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ボーダレス  作者: 那須 儒一
第二章 金毛九尾討編

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蛇花

 信也しんやと別れた蟒蛇うわばみは、結界の外へ逃げようと、気絶したかなめを肩に抱え走っていた。


「あれ。私、気絶していた?」


「おっ!気いついたか」


 意識が戻ったかなめは、蟒蛇うわばみの強烈な糸目の顔を間近に見て驚く。


「ギャー!化け物~」



 蟒蛇うわばみは肩の上でジタバタと暴れるかなめを落とさないよう抱えながら、決して足は止めなかった。

「誰が化け物や。ワシは蟒蛇うわばみいうもんや」


「…あなたは確か生司馬いくしまくんといた…。あれ、そう言えば生司馬いくしまくんは?」


「ああ、あいつなら九尾のとこへ行ったで」


「きゅうび?」


「そうか、嬢ちゃんは一般人やったな。そういえば他にも一般人が結界に取り込まれとるんやろ?」


「よく分からないけど、旅館に私のパパとママがいる。いきなり木に囲まれたの」


「わかった。そっちはワシが何とかする。とりあえず嬢ちゃんを一旦テントまで避難させるから」


 蟒蛇うわばみは人を抱えているとは思えない速度で走り続けている。


 かなめ蟒蛇うわばみの左肩から先が欠損し出血していることに気付いた。


蟒蛇うわばみさん、肩から血が…」


「このくらい心配いらんで。嬢ちゃんはボーイフレンドと家族の心配だけしとき」


「ボーイフレンドってそんな。私と生司馬いくしまくんは、まだそこまでいってないよ」


 声に変化は無いが蟒蛇うわばみの顔色は優れず、どんどん青白くなる。


蟒蛇うわばみさん、せめて左肩の止血してからでも…」

 かなめがそう言おうとした時、蟒蛇うわばみの左肩に草が巻き付く。


「うぉ!なんやこれ」

 蟒蛇うわばみは驚き、立ち止まって左肩を確認する。

「こいつは弟切草おとぎりそうか。まさか嬢ちゃんの干渉力ちからか?」


 巻き付いた弟切草おとぎりそうにより、蟒蛇うわばみの左肩の出血は治まり、傷口も塞がった。


「私にもわかんないよ。でも血が止まったみたいだね」


「この弟切草おとぎりそう干渉力かんしょうりょくで止血効果の底上げがされとる。まさか全て具現化させたんか」


 蟒蛇うわばみは一人で納得した表情を見せ、気を取り直し走り出した。


「取り敢えず助かった。今、ワシの蛇たちに周囲を探らせとる。テントか旅館が見付かるのも時間の問題や、ただ…この結界のせいで出口がようわからんわ」


 かなめは旅館の朝顔あさがおを生やしたのは自分かもしれないと薄々気付き始めていた。


「嬢ちゃん。ワシの蛇たちが旅館を先に見つけたみたいやで。すぐ近くやから助けに行くで」


「うん、わかりました。お願いします」


「うぉ!凄い数やな」


 朝顔あさがおつたで覆われている旅館の周囲に黒い人影が群がっていた。


「さあ、みんな、行くで!」

 蟒蛇うわばみが合図をすると、何処からともなく蛇の大群が現れ、黒い人影は瞬く間に蛇に呑まれていった。


「すごい…」


「みたか。ワシの力!」


「うん、すごい!気持ち悪い」


「気持ち悪いとは何や。嬢ちゃんには蛇の素晴らしさがわからんのか。今度、たっぷり教えたる」


つうしんでお断りさせていただきます。って、こんなことしてる場合じゃない。蟒蛇うわばみさん、旅館を覆っている木はどうにかなりませんか?」


「どうにかって言われてもなぁ。ワシもそろそろ力の限界や。むしろ嬢ちゃんのほうが適任かもしれん」


「どういうことですか?」


「嬢ちゃん。あのつたに触れてみ、そんで、つたが還るのをイメージしてみいや」


「還るって、意味がわからないんですけど…」


「そうか。なら枯れるとかでもええ。とにかくつたが無くなるイメージをしてみ」


 かなめは半信半疑になりながらも、つたが枯れるイメージをしながら、旅館を覆うつたに触れる。


 すると、つたは枯れ、朽ちて跡形も無くなった。


「嘘…」

 かなめはそれ以上言葉が続かなかった。


「よし!とりあえず中に入るで」


 かなめは言われるがまま、蟒蛇うわばみと旅館の中へ入った。


 旅館のエントランスにはかなめの父親と母親、数名の旅館のスタッフが集まっていた。


かなめ、無事だったの?」

 かなめの母親が、走ってきてかなめを抱きしめる。


かなめ。この方は?」

 父親が蟒蛇うわばみに気付き。いぶかしげに睨んでいる。


「この人は蟒蛇うわばみさん。私を助けてくれたの。怪しい人じゃないよ。いや、見た目は怪しいけど、不審者じゃないよ」


「嬢ちゃん。そんな誤解を招くような紹介はやめてえや。ワシは蟒蛇うわばみいいます。嬢ちゃんに頼まれて助けに来ました」


 蟒蛇うわばみがそう言うと、旅館の女将もこちらに駆け寄ってきた。

「いきなりで申し込ございませんが、外には出られるですか?突然、つたに覆われて、閉じ込められてたんです」


「いいや、今は出らん方がええで。旅館の中にいるのが安全や」


「いったい何が起こってるんですか!」


「説明すると長くなるからな。妖怪が出たっていうので納得してぇな」

 蟒蛇うわばみはそう言うと、自分のズボンのベルトを外しだした。


蟒蛇うわばみさん何を?」


 蟒蛇うわばみさんはベルトを床に落とし、ポケットから釘を出し、素手で外したベルトを地面に打ち付けた。

家守神やもりがみ青大将あおだいしょう


 不思議な事にベルトが煙のように消えた。


「しばらくは青大将あおだいしょうが旅館を護ってくれる。この人数を無事に結界から出すのは無理や。ワシらは救助を待つしかない。後は頼んだで相模さがみのオッサン」


 そのまま、蟒蛇うわばみは地面に倒れ込んだ。

 慌ててかなめが駆け寄り様子をみる。

 気を失っているだけだと気付き安堵の溜め息が漏れる。


 異常事態のせいか、誰も蟒蛇うわばみの状態に気付いていなかった。


「この方、ひどい怪我ですね。誰か空き部屋で手当てをお願いします」

 女将の掛け声で何人かの男性スタッフが蟒蛇うわばみを担いでいった。


「電話も繋がらないので、私が助けを呼んできます」

 青年スタッフが旅館の外へと出ようとする。


 扉を開けたとこで、目の前には巨大な蛇が仁王立におうだちしていた。

「ぎゃあああ」


 驚いた青年スタッフは慌ててドアを閉める。


「皆さん旅館からは出ないようにお願いします」

 この蛇は、蟒蛇うわばみが出してくれたものだと気付いたかなめは、そう告げると蟒蛇うわばみさんの様子を見に奥の客間へと向かった。


 かなめの父親と母親は状況が飲み込めず、しばらくその場に立ち尽くしていた。

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