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ボーダレス  作者: 那須 儒一
第二章 金毛九尾討編

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樹海混戦

 真依まいを追って樹海に飛び込んだ信也しんやであったが、既にその姿を見失っていた。


 樹海の中は鬱蒼うっそうとしていて、静まり返っていた。


 昼間だと言うのに森は暗く、虫や鳥の鳴き声すら聞こえてこない。


 つい最近まで、信也しんやにら芽生えていなかった恐怖。自分の近しい人間が死ぬ恐怖。

 S高校での一件で嫌って程、味わっている。


真依まいはどこにいるんだ」

 信也しんや手当たり次第に、樹木を掻き分け、闇雲に探す。


 …それから、どれくらい時間が、経っただろうか。見渡す限りの木々、生い茂る草。剥き出しの樹木の根。信也しんやは、このまま真依まいが見つからなかったらという恐怖に駆られる。


 信也しんやも真剣には考えてなかった。やはり水姫みずきと一緒になって、真依まいがここに来るのを止めるべきだったと今更ながら後悔する。


「反省は後だ。とりあえず真依まいを見付ける事に集中するんだ!ジジイとの修行を思い出せ」

 何とか気持ちを切り替え、自分を奮い立たせる。


 ~回想~

 信也しんや水姫みずきの父、海斗かいとは組み手に励んでいた。


「なるほど、お主の干渉力ちからがわかったぞ」

 何かに気づいたのか、突然、海斗かいとの動きが止まる。


「本当か?」


「お主の体はくさびにより4次元クラスの干渉力かんしょうりょくまとっている。ただし、半自動で力が働いておる。それはお主に元来備わっている干渉力かんしょうりょくが影響とるの」


「お主に宿る、元来の干渉力ちからは、簡単に言えば願いを現実に変えることじゃ」


「マジかよ!それはさすがにチート能力だろ。天候を変えたり、何でも出来るのか?」


「いいや、そんなに万能な干渉力ちからではないわい。正確に言うと、できる限り願望に近付ける、という形で干渉力かんしょうりょくにより再現される」


「分かりやすく言い換えるなら、一般人であるお主が、プロ野球選手になりたいと願う。それを自身の干渉力かんしょうりょくで補える範囲で実現する。筋肉を補強したり、野球道具を手になじませたりの」


「それって、めちゃくちゃ凄いんじゃないか?黒魔術や、あらゆ超能力が使える可能性があるってこおだろ」


「そんな便利なものではないと思うぞ。せいぜい気配や気功などの生命エネルギーの延長上にある力程度じゃ。4次元のころもがお主の気配を隠し、その身を護るとともに、自身の干渉力かんしょうりょくを使用するのに妨げになっとる。くさびを取り除ければ、あるいは、もう少し願いの幅が広がるかもしれんがのう…」


「力の流れを見る限り、両手からしか干渉力かんしょうりょくを体外に出せんようじゃな」


「取りあえず、何が出来るかを試していくしかないか」


「そうじゃの。少なくとも実戦で、新しい技を試すのは止めたほうがええじゃろ。身に余る願いを請えば、干渉力かんしょうりょくだけ使い果たされ、望むような効果は得られんじゃろうから」


「それと、4次元のころもは万能ではないぞ。次元の瞬間火力の高い技や、相性によって簡単に崩されるかもしれん。特に、悪霊の得意とする精神に働きかける干渉力かんしょうりょくは次元の境界が曖昧になりやすい」


「まずは、実用的な願いを形にして、いつでも使えるように授業を始める!」


「はい!師匠せんせい。宜しくお願いします 」


“回想終了”


「あの時、教わった事を思い出せ。感じるんだ干渉力ちからを!」


 真依まい輪郭りんかくイメージする信也しんや。目を閉じ自然体で、呼吸を整える。

 …すると手に何かが絡み付く感覚がする。


 目を開けると白い糸が手に巻き付いている。その糸は暗闇に向かって伸びていた。


「これを追って行けば真依まいの元へ行けるのか?」

 信也しんやは糸を辿たどって駆け出した。


 しばらく走ると木の枝の下に人影が見えた。

真依まいっ!」


 声を掛けるが、それが真依まいでは無いことに、すぐに気付いた。


 その人影は木の枝から吊るされたロープが首に巻き付いており、脱力した状態でぶら下がっていた。


 自殺者の首吊り死体。驚きのあまり、声がでない。


 死体を見るのは信也しんやにとって初めての経験だ。あまりの衝撃に首吊り死体から、どうしても目を離すことが出来なかった。


 すると首吊り死体の顔が徐々に動き、信也しんやの方を向き、恨めしそうに睨む。


 男性であろう、その顔は目が充血しており、何かを訴え掛けている。目の前の“それ”が人間の縊死体いしたいではなく、悪霊だと気付いたときには手遅れだった。


『どうして…。どうして…』

 悲痛な叫びが信也しんやの頭の中に響く。


 気が付くと、信也しんやの首にロープが掛かっており、体が枝に吊るされる。


「大丈夫だ、オレには4次元のころもがある。 苦しいはずがない。大丈夫だ。大丈夫だ」

 必死に自分に言い聞かせる信也しんや

 そんな願いとは裏腹に、首は締め付けられ、息が苦しくなる。


「ぐっ…」


 信也しんやの体から徐々に抵抗する力が無くなり、意識が遠退いていく。体は震えており、生まれて初めて実感する。

 これが死の恐怖、痛み、苦しみなのだと…。


 信也しんやの体は脱力し、項垂うなだれる。


 嫌だ。死にたくない。死にたく…。

 心の中で何度も叫ぶ。


 死の淵で、信也しんやは希望に代わる願いを見付ける。


 自分が死ねば真依まいはどうなる?

 2人で樹海をさ迷うのもいいかもしれないが、出来ることなら、生き延びて真依まいと明日を迎えたい。


 信也しんやの中に人間として、最も優先されるべき欲求、生存本能が芽生える。


 そして、自分を巻き込んだ、クソッたれな親父をぶん殴らないと気が済まないと、腹のそこから怒りが込み上げる。


 信也しんやの中で恐怖より、怒りの感情が勝ってきた。


 干渉力かんしょうりょくは想いを力にする。親父をぶん殴ってやる。


 信也しんやは自然と力がみなぎってくるのを感じた。怒りに任せ首に掛かったロープを引きちぎる。


「ゴホッ!ゴホッ!」

 咳き込んだが思ったほど苦しくないことに気付く。

 4次元のころもはちゃんと機能していたのだ。


 改めて、海斗かいとからの言葉が想起そうきされる。

「精神に働きかける干渉力かんしょうりょくは次元の境界が曖昧になりやすい…か」

 そのことを身をもって体験した信也しんやであった。


 意識をしっかり持ち、首吊りの霊に向かって行く。

 動かない首吊りの霊目掛け、渾身こんしん干渉力かんしょうりょくを素手にまとい叩き込む。


「ぐぉぉぉぉ…」

 首吊りの霊は悲痛な叫びを上げ、消えていった。


 悪霊との実戦経験は少なからず、信也しんやの身となり肉となる。


「4次元のころもを過信しすぎないよう、念頭におかなければ。そもそも、干渉力かんしょうりょく自体が高次元へアプローチする力だ」


「次元が低ければ、まったく効かないというわけでもないな。次元差が、そのまま耐性になる…ゲームで言うとこの防御力みたいなものか…」


 信也しんやは独り言のように呟きながれ、干渉力かんしょうりょくへの理解を深める


 4次元のころもがあっても、3次元の物に傷をつけずに干渉できる。


 今までの人生で特に意識してなかったが、よく無意識に力を使い分けれてたなと、自分でも感心してしまう。


 それともに、このくさび自体に、自動で物体を判別する仕組みが確立されているのか…疑問は尽きない。


「…っと、こんなことしてる場合じゃねぇな」

 ようやく、優先順位に気付いた信也しんやは、再び真依まいの位置を探ろうと意識を集中したが、イメージが弱いせいか、何も感じ取るとこが出来なかった。


 落胆しつつも、改めて周囲を見回す。

 空気が酷くよどんでいる。信也しんやはくろに襲われた時と同じ雰囲気を感じる。


「もしかしてミズキが言っていた。結界ってやつか

 それで、何も感じ取れないのかも…」


 どうしたものかと、その場で考え込む。信也しんやは、ふと事前に配られた発煙筒の事を思い出す。


「そうだ!取り敢えず木に上るか、何かあれば発煙筒を上げるはず。近場で発煙筒が上がったとこに向かおう。ここからじゃ、木が邪魔で周りが見えない」


 信也しんやは肉体と目の前の気に意識を向け、跳ぶように木を駆け昇った。

 天辺てっぺんに到達すると、驚きの光景か目に入る。


 延々と広がる黒い樹海。しかし、発煙筒の赤い煙がいくつも立ち昇っていた。

「いったい何が起こってるんだ!」

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