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ボーダレス  作者: 那須 儒一
第二章 金毛九尾討編

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思わぬ再開

 一方、信也しんやは空へと立ちのぼる赤い煙を目指し、手近な煙の元へと向かっている最中であった。


「くそっ!一旦、地面に降りると煙の位置がわからなくなる」


 位置がわからなくなっては木に登って降り、わからなくなっては登って降りるを繰り返していた。


 効率の悪さに苛立ちを覚えながらも、真依まいを見付ける為、余計なことは考えないようにしていた。


 薄暗い樹海の中で、てのひらが赤く発光していることに気付く。そこには、方位磁針の針のようなものが浮かび上がり、一点を指し示していた。


 すぐに発煙筒の干渉力ちからだと察した信也しんやは、矢印の指し示す方向へと駆け出す。


「きゃ~!」

 突然、樹海の中にこだまする叫び声。

 こんなこと前にもあったなと感慨かんがいに浸りながらも、悲鳴の出所へと駆けつける。


 そこには、黒い影が何かに群がっていた。


真依まい!」

 黒い影を手当たり次第、殴り飛ばし蹴散らすと…そこにいたのは真依まいではなく、どこか見覚えのある少女であった。


 少女は震えながらうずくまっていた。


「あれ?キミは確か…」


 見覚えのある、小柄な少女が顔を上げた。


 …しばしの沈黙が流れた。

 その少女も信也しんやの顔を見て声を上げる。


「あれ、…もしかして、生司馬いくしまくん?」

 見覚えのある少女は突然、抱きついてきた。


「ちょっ!落ち着けって…もう大丈夫だから」

 女性経験の少ない信也しんやには、こういう時の適切な対応が分からず困惑していた。


 こんなこと前にもあったなと思い返しながらも、少女を引き離し、改めてその顔を良く見る。


 林檎りんごの輪郭を思わす髪型で、小柄こがらな少女は、涙で顔をくしゃくしゃにしていた。


「もしかしてかなめさん?」


 くろに襲われたあの夜も、はっきりと顔を見た訳ではないが、そもそも信也しんや真依まい以外で、知り合いと呼べる女子は、悲しい事にかなめぐらいしかいなかった。


 かなめは涙をぬぐい呼吸を整えてから言葉を切り出す。

信也しんやくんありがとう。また私を助けてくれたんだね」


「それよりかなめさんは、どうしてこんなところに?」


「夏休みに入って家族で旅行に来ていたの…。A樹海近くの旅館に泊まってたんだけど、散歩していたら、黒い影が…。そしたらいきなり旅館が森に囲まれて…必死で逃げて」


「ヤバいよ!お父さんとお母さんが大変。どうしよう、どうしよう」

 かなめは混乱していて、話の内容も支離滅裂だ。


「落ち着いてかなめさん。お父さんとお母さんはオレが何とかするから、取り敢えず一旦、樹海を出よう」


 真依まいの事も心配だったが、かなめを連れたまま、捜すのはあまりにもリスクが高い。


 そう判断した信也しんやは、やむなく真依まいの救助を断念する。


 かなめを安心させるべく、樹海から出ようと言ったはいいが、自分の位置すら分からない現状に、正直お手上げであった。


 どうしたものかと考えあぐねていると、突然、周囲の木々がうごめきだす。


 如、木々の隙間から無数の黒い人影が這い出てきた。


「きゃあ!また来た」


「まずいな。これだけの数をかなめさんを守りながらさばけるか?」


かなめさん、急いでオレの後ろに」

 そう言うと、かなめは、慌てて信也しんやの後ろに隠れ、背後からシャツを掴む。


 信也しんやかなめを巻き込まずに、干渉力かんしょうりょくを顕現しようとイメージを固める。


 干渉力ちからを周囲に拡げるように絞り出す。


「うおぉぉぉぉ!」

 信也しんやが左右に両手を振り払うと白い霧がほとばしる。


「どうだ?」

 信也しんやが背後を見やるとかなめは身を縮めているだけで、巻き込んではいないようだ。


 すぐさま周囲を見渡したが、黒い影は健在で信也しんやたちのすぐ側まで来ていていた。


「ダメだ…かなめさんを傷付けまいと、干渉力かんしょうりょくが弱めすぎたか?」


 信也しんやは一網打尽を諦め、黒い影を一体一体、確実に拳で仕留めていく。


「きりがない!黒い影の処理が追い付かねぇ。オレは大丈夫だが、このままだとかなめさんがヤバい」


 信也しんやの背後で、かなめは震えながらうずくまっている。


 黒い影の手が彼女に触れる寸前だ。

 慌てて周囲の黒い影を殴り飛ばすが、間に合わない。


「くそっ!やめろ!」

 信也しんやの叫び声も虚しくかなめさんは黒い影に呑まれていく。


 そんな時、巨大な何かが、かなめごと黒い影を丸呑みにした。


 驚くことに数メートルはあろうかという、巨大な大蛇だいじゃ信也しんやたちを見下みおろしていた。


 大蛇は口から丁寧に何かを吐き出し、地面に置いた。


 吐き出されたものは、蛇の唾液でベトベトになったかなめであった。


「うげ~!何これ…臭いしベタベタする」


 かなめは起き上がり体の唾液を振り払う。

 どうやら怪我はないみたいだ。


「この大蛇はいったい何なんだ」

 信也しんやの疑問はすぐに解消されることとなる。


「すまんすまん。咄嗟とっさやったから勘弁してぇや」

 大蛇が煙のように消えると、そこには蛇顔の青年が立っていた。


「あんたは…確か高橋たかはしさん!」


「誰が高橋たかはしや!ワシの名前は蟒蛇うわばみや。よりよって、郡山こおりやまの坊が間違えた方の名前で覚えよってからに」


 ツッコミの勢いはいいが、蟒蛇うわばみの足元はふらついていて、立っているのがやっとのようだ。


 蟒蛇うわばみ体には以前会った時には付いていた、左腕が失くなっていた。


蟒蛇(うわばみ)さん、その腕…」

 それ以上は言葉が続かなかった。


やっこさんはかなり厄介や。ワシ以外にも仲間がいたけど、皆やられてしもうたわ。命からがら逃げ出したってわけよ」


 その時だった。一瞬、辺りが明るくなる。

 直後、激しい衝撃音と地響きで、信也しんやは転びそうになる。


「いったいなんだ!」


「とてつもない干渉力が向こうでぜたで。誰がが九尾と戦いよるな。ワシも加勢に行きたいんやけど、心が折れてしもうとる」


「もしかして真依まいか…」

 何故か信也しんやの中に、この干渉力かんしょうりょくの主が、真依まいだという可能性が浮上する。


「直ぐにでも駆けつけたいけど…」


 信也しんやはそう言いながらかなめに目を向けると、今の衝撃で気を失っていた。


蟒蛇うわばみさんお願いがあります。この子は一般人の方で巻き込まれたみたいです。九尾の方はオレが加勢に行きますので、この子を逃がして下さい」


 音源地へ進もうとする信也しんや蟒蛇うわばみが残った方の手で制止する。

「いやいや。止めといた方がええって。あんさんがどれだけ強いかは知らんけど、金毛九尾きんもうきゅうびは伝説の大妖怪やで」


「ワシも様子見で挑んだだけで、この有り様や。あれは人様が敵う相手やない。無駄死にする必要はない」


蟒蛇うわばみさんって第一印象は感じ悪かったですけど、意外と善い人なんですね。オレのことなら心配無用です」

 信也しんやはそう言うと、覚悟を含んだ笑みで蟒蛇うわばみに見せた。


「忠告はしたからな。取りあえず、この子は任せとき。責任を持って、結界の外まで連れ出すから」

 蟒蛇うわばみはそのままかなめを担いで走り去った。


「急いで加勢に行かねえと」

 信也しんやは先程の音がした方へ駆け出した。

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