絶望魔王
またお前、とんでもない話を書き上げたものだな……(呆)
一応、色々と胸糞注意です。
「エリシアちゃん!」
あたしがいよいよ目前と言ったところで、声を掛けられた。
あたしが振り返ると、ベネットさんたちが追いついてきていた。
「ベネットさん?!」
「いや、さすがにね。エリシアちゃんだけを先行させるわけにはいかなかったからね。あの後すぐに追いかけたんだよ」
「そう、エリは仲間」
あたしはつい感動してしまう。
ベネットさんが休憩を勧めた理屈もわかるけれども、女神様にせかされたからそんな時間がなかっただけである。
「それによ、切羽詰まってた顔していたしな。嫌な予感ってのが何かはわからんが、時間が無いんだろう? 行くぞ」
「まったく、エリちゃんも魔力水を飲んでおきなさい。この後魔王と戦うのでしょう?」
あたしはサシャに魔力水の入った瓶を手渡される。
「あ、ありがとう」
あたしは魔力水を一気に飲み干す。
魔力を回復させる回復薬だ。
多量に取りすぎると中毒症状が出るので、適切な量が瓶に収められている。市販されている物だった。
飲んですぐに効果が出るわけじゃないけれども、そのうち徐々に魔力が回復するので、余裕がある時に飲んでいると良い。
「それにしても、ヴィリディア様はまだ到着していないのか?」
「……もしかしたら先に到着しているかもしれないわね。エリちゃん、どうする?」
確かに、近くにアルフレッド達の気配はなかった。
もしかしたら、まだ到着していないのかもしれない。
まあ、あちらは戦闘集団であって冒険者みたいに探索がメインと言うわけでもないから仕方がないかもしれなかった。
待っている時間もないので、あたしは先に進むことにした。
「……行こう。魔王はあたしが倒すから、みんなは補助をお願いするわ」
あたしたちは扉を開ける。
先には、螺旋階段がが続いており、まるで夜のように暗い。
あたしたちが駆け上がると、そこはまるで宇宙空間のような満天の星空が見える大きな窓が周囲をぐるりと配置されており、中心には生贄の祭壇が設置されている。
少し奥には玉座が設置されており、生贄の祭壇の周辺には魔法陣が刻まれていた。
そして、生贄の祭壇にはアクレンティアさんが両腕を拘束されて寝かされており、そばには緑色の巨人が下卑た顔で彼女を見下ろしていた。
その顔は……! その顔はああああああああああ!!
「ケリィいいいいいいいいいい!!!!」
あたしは憎しみを込めて、そいつの名前を叫んだのだった。
ケリィ、そいつはあたしを、あたしの人生をめちゃくちゃにした元凶だった。
心の底から黒くドロッとした憎悪が湧き上がってくる。
「え、エリ……?」
「エリシアちゃん……?」
あたしの憎悪の叫び声に、ケリィも……すでに人間ではなく魔物と化しているが、アイツもあたしに気が付いたようであった。
「ん? ほぉ、エリシアじゃねぇか。生きていたんだな」
「当然じゃない。あたしはお前たちを必ず殺すと決めているんだもの。探す手間が省けて助かったわ」
自分でもわかるくらい、声音が低くどす黒い感情が表に出ていた。
「ガッハッハッハッハ! お前さんが? そいつは無理だね。だが、俺様の雌奴隷になるならば、生かしてやってもいいぞ、エリシア」
ケリィがあたしを嘗め回すような目で見てくる。
あたしが憎悪で身を焼かれていなければ、きっと女性ならば誰でも背筋が凍るような、そんな値踏みするかのような目線だった。
「ほうほう、なかなかいい女に仕上がってるな……。胸も俺好みのでか乳になってきているし、スタイルもなかなかだな」
ケリィの腰巻に隠されているナニが主張をし始めた。
魔物になってより一層の性欲魔人になったようであった。
「お前、エリシアちゃんと何の因縁があるんだ?!」
ベネットさんが若干上ずった声でケリィに尋ねる。
「ほう? 銀級か? その程度で俺様に立ち向かおうなんて驚嘆に値するな。まあいい、答えてやろうか」
ニヤニヤとあたしを見ながら、ケリィはあたしにあの時起こった真実を告げようとする。
「ククク……、なあ、エリシアァ!」
あたしは、ある程度は思い出していたので、ケリィを思い切りにらみつける。
ケリィはそんなあたしに嗜虐的な笑みを向ける。
「なぜ、俺様にその憎悪にまみれた顔を向けるのか! なぜフェルギンから指名手配を受けているのか、なぜ村に帰らないのか!」
あたしの脳裏に、その答えが浮かぶ。
自然と、あたしの息は荒くなっていた。
「その答えは ただ一つ!」
ケリィはあたしを指さした。
「お前が、お前こそがリナーシス村を滅ぼした張本人だからさぁ! ハァーハッハッハッハ!」
高笑いするケリィ。
だからどうしたというのだろうか?
「それをさせたのはお前たちだろうが!」
だから、あたしはこいつらを生まれてきたことを後悔させて地獄に叩き落すと決めている。
「それにだ、もう一つ真実を教えてやろう……!」
「話は終わりだ!」
ケリィが何か言おうとしているので、それを止めるためにあたしは剣を抜いた。
あたしは剣を構えて突撃するが、見えない壁に阻まれたように魔法陣の中に入ることができなかった。
「お前を初めて抱いた男は俺様だ! 自分から言い寄って、股を広げてなぁ! 可愛かったぜぇ……? エリシアァ!」
「うわあああああああああ!」
あたしのなかの記憶の扉から、あの時の記憶が漏れだしていた。
あの、あのときの下品な笑みはあたしを隙にしているときの顔だったのだ。
あたしはがむしゃらに結界を切り刻みながら、頭痛に顔をゆがめていた。
「我が同盟者よ、時間だ」
不意に、そんな声が聞こえる。
それと同時に、玉座に【闇の存在】としか言いようがないモノが出現した。
「魔王?!」
あたしは、その無視できない存在に手を止めて顔を向けるしかなかった。
「魔王ユードラシルか!」
ベネットさんたちも剣を構えてあたしの周囲にやってきた。
「ヒョッヒョッヒョ。左様、この私が魔王……いや、我らが神に与えられし新たな二つ名を名乗るとしよう。【絶望魔王】ユードラシル、だ。よく来たな、人間どもよ」
「【絶望魔王】……だと……!」
【絶望魔王】と名乗ったユードラシルの姿は、まさに【ダークエルフ】の魔王と言った姿であった。
自分の肉体も改造しているのか、腕が4本あり、額には第三の目が存在する。
見ているだけで絶望してしまいそうな実力差を感じるそれは、まさに魔王であった。
「あ、あれが、魔王……!」
「こ、怖い……!」
あたし以外の全員が、ユードラシルの放つオーラに負けている気がしていた。
「さて、諸君らは運がいい! エルフの姫君が処女を散らせ、そしてエルフのすべてが消え去る光景を目の当たりにできるのだからね!」
あたしはユードラシルに剣を向ける。
「それを食い止めるために来たのよ!」
「ほほう! それはそれはご苦労様だ。だが、すべて遅かったな」
ユードラシルは指を生贄の祭壇に向ける。
「ガハハハハ! エリシアァ! お前をかわいがる前に、このお姫様で遊んでやるぜぇ!」
「ひいぃぃぃぃぃぃ!! ベネットさん! 助けてください!! どうか!! どうか!!!」
アクレンティア姫様の叫び声に正気を取り戻したベネットさんが結界に切りかかる。
「お姫様! このっ!」
が、しかし、バチンと音がして、弾き飛ばされる。
「がぁ!!!」
あたしは、魔法を見る。
その魔法陣は、結界を作るための魔法陣だ。
特定の人物のみ通すが、それ以外の人物を弾く効果を持っている。
そして、その魔法陣はほころびが一つもなかった。
【魔女術】ならばなんとかなるかもしれないと、解析をするけれども、あたしはこれほど完全な結界を見たことがなかった。
「だ、だめ……! なんで……!」
焦りと、思い出してはいけない記憶が漏れ出ていることによって、あたしは集中できないでいた。
それでも、万能なはずの【魔女術】でもこの結界を崩す魔法が出てこなかったのだ。
「ヒョッヒョッヒョッヒョッヒョ! 良い絶望だ!」
「いや! いやああああ!! いやあああああああああああああ!」
ビリビリとアクレンティア姫様の服が破れて肌があらわになる。
そして、ケリィの人間サイズよりも大きなイチモツも露わになる。
「グヒヒヒ! ああ、たまらねぇぜ! やっぱり女は初物を無理やりが一番だな!」
それからは、絶望の光景が繰り広げられていた。
結界内からアクレンティア姫様の悲痛な叫び声と、ケリィの快楽に歪む汚い声が響く。
その行為は、ケリィが満足するまで続いた。
「ははははは!!! ついに!!! ついに我が悲願は成った!!!」
アクレンティア姫様の破月の血が、あの巨大な肉棒で犯されて傷つけられた際に出た血が、祭壇の台の上の魔法陣を満たす。
そして、祭壇を中心に、赤い光が広がっていった。
「お、お前! 何をした?!」
「ヒョッヒョッヒョ。簡単な話だよ。そこの勇者様は、わかるんじゃないかな?」
あたしはユードラシルに言われて、その魔法を解析する。
「そ、そんな……!」
信じられないことがわかってしまった。
この魔法陣は、【エルフを根絶やしにする魔法】だった。
魔法陣の基本骨子は、各地に点在するゴブリンの巣に根を下ろした【エルフの女性の血】だ。
これは、種族の繁栄に関係してくる。
この魔法が発動すると、周辺のエルフはこれから子孫を残すことができなくなる呪いをかけられることになる。
そして、さらに恐ろしい効果が含まれていた。
「この森の中に住むエルフ全員を生贄にして、この世界に住むエルフ全員を殺すつもりね?!」
「正解……!」
ユードラシルは悪魔のような笑みを浮かべて笑う。
そう、この魔法陣内に生きているエルフをすべて生贄としてささげることによって、この世界に住むエルフが即座に死亡してしまう呪いをこの世界自体にかけようとしていたのだ。
この術式を止めるためには、この魔法陣内のすべてのエルフが生贄に捧げられる前に、ユードラシルを殺してしまう以外にないこともわかっている。
……決着を急がなければならなかった。
「この……! 外道が……!」
あたしは剣に聖剣を纏わせると、ユードラシルにとびかかる。
「お前のような勇者と戦うはずがないだろう? ヒョッヒョッヒョ!」
ユードラシルはひらりとあたしの剣を回避する。
許さない、許せるはずがない!
【俊足迅雷!】
あたしは移動スピードを加速させる。
──ガインガインッガイン!
あたしの剣はユードラシルの取り出した剣に弾かれる。
「ヒョッヒョッヒョ! これでも私は前の勇者と殺し合いをしたんだよ? その聖剣もどきで倒せると思わないことだな! ヒョッヒョッヒョ!」
「ユードラシルゥゥゥゥゥ!!!」
あたしの叫びは虚しく響くばかりであった。
ソウトウエキサーイエキサーイ