第1話 タマの初仕事!?
珠子が黒猫探偵舎に来て、かれこれ3年の月日が経った。
雑用係として雇われた彼女は、今では単なる雑用係の域を超えて、立派に探偵助手としての仕事が出来ていると自負している。
中でも、彼女の書く文字は美しく、記録、報告書、手紙など筆記の類を全て任されていることは、彼女にとって、とても誇らしいことであった。
そして、今日もこうして、美しくしたためた報告書を依頼人に送るため、郵便局へ出向いてきた帰りなのであった。
黒猫探偵舎は、黒猫ビルの2階。1階の『喫茶黒猫』と入り口は共用で、喫茶に来たのか、探偵舎に来たのか分からないようになっている。依頼人のプライベートに配慮しているのだ。
珠子が2階への階段を、仕事をやり終えた満足感で足取り軽く登っていくと、黒猫の可愛らしいステンドグラスがはめられた扉の向こうに、来客の気配が感じ取れた。
業務上、それなりの防音措置がされているので、話し声が漏れることはないが、この三年の経験で、何と無くの雰囲気で来客の有無が分かるようになっていたのであった。
もっとも、通常は来客があるかどうかはもちろん把握しているので、こういったことは急な依頼が入った時に限った話ではあった。
珠子は念のため、コンコンッと、戸をノックした。
事務所の人間とは言え、同席を拒まれる場合もある。依頼人の多くは、警察に相談できない秘密を抱えていて、情報漏洩を警戒しているのだから。
扉に見慣れた人影が近づいて来る様子があったので、そのまま扉の前で待っていると、黒猫探偵社の所長、畔蒜 晃の満面の笑みと共に扉は開かれ、告げられた。
「タマ、喜べ。お前の"探偵としての"初仕事だ」