第2話 消えた女学生
"探偵としての"初仕事…そう言われても、珠子は急なことで要領を得ないままであったが、黒猫探偵舎の所長、畔蒜 晃に促され、打ち合わせの席に同席することになった。
ゆったりとした革張りのソファには落ち着かない様子で二人の依頼人が座っていた。一人は恰幅の良い50代半ばの男。かなり上等な背広にネクタイをしている。もう一人は細身で眼鏡をかけた神経質そうな40代後半の男だった。
珠子の姿を確認すると、顔を見合わせ頷き、細身の方の男が、「彼女なら、大丈夫そうですね」と言った。
珠子は状況が分からないなりにも、自分を認めてくれている言葉を耳にし、誇らしいような、気恥ずかしいような気持ちになった。
すると、細身の男の方が、事の顛末を話し始めた。
「畔蒜さんには先程ひと通り説明をしていたところなのですが、私達はとある女学校の…こちらが校長で、私が教頭をしております。」
それを聞いて、珠子は思わずソファに座り直した。珠子自身、黒猫探偵舎に来るまでは女学生であったので、教師という人の前では、緊張してしまうのであった。
「実は今週月曜日の朝、ある生徒が寄宿舎から姿を消しまして…。」
珠子は、そう言えば、自分が通っていた女学校の寄宿生の中にも、長期休みで帰省した後に戻って来なかった生徒がいたな…と思い出しつつ、今は話を聞くことに徹した。
「恥ずかしながら、学校生活を苦にして、寄宿舎を無断で出て、実家へ帰ってしまう生徒はたまにおりまして。しかし、誰にも行き先を告げず、実家にも連絡がないのです。」
「それは…心配ですね。」
「ええ。警察に届けようと、ご家族にも相談したのですが…、どうしても表沙汰にしたくないと言われまして。」
とても困った様子で校長が続けた。
「そうこうしているうちに、今朝、また一人、いなくなりまして…。同じように実家にも連絡なく、生徒も行方を知る者はおらず。
こちらの家庭は失踪した生徒の縁談が決まったところでしたので、焦って警察に届けて程なく戻ってきた日には恥になるからと、しばらく様子を見たいと言うのです…」
自分の娘が行方知れずになったのに外聞のために警察に届けを出さないとは…。正直言って、珠子にはとても理解し難かった。憤りさえ覚えるほどだった。
「それで、こちらへ消息を調べてもらいたく、相談しに来たと言うわけです。」
珠子が状況を把握したのを確認し、それまで静かに話を聞いていた畔蒜が口を開いた。
「そういう訳で、タマ、女学校に潜入してきてくれ」