緊急召集
翌日、突然の怒鳴り声で起こされる。
「おい、シンヤ!いつまで寝てる。いい加減に起きろ!」
「あれ?ミズキ…。もう朝か…」
寝起きはいつも以上に重力に逆らっている、頭部のはねっ毛を触りながら何事かと周囲を見回す。
「寝癖直しは後にしろ。とりあえずついてこい。緊急事態だ」
水姫に言われるがまま、訳もわからず信也はついていく。
普段食事を摂っている和室に着くと、水姫の父親も含めた全員が集まっていた。
皆、真剣な面持ちで、本当に非常事態が起きたのだと察する信也。
「これで、全員お揃いですね」
朝水は一旦、呼吸を整え話を切り出す。
「本日早朝に“境界保全機関”より連絡がありました」
「A樹海に“殺生石”が持ち込まれまれました。首謀者は生司馬 大護とのことです」
ここに来て、また大護の名前が出てきた。信也はやれやれと溜め息をつく。
「何たら機関も、殺生石もわかねえんだけど…。ヤバいのか?」
「境界保全機関は防衛省が非公式に新設した機関になります。ちなみに我々が使っている“ゴーストハンター”のアプリの運営元です」
朝水は、スマホを開き、おどろおどろしい怨霊、悪霊のイラストが表示されたアプリ画面を信也たちに見せる。
「そう言えば、アプリで親父に関する情報をやり取りしてたんだったな」
「ええ、その通りです。殺生石の説明は面倒なので省きます。日本各地の殺生石が既に盗まれています。本来は脱け殻となった物で、害はないのですが…、悪意ある干渉者の手に渡り、尚且つ運ばれた場所がA樹海となれば話は別です」
「懇切丁寧に説明してくれたつもりかも知れんが、危険ってことしかわからなかったぞ」
信也は相変わらずの理解力を見せつ ける。
「朝水宛にも通達がきたってことは、郡山家も一応、御三家として協力養成が出てるんだろ?」
水姫は、話が進まないから黙っとけと言わんばかりに信也を一瞥しつつ、朝水に確認を取る。
「はい。A樹海はもともと郡山家の管轄でもあります。依頼を断って、これ以上、家の名を堕とす訳にはいきませんので、当家も生司馬大護の捕獲に協力します」
朝水が敢えて捕獲と表現したのは、信也に対する配慮だろう。
ここまで話を進めると、今まで黙っていた灯浬が意見する。
「朝水さん、差し出がましいのは重々承知していますが、あなたの身に何かあれば…郡山家は終わりです」
心なしか声が震えている。それだけ、今回の依頼が危険だということを示している。
「母上。心配しすぎですよ。私の実力はご存知ですよね。それに私に何かあっても、兄さんが跡目を継ぐだけですから」
朝水は落ち着いた声のトーンで灯浬を諭す。
「バカ言え。勘当された俺が、どうして家を継がなきゃいけないんだ。心配しなくても、俺と信也が郡山家代表として協力してやるよ。それに、大護は、もともと俺が追ってた標的だしな」
「さらっとオレも頭数に入れられてるんですが…」
信也は状況も飲み込めていないのに、危険な目に合わされようとしている。
「私は逆に頭数に入ってないんですけど…」
変なタイミングで真依が手を挙げ抗議する。
「殺生石ってことは十中八九、“金毛九尾”の復活が目的だろ?最悪の場合、4次元クラスの大妖怪を相手取ることになるかもしれん。いくら俺でも魔除けが欲しい」
水姫は信也を指差し壁役に任命する。
「おい!」
「竹取さんは留守番を頼む。今回はさすがに命の保証は出来ない。信也は親父が規律違反した責任を取りたいとのことだから仕方ない」
「おい!そんな事一言も言ってないぞ。まぁ、親父をぶん殴りたいから、ついていくけど」
水姫がどうしてこんなに、信也を参加させたいのか、理由は分からない。
「私もついていく!くろちゃんが憑いてるから大丈夫だよ」
いつも以上に乗り気な真依。まるで、ピクニックにでも参加するような軽いノリだ。
水姫は一貫して真依の参加には反対している。
「絶対ダメだ!今回はS高校での件とは比べ物にならないほど危険だ。こんな学校の七不思議程度の守護霊じゃ役に立たん」
「誰が七不思議よ、誰が!連れて行ってあげてもいいじゃない。真依が死んだら私と仲良く天国で暮らすわよ」
くろも一緒になって反論する。
「パンッ!」
突然大きな破裂音が鳴る。朝水が手を叩き、一旦、場を鎮める。
「皆さん静粛に。とりあえず時間がありません。竹取さんは私が責任を持って護ります。ただし、駐留テントで私と待機してもらいますからね 。これで、母上も納得してくれますか」
「かしこまりました。くれぐれもお気をつけ下さい」
朝水と灯浬がそんなやり取りをしていると、隣で座っている真依が顔を真っ赤にさせていた。
「まさか責任を取るだなんて…これって愛の告白?確かに朝水さんはイケメンだけれど…私には心に決めた人が…」
真依は聞き取れない程の声で、ブツブツと独り言を呟いて、自分の世界に浸っていた。
「では、30分後に各自準備をして、鳥居の前に集合して下さい。間壁さん、運転をお願いします」
「承知しました。旦那様」
ここまでの一連のやり取りで、朝水の当主としての貫禄に、ついつい感心してしまう信也であった。
水姫の父親は話し合いの間も一切喋らず、ただ正面を見据えているだけだった。
その後、信也たちは身支度を済ませ鳥居の前に集まる。
最終的に朝水、間壁、水姫、真依、信也の5人でA樹海に向かうこととなった。




