ものの数分で測定は終り、勢いよく十兵衛が部屋の扉を開け、飛び込んできた。
「竹取さん、スゴい数値がでているよ。これは九尾の尻尾を削れるわけだ」
十兵衛が、ここ一番のテンションで真依に詰め寄る。
真依は十兵衛のテンションに圧倒されながらも、無事に干渉力の測定が終わったことに安堵する。
真依たちが、再びミーティングルームに戻ると、水姫が誰かと言い争っていた。
「ちょっとアンタなんなの。ここの職員でもないのに、なんでそんなに偉そうなのよ!」
その相手はどうやら女の子のようで、髪はピンク色でツインテール、水色のワンピースをはためかせながら水姫に食って掛かっていた。
「お前こそ誰だよ。うっせぇな、俺は品の無い女がキライなんだよ」
「誰が品が無いですって!」
「こらこら、お二人さん落ち着いて」
辰五郎が、あたふたしながらケンカする2人をなだめていた。
「相模のおっさん。俺はいたって落ち着いている。それより、こいつのほうを止めてくれ」
「アンタが私の特等席に座ってるのが、いけないんでしょ?」
「特等席ならちゃんと名前でも書いとけよ。ピンク頭の席ってさ」
「ちょっとアンタ、私のアイデンティティーをバカにしないでよ!」
2人のケンカは更にヒートアップしていく。
そんな時、警報のような音と共にアナウンスが鳴り響く。
「警告です。侵入者あり。侵入者あり。結界にて個体情報識別。複数名の干渉者と数十頭の魔狼を確認」
「侵入地点は本部から3km。北、西、南の3方向から此方へと向かっています」
「魔狼ってことは獣聖会の連中か。とうとう本部まで嗅ぎ付けてくるとは。水姫くん、申し訳ないが手伝ってくれないか」
「報酬さえくれれば、別に構わないぜ」
真依はいまいち状況が飲み込めず、辰五郎に質問する。
「じゅうせいかい、ってなんですか?」
「簡単に説明すると、国家転覆を企む宗教団体だよ。彼らは狼を神聖化していて、日本でも狼の討伐の際に反対運動を起こしていた。その時の事を恨んでいて、思想に賛同しない者は皆殺しにしている」
辰五郎は、真依事情を説明して、すぐさま全体に指示を出す。
「とりあえず、敵の補足情報をゴーストハンターに送ったから持ち場に着くまで確認してくれ」
「水姫くんと姫乃くんは西、十兵衛くんは北、私は南を抑える。自衛隊の職員には本部の防衛を命令しておく」
辰五郎が的確に指示を出すと、各自、出撃の準備を開始する。
水姫と姫乃と呼ばれた少女は、互いににらみ合いながらも、 一足に先に、西へと向かう。
そんな中、真依だけは蚊帳の外であった。
「あの…私はお留守番ですか?」
「竹取さんはもともと一般人だし、出来れば巻き込みたくない」
辰五郎は真依に、ここで待機するよう促す。
「私、戦えますよ。狐さんの時より危ないなんてことはないんでしょ?」
「確かに九尾より手強いなんてことはないだろうけど…」
躊躇っている辰五郎に、十兵衛が声を掛ける。
「僕からも…頼みます。責任を持って護ります…から。どうしても、竹取さんの干渉力を…見てみたいです」
「仕方ない、君らがそこまで言うなら任せるよ。竹取さんは十兵衛くんについていって。決して無理はしないように」
十兵衛の後押しもあって、急遽、真依も参戦することとなった。
「では各自、検討を祈る」
「はい!」
真依と十兵衛も準備を整え持ち場へと向かった。




