夢想
信也たちが、相模 龍五郎との会話に集中していたとき、何処からか真依を呼ぶ声がした。
真依は、声の主に呼び寄せられるように樹海へと歩みを進める。
くろが途中で異変に気付き止めようと叫ぶが、その声が真依に届くことは無かった。
次の瞬間、真依は日光すら遮る樹海の中に、ポツリと1人、佇んでいた 。
『まい!』
くろの叫び声で、真依の意識は覚醒する。
「何これ…」
辺りを見渡すいくつもの黒い人影に取り囲まれていた。
その一体が真依のフリルスカートに手を掛ける。
状況が飲み込めず、呆気に取られていた真依であったが、突然自身の髪が伸び、黒い人影を弾き飛ばした。
『まい、立ちなさい!逃げるわよ』
くろの声で気合いが入り、慌てて黒い人影を振りほどき逃げ出した。
「ありがとう!くろちゃん」
『守護霊なんだから、当たり前よ。お礼はいいから急いで!』
黒い人影たちはゆっくりとだが、確実に後を追ってきている。足場が悪いのか、この環境のせいかわからないが、足がもつれ思うよに逃げれない。
「くろちゃんどうしよう。追い付かれそう。あの人たち倒しちゃダメかな?」
『止めときなさい。あなたの干渉力は燃費が悪いんだから…。それに運要素が強い過ぎる。上手くここを凌げても、後が大変になるわよ』
「でもこのままじゃ…」
真依はいつでも干渉力を使えるよう水姫と朝水との練習を思い起こす。
~回想~
朝水は、真依と信也に白い小石を手渡す。
「まずは得意とする干渉力の系統を見極めましょうか」
集中力に欠ける真依は、朝水の話はそっちのけで、小石を太陽に掲げ透かしてみる。
そんな真依が注目するように、少し声のボリュームを上げて朝水は説明を始める。
「これは干渉者が作った干渉具というものです。干渉力には大きく別けて2種類、内干渉と外干渉があります」
「内干渉は自分の内側から干渉力を顕現し、外干渉は自分の体外の物質に干渉力を作用させる」
「特徴として、内干渉は高出力、高燃費。外干渉は低出力、低燃費な点です。ただし、これは干渉者自身の干渉力の総量にもよりますし、例外もあります」
「干渉って言葉ばっかりで意味がわかんないよ」
国語が苦手な真依は、朝水の説明を理解するのに、数回は同じ話しを聞く必要があった。
「とりあえずこの石を上に投げて下さい。この石は干渉力の影響を受けやすい性質になっています。内干渉に偏っていれば石は砕け、外干渉に偏れば石は地面にめり込みます」
「ちなみに私は外干渉よりなので、投げるとこんな風に地面にめり込みます」
朝水が投げた石は、その言葉通りの状況になっていた。
真依たちは促されるがまま石を真上に投げた。
真依の石は接地したと同時に砕ける。
信也の石は何故か地面にめり込み砕けた。
「予想通り面白い結果ですね。竹取さんは内干渉。生司馬さんは両方の力が均等に作用している。ちなみに干渉力の弱い一般人だと、石とその周囲の環境に変化を及ぼすことはありません」
「さて、まずは干渉力を扱うことに慣れていきましょうか」
その日から、水姫と朝水が交互に修行につく。
水姫との特訓は、周囲の環境に対して自分の干渉力を流す。
具体的には水で打ち上げられ、無傷で着地すること。
外干渉であれば、接地の瞬間に地面に干渉力を流し、地面からの抵抗を減らす。
内干渉であれば、自身の肉体に干渉力を流し、骨密度、筋肉、皮膚の厚さなどの増強が求められる。
もともと体育が苦手で、体力が続かなかった真依には、なかなかにハードな特訓だ。
そんな真依を見かねて、水姫が自身の白髪を掻きながら、アドバイスする。
「竹取、干渉者の特徴として、内干渉に秀でた者は自己愛が強く。外干渉に秀でた者は所有欲が強い傾向にある。俺が水で打ち上げたときに自分自身に意識を向けろ。生育環境のせいかわからんが、人目を意識し過ぎている」
まさか、こんな特訓で自分の事を見透かされると思って無かった真依は、恥ずかしくなり、頬が紅潮する。
「竹取さんは本来、利己的な人間だ。そこを肯定して、もっと欲望を剥き出しにしろ!」
「そんなこと言われても急にはできないよ」
その後、何度も噴出する水で宙へと打ち上げられた。
朝水との特訓では、干渉力の開発に取り組んでいた。
「竹取さん。趣味や好きなものはありませんか?」
「うーん。好きなものはシンヤくんです。趣味は…何だろう。寝てる時が一番楽しいかも」
朝水は哀れみの眼差しで真依を見る。
それに気付いた真依は精一杯の言い訳をする。
「だって夢を見てるときが一番幸せなんだもん。現実なんて寂しいだけじゃん」
半ば怒ったように朝水に訴えかける。
「うんうん。竹取さん良い傾向だよ。干渉力を扱うには、自分を知ることが大事ですから」
その後も、2人との修行は続いた。
~回想終了~
「私は幸せになりたい。他の子みたいに居場所が欲しい。だから自分で居場所を勝ち取れるぐらい強くならなきゃ!」
真依はそう意気込むと自然と、体が軽くなり駆け出していた。
干渉力による肉体強化も相まって、黒い人影をどんどん引き離していき、最後は見えなくなった。
「やった!何とか撒いた」
喜んだのもつかの間、目の前に再び黒い人影が幾人も湧き出てきた。
逃げ道も阻まれ、周囲の黒い人影が徐々に真依の方へと詰め寄る。
「くろちゃん、どうしよう~」
『取りあえず私が髪で防ぐから、何とか切り抜けて!』
そんな時、どこからか低く、くぐもった女性の声が聴こえてきた。
「これはこれは珍しく上玉が、迷い込んでるではないか。雑魚の餌にするのは勿体ないのう」
その声は明らかに、周りの黒い人影とは別の位置から発せられている。
突如、風が吹き、真依は目を閉じて、腕で視界を塞ぐ。
次に目を開いた時には、黒い人影は消え去っていた。…いや、目の前に1体だけ女性が残っている。
その女は、黄金色の長髪に白装束。狐のような耳と一本の尻尾が生えていた。
真依は外見から、瞬時に金毛九尾を連想した。
「くろちゃん。これが例の狐さん?」
『どうだろ…金毛九尾》っていうぐらいだから、尻尾も九本ないと変じゃない?』
そんな2人の会話を聞いてか人型の狐が話しかけてきた。
「なんじゃ。うぬら、わらわを捕らえに来たのか?ならば遠慮なく食らうとしよう」
口ぶりから察するに、目の前の人型の狐が金毛九尾であることは間違いないようだ
突然、金毛九尾の方から重圧を感じた。
真依を睨む、金色に輝く目は食物連鎖の頂点に立つ者の目だ。
「まい、逃げるわよ。こいつはヤバいわ」
くろに言われて逃げようとする真依であったが、金毛九尾の尻尾が目の前まで迫っていた。
真依の顔面にとてつもない衝撃が走る。
次の瞬間、真依の体は後方へと吹き飛んだ。飛ばされた先の木々に体の至るところを打ち付ける。
体中の痛みに耐えながら、何とか起き上がり、自分の顔を手で触り確認する。
顔の形状は変わらず、痛みや腫れも触った感じ、異常はない。
「はぁ、はぁ…よかった…」
体の痛みよりも、顔が無事だったことで、真依の口からは、思わず安堵の溜め息が漏れる。
「あれ?」
真依は自分の頭部に違和感を感じた。思わず自分の髪を手ですいてみると、ウェーブがかかった、長い茶髪が、どうしてか短くなっている。
その理由は、くろの言葉ですぐに、知ることとなる。
『急いで立って!さっきは髪で防いだけど、次は無理よ。運良く防げても、髪が全て無くなるわよ』
この時、真依は命の危険よりも、大事な髪の毛が失われたショックの方が大きかった。
頭を両手で触りながら、発狂する真依。
「ぎゃー!私のお気に入の髪がー!キューティクルがー」
「まい、ふざけてないで逃げて!」
「わらわの一撃を防ぐとはやるわね。悠久の時を経て見つけた、久々の極上の肉。ゆっくりいたぶって、その顔が恐怖に歪んだところで食ろうてやるわ」
金毛九尾は余裕の笑みを浮かべ、真依へと近寄る。
「許さない!よくも…私の髪を!許さない!」
真依は、抑えきれない怒りに震えていた。
「ちょっと、まい、どうしたのよ?早く逃げるのよ」
「くろちゃんごめん。使うね」
信也が長い髪が好きだと風の噂で聞き、毎日、手入れをして伸ばしていた。
髪は女の命。その事を身を持って体現している真依にとって、髪が失われたことは、目の前の恐怖が掻き消すのに、充分すぎるほどの怒りに支配されていた。。
真依は、こめかみに人差し指を当て、虹色に輝く糸を引っ張りだした。
糸が指に絡み付くと、頭の中に自然と干渉力の内容が流れ込んできた。
真依の干渉力は、昨夜、見た夢の具現化。何がでるかは、真依自身も干渉力を使う直前にならないと分からない。
力の代償として、具現化した夢を完全に忘却する。そして、同じ夢は二度と具現化できなくなる。
真依は虹色に輝く人差し指を、おもいっきり金毛九尾、目掛けて振り下ろした。
“夢想無双・きらきら星”
掛け声と共に絵本に出てくるような、巨大でメルヘンなお星さまが、金毛九尾の頭上に降り注ぐ。
「ぐぎゃぁ~」
目映い輝きと共に地面が震えた。
星が爆ぜた跡には、大きな穴だけが残り、その周囲は焦げ付いていた。
「やった、倒した」
喜んだのもつかの間。
突如、倦怠感と疲労感に襲われ、真依は地面へと倒れ込んだ。




