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ボーダレス  作者: 那須 儒一
第二章 金毛九尾討編
18/32

孤立

 水姫みずきの目の前で信也しんや真依まいが樹海の中へと消えていった。


「クソッ!俺のミスだ。やっぱり竹取たけとりさんは連れて来るべきじゃなかった。あのバカ《信也》も、すぐに樹海の中に飛び込みやがって!」


 水姫みずきは自分の額を拳で殴り、一旦、冷静になるよう努める。


 軽く深呼吸をして朝水あさみの方へと向き直る。

朝水あさみ、当主を危険にさらすわけにはいかない。お前はここに残ってろ」


間壁まかべさんは俺と来て下さい」


朝水あさみ様。坊っちゃんに付き添っても宜しいでしょうか?」


「いいですよ。間壁まかべさん。兄さんを頼みましたよ」


「承知致しました」

 間壁まかべ朝水あさみへお辞儀をすると、樹海に突入する準備を整える。


「待ちたまえ。君たち2人だけでは危険だ。蟒蛇うわばみくんをチームに加えたまえ」

 そこへ、一部始終を見ていた辰五郎たつごろうが、蟒蛇うわばみを引き連れ水姫みずきたちに話し掛ける。


「わかった。俺は誰と組んでも構ない」


「ワシも構わんで」


 水姫みずきたちの承諾を得ると、辰五郎たつごろうは全体に、任務開始の合図を出す。

「全チームに次ぐ。標的を発見し次第、発煙筒をあげろ。無理はするな。準備が整ったチームから突入せよ!」


「オッサン。アンタの命令なんか無くても突入するさ」


 水姫みずきたちは合図を待たずして、既に樹海の中へと飛び込んでいた。


 想像していた以上に樹海の中は暗く、無音である。


 木々をかきわけ前へと進む水姫みずきであったが、突入して数秒で違和感を感じた。


「ん?」

 水姫みずきが周りを見回すと、一緒に突入したはずの間壁まかべ蟒蛇うわばみの姿が見当たらない。


「結界の能力か…。こうも簡単に分断されるとは…。蟒蛇うわばみは危ないかもしれないが、間壁まかべさんなら1人でも大丈夫だろ。とにかく竹取たけとりさんを見つけるのが先だ」


 水姫みずきは口に指を咥え、指笛を鳴らした。


蒼天そうてん制覇せいは

 空気が震え、甲高い指笛の音が鳴り響く。


蒼天そうてん制覇せいは

 ※自身で発した音で、大気中の水の分子にくさびを打ち込んでいく。水の分子が物体の輪郭を捉えることにより、大まかな地形や動きのあるものを把握することができる。

 欠点として湿度によって、感知精度にムラがでること、他者の干渉力かんしょうりょくの影響で誤差が生じやすい。

 また、音が届く全ての範囲の水の分子にくさびを打ち込む為、干渉力の消費が大きい。


「くそっ!くろの結界の時は使えたけど、ここだとほとんど感知できねえ。いまいち結界の能力がわからん。まやかしのたぐいか…、それとも地形自体を造り替えていっているのか?」


「かなり消耗するが、いっそのこと雨でも降らして湿度を上げるか…」


 水姫みずきは独り言のように呟きながら、次の手を考えていると、周囲に違和感を感じた。


「なんだ…?」

 風は止み。時が止まったとさえ感じられるほど、辺りを静寂せいじゃくが包む。


 水姫みずきは何かの気配を察し背後を振り向く。


 振り向いた数メートル先に、白装束の女性が立っている。黄土色おうどいろの長い髪からは狐の耳が生えていた。


「九尾か…」

 水姫みずきは一目見て討伐対象だと理解し、自然体で相手の出方を窺う。


 九尾の尻尾が1本しかないことを疑問に思う水姫みずきであった。


 低く、くぐもった女性の声で九尾は話し掛けてきた。

「ここにも上玉がおるわい。今日は祭ごとかえ?」


「祭といえば祭だな。ただ…アンタを仕留める為の祭だけどな!」


 水姫みずきは自身の恐怖を相手に悟られないよう、軽口で返答し即効で攻撃を仕掛ける。


 水姫みずきは両手をおもいっきり地面についた。


蒼槍そうそう竜起りゅうき

 九尾の足元から硬化された水の槍が数本飛び出す。


 九尾が片腕を振り、容易く槍を薙ぎ、水の槍が砕け散る。


蒼弓そうきゅう竜牙りゅうが

 九尾の意識が水の槍に向いているうちに、水姫みずきは特大の弓でげきを射る。


「これは信也しんやに撃ち込んだのとは比べものにならない威力だぜ」


 前回、闘った時、強気に出ていた水姫みずきであったが、信也しんやを、ある程度殺さないように手加減していた。


 水姫みずきの目論見通り、げきは九尾の胸部を射ぬいた。


 しかし、げきは九尾を貫通したものの、九尾はそれを引き抜き、空いたあなはすぐに塞がる。

「なんじゃ。うぬの力はそんなものかえ」


 水姫みずきが次の攻撃を繰り出す前に、九尾は水姫みずきな目の前まで間合いを詰めていた。


そうと…」

 水の刀を形成しようとしたが、九尾の片腕に弾き飛ばされ、次の瞬間、水姫みずきの体は宙を舞っていた。


 数十メートル吹き飛ばされた水姫みずきは、岩に激突した。


「ぐはっ!」

 咄嗟に衝突する岩にくさびを打ち込み、衝撃を最小限に抑えた。


 九尾は余裕の笑みを浮かべ、水姫みずきの元へと歩み寄る。


「さすが4次元クラス…。瞬間火力の高い技で一時的でも4次元まで力を高めれば、勝機はあるか」


「うぉぉぉぉ!」

 水姫みずきは声帯を振り絞り雄叫びをあげた。


「良いのう。その怯えた表情、たまらぬわ」


 九尾が艶やか声を出し、水姫みずきの元へゆっくりと近付いている。

「そろそろ喰ろうてやろう」

 九尾は卑しい笑みを浮かべ、尻尾を揺らす。


「さて喰われるのはどっちかな」

 余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》の九尾は水姫みずきの攻撃など、大したことないと、高を括っている。


 そこに、勝機を見出だした水姫みずきが攻撃を仕掛ける。


蒼天そうてん降魔こうま

 九尾の頭上から、水で出来た竜の頭が口を空け襲いかかる。


 先程の雄叫びで大気中の水分子にくさびを打ち込み、仕込んでいたのだ。


「そんなもの、当たらぬわ」

 さすがの九尾も危険を察知したのか、攻撃を避けようとする。


蒼鎖そうさ自戒じかい

 水の鎖が地面から出現して、九尾の足に巻き付き、地面に繋ぎ止める。

「ぬっ!なんじゃ足が動かぬ」


「さっきの会話の最中に鎖を仕込んだんだよ。油断したな九尾」


「このようなもの…」

 九尾は鎖を引きちぎるが、間に合わず竜の頭部に喰われる。


 その衝撃で大地が揺れ、水しぶきが周囲の木々をえぐる。


「ふぅ…。何とか片付いたか」

 水姫みずきは安堵のため息をつき地面に座り込む。


「ヴォォォォ!」

 一息ついたのもつかの間。九尾は先程の姿とは別の“化物”になっていた。


 身に付けていた白装束の服は破れ、数メートルはあろうかという狐の姿へと変貌していた。


「やっぱ無理だったか…」

 水姫みずきは発煙筒を焚き、目の前に放り投げる 。


「さっさと発煙筒を焚いとくべきだったか」

 水姫みずきは死を覚悟し構えを解いた。


 そして、九尾はうなりながら、水姫みずきに飛びかかってきた。


 しかし、九尾の牙が水姫みずきに届く前に、辺りが光に包まれ大地が揺れる。


「何だ!?いったいどうなってる」


 九尾は突然苦しみだし、苦悶の表情で顔を歪めている。

「グゥゥ…。一本殺られた。許すまじ」


 そう言い残すと九尾は煙のように消え去った。


「何だ…。逃げたのか?」


 別の方角で膨大ぼうだい干渉力かんしょうりょくが爆ぜた。


 理由は不明だが、とにかく助かったと安堵する水姫みずきであった。


 九尾の発言を考慮すると、自分の尾を媒介に九つに分裂したのだろう。


「九分の一であれほどの干渉力ちからを有しているのか…。マジで化物だな」


「発煙筒を焚いたのにオッサンの奴、こねぇじゃねぇか」


 水姫みずきは愚痴をこぼしながらも、歩きだした。少し動くだけで、体中に激痛が走り、服もボロボロだ。


 先程の干渉力かんしょうりょくの暴発に真依まいの気配を感じた。


「このままじゃ、竹取たけとりさんが危ない!」

 水姫みずきは九尾を追い、走り出した。


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