ハロウィンなんて大嫌い
はぁ、あと1週間で10月31日か・・・
僕は10月31日が嫌いだ。
10月31日は僕の誕生日でもあるけど、とあるイベントの日でもある。
カボチャのお化けや骸骨なんかを飾って気味の悪い飾りつけをしているのにみんな楽しそうにしているんだ。
僕の誕生日なのに街は怖くて気味の悪い飾りつけを喜んでる。
僕はそれが嫌でしょうがない。
だって僕の誕生日なのに怖い思いばっかりしなきゃいけない。
だから僕は誕生日が嫌いだ。
僕は深いため息を吐き、小学校からの帰り道を一人歩く。
暫らくゆーうつな気分で歩いていると見慣れない金髪の男の人が目に映った。
どうやら外人の人らしい。
へぇ、珍しい。
僕はそのお兄さんを観察する。
デニムのズボンに長袖のニットシャツ。
どちらも黒で揃えている。
そして靴も黒いスニーカーを履いている。
全身真っ黒で揃えているせいで、腰に白くて丸いキーホルダーを吊るしてあるのが目立つ。
僕は気を引かれ、目を凝らして見ると、なんか人の顔が彫ってあった。
ハロウィンのカボチャに彫ってあるような顔だ。
なんだ、この人もハロウィン好きなんだ。
僕は落胆して興味を無くしかけたその時、お兄さんが独り言を零した。
「くそっ!なんでこんな東の果てでもハロウィンが流行るんだよ!
もう俺は静かに暮らしたかっただけなのに・・・
ジャパンの製菓会社共め!悪戯してやろうか?!」
その言葉を聞いた瞬間、僕はお兄さんに話しかけていた。
「お兄さんもハロウィンが嫌いなの?」
「あん?あぁ、大っ嫌いだぜ!
ハロウィンなんて無くなっちまえば良いと思ってるよ」
「僕も嫌いなんだ」
「ほぉ、坊主もか?
こりゃ珍しい。仲間だな」
そう言ってお兄さんはニッコリ笑って手を差し出してきた。
これは握手って事かな?
僕はおずおずと手を合わせるとお兄さんは握手してブンブンと振った。
「俺の名前はジョン。
スコットラ・・・あー、この国じゃイギリスって言えばわかるか?」
そう聞かれたので頷く。
「そのイギリスから色々な国を渡ってここジャパンに来たんだ」
「色々?」
「そう、色々だ」
そう言うと金髪のお兄・・ジョンは遠い目をした。
「僕は山並 楽太郎。
平並小学校の4年生です」
「そうか、ラクタローか・・・
ちょっと長いな。
ラクって呼んでいいか?」
「はい」
「ラクはなんでハロウィンが嫌いなんだ?」
そう聞かれて少し躊躇っちゃったけど、話すことにした。
「実は・・・」
僕の話を聞いたジョンは暫らく上を向いてから困ったような顔で僕を見ると真剣な表情で僕の齢を聞いて来た。
「9歳だよ。
今度の誕生日で10歳になるんだ」
そう答えた時、ジョンは驚きに表情を変えて叫ぶ。
「ジィィィィィザス!!
神も悪魔もクソッタレだ!
○・△・・□・×・?!」
何かを罵る言葉を羅列した後、ジョンは溜め息を吐いて「わかった。今回はラク、お前を守ってやる」そう言った。
守る?何からだろう?
その後ジョンは僕の10月31日の予定を聞いて来た。
僕は平並町の町内会と商店街が共同でハロウィンイベントを行うので、それに参加することになっていた。
内容は夕方6時から夜8時までの間、町内でカボチャの置物がある家に仮装して押し掛ける。
そこでチャイムを鳴らして「トリック オア トリート」と言えばお菓子が貰えるというイベントだ。
もちろんお菓子が貰えなかった時は悪戯としてステッカーを家のドアに貼っても良いと言うルールだ。
そして最後に8時から9時の間に花丸神社に行くと参加賞としてお菓子の袋詰めが貰える事になっている。
その事を伝えるとジョンは頭を押さえた。
「ここまで原型を留めない祭りになってたとはな・・・
こんなんで良く出て来れるぜ」
そんな事を言っていたが僕にはよくわからなかった。
その後も色々聞かれたけど、よくわからない事が多かった。
そんな質問が一通り終わると今度はジョンがそれまで旅をして来た色々な所の話をしてくれた。
中でもアメリカで酔った勢いで自由の女神像におしっこを引っ掛けて女性警官に追い掛け回された話は面白かった。
声を掛けられた瞬間に振り返ったら女性警官にもおしっこが掛かっちゃって女性警官がまるで悪魔のような顔になって追い掛け回されたんだって。
そんな話をしながら家まで帰るとジョンは別れ際に「それじゃ、また明日な」と言って繁華街の方へ鼻歌混じりに歩いて行った。
僕も釣られて「またね」って言っちゃったけど、明日どこで会うんだろう?
翌日の放課後。
「ラクちゃん。一緒に帰ろう?」
そう言ってきたのは隣の家の咲楽ちゃんだ。
「いいよ」
「なら俺も一緒に帰るぜ!」
そう言って宗太が加わると水鳥ちゃんも声を上げる。
「それなら私も一緒でいい?咲楽ちゃん」
「うん。いいよ、みんなもいいよね?」
「いいよ、みんな一緒に帰ろう」
僕たち4人は家が近所にある事もあってよく一緒に遊んだり登下校で一緒になることが多い。
今日は誰も用事や放課後の掃除係にもなっていないから一緒に帰れるようだ。
僕たちは下駄箱に上履きを入れて靴に履き替えると一緒に帰途に着く。
「なぁ、今年のハロウィンも一緒に行かないか?」
そう切り出したのは宗太だ。
「そうね。今年もみんな一緒に行こうよ!」
水鳥ちゃんがすぐに喰い付く。
「私も一緒が良いな」
僕以外の2人がすぐに賛成するが、正直僕はハロウィンには参加したくないんだ。
「ラクちゃんは・・・嫌なの?」
返事を迷っていると咲楽ちゃんがこっちを見て不安そうな顔をする。
「う~ん、ゴメンね。
僕はハロウィンが嫌いなんだ」
「「「そんなの知ってるよ~」」」
うお?!
3人同時に言われるとは思わなかった。
「ラクタロー1人だと絶対参加しないだろうからって、家の母ちゃんに誘えって言われたんだよ」
「私もママに言われたの~」
「私は・・・ラクちゃんと一緒の方が楽しいから・・・」
最後のは咲楽ちゃんだけど目が完全に泳いでた。
生暖かい大人たちの優しさが辛い・・・
そして事実を隠そうともしないクラスメイトの残酷さが怖い。
と言うかお母さん。周りにそう言う事お願いしないで!
「ゴメン。ちょっと用事思い出したから先に帰るよ」
ちょっとした衝撃に襲われ、恥ずかしさと悔しさで顔を上げる事も出来ずに僕は走って先に帰る振りをした。
目的地は家じゃない。
神社だ。
昔から嫌な事があったり1人になりたい時に行くと何故か心が落ちつくんだ。
例え泣いたとしてもあそこなら神主さんもいないから誰にも見られないしね。
そんな事を考えつつ、目的の神社に着くと走るのを止めて鳥居の端を歩いて潜る。
昔じいちゃんに鳥居の真ん中は神様の通り道だから歩いちゃダメだって教わったからだ。
そして僕は神社の階段を登り始めると少しずつ心が落ち着いて来る。
階段を登り切り、本宮の賽銭箱に小銭を入れて暫らく間借りする事をここの主神様に許して貰えるようお願いする。
僕は昔から臆病だからこういった事にも油断しない。
ただ、ここの主神様の名前は忘れちゃったんだよね。
確か・・・さ、サル神さまだっけ?
サルヒゴ様?サルビコ様? マルヒノひと・・・
うーん。
やっぱり思い出せないや、ごめんなさい神様。
はぁ、それにしても・・・ハロウィン。
参加しなきゃだめなのかな・・・いっそハロウィンの間はこの神社で過ごすのは・・・って、ここが最後の集合場所だったよ!
そんな事を考えながらいつもの様に本宮の上り端に寝転がる。
「はぁ、本当にゆーうつだ」
「何が憂鬱なんだいラク?」
「はい?!」
独り言のつもりで呟いた言葉に返事があったことに驚いた僕は飛び起きると、目の前にジョンが居た。
「ジョ、ジョン?!」
「おうよ、ブラザー!」
「ブ、ブラジャー?!」
「ちっげーよ!兄弟って意味だよ!」
慌てて訂正するジョンに俺はドヤ顔で答える。
「それ位知ってるよ?」
「な?!」
絶句するジョンを見て先に驚かされた僕は脅かし返せたのが楽しくて笑っちゃった。
「ふ、ふはは!ラク、お前も悪戯が好きみたいだな!」
「そうかな?」
「絶対そうだぜ!」
そう言ってジョンはまた笑い出した。
「ところでジョン、こんなところで何してるの?」
「うん?あぁ、ちょっとここの主に用があってな。話を付けに来たんだ」
「え?でもここって神主さん居ないよ?」
「あぁ、そっちの方じゃなくてだな・・・うーん、なんて言えばいいんだ?ここに祀られてる奴に用があったんだよ」
「祀られてる?って、神様の事?」
「そうそう、サルタヒコってのに用があったんだ」
「どんな用?」
「まぁ、この街で騒ぎを起こすかも知れないから先に謝っといたのさ」
「へぇ、いつも僕がしてるお願い事に似てるね」
「そうなのか?」
「うん、僕はいつもここに来ると『本宮の上り端に間借りするけど許してね』ってお願いするんだ」
「そんな些細な事を一々お願いするなんて変わってるなラクは」
「それを言ったらジョンだってまだ起こしてもいない騒ぎについて謝ってるじゃないか」
「そう言われりゃそうだな!ははは!」
そう言ってお互い笑い合う。
本当に変わった外人さんだけど、なんか馬が合う。
そんな感じで馬鹿話をしていると辺りが暗くなっていた。
「おっと、もうこんな時間か。
ラク、悪いな。先に行く所があるんで俺は先に行くぜ」
そう言ってジョンは境内から飛ぶように街へと駆け下りて行った。
「速い・・・大人ってすごいな」
あっと言う間に見えなくなったジョンを見送り、僕も家に帰る事にした。
ランドセルを背負い直すと、後ろから視線を感じた。
サッと振り返ってみたけど、誰も居ない。
・・・気の所為かな?
まぁいいや、早く帰ってご飯食べよぉっと。
僕は神社を後にして家路に着いた。
神社を出て5分くらい経った頃だろうか。
僕の後ろからヒタヒタという裸足で歩いてるような音が聞こえたので誰だろうと思い振り返る。
するとヒタヒタと言う音も止まったんだけど、誰も居なかった。
風の音だったのかな?
そう思い歩き始めるとまたヒタヒタと足音が付いて来る。
今度は姿を見てやろうと思い、素早く振り返るが、やっぱり誰もいない。
そんな事を何度か繰り返すうちに怖くなって来たので僕は走り出した。
するとヒタヒタとついて来た足音がタッタッタッと言う音に変わり付いて来る。
怖かったけど、もう一度振り返ってみるとなんか黒い影が見えた気がした。
僕は驚きと恐怖で声を上げ、全力で家へと逃げるように走った。
怖い。本当に怖い。
神様助けて!
そう必死に念じながら走り続け、家に着くと乱暴に家の扉を開いて急いで中へ入り、バタンッ!と大きな音を立てて扉を素早く閉める。
そして扉の取っ手を必死に抑えていると扉の音に驚いたお母さんが何事かと見に来てくれた。
僕はお母さんの声を聴いて振り返り、お母さんの顔を見てホッとした所為か体から力が抜けて座り込んでしまった。
あぁ、良かった。
助かったんだ。
心からホッとして落ち着くと、いつの間にか足音も聞こえなくなっていた。
その事に安堵しているとお母さんから「ラクちゃん。ドアはもっと静かに閉めないと壊れちゃうわよ!」と怒られ、それから暫らくお母さんのお小言が続いたけど僕の耳には殆んど届かなかった。
そうして最後に「いつまでもそんな所に座ってないでさっさと立って手を洗いなさい」と言われ、僕は立とうとしたけど、どういう訳か足に力が入らなくて立てなかった。
「あれ?」
「どうしたの?」
「お母さん。立てない」
「もう、冗談はいいから立ちなさい」
そう言われて何とか立とうと床に手を付くと、手にも力が入らなくてカクンと身体が傾いた。
「ちょっと!」
その様子に慌ててお母さんが手を貸してくれたけど、やっぱり力が入らなかった。
どうなっちゃったんだろう僕の身体?!
「どこか怪我してるの?痛い所ない?」
そう言われて考えてみたけど痛いところはなかった。
「痛いところは無いよ」
「そう?」
そう言ってお母さんは僕の手足を確認するけど、どこにも怪我は無かったみたいでお母さんもホッとしてた。
「でもそうなると・・・」
お母さんは考えるような仕草をすると、1つ質問してきた。
「ラクちゃん。何か吃驚したり怖い思いでもした?」
そう聞かれて心当たりのあった僕が頷くと、お母さんは納得したような顔になった。
「そう言う事ね」
「そう言う事ってどういうことなの?」
「ラクちゃん。あなた腰が抜けてるのよ」
「腰が抜ける?」
「そうよ、あんまりにも吃驚したりすると足腰が一時的に立たなくなっちゃうの。
でも時間が経てば治るから心配ないわよ」
そう言われて安心すると同時になんか情けない気持ちになって来た。
そんな感じで打ちひしがれていると、お母さんが真剣な表情で聞いて来た。
「ラクちゃん。何があったの?」
そう言われたので神社からの帰り道であったことを説明するとお母さんは難しい顔をしていた。
「子供を狙う変態かしら。それともラクちゃんを狙うストーカー?
どっちにしても警察に連絡した方が良いんだろうけど、ラクちゃんの気の所為かもしれないし・・・
パパが帰ってきたら相談しなくちゃ・・・」
警察沙汰は嫌だな。
「お母さん。きっと僕の気の所為だよ。
ほら、僕怖がりだし、ちょっと嫌な事があったから、
きっとその所為で考え過ぎちゃったんだよ。
今はもう大丈夫だから」
そう言って立とうとすると、ようやく立ち上がれた。
「そう?本当に大丈夫?」
「うん、大丈夫」
なんとか笑顔を作ってそう答えるとお母さんもホッとしたのか「それじゃ、手を洗ってきてね」と言って台所へ戻って行った。
僕は手を洗って自分の部屋に戻ると溜め息を吐いてベッドに飛び込んだ。
なんか、疲れちゃった。
僕は目を閉じるとそのまま眠ってしまった。
翌日、学校に行ってあの3人に会うのが物凄くゆーうつだったけど、お母さんに叱られるのも嫌だったから登校する事にした。
家を出ると咲楽ちゃんが待っていた。
僕に気付くと咲楽ちゃんは「おはようラクちゃん」と挨拶してきたので挨拶を返したけど、すんごく気まずい。
暫らく無言で歩いていたけど、沈黙に耐えられなかったのか、咲楽ちゃんが話しかけてくる。
「ラクちゃん、昨日はゴメンね」
「いや、いいよ。僕の方こそゴメンね。
急に先に帰っちゃって・・・」
「大丈夫だよ。宗太君も水鳥ちゃんも特に気にしてなかったから」
気にしてないって聞くと、それはそれで複雑な感じがする。
「それでラクちゃんはハロウィンはどうするの?」
「僕はやらない。
面倒だから最後に神社にだけ行ってお菓子貰って帰るよ」
「えー、ラクちゃんも一緒にやろうよ。
仮装とか楽しいよ?」
「それが面倒だから嫌なんだよ。
それになんか宗太たちにも気を使わせちゃってるみたいだから、
みんなで楽しんで来てよ」
「うぅぅ、ラクちゃんのいじわる」
「ゴメンね」
僕がそう言うと咲楽ちゃんは悲しそうな顔になるけど、これはどうにもできない。
僕は怖がりだし、仮装が恥ずかしいって言うのもあって、どうしても嫌なんだ。
それに昨日の出来事もあるから、夜は何だか怖いんだ。
そうして一旦お喋りが途切れると無言のまま学校へと歩き続けた。
そうして僕は夜が怖くなったから学校が終わるとすぐに家に帰る事を続けたけど、10月30日はすぐには帰れなかった。
掃除当番になってしまったからだ。
学校の中庭の掃除を急いで終わらせようとしたんだけど、宗太や他の子たちは箒でチャンバラしたり女の子たちはお話に夢中で中々終わらなかったんだ。
結局終わった時には日は傾いてて夕焼けとなり、辺りを真っ赤に染め上げていた。
僕はその光景を「綺麗だな」と思う反面、心をかき乱されるような嫌な感じがした。
そんな時、宗太に「一緒に帰ろうぜ」と声を掛けられたので「いいよ」と返事をして一緒に帰路に着いた。
1人じゃ無ければ大丈夫。怖くない。
そう思っていたんだけど、甘かった。
宗太の家の前まで一緒に歩いたんだけど、そこから先は1人。
大体50メートル位だけど、そこからは1人になる。
別れ際、宗太に「またね」と言って宗太が家に入るのを見届け、歩き始めると数日前に聞こえたヒタヒタという足音がした。
僕はドキリとして足音の方に振り返るが、やっぱり誰もいない。
もう一度、2,3歩足を動かすと同じ歩数だけ足音が聞こえる。
いる。
何か、見えない何かがいる。
僕は確信を持つと、全力で走った。
全力で家へと急ぎ、角を曲がると人にぶつかって盛大に転ぶ。
「いたぁ!」
「ご、ごめんなさい!」
僕も痛かったけど、ぶつかったのは僕なので痛みを堪えて謝ると、そこにはジョンがいた。
「いつつ・・・お、ラクじゃないか。
走ると危ないぜ?」
「ご、ごめんなさい。ジョン」
「いいっていいって、それより何をそんなに慌ててたんだ?」
ジョンにそう聞かれたのでジョンと別れてから起こったことを素直に話した。
僕の話を聞いたジョンは難しい顔をして色々と独り言を零していたけど意味は良くわからなかった。
「チッ、どっかの野良がフライングしてやがんのか?
もうちょっと警戒しておくか。
それにしてもサルタヒコの奴、全然氏子守れてねぇじゃねぇか」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。
それよりラク、そんな怖い思いしたんなら良いモンやるよ」
そう言ってジョンは白い石?が付いたネックレスをくれた。
「これ何?」
「それはな、聖ペテロって奴の遺骸だ」
「イガイ?」
「平たく言うと骨だな」
「ひゃぁ?!」
僕は慌ててネックレスを放り投げた。
「おい!もっと丁寧に扱え!」
ジョンは僕が放り投げたネックレスを空中でキャッチすると注意してきた。
「だ、だって人の骨って・・・そんなの怖くて持ってられないよ」
そう言うとジョンはニヤリと笑う。
「あぁ、人の骨ってのはジョーダンだよ♪」
「へ?」
僕は呆けた顔で固まると、ジョンがニヤニヤした顔のままネックレスを僕に見せ付けるように左右に振った。
「この前のお返しだ」
「心臓に悪いよジョン」
「ははは、これでお相子ってことで許してくれ。
まぁ、このネックレスはアミュレットとしてとても優秀なんだ、肌身離さず持っててくれよ」
そう言って僕の首に付けてくれた。
アミュレットって何だろう?
僕は複雑な表情でジョンにお礼を言うと家までジョンに付いて来てもらい家の前で別れた。
明日は僕の誕生日だけど、ハロウィンでもある。
ハロウィンへの参加は断ったし、明日は家でウル〇ィマのド〇ッド周回でもしてよう。
駄目だったらハロウィンに参加する振りして6時10分前に家を出て適当に時間を潰して最後に神社でお菓子だけ貰って帰ろう。
・・・そう考えて実行した僕は浅はかだった。
〇レッド回し4回目でエプ〇ンが出て気を良くした僕はゲームに夢中になってたんだけど、なんと5時半に咲楽ちゃん達が来てしまったのだ。
お母さんに呼ばれて一階に下りるとそこには仮装した咲楽ちゃん達がいた。
咲楽ちゃんは黒いワンピースに黒い三角帽子を被り、シワシワの木の杖を持っている魔女スタイル。
宗太は頭にカボチャを被って青いローブを羽織り、ジャック・オー・ランタンスタイル。
水鳥ちゃんはメイド服だが、顔や露出している腕や足につぎはぎの様な傷跡をペイントしているゾンビメイドスタイル。
無駄に凝ってるな・・・
そんな風に眺めているとお母さんに頭を叩かれた。
「痛ッ!」
「みんなゴメンね、ラクも着替えさせるから少し待っててくれるかしら」
そう言って「みんなに」と、お菓子とジュースをテーブルに置いた。
僕もお菓子食べたいな、あとコーラも飲みたい。
そう思ってお菓子に手を伸ばそうとしたらお母さんに引っ張られて居間から出てしまった。残念。
だけどおかしいな。
確かに断ったハズなのになんでだ?
頭を傾げて考えているとお母さんがニヤニヤした顔で近付いてきた。
「ラクちゃん。ハロウィンをサボろうとしても無駄よ」
「お、お母さん、もしかして・・・謀った?」
「ふふふふ♪」
その表情ですべてを察した。
全てはお母さんの罠だ!
逃げよう。早くここを離れないと大変な事になる。
そう思ってお母さんに背を向けると、頭に何かを被せられた。
「むぅぐ?!」
「観念して大人しく仮装するのよ♪」
僕は必死に頭部に被せられた何かを外そうとしたが、大人の力には勝てなかった。
「む、むぐぅぐぅぐぐぐぅ?!!」
「暴れちゃダメよぉ、すぐ済むから」
「むぅぅぐぅ?! ぷっはぁぁぁぁぁ!」
「はい、マスクはお終いね」
僕は必死でマスクを外そうともがいたが、後頭部の紐が固結びになっていて取れない。
「帰って来たら取ってあげるから、それまで付けてなさい。
因みに鋏とか使ったら危ないわよ。自分の頭も一緒に切るかもしれないからね」
そう言って忠告して来たので、僕は諦めるしかなかった。
「それじゃ、これに着替えて来てちょうだい」
お母さんは僕の心を圧し折った事を鼻にもかけず着替えを急かしてくる。
僕は肩を落として着替えを受け取ったが、それを見て不思議に思った。
渡されたのは青いタイツに黒いパンツ、そして黒いリングシューズ?だったからだ。
僕はそれらを履くとお母さんに声を掛ける。
「お母さん、上着が無いんだけど?」
「その仮装は上半身裸が正装なのよ」
「えぇ?!」
そう言われて自分の姿を見降ろす。
上半身は裸でネックレスのみ装着。
下半身は青いタイツに黒いパンツを履いている。
どっかで見た事あるような気もするが、正直寒い。
「お母さん、こんな恰好じゃ寒いよ。
せめて上着くらい着ないと風邪ひいちゃうよ!」
僕が文句を言うとお母さんは「仕方ないわね」と言ってTシャツをくれた。
そのTシャツは真っ白だけど前面に何故か殴り書きの大きな字で「闘魂!」って書かれてた。
「お母さん、半袖じゃあんまり意味ないんじゃ?」
「これを最後に羽織るのよ」
そう言って襟元にファーの付いた真っ黒のマントを僕に掛けてくれた。
「本当は裏地が真っ赤で虎縞のマントが良かったんだけど売ってなかったのよねぇ」
お母さんはそうポツリと呟いた。
一体僕は何の仮装をしているんだ?
気になったので洗面所の鏡で見てみると、そこには小っちゃいタイ〇ー〇スクがいた。
・・・
魔女、ジャック・ランタン、ゾンビメイド、タイ〇ー〇スク。
・・・
「最後おかしいだろ?!
お化け関係ないじゃん?!」
「あら?
仮装してればいいんでしょ?」
「おかあさん、町内会の回覧板ちゃんと見た?
お化けの仮装をするってあったでしょ!」
「そうだったかしら?」
そう言ってお母さんはプリント用紙を眺めると「あら、ホントねぇ」と言って少し考えると、近くにあった紙袋に2つ穴を空けて片方の穴の周りに黒のマジックで星マークを付けて僕に被せた。
「これで良いわ」
「何が?」
思ったより声がくぐもっていた。
「これでちょっと前に流行ったゲームの殺人鬼、紙袋の男に変身出来たわよ!」
・・・
魔女、ジャック・ランタン、ゾンビメイド、紙袋の殺人鬼。
・・・
「だからお化けじゃないじゃん?!」
「もう、仕方ないわね」
そう言ってお母さんは紙袋を取り上げると、口を描いて牙を追加する。
「はい、これで光に弱い吸血鬼って事で良いでしょ?」
「なんで急に大雑把になるんだよ?!」
最後は面倒臭そうに言われたけど、もう仕方ない。
時間もないし、紙袋を被ろう。
そうしてみんなの所に行こうとしたら、お母さんに止められた。
「最後にこれをパンツに仕込むのよ」
そう言ってパンツに何かを入れられた。
「ちょッ、お母さん?!」
「レスラーの嗜みって奴よ。
本当はシンプルな栓抜きが良かったんだけど売ってなかったから栓も抜ける十徳ナイフにしといたからね」
良くわからない事を言っていい笑顔でみんなの所へと押し出された。
うぅ、なんか股間が冷たい。
「お、お待たせ」
内股をモジモジさせながらそう言うとみんなはお菓子を食べて会話をしていたけど、僕の格好を見て「おぉ~」とか「へぇ~」とか声を上げた。
「なんで紙袋被ってるの?」
咲楽ちゃんは冷静に突っ込んだ。
「光に弱い吸血鬼なんだ。
・・・そういう仮装なんだよ」
目を逸らしながら答える。
「ふぅ~ん」
咲楽ちゃんは不思議そうにマジマジとこっちを見てくる。
お願いだからもう気にしないで・・・
その後みんなとどこからお菓子を貰いに行くか話し合い、6時になったので家を出た。
家を出ると寒い風が吹いて来たので僕はマントの前を合わせて歩いた。
「じゃぁ、まずは山田さん家から行こうぜ!」
「「イエーイ!」」
僕以外のみんなは楽しそうにはしゃぎ、僕はゆーうつな気分で歩いた。
幸い表情は紙袋で見られないので良かったと思った。
宗太がインターホンを押す。
『ぴんぽーん!』
『はーい、ちょっと待ってねぇ』
インターホンから返事が返ってくると、少しして家の扉が開く。
「「「トリック オア トリート!!」」」
すかさず宗太たちは決め台詞を笑顔で合唱する。
「まぁまぁ、可愛い子達ね、魔女ちゃんにジャック・オー・ランタンにメイドちゃん。それと・・・何かしら?」
中から出てきたおばちゃんは嬉しそうにしていたが、最後の僕の格好で疑問が浮かぶ。
「ひ、光の苦手な吸血鬼です・・・」
「あ、あら~、そうなの・・・か、かわいいわね・・・」
口の片端が引き攣った笑顔でおばちゃんが言う。
もちろんそれまでの楽しそうな空気は凍りついている。
「トリック オア トリート!」
そう言って手を出したのはカボチャ頭の宗太だった。
「あ、そうそう、そうだったわね。
悪戯は勘弁して欲しいからお菓子にするわね♪
魔女ちゃんにはキャンディーね。
ジャック君にはクッキーをどうぞ。
メイドちゃんにはチョコレートあげるわ。
そして吸血鬼君には何と言ってもこれよね♪」
そう言っておばちゃんは僕にトマトジュースを手渡してきた。
またかよ?!
そう思ってしまうが仕方ないよね。
行く先々で僕はトマトジュースばかり貰っているのだ。
ちなみにこれで7本目。
トマトジュース以外のお菓子は・・・今のところ収穫なしだ。
はぁ、そろそろ鞄が重いんだけど・・・
「「「「ありがとうございまーす!!」」」」
「どういたしまして、あ!そうだ。写真撮ってもいいかしら?」
「「「お願いしまーす!」」」
そう言うと3人は決めポーズをとりつつ写真から逃れようとする僕を包囲して逃がさない。
「はい、チーズ!」
そう言っておばちゃんは嬉しそうに写真を数枚撮り、僕の黒歴史がまた1つ増えた。
そんな感じで町内の家々を回り、時間が夜の8時前になったので僕たちは花丸神社に向かう事にした。
僕たちが神社に向かっていると、他の子たちもチラホラと神社に向かっているようで次第に仮装した子供が集まり始めていた。
「なんか、こうやって仮装してるとお化けの集会みたいでちょっと怖くない?」
水鳥ちゃんが周りを見ながら少し不安そうに言う。
「そうね、なんか不気味で怖いわ」
「ひょっとしたら本物が紛れ込んでるかもな!」
「ちょっと宗太!やめてよ~」
そう言って水鳥ちゃんは怖がっていたが、僕はもっと怖がっていた。
何故なら、いつの間にかあのヒタヒタと言う足音が聞こえて来ていたからだ。
僕は思い切って他の3人に聞いてみる。
「ね、ねぇ、なんか、裸足で歩く様な感じの足音しない?」
「「「え?」」」
そう言って暫らく3人は耳を澄ませていたけど、不思議そうな顔をして「そんな音しないよ?」「ねぇ?」と口々に言って来た。
僕にしか聞こえない足音・・・そう思った瞬間、背筋がゾッと寒くなる。
「ラクちゃん。気の所為じゃない?」
「そ、そうかもね。気の所為だったのかも・・・ね」
「もう、私を怖がらせるのは止めてよぉ~」
僕の強張った表情は紙袋で見えなかっただろうけど、声が震えていたので僕がビビっているのはバレてるかも知れない。
だがそんな事は今はどうでもいい。それよりも、未だに聞こえるヒタヒタと言う足音が怖くて怖くて仕方がない。
「ね、ねぇ、もうちょっと急がない?」
僕はみんなを急かすように声を掛ける。
「え?なんで?」
宗太が聞き返してきた。
えーっと、なんて答えたら・・・
僕は少し考えて言う。
「ち、ちょっと寒くなって来たからさ、早くお菓子貰って帰りたいな~って思って」
「確かにちょっと寒いよねぇ~。
私もこんな格好だから少し冷えてきちゃった」
そう言ったのはゾンビメイドの水鳥ちゃんだ。
「そっか、じゃ、少し走って温まるか!」
「「イエ~イ!」」
宗太の提案に楽しそうに咲楽ちゃんと水鳥ちゃんが応え、一緒に走り出す。
「ちょ、ちょっと!」
僕も置いて行かれない様に慌てて走り出すとヒタヒタと言う足音がタッタッタッタッと言う音に変わった。
「ひィッ?!」
驚きが声として漏れ出たが、僕は構わず全力で神社まで走り、咲楽ちゃんたちを一気に追い抜く。
「お、勝負かラクタロー?」
「ラクちゃん?!ちょっと待って!速すぎるよぉ~」
「ちょ、ちょっとラクタロー君?」
三者三様の声も無視して僕は必死に走った。
すると僕だけを追い掛けているようで追いかけて来る足音も速まる。
来るな!来るんじゃない!来ないでくれ!
神様助けて!!
そう一心に願いながら走り、神社の鳥居を潜り、境内へと登りつめると、足音はもう聞こえなかった。
た、助かった?
足音が聞こえない。
その事に安堵すると、僕は地面に身体を投げ出して荒い息を吐いた。
「ハァッハァッハァッ、も、もう、は、吐き、そう・・・」
そうして暫らく地面に倒れていると大人の人たちが慌てて声を掛けてきたが、ロクに返事も出来なかった。
少しして呼吸が整って来てからはなんとか「大丈夫です、少し疲れたから休んでるだけです」と途切れ途切れに答えると大人たちも安心したのかその場を去って行き、袋詰めのお菓子を配る作業に戻って行った。
はぁ、疲れた。
こんなに本気で走ったのなんて久しぶりだ。
でも、もう足音は聞こえない。
その事でホッと一安心と思っていたら、背中を叩かれた。
「ラクタロー足速いじゃないか!負けちまったぜ!」
「?!」
ビックリして息が詰まる。
「はぁ、こんな仮装じゃなきゃもっと早く走れたんだけどなぁ~」
そう言って宗太はカボチャ頭を外すと、一息つく。
僕も外せるなら外したいものだ。
走った所為で頭も暑い。
「ラクタローも頭の外せば?」
じーっと宗太を見ているとそう言われたけど、マスクは固結びで取れない。
それに今更タイ〇ー〇スクを見せるのもなんか嫌だ。
「いや、これ外すとお母さんに怒られるから」
そう言って誤魔化して紙袋を被り直す。
「そうか?」
そう言って宗太は僕の隣に座る。
「そう言えばラクタローってトマトジュース貰ってたよな?」
「あぁ、何故か10本もあるよ」
「それ1本くれよ!喉渇いちまってよぉ。
代わりに俺のお菓子1つやるからさ」
そう言って宗太は鞄からお菓子を見せてきた。
僕もトマトジュースを出して宗太のお菓子からビッ〇サンダーを貰った。
そうして僕たち2人はトマトジュースを飲みつつ、休んでいると唐突に宗太が言った。
「なぁ、咲楽ちゃんって、ラクタローの事、好きなのかな?」
「ブッ?!」
ボクは唐突な告白にトマトジュースを噴いてしまったが紙袋の所為で全部自分に掛かってしまった。
ゴホゴホと咳き込むと宗太が「ふははw 悪い、タイミング悪かったな!」と言って謝ってるのか笑ってるのかわからない事を言って来た。
「悪いじゃないよ宗太。あーあ、服も濡れちゃったじゃないか」
迷惑そうに宗太に返すが、宗太が話を元に戻す。
「それでどう思うんだ?」
「どうって?」
「咲楽ちゃんだよ。
お前に惚れてるのか?」
「知らないよ。本人に直接聞けば良いじゃないか」
「それが出来たら苦労はしねぇよ・・・」
そう言ってモジモジし始める。
なんだこいつ?!
「宗太。ひょっとして咲楽ちゃんが好きなのか?」
「え?!」
そう言って吃驚した顔をする。
わかりやすい反応だな。
「そっかそっか、宗太は咲楽ちゃんが好きなのか・・・」
「ち、ちげぇって!
勘違いしてんじゃねーよ!
そう言うラクタローが好きなんじゃねぇーのかよ?!」
そう言って慌てて否定するが顔か真っ赤だ。
本当にわかりやすい。
「安心していいよ。誰にも言わないから」
「いや、だから違うって言ってんだろ?
それにラクタローが好きなんじゃないのかよ?」
「咲楽ちゃん?」
「おう、そうだ」
そう言うと真剣な顔でこっちを見てきた。
だから僕も真面目に考えてみた。
「うーん。どうだろう。
好きか嫌いで言えば好きだけど、
恋人にしたいとか結婚したいとかはわかんない」
正直に答えてみた。
「そ、そうか」
宗太は何か納得した様に頷いた。
その時、後ろの方から大人の声が聞こえた。
「これからお菓子を配りまーす!
みんな一列に並んでくださーい」
「お、始まったみたいだな。お菓子貰いに行こうぜ!」
「ゴメン。僕、まだちょっと疲れてるからもう少し休んでから行くよ」
「そうか、じゃぁ先行って来るぜ!」
そう言って宗太は元気に走って行った。
はぁ、誕生日に宗太の恋バナ聞かされるとは思わなかったよ。
そう思って寝転がると、また声を掛けられた。
「よう、ブラザー!
ハロウィンは楽しめたか?」
この声には聞き覚えがある。
「ジョンこそ楽しんだの?」
「いや、これからさ!」
そう言って僕に手を差し伸べる。
「これから?」
「あぁ、そうさ!
これから一緒に楽しもうぜ!」
そう言ってニヤリと笑う。
その笑顔が、僕には何か怖いものに見えた。
「さぁ、手を取って共にハロウィンを楽しもう!」
「な、なんか怖いんだけど?」
「大丈夫だって、楽しい楽しい本当のハロウィンはこれからなんだ、さぁ、手を取りな!」
そう言われて、ついジョンの手を取ってしまう。
そして力強く手を握られて引き立たせられた。
「ようこそ、本当のハロウィンへ!」
そう言ってジョンは本当にうれしそうに笑った。
その瞬間、何か景色が一瞬歪んだ気がした。
「それじゃ、俺は準備があるから少し待っててくれよ」
そう言ってジョンは僕から離れて行った。
僕は辺りを見回したが、特に変わった様子は見られなかった。
強いて言うなら、辺りが静かになったように感じるくらいだ。
僕は再び地面に転がろうとしたが、又も声を掛けられた。
「よう、ちょっと聞きたいんだが、ここで合ってるんだよな?」
お菓子を貰いに来た人かな?
僕は顔も向けずに答える。
「あってるよ」
「そうか、久しぶりに地獄から出て来たが、ここはどの辺りなんだ?」
地獄って、役になり切ってるのかな?
「どの辺りって花丸神社だよ」
「ハナマルジンジャ?
スコットランドでもウェールズでもないのか?外国か?」
外国から来た設定なのかな?
「どっちも違うよ。
ここは日本だよ」
「ニホン?
ふむ、そうか・・・外国なのか」
「外国って君も日本語喋ってるじゃないか」
そう言って振り返ると、でっかい犬の着ぐるみが居た。
犬の着ぐるみなんだけど、なんかすごい迫力がある。
額には一本角があり、目玉はなんか光っていて、炎みたいにユラユラしてる。
そして鋭い牙が口から2本突き出し、前足から胴体に掛けては太い鎖が巻き付いている。
そんな犬が二足歩行しているのだ。
「・・・君、犬の仮装なの?」
「むぅ?俺は犬じゃない。バーゲストだ」
僕の犬発言は心外とばかりに顔を顰めて訂正する。
「バーゲスト?」
「ぬぅ、知らんのか?失礼な奴だ!そう言うお前は何なのだ!」
そう言っていきなり僕の頭にある紙袋に噛み付き引き剥がすと、僕の虎顔が姿を現す。
僕は慌てて破れた紙袋を拾い、文句を言う。
「ちょ、ちょっと!乱暴な奴だな!袋が破れちゃったじゃないか!」
「ぬぅ、なんだ人虎か、確かインド辺りにいる奴だな。そんな辺境に居たのなら俺を知らなくても仕方ない。だが、それにしては随分と小さいな・・・口元に血が付いてるって事はもう晩餐にあり付いたのか?」
僕の紙袋を破った事は気にも留めずバーゲストは何か1人納得すると僕に興味を失ったように去って行った。
「全く、なんなんだよ。謝りもしないで・・・」
そう思って破られた紙袋を被り直そうとしてネトッとした感触に思わず紙袋を見る。
トマトジュースで汚れたところは拭いたので湿ってはいるだろうけど、ネトッとしない筈だ。
って事は・・・バーゲストの涎か?
汚ったな!
そう思った瞬間、紙袋を投げ捨てていた。
「はぁ~、これでこのマスクが隠せないよ・・・どうすんだよ。いっそタオルでも巻くか。全く、噛み付くんじゃなく手で剥がせば涎なんて付かなかったのに・・・」
頭に手を当ててそう思った時、ふと思い出した。
バーゲストって犬の仮装をしてた人、着ぐるみなのに犬の口で噛み付いた?
・・・
あのネトッてしたのって涎だよな・・・着ぐるみの口で噛み付くだけでも変なのに涎まで出るのか?
それに随分大きかったような・・・
・・・よっぽど凝ったのを作ったんだろう。
多分、親がロボット工学とかに興味のある人でリアルな作りにしたんだろう。
テレビでもあんなのがあった気がするしね。
僕は背筋に走った悪寒を紛らわすように前向きな考えを思い浮かべる。
そう考えれば、凄い技術だな、日本。
さて、僕もそろそろお菓子貰いに行くか。
少し怖くなって来たのでみんなが居るだろう本宮の方へと向かう事にした。
本宮の前に着くと、僕は絶句した。
思った以上に仮装している人の数が多かったからだ。
それになんか浮いてるのもある。
風船かな?とも思うけど、何とも不自然な動きをしているので違う気もする。
それにアチコチからまだ集まってきているからだ。
これって町内会の子供だけじゃないよね?
商店街も共同だからこんなに集まったのかな?
でも、なんかおかしい・・・
「よぉ、ラク!もう来たのか?」
危険な気がしてその場を離れようとしたらジョンに声を掛けられた。
「うん。僕もお菓子貰おうと思って来たんだけど、人の多さに驚いちゃって・・・」
「ははは、そっかそっか!そりゃビックリするよな!こんだけ化け物がそろってりゃな!」
「うん、これだけお化けの格好した人がいると偽物だってわかってても怖く感じちゃうよ」
「うん?ニセモノ?いや、こいつらは本物だぜ?」
僕はジョンのその台詞にゾクッとするものを感じたが敢えて無視して言い返す。
「それは無いよ。本物なんていないって、みんな街の人が仮装してるだけだって」
「ふむ、信じてないのか?」
「何を?」
「化け物って奴だよ」
「そりゃ信じてないよ。見た事ないもん」
そう言うとジョンが額に手を当てた。
「ガッデム。初っ端で躓いちまった!」
そう言ってジョンは何か考えこんでしまった。
どうしよう。
そう考えていると、知らないお爺さんが近付いてきて声を掛けてきた。
「ほっほっほ、楽太郎君じゃったかな?
わしは猿田彦と言う。よろしくな」
「え?は、はい、こちらこそよろしくお願いします」
僕は知らないお爺さんに頭を下げる。
「ほっほ、礼儀正しいのぉ、お前の爺さんも礼儀正しかったが、親御さんの教育が良いのかのぉ」
「おい、ジイサン!」
「まぁ、任せておけ、お主よりましな説明をしてやるでのぉ」
「むぅ、仕方ないか、そんじゃ頼むぜ」
そう言ってジョンは口を噤んだ。
猿田彦お爺さんは僕に向き直ると話し始めた。
「それじゃぁ、まずは楽太郎君、先に謝っておこう。こんな事に巻き込んで申し訳ない」
猿田彦お爺さんがそう言って頭を下げてきた。
「なんで謝ってるんです?それに巻き込むって何にですか?」
「この百鬼夜行のぶつかり合いにじゃよ」
「百鬼夜行?」
「まぁ、日本じゃ妖怪や鬼が集まって集団で練り歩く様を百鬼夜行と言うんじゃが、儂らからすると妖怪や鬼どものお祭りみたいなもんじゃ」
「お祭り?」
「まぁ、今風に言うとパーチーとかパレードみたいなもんじゃな!」
「へぇー」
「まぁ、今回はちょっと意味合いが違うんじゃなのぉ、楽太郎君は本当のハロウィンとはどういうものか知っておるかの?」
そう聞かれて僕は素直に答えた。
「子供がお化けの仮装をして家々を回って『トリック オア トリート』って言ってお菓子を貰うか悪戯するお祭り?」
「まぁ、今の日本じゃそんな感じじゃな。じゃが、本当のハロウィンと言うのは違うんじゃ」
「え?」
「本当のハロウィンと言うのはじゃな、古代ケルト人の大晦日の祭りでのぉ、日本で言うと秋の収穫祭とお盆を足したようなもんじゃな」
僕はその事に驚いた。
「そうなの?じゃぁ、お祝いだったって事?」
「うーむ、半分正解じゃが、半分外れじゃな」
「半分?」
「日本のお盆じゃと、あの世から先祖が戻ってくる風習なんじゃが、ハロウィンでは先祖だけでなく悪霊もこの世に呼び込んでしまうんじゃよ」
「えぇ?!」
「じゃからハロウィンでお化けに仮装するのは呼び込んでしまった悪霊に自分も仲間であると錯覚させて身を守る術だったんじゃ」
「じゃぁ、仮装していれば身を守る事が出来るって事?」
「そう言う事なんじゃが、そのままでは悪霊が現世に留まっちまうんじゃよ。じゃから悪霊を払う祭りでもあったんじゃ。
じゃが、今回はちょっと趣向が違っておってのぉ」
そこで猿田彦お爺さんが言葉を濁した。
「さて、ここから先の話は俺が話すぜ!」
「おい、ジャック、ちょっと待たんか!」
「任せておけってジイサン。
さて、今回なんだがな、普通はケルトのお祭りであるハロウィンってのはこんな辺境の島国じゃ根付く訳は無いんだ。
なんでかわかるか?」
そう言われて僕は少し考える。
「うーん。ケルト人のお祭りだから?
ここは日本だから僕たち日本人が信じてるお祭りじゃないと根付かないのかな?」
「おぉ、中々鋭いな。
その通りだ。中国やロシア、アフリカのお祭りなんて言われてもラクは知らないだろ?」
「うん、知らない」
「そう、元々ジャパンじゃ数十年前まではハロウィンは全く知られていなかったんだ。
だから俺ものんびり暮らせていたんだけどな。
どっかの強欲な製菓会社が販促イベントにハロウィンを取り入れやがったんだ!」
「ジャック!私怨が入っとるぞい?」
「あぁ、悪い。まぁ、そんな感じでジャパンにもハロウィンって祭りが浸透しちまったんだ」
「ふーん」
「まぁ、認知のされ方が偏ってる所為で本来の祭りとはちょっと違う法則が生まれ始めてるんだ」
「どんな風に違うの?」
「最初にジイサンが言ったと思うが、この国の百鬼夜行ってのは妖怪や鬼のお祭りなんだよ。
つまりお化けの仮装をして練り歩くって言うのは化け物にとっても仲間がお祭りしてるって思っちまうんだ。
つまりそこに本物が引き寄せられるんだ。
そして仮装集団に本物が混じり、更に大きなお祭りになってもっと多くの悪霊が呼ばれるんだ。
因みに先祖が返って来るって認識がされていないから今のジャパンのハロウィンじゃお前等の先祖は帰って来ない」
「つまり、悪霊だけが呼ばれてるって事?」
「そう言う事だ」
「うーん、何処から悪霊が呼ばれるの?」
「そりゃ地獄さ!」
「え?!それって大変な事なんじゃないの?」
「ああ、そうだ。しかも、悪霊は集まるんだが、仮装しているだけだから退治されない。
つまり、悪霊がこのジャパンに集まるのに退治されず悪さをし続けるって事だ」
それってすごく危険な事なんじゃ・・・
「そう、とても危険なんじゃ。
じゃが、昔それを何とかしようと考えた奴がおってのぉ」
「誰?」
「そこのジャックじゃ」
そう言って猿田彦お爺さんはジョンを指す。
「え?ジョン?」
「そそ、オレオレ!」
「それでのぉ、今回、白羽の矢が立ったのはお主なんじゃ、楽太郎君」
「へ?どういう事?」
「実はな、大分前なんだが、俺はハロウィンの際、1つの概念を捻じ込んだんだ」
「その概念と言うのが問題でのぉ、何処かの誰かに必ず皺寄せが行くんじゃよ」
そう言って猿田彦お爺さんはジョンを睨む。
「おいおいジイサン。上手く行けばハロウィンが根付いても簡単に悪霊を払えるようになるんだぜ?
感謝こそすれ、そんな風に睨まれるとは、心外って奴だぜ?」
「はぁ、それも確かじゃが、もうちっと確実な方法は無かったのかのぉ?」
「はは、そこはほら、俺が楽しめればそれでいいからさ、ノリと勢いって奴でやっちまったんだよ」
「全くこの悪戯者が・・・」
そう言って猿田彦お爺さんは額に手を当てた。
「それでもアンタに事前に知らせたんだからいいだろう?」
「まぁ、そうなんじゃがのぉ」
なんか2人で納得してるけど、つまりどういう事だろう?
「ねぇ、結局どういう事なの?」
「おぉ、すまんすまん。つまりじゃな、そこのジャックが捻じ込んだ概念と言うのは、悪霊を払う方法なんじゃが、これが少しばかり奇抜でのぉ」
「おっと、ジイサン!そこから先は俺が説明するぜ」
「ハロウィンって祭りはな、今や世界中に広がっちまってんだが、その土地にハロウィンが根付く際に『ハロウィン生まれの子供』が悪霊達と戦って生き残った場合、今後その恰好をしたものを見るだけで悪霊が恐れて逃げて行くって言う概念を捻じ込んだんだ」
「どういう事?良くわかんない」
「うーん。つまり、『ハロウィン生まれの子供』が魔女の格好をしてハロウィンで悪霊を倒し続けて生き残れた場合、その土地ではハロウィンの日に魔女の格好をしていると悪霊が勝手に逃げ出してしまう様になるんだ」
「わかるかの?」
「な、なんとなく」
僕は引き攣った顔で答える。
「因みに魔法少女が生まれた切っ掛けは、日本のとある漫画家がフランスで悪霊に襲われた時に魔女の格好をした少女が近くを通ったら悪霊が逃げ出したのが切っ掛けらしいぞい」
「へぇー」
「因みにアメリカはカボチャのジャック・オー・ランタンの格好な!」
「へぇー」
「それで本題なんじゃがな、今回の日本ではな「面白いお話ありがとうございました!!」」
嫌な予感がしたので僕は猿田彦お爺さんの言葉を遮ってその場を逃げ出そうとしたけど、ジョンに腕を掴まれてしまった。
「待てってラク!ここからが重要なんだよ。
このままじゃお前、殺されちまうって事なんだぞ?」
「なんで?!」
僕の全身は既に震えていた。
何かヤバい、この2人、ヤバい人だ。
関わっちゃいけない感じの人だったんだ。
早く逃げなきゃ。
「良いか、日の出まで生き残れ!そうすればこの日本じゃお前と同じ格好をした奴が居ればハロウィンで出てきた奴等はみんな逃げ帰る様になるんだ!」
強い言葉でそう言うと、ジョンは僕に冷たい液体を掛けてきた。
「つ、冷たい! なんかヌルヌルする?!」
「それは聖なる油だ。お前の身体を守ってくれる。
悪霊がお前に触ろうとすると火に炙られるような痛みを負う」
「それとこれを持って行くんじゃ。
清めの塩とお神酒じゃ」
そう言って猿田彦お爺さんが塩とお酒を渡してくれたが、塩のラベルは『〇方の塩』となっていて、お酒の方はワンカップ「大〇」だった。
普通の塩と日本酒・・・大丈夫だろうか?
「塩もお神酒も悪霊にぶっ掛けりゃ消滅するでのぉ、無くなったら本宮に置いてあるから取りに行くんじゃよ」
「ちょっと、本気で言ってるんですか?」
「本気じゃよ。因みにじゃが、流石に下界でそのままやられると大惨事になりかねんからのぉ、地獄の入り口と悪霊と楽太郎君を異相をずらした異界に移動させたから、この神社の敷地内しか移動できなくなっちまったんじゃが。まぁ、何とかなるじゃろ?」
いきなりよくわからない事を言われた。
「それってどういう事ですか?」
「まぁ、ざっくり分かり易く言うと、朝までは神社の敷地内から出られないと言う事じゃな」
そう言って猿田彦お爺さんは苦笑いをした。
・・・それって朝まで家に帰れないって事?
「お母さんに怒られる!」
「「心配するのはそこかーい!」」
二人同時に突っ込まれた。
「仮にも楽太郎君。君の生死が掛かっておるんじゃぞ?」
「それならお家に帰してもらえませんか?」
「そ、それはのぉ・・・」
「それは無理だぜ!」
猿田彦お爺さんは言葉に詰まってしまったが、ジョンが僕の希望を否定した。
「なんで無理なんだよ?」
「このジイサンが言ったろ?
朝になるまでここからは出られないんだよ。
まぁ、そう言う事だから本当のハロウィンパーティを楽しんでくれ!」
そう言うと僕を残して猿田彦お爺さんもジョンも消えてしまった。
「え?!ど、どこ? どこ行ったんだよ?」
ビックリしたて声を出したけど、返事は無かった。
辺りを見回しても誰もいない。
そして僕は徐々に迫ってくる仮装集団、じゃなくて悪霊集団?を見付け、戦慄を覚えた。
ヤバい、このままじゃヤバい。
そう思った時には必死に神社の出入り口へと駆け出していた。
そしてあともうちょっと、鳥居を潜れば神社から出られると言うところで見えない壁でもあるかのように弾かれた。
「痛ッ!」
僕はぶつかった肩を押さえながら何度も出ようとするが見えない壁に阻まれて出られなかった。
それに後ろからは悪霊の集団が近付いて来る。
「うわぁっ!?」
僕は慌てて鳥居から離れて神社の横手に逸れて隠れる。
息を殺して暫らく待っていると、悪霊の集団が近付き、通り過ぎて鳥居の方へと向かって行く。
僕はこのままでは見付かると思い階段を登って境内の方に行き隠れる事にする。
そうして動こうとするが、僕は恐怖でがくがくと身体が震えるので必死に力を入れて震えを抑える。
その間にも悪霊の集団に気付かれていないかと何度も振り返りつつ、音が出ない様にゆっくりと進む。
その足取りは遅々として進まないが、それでもまだ気付かれていない。
その事に少し気を抜きかけた時だった。
『『『ぐぅぅぅ、俺達をここから出せぇ!!』』』
悪霊の集団から腹の奥底まで響くような暗く、悍ましい怨嗟の声が突然大音声で鳴り響く。
「ひっ?!」
『『『誰だ!!』』』
悲鳴を上げた僕の方を悪霊の集団が一斉に振り向く。
『『『お・ま・え・かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』』』
「ひぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」
僕は悲鳴を上げて階段を駆け上がる。
もう無我夢中で必死になって駆け上がった。
あと少しで境内に出る!
そう思ったところで何かに足首を掴まれた。
「うわぁぁっ!な、何が?!」
自分の足を見ると全身骨で出来たホネホネの骨の手が僕の足首を掴んでいた。
「は、離せぇ!」
見た瞬間咄嗟に逆の足で骨を蹴るが解ける事は無く逆にギリギリと足首を締め上げられる。
足首の痛みに僕は慌てて両手で骨の手を外そうと骨の手に触れると、ジュッと言う音がして呆気なく骨の手が崩れた。
『ギャァ!』
「え?」
僕もホネホネも予想外の出来事だったので一瞬固まってしまったが、僕はすぐに立ち上がって階段を駆け上がった。
境内に入ると僕は隠れる所を探す。
灯篭の陰、狛犬の下に本宮の中・・・視界に入る場所を見ても全然安心できそうにない。
不安になって後ろを振り返ると悪霊の集団が階段を登って来ている。
「ま、まずはあの集団を何とかしないと・・・」
何かないかと考え、思い出す。
猿田彦お爺さんがくれた塩とお酒。
あれを掛ければ悪霊が消えるんだっけ?
急いで鞄から取り出す。
塩の包装ビニールを引き千切ろうとするが硬くてなかなか開かない。
焦る僕は端っこを咥えて噛み千切ると、先頭集団にいた怒った馬面が階段から顔を出したところだった。
「うわぁッ?!」
「ブヒィィィィン?!」
驚きの声と共に咥えていたビニールの切れ端と塩が馬面に当たると馬面のお化けが悶え苦しみながら消えた。
「え?あ?!」
馬面に怒った現象に驚くが、後続の悪霊が次々と階段から登って来るので僕は慌てて悪霊たちに塩を投げつける。
塩を投げる度に悪霊が消えていくけど、悪霊たちは次々と迫りくる。
そして手持ちの塩が底をついてしまった。
「あ、あぁ?!無くなった!」
僕は慌てて逃げ出すが、すぐに追いつかれて本宮前で囲まれてしまう。
「う、ぅぅうぅ」
何かないかと鞄を探りワンカップ「〇関」を見付ける。
『オ前カ?今回ノニエハ?』
「へ?」
問いかけてきたのは大きなハエだった。
なんか、ハエってデッカイと気持ち悪い・・・
『オ前カ?今回ノニエハ?』
黙っていると同じことを言って来た。
僕が気持ち悪さと恐怖で答えあぐねていると、何処からかジャックの声が聞こえてきた。
「贄じゃねぇ!勇者だ!」
「ジョン?」
『キサマハ、ジャックカ・・・久シイナ』
「あぁ、そうだな。俺がお前を騙した時以来だから・・・どれくらい振りだろうな?」
そう言ってジョンは高笑いする。
『フン!ダガ、キサマハ天国二入レズ、サリトテ我トノ契約ニヨリ地獄ニスラ入レズ惨メニ現世ヲ彷徨ッテイルデハナイカ?
賢イ振リヲシタ大バカ者ノ成レノ果テメ。
哀レヲ通リ越シテ滑稽ダ』
そう言ってでっかいハエも高笑いする。
「それにしてもこんな所に出て来るなんて地獄も暇なんだな?諸悪の王様w」
『フ、フン、コンナ辺境クンダリマデ本体デ来ルカ!
我ノ配下ヲ通シテ話シテイルダケダ!
貴様ト違ッテ我ハ忙シイノデナ!』
「忙しいなら辺境まで見てる暇ないんじゃ・・・?」
『ヌゥ?!』
「ふはは、子供に言い負かされてるぞ?」
ついうっかり突っ込んでしまった僕の言葉に図星を付かれた様な声を出すでっかいハエ。
それを見てジョンが腹を抱えて嗤っている。
『貴様ァァ!』
憤怒の声を上げるでっかいハエに僕は怖くなってワンカップ「〇関」を投げつける。
『グァァァァァァ?!』
そう言って地面にポトリと落ちるとのた打ち回るでっかいハエ。
それを見てジョンが更に笑い声を上げる。
「うはははは、諸悪の王、お、俺を笑い殺す気かw」
『ヌゥ、コノ身体デハ耐エラレヌカ、ダガ、コノ屈辱ハ忘レヌゾ小童ァ!』
そう言うとでっかいハエは消えて行った。
「全く、なにしに出て来たんだか・・・あー、笑ったw」
「あの、ジョン?」
「あぁ、悪い悪い、ちょっとした古い知り合いだったみたいだ」
「そ、そう」
僕はそれ以上聞く事は止めておいた。
するとジョンが真面目な顔で僕に質問する。
「それとだな、覚悟は決まったか?」
「・・・なんの?」
「あいつらと戦う覚悟だよ」
そう言って悪霊たちを親指で指す。
ジョンの言葉は今の僕に、やらなきゃやられるって事を理解させるのに十分だった。
「うん。殺らなきゃ殺られるんなら、僕は怖くても殺る事にするよ」
「OK、良い覚悟だブラザー、それとこの際だから言っておくぜ、自分の事を『僕』って言うのはもうやめておけ」
「なんで?」
「『僕』って言うのは『僕』と言って下僕を指す言葉なんだ。
お前は今、生きる為の、男としての覚悟を決めたんだ。
それならお前はもう誰の下僕でもないはずだ。
そんな男が自分を卑下する言葉を使うのは間違っている。
これからは他の言葉を使うんだ」
ジョンの言っている事に驚いたが、そう言われると『僕』は使いたくない。
「わかった。これからは『俺』って言う事にするよ」
「おっし、それなら行って来い!」
「え? えぇぇぇぇぇぇ?!」
僕はジョンに背中を思いっきり押されて悪霊の集団に放り込まれた。
そして悪霊に囲まれる。
「な、なんでぇ?!」
「戦え!そして克服しろ!」
「意味わかんないんだけどぉ?!」
『ウヴォォォォォォ!』
悪霊たちが叫び、ぼ・・俺に群がってくる。
「く、来るなぁぁぁ!」
僕は悲鳴を上げて必死に手足を振り回すが悪霊たちは囲いの輪を狭め、遂に俺を掴み上げた。
「ヒィッ?!」
その瞬間、恐怖の頂点に達した俺は、『ぷつっ』と自分の中にある何かが切れる音が聞こえた。
そして、1つの声が聞こえた。
『獣だ。獣になるのだ!心の中の獣を解き放つのだ!』
「来るなって言ってんだろぉぉぉがぁぁぁぁぁ!!」
恐怖が怒りに転嫁した瞬間だった。
俺は俺を掴み上げた何かに向かって拳を叩き込んだ。
『ぎぃぃぃ!』
耳障りな音を立てて何かが消え去った。
そして俺は群がってくる悪霊に塩を撒くとあちこちから悪霊の悲鳴が聞こえ、消えていく。
理由はわからないけど、塩を撒けば消えるんだ。
補充した塩を乱雑に掴み、近寄ってくる悪霊に投げ付けつつジョンの所へと向かう。
「ジョン!なんでこんな事したんだ!」
そう言ってジョンの顔を殴ろうとしたけど、手が届かないので鳩尾を狙って殴りつけ、身体がくの字に折れ曲がった所で顔を殴ろうとしたけど、鳩尾を殴ってもジョンは姿勢を崩さず笑っただけだった。
子供の力じゃ痛みも感じないのか?!
「はっはっは、悪いなラク!だが、どうしてもお前の恐怖心を抑える必要があったんだ」
「なんで!」
「俺もこういう者だからさ」
そう言うとジョンは白くて丸いキーホルダーを腰から外し、顔の前に掲げるとバレーボール位大きくなり、目の部分に赤い炎が灯る。
「?!」
「俺も身体を持っていないんだよ」
キーホルダーに注視していた僕はジョンの方を向くと更に驚いた。
ジョンの身体が透けていたからだ。
僕は一瞬固まったけど、すぐに塩を掴んで投げ付けた。
でもジョンは平然と立っていた。
「はは、俺には効かないんだ。
いるべき場所が無いからな」
ジョンは寂しそうにそう言った。
「いるべき場所?」
「あぁ、そうさ」
そう言ってジョンは悪霊を牽制するように塩を撒く。
「どういう事?」
「昔話をしてやるよ」
そう言ってジョンは教えてくれた。
今よりもずっと昔、ジョンはスコットランドってところで生まれたらしい。
生まれは孤児だった為、生きる為に仲間と一緒に盗みをしたり人を騙したりと生きる為に色々悪い事をしていたそうだ。
そうして必死になって生きる技術を身に付けて行く内に、ジョンは人を騙す事に楽しみを覚えるようになったらしい。
博打でイカサマをしては相手を嘲笑い、嘘を教えて騙しては人を虚仮にする。
そう言う事をしている内に仲間は次は自分が騙されるのではないかと怯え、みんな離れて行ったそうだ。
そうして孤独になった時、一匹の悪魔が現れる。
その悪魔はジョンの魂を取ろうとハロウィンの日に現れたが、ジョンに騙され魂を取るどころか逆に手玉に取られて囚われの身となってしまう。
そうしてまんまとジョンに騙され、地獄に堕ちないように契約を交わすことになる。
そして安心して人を騙し、悪事を働き続け、遂にジョンも死を迎える。
ジョンは数多の悪事を働いたが、地獄には堕ちない。
なので天国へ入れると高を括っていたらしいけど、実際は天国の門番に「お前は生前数多の悪事を働いた。よって天国には入れない」と言われ天国の門は開かなかった。
そして失意の中、仕方なく地獄に入ろうとするが契約を交わした悪魔が厭らしい笑顔で「お前は俺との契約で地獄には入れない」と告げる。
困ったジョンは「俺はどこに行けばいいんだ?」と悪魔に聞くと「元来た場所に帰るんだな」と嘲笑され、餞別とばかりに小さな地獄の炎をジョンに投げ付ける。
ジョンはその炎が消えない様に落ちてたカブをくり抜いてランタンを作り、その中に地獄の炎を入れて彷徨う事になった。
「まぁ、最初はそんな感じで悲嘆に暮れていたんだがな、よくよく考えれば自業自得って奴でな、笑っちまうだろう?」
そう言って自虐的に笑うと、続きを話してくれた。
そうやって落ち込んだままあの世では居場所が無いので現世を彷徨い続けていたが、500年もすると現状をどうにかできないかと考え始め、1つの可能性を見出す。
『生前の悪事を帳消しにしても余りある善行を行えば天国に行けるんじゃないか?』と。
「500年も落ち込んでたの?」
と突っ込むと、ジョンは恥ずかしそうに「俺はデリケートなんだよ!」と言って来た。
そんな感じで善行を積もうと考え現世の現状を調べてみると、とんでもない事が起こっていた。
現世ではキリスト教が布教され、ケルトのドルイド信仰は廃れてしまっていた。
それなのにハロウィンは何故か継続されており、悪霊が現世に溢れていた。
それと何故かジョンの生前行った悪事が逸話化され、ハロウィンに関連付けられていた。
「本当はドルイドの祭司達が悪霊を払っていたんだが、その頃にはドルイドの祭司は居なくなってたんだ」
そんな感じで現世には悪霊が数多く蔓延る事になっていたそうで、ジョンはそこに目を付けた。
その溢れ出ている悪霊を払えば俺は天国に行けるんじゃないか?と。
そこからジョンは必死に悪霊を払う方法を探し、元々ドルイドの祭司が行っていた悪霊払いを別の方法に変更する事を思いついたらしい。
そこで「なんで子供に戦わせたのさ!大人の方が強いでしょ?」と聞くと、「大人は俺の言う事を信じてくれなかったんだよ。その頃には俺の逸話が広がり過ぎて誰も耳を傾けなかった。ただ、子供だけが信じてくれたんだ」と無表情で教えてくれた。
まぁ、そんな感じでジョンはずっと善行を積んでいる最中らしい。
ぼ、俺にとっては迷惑この上ない話だけどね。
「と言う訳で、俺は居るべき場所を求めている最中なんだ。
ラク、諦めて俺の善行の犠せ・・・礎になってくれ!」
「今、犠牲って言ったよね?!」
「い、いや、言ってないよ?」
そう言っているけどジョンの眼は泳いでいた。
それを見て僕は溜め息を吐いた。
生前悪事を働いたジョンが、今必死に善行を積んで天国に行こうとしている。
その事については前向きで良い事だと思う。
ただ、このままではジョンは天国に行けないと感じた。
それは、この状況を生んだジョンは・・・
「さぁ、お喋りは終わりだ!
ここからはお前の仕事だぜ!」
そう言って『聖油』をまた俺に掛けてきた。
「つ、冷たいって?!」
聖油の冷たさにジョンから目を一瞬逸らしてしまった次の瞬間、ジョンの姿が消えていた。
「またぁ?!」
「はは、まぁ頑張ってくれ、俺もサポートはするからな!」
声だけは残っているが、どこにも見当たらなかった。
そんな事をしている間にも悪霊は次々と近付いて来ているので俺は必死に塩を撒いた。
それはもう本当に必死にだ。
そしてついに塩が底を尽く。
「し、塩が無くなった?!」
俺は慌ててワンカップ〇関の山から1つ取り出し、蓋を開ける。
その間に悪霊はすぐ近くまで近付いて来る。
「あ、開けるのに手間が!」
なんとかお酒の蓋を開けて悪霊たちに向けて振り掛けるがすぐに包囲の輪が縮まる。
「こ、これじゃ駄目だ!やっぱり塩じゃないと・・・」
そう思う間にも悪霊に近付かれ、悪霊の手が伸びてくる。
俺は慌てて振り払うと悪霊が悲鳴を上げて消えて行く。
・・・うん?
直接触れるだけで悪霊が消える?
もう一度近付いてきた悪霊の手を払うと又も悲鳴を上げて消える。
「触るだけで消えるの?」
「はは、そこにようやく気付いたか!」
「うわっ?!」
後ろからの突然の声に後ろを振り返ると笑っているジョンが居た。
「ジョン?! 酷いじゃないか、1人にするなんて!」
「ははは、悪い悪い。だけど素手で触ったから消えたんじゃないぜ?
俺が何度も聖油をお前に掛けてるから聖油の効果で戦えるんだぞ?」
「嫌がらせで油を掛けてたわけじゃなかったんだ・・・」
「おいおい!聖油を塗られた者ってのはメシアとも呼ばれるんだぞ?
メシアってのは救済者の意味もある。それにここ日本じゃ救世主って意味もあるんだろ?つまりお前は救世主になってるんだぞ? ふははは、客観的にみると笑えるな!」
「そんな事を笑いながら説明されても良くわかんないよ!
それにそれってそんなに笑えるところ?!
それよりも手伝ってよ!」
そう言いつつ拳を振りまわして悪霊を必死に消し続ける。
お世辞にもカッコいい戦い方とは言えない。
恐らく見た感じで言うと「ははは、駄々っ子みたいな叩き方だな!そんな格好してるんだからそれっぽい戦い方すれば良いんじゃないか?」
そう言ってジョンが更に笑う。
「そ、そんな事は良いから早く手伝ってよ!」
俺は息も切れ切れにお願いする。
「そうだな、それじゃちょっとだけ手伝ってやるか、ランタンよ!」
そう言うとジョンは白くて丸いキーホルダーを掲げると大きくなり、目と口の部分に火が灯る人の顔をしたランタンに変わる。
「ほれ、地獄へ帰りな化け物ども」
そう言うとジョンが手にしたランタンから炎が吹き出し悍ましい悲鳴と共に悪霊たちが焼き払われて行く。
「最初からそれやってくれれば俺、こんなに苦労しなかったんじゃ・・・」
「ははは、俺の力にも限りがあるんだ。
そう易々とは使えない。
有限だからこそ有効に使わないとすぐにガス欠になるのさ」
そう言って盛大に悪霊たちを焼き払って行く姿を見ると、ガス欠するようには見えない。
「あ、切れちまった」
そう思った傍からガス欠した様だ。
「有効に使うんじゃなかったの?!」
「ははは、だから後は頼んだぜ?」
そう言ってさっさと消えてしまった。
「あ、ズルい!」
「その格好してるんだからそれっぽく戦えよ~w」
「くっそぉー!」
ジョンに言われて自分の格好を思い出す。
そう言えばタイ〇ー〇スクだったんだっけ?
それっぽくって、タイ〇ー〇スクみたいにプロレス技の肉弾戦で戦えとでも言うのか?
なんて無茶を言うんだ?!
そう思ったけど、取り囲まれたので俺は慌ててダブ〇ラリアートのように回転して両手を伸ばすと面白いように悪霊が悲鳴を上げて消えて行く。
だが、この技には欠点があった。
目が回る・・・
平衡感覚を失いひっくり返った所を悪霊たちに囲まれたけど、聖油の効果で俺に触れた途端に悪霊が苦しみ始める。
その光景を見てそれまで無造作に近付いて来ていた悪霊たちも俺に近付くことを少し躊躇し始めた。
これなら慌てて戦わなくても・・・と思っていたら声が響いた。
「ようやく雑魚共も理解したか、貴様等ではただ消えるだけだと」
声の方を見るとでっかい犬が立っていた。
「バーゲスト?」
「ぬぅ?先程の人虎ではないか、お前が贄か?」
不思議そうにバーゲストは小首を傾げた。
「贄じゃないんだけど?」
「では聖油を塗られて何故平気でいられる?」
「・・・」
沈黙する俺に対し、バーゲストは鼻をスンスンと鳴らすと俺を睨み付ける。
「お前、人虎ではなく人か!」
「そ、そうだけど?」
「俺を謀ったのか?!この悪童めが!」
歯を剥き出しにして怒っている。
「いや、そっちが勝手に勘違いしただけじゃないか、それに俺も着ぐるみを来た大人の人だと思ってたから、お互い様じゃないかな?」
俺がそう言うとバーゲストは素直に聞き入れてくれる。
「ぬぅ、そうなのか?では仕方ないか。
だが、贄と分かった以上は俺の晩餐としてくれる」
素直だが、欲望にも忠実なようだ。
言い終わると同時に襲ってきたので俺が右手の拳を突き出すと、バーゲストは躱さず口を開けて噛み付こうとするので慌てて引っ込めるとそのままバーゲストに体当たりをされて飛ばされる。
「うわぁ!」
地面を転がされ、油の所為で砂が体に巻き付く。
「これで聖油の効果も半減と言ったところだろう?」
そう言って追撃を掛けてくる。
不味い、何かないか?
そして思い出す。
あったぞ、確か・・・と俺は股間を弄る。
「むぅ、恐怖で漏れそうなのか?」
「ち、違わい!」
股間を弄っているのを漏れそうだと勘違いされ、慌てて否定しつつ、掴んだ目的の物を取り出す。
「ぬぅ、武器か?」
十徳ナイフだ。
僕は急いでナイフを出そうとしたが、何故かコルク抜きになってしまった。
その頃にはバーゲストが接近していたのでナイフに再度変える余裕が無い。
えーい、仕方ない。
そう思いバーゲストの体当たりをギリギリで躱し、カウンター気味にして脳天に思いっきりコルク抜きを突き立てる。
「ぐあぁぁぁ?!」
バーゲスト自身の勢いもあって上手い具合に刺さったのでそのまま勢いよく捩じり込むとバーゲストがもがき苦しむ。
「がぁぁぁぁぁ、や、やめろぉぉぉぉぉぉ、の、脳がぁぁぁ!」
「や、やめたらまた俺を殺す気だろ?絶対にやめないからなぁ!」
「あ、あぎゃぁぁぁ!」
バーゲストは俺の腕を必死に掴むが掴んだ手がジュウジュウと焼ける様な音を立てて爛れ、爪も抜け落ち、すぐに掴むことが出来なくなる。
その間も俺はコルク抜きをねじり続け、根元近くまで埋め込むと十徳ナイフを取っ手代わりにバーゲストを引き摺る。
ここまでしても消えないのなら今度はお酒をぶっ掛けようと本宮へと向かう。
「ぐ、ぐあぁぁ?!や、やめれくれぇ、も、もう襲わなひ。襲わなひらら助へへくへぇ!」
「本当かなぁ?」
そう言いつつ本宮へと向かう足取りは止めない。
「ほ、ほんほうへすぅ。あなははまのへぼぐにぃなひますぅぅ」
「へぼぐ?」
「げぇ、ぼぉ、くぅぅ、へす!」
「どうすれば下僕にできるのかな?」
「あ、あなははまをあるひほあはめはへまつひまひゅゆへ、はへに名ほおははへくははい」
「名前を付けるの?」
「はひ、へひに」
そう言われて考える。
歩みは止めず、バーゲストの様子も確認しつつなのであまりじっくり考えられない。
「バーゲストだから、バスト?」
「えぇ?!」
「いや、オッパイだから却下だな、呼ぶ時恥ずかしいし」
「はぁぁ、良はっは」
「じゃぁ、ゲスト。って、お客さんじゃないしな・・・
シンプルにゲスだと呼ぶときやっぱり恥ずかしいし・・・
バゲ・・・なんかハゲって言っちゃいそうで呼ぶ時、特定の誰かに恨まれそうだ・・・」
俺のネーミングに段々と不安そうな顔をするバーゲスト。
脳天にコルク抜き刺された犬面なのに表情が読めるってなんだよこれ。
「よし、決めた。お前の名前は『バースト』だ」
俺がそう言うとバーゲストの身体が光り、コルク抜きから伝わる重さが無くなると子犬くらいの大きさになったバーゲストが地面に立っていた。
「・・・バーゲスト?」
「はい、名を頂戴したので今はバーゲストのバーストです」
そう言うと足にすり寄って来た。
普通なら和む行為だろうが、今は邪魔だ。
「バースト、あいつ等何とかできる?」
「すみません。主との戦いで魔力が尽きてしまいまして、今の私はそこらの悪霊よりも弱くなっています」
つ、使えない!
「とりあえず、死なないようにそこらへんで適当に遊んでてよ」
「はい!」
そう言うとバーストは境内の方へ駆けて行った。
・・・なんか、どっと疲れたよ。
「ふはは、やっぱ面白いわ、ブラザーは見てて飽きないぜ!」
ジョンはそう言って油をまた俺に掛けた。
「冷たいって!
掛ける前に一声かけてよ。
心の準備くらいさせてくれよ!」
「はは、悪い悪い」
そう言ってジョンはまた笑う。
「まったく、でも本当に疲れたよ。
そろそろ限界なんだけど」
現状はもうフラフラで速攻地面に寝転がりたいくらい疲れてるけど、まだ悪霊が一杯いるので死にたくない俺は頑張るしかない。
俺の言葉を受けたジョンはポケットから懐中時計を取り出して時間を見る。
「ふむ、今11時半だから、あと30分であの世の門が閉まる。だからそれまでは頑張れ」
いつの間にか3時間近く戦ってたのか?
必死だったからわからなかった。
いや、それよりも・・・
「あれ?朝までだって言ってたよね?」
「日の出までな。日が出れば雑魚は自然に燃えて地獄に追い返されるからだよ」
「それなら僕が何とかしなくても朝になれば自然に消えるから安全なんじゃないの?」
「いやいや、さっき戦ってたバーゲストとか少し強めの奴は知恵があってな、建物の中や日の当たらない場所に逃げるんで自然には消えないんだ。
それに『お前が倒した』って事実が重要なんだよ。
それが無きゃ埋め込む概念が生まれないんだ。
それと、もうそろそろ大物が来るからな。気合入れなきゃ死んじまうぜ?」
そう言ってランタンを掲げるとジリジリと近付いて来ていた悪霊たちを一掃する。
大物が来るのか、それなら準備をしないと!
「じゃぁ、暫らくはジョンが悪霊の相手をしてて、俺はちょっと準備するから」
「お、おい?!」
「大物が来るんでしょ?」
「あぁ、そうだ」
「なら少しでも準備をしとかないと生き残れないよ」
俺は真剣にそう言うとジョンは肩を落として諦める。
「はぁ、わかった。少しだけだぞ?」
「ありがとう」
そう言うと俺はワンカップ〇関の蓋を開け捲った。
最初に蓋を開けておけばすぐに使える。
一心不乱にワンカップ〇関の蓋を開け続け、それが終わると一升瓶のお酒に目が向くが・・・これは無理だろう。
重いし口が小さいので中身をバラ撒くのが難しい。
後は残り少なくなった塩を本宮を後ろに、前と左右の3か所に盛り塩をする。
一通り準備をすると喉の渇きに気付いたので鞄からトマトジュースを取り出して一息つく。
「おい、ラク!1人で寛いでるなんてズルいぞ!」
「今までずっと俺1人で戦ってたんだからちょっとくらい良いでしょ?
それに休まないと体がもう持たないよ」
「休まないとって、これから大物が来るって言っただろう?」
「だからだよ、せめてトマトジュース飲み終わるまで待ってよ」
そう言って本宮の端に座ってジョンが戦っている所を見ながらチビチビとトマトジュースを飲む。
「チクショー!消えるぞ?!」
「あー、もうちょっとだけ待って」
そう言ってトマトジュースを飲み干すと「どっこいしょ!」と我ながらオジサン臭い声を上げて立ち上がる。
「さて、「あぁ、来たぞ!」」
俺の声にジョンの声が重なる。
俺は慌ててジョンが指差す方向を向くと、そこにはデッカイ蠅がいた。
「あれ?さっき消えたんじゃ・・・」
「あぁ、ちょっと前に消えた奴は雑魚だったんだが、今度のはその親玉だ」
珍しく真面目な顔をしてジョンが言う。
「や、ヤバい奴?」
「さっき話してた奴の本体じゃないが、相当ヤバい。強さだけならさっきのバーゲストの100倍はあると思った方が良い」
「そ、そんなの勝てないよ?!」
「まぁ、何とかなるって」
「気楽に言ってくれるよ、まったく」
そんな会話をしている間にもでっかい蠅は近寄ってくる。
「先程ぶりだな、ジャック」
「次に会うのは数百年後だと思ってたんだけどな・・・」
「こ、言葉が流暢になってる?!」
「「驚くのはそこ?!」」
俺の声に2人?は同時に突っ込む。
「息ぴったりだね」
「「誰が?!」」
そう言ってジャックと蠅が近寄って来たので俺はサッとワンカップ〇関の中身を蠅に掛けるが、ジュッと言う音と共に酒が蒸発してしまう。
「え?!」
「・・・効かんわ!」
次に塩を掴んで蠅の顔面に投げ付けるが、こちらもジュッと音がして焼けてしまう。
「そ、そんな?!」
驚く俺の顔を見て蠅が愉快そうに笑い声を上げる。
「ふはははは、そんなもの、脆弱な部下の身体でなければ効きはせん!」
前回のた打ち回ったのが相当悔しかったのかもしれない。
しかし、どうすればいいんだ・・・
「自慢げに語っているところ悪いんだが、これでも喰らっときな!」
そう言ってジョンはランタンの炎を蠅に吹き付けると、流石に蠅も耐えられなかったようだ。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
そう言って地面に堕ちてのた打ち回る。
その姿を追い掛けるようにジョンは炎を更に吹き付け続ける。
「ははは、油断大敵って奴だぜ!詰めが甘い」
高笑いして攻め立てるジョンだけど、何か焦っている感じがする。
蠅の悲鳴が続く中、突然ジョンが飛びのいた。
なんだろうと思いジョンの方を見ると頬に傷が出来ていた。
「はぁ、はぁ、さ、流石に今のはヤバかった・・・ぞ!」
そう言って蠅がボロボロになった羽を高速で動かすと衝撃波が生じ、ジョンへと叩き付けられる。
その衝撃波を辛うじてジョンは躱すけど、正直、俺、いやいや僕には無理!
こんな次元が違う戦いになんか参加できる訳がない。
1人ドン引きしているとジョンが叱咤する。
「ラク!お前も戦え!」
「無理無理無理!こんな人外の戦いになんか参加できないって!」
必死で首を左右にブンブン振って拒否する。
「ふはははは、ようやく我の凄さがわかったか小童が!」
そう言って高笑いするが、ジョンは否定する。
「ラク!お前なら出来る」
「出来るって言われても塩もお酒も効かないんじゃお手上げだよ」
「お前の身体には聖油が掛けてあるんだから肉弾戦が出来るだろう?」
「炎を出したり衝撃波が出たりする異能バトルに子供が割って入れるわけないだろ?!」
そう言いながらジョンに詰め寄ると腕を掴まれる。
「まぁまぁ、大丈夫だから・・・行って来い!」
そう言って俺を蠅に向けて放り投げた。
「「はぁ?!」」
蠅と俺は間抜けな声を上げて激突する。
そして蠅と揉みくちゃになって転がること数メートル、何故か蠅が悲鳴を上げていた。
「ぐあぁぁぁぁ!!」
よく見ると俺が蠅に触っている所が溶け始めていた。
「うわ、キモッ!」
溶けた蠅の皮?がネチャっとしてて気持ち悪いので速攻離れようとするとジョンの叱咤が飛ぶ。
「バカ!離れんじゃねぇ!
くっついて叩くチャンスだろうが?!」
「えぇー、気持ち悪いんだけど?」
「それくらい我慢しろ。俺も気持ち悪いとは思うけどな!」
な、なんてひどい発言なんだ。
「ジョンの炎は?それなら倒せるでしょ?」
「その蠅の表面の結界溶かしたら打ち止めになっちまった・・・」
ジョンが目を逸らす・・・使えない。
こうなると今のところ俺が触ってダメージを与えるしか方法が無い。
「贅沢は言ってられないって事か・・・」
そう覚悟を決めると俺は蠅の胴体に絡めた足を蟹バサミの様にして締め付ける。
すると蠅が途端に悶え始めた。
「くっくっく、もがけばもがくほど身体にくい込むわ!
どうや!?
動けるもんなら動いてみぃ!」
「どっかで聞いた台詞だな」
「一応、新〇劇をよく見てたから、ついノリで・・・」
流石に手で直接触るのに抵抗がまだあるので足で挟んだんだけど、なんかそんな台詞でも吐いていないとやってられない。
怖さの限界を超えている所為でおかしな言動をしているのかな?
そんな事を考えていると、蠅が更に抵抗するが、蟹バサミは外せないようだ。
「ぐぅぅ、仕方ない。外殻パージだ!」
そう言うと蠅の身体から何かが抜け出るようにスポンと言う間の抜けた音がした後、抜け殻のようになってクシャッと潰れた。
「え?!」
俺の足に挟まれた蠅の抜け殻?を暫し眺め、何が起こったのかを反芻し、ようやく理解する。
蠅なのに脱皮して逃げた!
慌てて辺りを見回すと蠅の頭を見付けるが、身体が、そのぉ・・・
裸だった。
女の人の・・・
思考が固まってしまったが、何と言うか、女の人の裸に頭が蠅って、すっごく気持ち悪い。
なまじっか人の身体の部分が綺麗だったから蠅の頭になっているのが尚更気持ち悪く感じた。
「ふぅ、大分追い詰められたが、これで十全に力を発揮できるぞ」
そう言って戦闘態勢になる蠅女だが、正直対処に困る。
蠅頭なので気持ち悪さが先に立つが、全体像を見るのは躊躇われる。
「いや、そのぉ・・・」
「むぅ、何をモジモジしておるのだ?」
「ふ、服くらい着て貰えませんかねぇ?」
服を着れば多少気持ち悪さも薄らぐんじゃないかと思ったんだけど。
「服?何を言っているかと思えば、
私は先程からずっと全裸だったではないか!
今更服を着ろとは笑止千万!」
「いや、あの、さっきまでは全体が蠅だったでしょうが?」
「何を言っているのか意味が「この痴女め・・・」」
呆れたようにジョンの呟きが聞こえた直後蠅の頭部に炎が吹き掛けられた。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
そういって裸の女があらゆる所をおっぴろげて転げまわる。
所謂醜態を晒すって奴だ。
いや、痴態って奴かな?
そんな事を考えながらボーっとしていると、蠅女が自分の頭を掴んで強引に引っこ抜いた。
「うわっ、自分の頭を引っこ抜いちゃった?!」
「いや、良く見ろ。蠅の頭部が脱げただけだ」
ジョンにそう言われて良く見てみると金髪碧眼でとても整った顔の女性の顔がそこにあった。
つまり泥だらけになった全裸の金髪美女がそこにいた。
「え?はぁ?!なにこれ?」
ぼ、俺の頭は既にパニック状態だ。
あの蠅女、蠅の着ぐるみを裸で纏ってたって事?
いや、でも蠅の姿を裸って言ってたし、なんなの?
「ジャック!不意打ちとは卑怯な奴め!」
そう言って立ち上がり攻撃を掛けようとする全裸女にジョンが言い返す。
「卑怯なのはお前だろうが!
健全な少年になんてもの見せてんだ!TPOって奴を弁えろ!」
「笑止!悪魔は人を堕落させるのが仕事だぞ?
我は勤勉に悪魔として働いているだけだ!」
「くそ!わかっててやっている所が性質が悪い!
ラク!
油断するなよ!」
「え? えぇぇぇぇぇ?!どういう事だよ?!」
「あの痴女と戦えって事だよ!」
そう言ってまた俺に油を掛けてくる。
「冷たいって!掛けるなら先に言ってよ!」
「あぁ、悪い。だが声を掛けると痴女が邪魔するから無理だ」
そう言えば、聖油が効果あるなら直接蠅女に掛けたらいいんじゃないか?
「ねぇ、ジョン。その聖油って奴、あの蠅女に直接掛ければ効くんじゃないの?」
「いや、効かない。
聖油ってのは直接的には効果が無いんだ。
人に塗る事によってその身体に入っていた悪魔や悪霊と言った悪いモノを追い出したり、
そう言った悪いモノが取り付けなくする効果が出るんだ。
そして救済者としての意味も付与され、そう言ったモノと戦う力をその人に付与するんだ」
「つまり、聖油そのものでは悪魔にダメージを与えられないって事?」
「端的に言うとそうだ」
「・・・クッソォォォォォォォ!この変態女がぁぁぁぁ!」
そう言って破れかぶれになって泣きながら変態女にタックルをぶちかますと、変態女は俺の身体を軽々と持ち上げて地面に叩き付ける。
「ぐはぁ!」
全身がバラバラになったんじゃないかと思う程の衝撃と痛みが走り、呼吸が出来なくなる。
「バカ!力押しじゃ勝てる訳ないだろう!?」
そう言って慌ててジョンが炎で威嚇すると変態女は俺の身体を離して距離を取る。
「今の痴女は結界も外殻も無いから塩と酒も効くはずだ。そいつらを上手く使え!」
そう言って牽制してくれたので俺は痛みを堪え、呼吸を整えると立ち上がる。
「ジョン、ありがとう。でも、1つ聞きたい事があるんだけどいい?」
「なんだ?」
「炎の出し惜しみしてないよね?」
「な、何のことだ?」
あからさまに目を逸らすジョン。
「さっきからタイミング良く炎で援護してくれるから、ひょっとしてまだまだ使えるんじゃないかと思って・・・」
「そんな訳ないだろう!これでもかなり無理してるんだぜ? そ、それよりも早く行って来い」
そう言って俺の背中を押して戦いの場へと戻そうとする。
何とも釈然としないけど、今は問い詰めている余裕も無さそうだ。
話している最中も変態女がジリジリと近付いて来ていたからだ。
俺は変態女と正面から対峙してじっと時を待つ。
しばらく無言で視線を交わしていたが、焦れたように変態女が突っ込んできた。
どうやら羽が無いと衝撃波とかは出せないようだ。
その事にホッとしつつ、俺はパンツに手を突っ込み、いざという時に取って置いた塩を投げつける。
「うわぁ!」
そう言って悲鳴を上げつつ上体を仰け反らせた変態女の腹に蹴りを入れると、変態女はあっさりと後方に倒れる。
あまりの呆気なさに少し戸惑ってしまったが、どうやら塩が効いているらしい。
「き、貴様ぁ!卑怯だぞ!」
「大人が本気で子供に襲い掛かる方が卑怯でしょ!
そもそも大人どころか悪魔が子供を襲ってる時点で大人気無さすぎるよ!」
「・・・そ、それはそうかもしれないが・・・」
言い負かされた変態女が立ち上がるのを余所に近くに置いてあったワンカップ〇関を手に取り変態女に投げ掛ける。
「おっと、そんな見え見えのモーションでは避けてくれと言ってるようなものだぞ?」
そう言って避けられてしまったが、変態女が避けるのに集中した隙を突いて俺はお酒を一口、口に含んでおいた。
「これで手持ちの武器もなくなったな?」
そう言われて俺は後ろに一歩後ずさり、後方に置いてあるワンカップ〇関をチラッと見遣る。
「今だ!」
そう言って変態女が飛び掛かって来たので俺は飛び付かれる直前で口に含んでいた酒を霧状にして噴き出した。
「あぁぁ、目がぁ、目がぁ~~~あああああああ~~~~!」
目を抑えて苦しむ変態女を余所にここぞとばかりに蓋の空いているワンカップ〇関を手に取りお酒を掛けまくる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!や、やめろぉぉぉぉ、この卑怯者がぁぁぁ!」
「うはははw子供に嵌められる悪魔、なんて間抜けなんだ。ふはははは!」
苦しむ変態女を見てジョンが哄笑を上げるが、こっちは必死なんだぞ?
「こっちは命が掛かってるんだ!卑怯と言われようが構わないよ!」
そう言ってお酒を掛けまくり、蓋が空いているワンカップ〇関が無くなると、今度は一升瓶の「鬼〇し」を持って全身に掛け続ける。
その間も変態女の悲鳴や罵声は続くが、俺は手を緩めない。
そうして手を緩めずに変態女と交渉する。
「このまま地獄に帰ってくれるならもうお酒は掛けないけど?」
「ぐぁぁぁぁ、こ、断わる!」
「あっそぅ」
既に変態女の全身はお酒塗れになっていた。
なので俺は少し思い付いた事を実行する。
「もう全身お酒塗れだから、次は中に入れたらどうなるかな?」
「な、なか、だとぉ?ど、ごぉぉ?!」
俺は最後まで言わせず変態女の口に一升瓶の口を思いっきり突っ込んで逆さにする。
すると変態女が無茶苦茶暴れ出し、お酒の瓶を叩き割った。
「あ、危なっ?!」
咄嗟に距離を取ると、変態女は咽てゴホゴホ言っていた。
反撃されると不味い。
そう思い、パンツに仕込んであった塩を投げ付け、時間を稼ぎつつ、次の「鬼〇し」を取りに行く。
そうして変態女が息を吹き返す前に更にお酒を掛けようとしたけど、少し遅かった。
「こ、この糞餓鬼がぁ!
ぶち殺してやる!!」
「ヒィッ?!」
変態女の殺気に当てられて悲鳴を上げてしまうと、変態女が余裕を取り戻したのか口の端を持ち上げ嗤う。
直感で理解した。「止まったら殺される」と、だが、それは今までと変わらない。
殺されない為に必死に動け!と身体に言い聞かせるように膝を叩いて必死に奮い立つ。
そして俺は勝つ為に必死に考え、その結果、自分の頭からお酒を被り、全身お酒塗れになる。
「な、何をしているんだ?」
「何をしていると思う?」
そう聞くと、変態女はムッとした顔をしたかと思うと俺に突っ込んできた。
変態女に飛び付かれる一瞬前に俺は頭を左右に振って髪に付いていたお酒を振り落しつつ後ろに跳び退る。
すると変態女は目を庇うように両手で顔を隠してガードしつつ、お酒に濡れた地面に足を付け、焼かれる。
「ぐぅ!」
痛みを堪えて更に変態女が突っ込んで来るが闘牛士よろしく横にヒラリと躱すとマントをムレータに見立てて変態女に被せる。
「ぐあぁ?!」
自分で目隠ししていたところにお酒の染み込んだマントを被されて激痛に苛まれる変態女に足を引っ掛けて地面に転がすと、変態女は必死に転がって逃げようとするが、濡れた肌に絡まったマントが中々取れなかったようで悲鳴を上げ続ける。
そしてうつ伏せになった所を狙って俺は一升瓶片手に変態女の上に馬乗りになると一言告げる。
「口から飲むのはお気に召さなかったようだね?」
「・・・」
俺の質問に変態女は無言で答える。
「だから今度は変態女に相応しく、お尻からお酒を飲んで貰おうかな?」
「な?!」
「ふはw、ブラザー!そのぶっ飛んだ発想は良いぞ!面白い、やっちまえ!!」
「じょ、冗談・・・だよな?」
「この国の比較的良く知られている遊びにね、カエルの尻に爆竹を仕込んで爆破するってのがあるんだ。
ぼ、俺も若い頃はよくやったよ。あぁ、楽しかったなぁ~」
昔を懐かしむように言ってやると、変態女が急に暴れ出したが、蟹バサミを掛けているので無駄だ。
「わ、わかった!地獄に帰る!だから許してくれ!」
「もういいよ、俺はあんたの尻で遊ぶからw」
「なぁ?!ま、待ってくれ!」
「お酒を入れた後は塩を塗り込んでみようかな?それとも聖油を入念に両手に塗って貰って手を突っ込んでみようかな?」
「ふははw子供って残酷だなwサーウィン?」
「う、五月蠅い!黙れ!今貴様と遊んでいる暇はない! ひぃッ?!」
強気な発言をするので一滴お尻にお酒を垂らすと、変態女は情けない悲鳴を上げた。
「さて、最初はお尻にお酒を塗して・・・っと」
「ぎゃぁぁぁ、やめろ!この変態糞餓鬼がぁ!」
「変態糞餓鬼?」
「あ、あぁぁ!違います違います!えーっと、お、お名前、何でしたっけ?」
名前すら知らないのかよ?!
ムカついたので一升瓶をお尻の穴に突っ込む。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
「おっと、暴れない方が良いよ。今暴れるとお酒がお尻の穴に入って行っちゃうからね」
そう忠告すると変態女の身体がピタリと制止する。
「そうそう、そのままでいてね」
そう言うと変態女は泣いていたが、手を緩める気は一切ない。
「さて、再度交渉をしたいんだけど、良いかな?」
「・・・」
「返事が欲しいんだけど?」
無視されたので一升瓶を少し上に持ち上げると、必死の返事が返ってきた。
「は、はい!はいはいはい!哄笑しますから、止めてくださいお願いします。ふはははは」
「そっちの哄笑じゃない、交渉。馬鹿にしてるの?」
「ち、違います違います!本当に違うんで赦してぇぇぇ」
本気で必死になっている。
大分混乱しているな。
「それなら早速だけど交渉だ。
まず、俺からの条件だけど、まず1つはハロウィンの日にこの国に悪霊を送るのを止めろ」
「そ、それは・・・ヒィッ?!」
条件を渋る変態女の尻に一滴お酒を垂らすと悲鳴が上がる。
「出来るだろ?『この世界に』とは言っていないよ?この国だけでいいんだ。それ位出来るよね?
ご先祖様も帰ってこないのに悪霊だけ来るのは不公平じゃないか?」
「わ、わかりました」
「それじゃ、2つ目ね」
「ま、まだあるんですか?」
「当たり前だろ?こっちは命がけなんだぞ?」
そう言うと項垂れる変態女。
「2つ目は、金輪際俺に関わらないでくれ」
「え?」
「だから、俺に関わるんじゃない。あ、もちろん他の悪魔とかが俺に関わろうとしたら止めるんだぞ」
「そ、それは・・・」
「出来ないの?」
「ヒィッ、ち、違います。私が関わらない事を誓う事は出来ますが、他の悪魔の行動を阻止するのは出来ないんです」
「なんで?」
「私があなたに金輪際関わらないと誓った場合、貴方に関わろうとする悪魔も含めて干渉する事が出来なくなるんです」
「なんでそうなるの?」
「あなたに関わろうとした悪魔の接触を妨害すると言う事はあなたとその悪魔の出会いを無くすと言う事で、あなたの関わる環境に変化が起こります。なので私の行動があなたに関わった事になるので『あなたに金輪際関わらない』と言う誓いを破る事になるので出来ないんです」
必死の表情で説明する姿を見るに、嘘じゃないようだ。
それならどうしようか・・・
「うーん、それなら・・・悪魔やそれ以外の災厄が俺や俺の周りに降りかかりそうな時、もしくは既に降りかかっている時は助けてくれ」
「な?!そ、それは悪魔じゃなくて神か天使にでも、ひぃぁ!」
「出来ないの?」
「で、出来ます・・・」
「じゃぁ、2つ目の条件はそれで頼むよ」
「それじゃぁ、最後に3つ目の条件なんだけど・・・」
「3つ目?まだあるんですか?!」
「これが最後だよ」
「・・・わかりました」
「ジョンを地獄に迎える事は出来るかな?」
「「な?!」」
ニヤニヤと話を聞いていたジョンは突然の事に驚く。
「出来る?」
「・・・無理です。ジャックとの契約に反してしまうので誓う事自体できません」
「そっか・・・まぁ、仕方ないか。
ジョン、ゴメンね。ダメだった」
「いや、わかってたことだから気にしなくて良い。
それよりも、ありがとうな、ラク」
「結局は何もできてないんだけど?」
「それでもだよ」
「そう?」
「あぁ」
俺とジョンが爽やかな笑みを浮かべるのを余所に変態女が声を掛けてきた。
「あ、あのぉ、そろそろお尻から抜いて欲しいんですけど?」
「あぁ、そうだったね。それじゃ、こっちの条件はさっきの2つとあんたが速やかに地獄へ帰る事。
そっちの条件はお尻に刺さった一升瓶を抜く事で良いかな?」
「・・・わかった。その条件で契約する」
そう言うと変態女はどこからか紙を取り出すとボソボソと言葉を紡ぐと真っ白だった紙に条件が記述されて行った。
「内容を確認してくれ」
「わかったよ」
お互い動けないのでジョンに紙を受け取って貰い、内容を確認した。
日本語で書かれていたから問題なく読めたし、内容も先程提示したものになっている。
念のために紙の裏も確認するが問題なさそうだ。
ただ、一見、飾りのようにも見えるが、文字の様にも見える個所があったので質問すると、変態女は悔しそうに答えた。
やはりそれは文字だったようで、その内容は契約の期間を区切るものだった。具体的には契約期間を1カ月とするものだった。
なので契約前の条件設定違反と言う事で条件を3つ追加した。
1つは「嘘を吐かず、騙さない」と言うもので、もう1つは「契約期限をどちらか、もしくは両者が死んだ後も永遠に続く」、そして最後の1つは「俺に関わる際は俺の下僕になる」と言うものにした。
「さて、これで条件は整った。後は署名をして貰おうかな?」
「くぅ・・・」
変態女は悔しそうに署名する。
その署名をジョンに確認して貰う。
「うん、大丈夫だ。こいつの名前は『サーウィン』って言うんだ。綴りもあっている。
後はお前が署名すれば契約成立だ」
そう言われたので俺は署名すると、紙が空中に浮かんで変態女の頭に吸い込まれる様に消えた。
それを見届けた俺は変態女のお尻から一升瓶を引っこ抜く。
「さぁ、契約は成り、俺は条件を守ったよ。
それじゃサッサと地獄に帰ってくれる?」
「それは出来ません」
「なんで?!」
「2つ目の条件により、貴方を守る義務があるからです」
「はぁ?」
「地獄にいてはあなたを守れません」
「でも生活とかどうするの?
お金とか持ってるの?」
「大丈夫です。悪魔なので普通の人間には見えませんし、食事とかも基本的には必要ありません」
「ひょっとして、ずっと俺に付いて来るつもりなの?」
「その方が守り易いですから」
「・・・」
なんか、厄介な事になって来た。
「ジョン?」
「無理だぜ?
契約にも地獄へ帰る事は記載されてないしな、悪魔にとって契約は絶対だ。
俺は骨身に沁みて理解している。
だから・・・諦めろ」
そう言ってジョンは清々しい程に良い顔をする。
この変態女、早く何とかしないと!
そんな事を考えていると、「ふぉっふぉっふぉ」と猿田彦お爺さんが姿を現す。
「ようやく終わったようじゃな」
「え?まだ悪霊が一杯いた筈だけど・・・」
そう思い辺りを見回すと悪霊の姿はどこにも見当たらなくなっていた。
「契約の条件1と2により私が排除いたしました」
そう言って変態女が胸を張る。
「・・・服を着ろ」
「嫌です。悪魔として人を堕落させるのが本性なのです。
私のアイデンティティを奪わないでください」
「変態女、現世で存在したいなら服を着ろ。
それに人を堕落させるにも俺にしか見えていないなら意味が無いだろう?」
「いえ、人であるあなたを堕落させれば問題ありません」
「契約の条件2に抵触しているんじゃないか?」
「う、うぐぅ、糞餓鬼めぇ」
「何か言った?」
「い、いえ、何も!」
「そう、なら服を着て貰えるね?」
「わ、わかりました」
そう言って今度は下着姿になった。
しかもパンツは穴が空いていて股間が隠れていない。
「公序良俗に違反しない服装になってよ! 頼むから・・・」
泣きそうな顔でお願いすると、やっと真面な服装に変えてくれた。
今からこれだと、これからが思いやられる。
あぁ、頭痛い。
「ふぉっふぉっふぉ、楽太郎君。面白い決着の仕方をしたのぉ」
そう言って猿田彦お爺さんは笑うが、俺は笑えない。
「笑い事じゃないですよ。なんとかならないです?」
「儂には無理じゃよ、ふぉっふぉっふぉ」
つ、使えないし、もう疲れたよ。
そんな事を考えていると、境内へと繋がる階段を登ってくる影が見えた。
「おぉ、ウズメちゃんが帰ってきたわい」
「ウズメちゃん?」
「本名は天鈿女命と言ってのぉ、儂の奥さんじゃ」
そう言って猿田彦お爺さんは笑顔でウズメちゃん?を出迎えるが、俺の顔は引き攣っていた。
何故ならそのウズメちゃん?は俺と同じ顔をして同じ格好をしていたからだ。
「あら、ラクちゃんじゃないの?
何とか生き残れたようで、お姉さん嬉しいわ」
そう言って笑顔で俺が声を掛けてきた。
「な、なんで俺がもう1人いるの?」
「あなたの身代わりをしていたからよ。
神社で急にあなたが居なくなったままだったら大変でしょぉ?
だから私があなたに成り代わって家まで帰ってお誕生日会にも出たのよぉ、楽しかったわぁ」
そう言って愉しそうに笑いかけてくるが、自分の顔と声でお姉口調で話されるってのは気持ち悪いを通り越して恐ろしさを感じる。
「あ、あの、俺の姿を止めて貰えませんか?」
「あら、お気に召さなかったかしら?」
そう言ってクルッと1回転すると、そこには露出の多い着物を着たお姉さんが居た。
「これで良いかしら?」
「あのぉ、普通の服装にして貰えませんか?」
「これが私の正装なんだけどぉ?」
とんでもない事をのたまって来た。
「ふぉっふぉっふぉ、ウズメちゃんはダンサーだから、動きやすい恰好を好むんじゃよ」
そう言って猿田彦お爺さんがフォローするけど、納得し辛い。
って、猿田彦お爺さん、こんな若い奥さん貰ってるの!?
齢の差カップルって言っても限度があるだろ?
「儂ら神様だから見た目は関係ないんじゃよ」
「あれ?言葉に出てました?」
「まる聞こえじゃよ」
「す、すみません」
「ふぉっふぉっふぉ、ヨイヨイ。楽太郎君が生き残れたんじゃ、今夜は祝いじゃ祝い」
そう言っていつの間にか持っていた杯にお酒を入れて飲み始める猿田彦お爺さん。
マイペースだなぁ。
そんな事を思っているとウズメちゃん?から声が掛かる。
「でもぉ、本当に良かったわぁ、生き残ってくれて」
「えーっと、先程から生き残って良かったって言ってるけど、もし死んでたらどうなってたの?」
「そりゃ、ハロウィンの儀式が失敗して街に悪霊が溢れ返っていただろうな」
横からジョンが答える。
「でもぉ、それだけじゃないわよ?ラクちゃんが死んじゃうって事だからぁ、後始末が大変なのよぉ。
旦那様は悪霊退治に大忙しになるだろうし、私はラクちゃんの身代わりを暫らく続けて、適当な時期に交通事故にでも遭って死んだ事にしないといけなかったのぉ」
サラリと恐ろしい事を言ってくれるな。この神様は・・・
「霊柩車の中で棺桶から出たりぃ、残っていない死体が残っている風に見えるように幻術掛けたりぃ、色々大変なのよぉ」
「ぐ、具体的な内容は結構です」
「そう?」
「はい、そうです」
はぁ、疲れた。もう帰って寝たい。
「そうねぇ、ラクちゃんはもう帰って寝た方が良いわね」
なんか、心の声を読まれてる気がするんだけど・・・
「その通りよ。だから私がここに戻って来たのぉ、早く帰らないとご両親が心配するわよぉ」
「今何時ですか?」
「夜中の12時半くらいじゃのぉ」
時間を聞いて更に眠気が襲ってきた。
「じゃ、じゃぁ、帰りますね」
「ふぉっふぉっふぉ、お疲れ様じゃて、帰りの道中気を付けてのぉ」
「それなら私がまた付いて行こうかしらぁ」
「また?」
「えぇ、ここ1週間ほどは私がラクちゃんの護衛に付いていたのぉ。
誰かに見られると困るから姿は隠してたけどねぇ」
その言葉を聞いて、ある疑問が湧いた。
「そ、それって、もしかして裸足で歩いてました?」
「えぇ、そうよぉ、私ぃ、裸足じゃないと上手く隠形できないのよねぇ」
そこで疑問が氷解する。
「足音聞こえてましたよ」
「えぇ?うそぉ?」
「その足音が怖くて走って逃げてたんですけど、思い当たる節はありませんか?」
「そう言えばラクちゃんが1人になるといきなり走り出すから追うのが大変だったわぁ」
『幽霊の正体見たり枯れ尾花』って奴だった。
正体は本物の神様だったけどね。
そんな事を考えて帰りの支度を始めるとジョンが声を掛けてきた。
「さて、ブラザー。俺もそろそろここからさよならだ」
「そっか、さみしくなるよ」
「俺もさ、だけどハロウィンを何とかしなくちゃいけないからな」
そう言ってジョンは歩き出そうとする。
「そう言えば、みんなはジャックって呼んでたけど、なんで僕には自分の名前をジョンって言ったの?」
「うん?あー、それはな、俺の本名はジョンなんだよ。だけど略称って言うか、愛称って言うか、通り名って奴の方が有名でな、生きてた頃もジョンじゃなくてジャックって呼ばれてたんだけどよ、
死んだ後は『ジャック・オー・ランタン』って呼ばれる様になっちまったんだ。だから嘘を言った訳じゃないんだぜ?」
「バツが悪そうに頭を掻いていたけど、本名を名乗ってたんなら問題ないよ」
「そ、そうか、混乱させたみたいで悪かったな」
「こっちこそ疑ってゴメンね」
「気にすんな、良いって事よ」
「質問に答えて貰った代わりに、1つ良いこと教えてあげるね」
「ほぉ、良い事ってなんだ?」
「ジョンは今のままだと天国には行けないと思うよ」
「な、何ぃ?!」
「ジョンは自分が天国に行きたいから善行を行おうと思ってるでしょ?」
「そうだよ。何か問題でもあるのか?」
「それって、利己的な考えだから多分善行とは言えないんじゃない?」
「はぁ?なんでだ?」
「だって、実際に解決してるのはジョンじゃないでしょ?」
「そ、それは・・・そうだけどよ、その問題を解決する方法を確立したのは俺だぜ?」
「でも、ジョンは天国に行きたいからその方法を考えたんだよね?」
「あぁ、そうだ」
「じゃぁ、天国に行けないとわかっていたら、その方法を考えたかな?」
「・・・いや、考えなかったと思うし、考えたとしても実行はしないだろうな」
「でしょ?だからそれは利己的な行動だから完全な善行とは呼べないんだよ」
「・・・」
「善行って言うのは誰かの為に、大切な何かの為にする行動であって、自分の為の行動は善行じゃないと思うんだ。
だからジョンはこのままじゃ天国には行けないと思う」
「・・・じゃぁ、今の善行は無意味って事なのか?」
「うーん、でも、それを止めちゃうと助けられた筈のものを助けないって事だから、続けないといけないと思うよ」
「な、なんでだよ?」
「だって、それまで助けてたのに次から見殺しにしまーす。って言ってるようなものでしょ?それって悪い事になるんじゃないの?」
「・・・」
「自分で始めた事なのに、自分の為にならないなら止めますって言うのは善行じゃないよね?」
「・・・」
「それなら、今のハロウィン救済も続けつつ、誰かの為に何かをしないといけないんじゃないかな?」
「・・・どうすればいいんだ?」
沈黙していたジョンが絞り出すように声を上げるが、答えは俺にもわからない。
「さぁ、どうすれば良いかなんて俺にはわからないよ。
ただ、ジョンが誰かを助けたいと思って行動する事が善行に繋がるんじゃないかな?」
俺がジョンに伝えるべきだと思った事は全て伝えた。
「それじゃ、ジョン、さよならー」
そう言って帰り支度を済ませると猿田彦お爺さんとウズメちゃんに挨拶し、神社を下りて帰路へと着いた。
変態女はそのままついて来たけど、敢えて無視した。
そうして家に着いて中に入ると、居間のソファーまで行くのが精一杯で、力尽きてそのまま寝てしまった。
そして翌朝、お母さんにこっぴどく叱られた。
それも当たり前の事なんだけど、お母さんが朝起きると居間に酒臭い息子が居た。
それに全身泥と油、酒なんかに塗れていて、しかも近くにあった息子の鞄からワンカップ〇関の空瓶と塩の袋が複数見つかる。
止めに、息子がむくっと起き上がって「おはよー」と言った息からも酒の匂いがしたのだ。
夜に出歩いたと思われ、更に酒も飲んでいると思われてしまった。
その結果、小学4年生の息子が非行に走ったと思われ、朝から2時間も説教をされる事になっちゃった。
正座はつらいよ。
お蔭で足が痺れるし、マスクを外してくれないし、散々な目に遭った。
本当に、ハロウィンなんて大嫌いだ!!
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その頃の地獄では悪魔たちが話をしていた。
「サーウィンがやられたようだな」
「フフフ、やつは我等四天王の中でも最弱・・・」
「人間如きに負けるとは悪魔の面汚しよ・・・」
「次は暗黒のサンタクロースこと、このクランプス様が真の恐怖を味あわせてやるわ!」
「「「ふははははは!」」」
楽太郎君の受難は続く・・・のかな?
えーっと、本当に書ききったって感じです。
正直、とある短編小説賞に応募しようと書き始め、期間を過ぎてしまいテンションダウン。
それでも完結させようと頑張りました。
文字数もオーバーでダメダメでしたが、読んで頂けたなら幸いです。
本当にジャンルがわからなくなったので、意見あればよろしくお願いします。
因みに主人公の名前、別作品の主人公と同じ名前ですけど、関連はない・・・・はずです。
名前、考えるの、苦手なので・・・