掟
日本は古来より、干渉力を利用して戦が繰り広げていた。
そもそも、干渉力と定義されたのは、第二次世界大戦直後であり、それまでは、仏教でいう神通力、陰陽道でいう呪術など、多様な呼び方をされていた。
時代の流れと共に超能力、異能力など、超常的な力は、あらゆる名を冠することとなる。
世界各地、呼び方は違えど超常の力、すなわち干渉力を扱う上でのメソッドは今も昔もなんら変わっていない。
人間の《《感情》》こそが干渉力の根源なのである。
郡山家も干渉力全盛期に覇権を握っていた名家の一つで、力は衰えたものの、現代まで、血筋を絶すことなく、御三家の一つとして君臨していた。
そんな郡山家には鉄の掟が存在する。
一つ、宗家、分家に子を授かった場合は、名に水に準ずる字を刻むこと。
二つ、以下の掟は当主が長子を授かるまで、伝えてはならない。
三つ、宗家の長子は生まれ落ちた時点で親から蛟を受け継ぎ、誕生したその時点から当主となる 。ただし、成人するまでは前当主が政を代行する。
各一族は力を高める為に、偶像の神を創り信仰させた。
信仰心や神のイメージを統一することにより、干渉力を集約し土地神を創り上げていた。
ただし、この事実は、ごく限られた一部の者しか知らない。
神が人を創ったのか、人が神を創ったのかを議論する者など、それこそいなかった。
神が人によって生み出れた事が知られれば、たちまち信仰心が揺らぎ、干渉力を集約できず、土地神の力も弱まってくる。
それを防ぐ為にも各一族は掟を設け、その干渉力を強固なものにしていった。
郡山家は生まれた子どもに、水に準ずる名を刻むことにより、一族の者が扱える干渉力を水に関する能力に統一した。
干渉力を扱える素質は、血統や遺伝など先天的な要素が大きい。
そして、干渉力の内容を決めるのは、育成環境や趣味嗜好など後天的な要素が大きいとされている。
ただし、例外も存在する。
生まれた子どもの干渉力に対して、一族内でイメージを統一し、同系統の能力に半強制的に書き換えることができる。
加えて、子ども自身も一族という環境内で育っていく内に、干渉力にかんするイメージも自然と同一のものに定まってくる。
干渉力こそが、一族の証であり、力の象徴であった。
こうして、郡山家は力を拡大し、蛟という土地神を創り、象徴として崇め奉っていた。
郡山家25代目当主。郡山海斗、17歳の夏。
容赦ない日差し。耳障りな蝉時雨。世の学生は夏休みだ。
海斗は薔薇色の高校生活も送れず、中学を卒業してからは毎日、当主たるべく、地獄のような修行を行っていた。
郡山家の境内から近場の町まで、常人が歩いて半日は掛かる。
海斗は修行の一環で、自宅から町まで走り、日に50回往復し、滝行や干渉力の鍛練など、彼に自由な時間など存在しなかった。
もともと、自由を愛する性格も相まって、海斗は自身の境遇に嫌気がさしていた。
「なにが当主だ。なにが修行だ。今時、干渉力なんて古いんだよ。近代兵器が凄すぎて干渉力が戦争に使われることも、今では殆どなくなった」
「第二次世界大戦にだって導入されなかった。無能力者でも銃を持てば、そこら辺の干渉者より、よっぽど強くなるからな。戦後、平和になった日本で、今さら俺が当主になって、何をしろっていうんだよ!」
「修行なんかやってられるか」
海斗は隙を見計らっては山から抜け出し、町まで下りサボっていた。
この時既に、海斗は歴代最強とまで言わしめており、一族内でも彼を止める事の出来る者は、父の瀑両ぐらいのものであった。
町まで遊びに出たはいいが、お金もなく、する事もない。
海斗は暇潰し興味本位で近場の高校に侵入していた。
「夏休みの昼間だというのに、意外と人が多いんだな」
高校では部活動の生徒たちが、グラウンドで練習をしていた。
「このクソ暑いのによくやるよ。せっかくの青春なんだぜ。彼女や友達と遊べばいいのに」
適当に校内を散策していると、海斗の背後から、凛とした女性の声に呼び止められる。
「そこのキミ止まりなさい。あなた、ここの学生ではありませんね」
「すみません。すぐに出ていきます!」
海斗は慌てて声のする方へ振り向くと、そこには赤毛でポニーテールの女子高生が運動着姿で立っていた。
「あれ…アキか?」
「久しぶりねカイト。中学を卒業して、音沙汰がないと思っていたら、まさか、不審者にまで成り下がっていたなんて」
「誰が不審者だ。アキこそ、昔はガキっぽかったのに、こんなに実って…」
海斗は、アキの豊満な胸に目をやる。
「不審者じゃなくて、変質者だったのね。すぐに通報するからそこを動かないで」
「まてまて、冗談だって」
彼女の名前は西川アキ。中学生だった頃に、よく遊んでいた友達だ。
郡山家といえば地元は知らぬ人がいない程の名家だ。
周囲の人間は名前を聞いただけで、恐れ敬い、距離を置き、そんな海斗と友達になるような、物好きはそうそういなかった。
アキ以外に、もう一人そんな物好きがいた。
亀井逢海。
大人しく温厚な性格で、いつも海斗とアキの喧嘩を仲裁していた。
「アキ。オウミは元気にしてるのか?」
「それがね。中学を卒業して引っ越したらしいのよ。びっくりよね。私たちに何も言わないで」
「そうか。別れを告げるのが辛かったのかもな」
「それを言ったら、カイトだって、今日まで何の連絡も無かったじゃない。家の事情もあるんだろうけどさ…」
アキは憂いの表情を浮かべ、視線を落とす。
「悪かったって。今日は部活か?終わったら久しぶりに話でもしないか」
「仕方ない付き合ってあげよう。今日の部活は自主練だから適当なとこで切り上げるわ。ちょっと待ってて」
口では仕方ないと言いつつも、アキは鼻歌まじりに去っていった。
それから海斗とアキは定期的に会うようになり、二人は恋仲になった。




