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第5話 師との再会

 寮母室で待っていたのは…、珠子が3年前まで通っていた女学校の教諭、柏木かしわぎ 幸恵さちえだった。


「貴女、全然、変わっていないのね」

「は、はぁ。」


 何をどう答えれば良いのか珠子が迷っていると、柏木の方から助け舟を出してきた。


「驚かせてしまいましたね。今回、調査員がこの寄宿舎へ来ると言うことは事前に校長から知らされていまして。調査に来る者の名前を聞いて、もしや、かつての教え子かと、思ったわけです」


 珠子は潜入がバレたわけではないと分かり、ほっと胸をなでおろした。


「ご存知だったのですね…。私、寄宿舎内に事情を知っている人がいると知らなくて…。」


「ごめんなさいね。…まぁ正直、貴女の驚いた顔を見てみたかったのです。貴女には随分驚かせてもらいましたからね。まぁ、お茶でも飲みながら、話そうではありませんか。」


 珠子は彼女との再会自体驚いていたが、自分が学生当時の柏木との、その印象の違いにもまた戸惑いを隠せなかった。


 思い返してみても、柏木に関する思い出は、口うるさく叱られたことしかなかったからだ。真面目で、厳しく、怒りや呆れ以外の感情を見たことがなかった。


 しかし、今、目の前にいる彼女は、教え子との再会に喜び、少々お茶目というか…とても人間性に溢れる人であった。


「貴女が学校を去った次の年度から、こちらの学校へ移ってきていたのです。」

「そうだったんですか。そう言えば、友人の手紙に以前、転任された事が書かれていたかもしれません」

「あら。今でも交流があるのですね。喜ばしいことです。」

「あの…、すみません。学校を急に辞めてしまって…」

「あの時は本当に驚きましたよ。でも、貴女なら、きっとどこでもやっていけると思っていましたから。こんな形で再会するとは思っていませんでしたけれどね。」

「…ありがとうございます。」

「ともかく、今回の一件、調査を宜しくお願いします。貴女だからこそ、真相に辿り着けるのではないかと思っています。」


 当時、あんなに毎日叱っていた自分のことを意外なほど評価してくれていたことを知り、珠子はなんだかこそばゆい気持ちになった。


「私以外、寄宿舎内で貴女のことを知る者はいません。調査がしやすいように、一人部屋を持てる四年生として編入してもらいますからね。他にも、何か手伝える事があれば言ってください。」

「お気遣い、ありがとうございます。失踪した2名の部屋は、今、どうなっていますか?」

「二人とも一人部屋だったので、そのままにしてあります。私が書き置きなどがないか、多少調べたくらいで。合鍵は私が持っています。生徒の授業中に調べられるようにしておきましょう。」

「助かります。」

「くれぐれも気をつけて。無理をしないように。」


 再びノックをする音が聞こえた。薫子が戻ってきたのだ。


「どうぞ」


 柏木先生はかつて見慣れた、真面目で厳しい表情に変わっていた。


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