謎の塔を登れ
あたしたちが1時間ほど調査をして、西側から入る場所がないことを確認して戻ってくると、ちょうどエルフ兵たちがあたしたちを見つけて駆けつけてきた。
「ベネットさん、見つかりましたよ! 南の方に隠されるように設置されていました」
「よし、それじゃあ早速向かおう。ヴィリディア様たちは?」
「先に向かっています。入口入ってすぐに凶悪な魔物が居ましたので……」
アルフレッド達は既に向かったらしい。
あたしたちも追いかけることにする。
入口は、一見何の変哲もない行き止まりの所にあった。
「ここが……?」
「はい」
よく見ると、確かに地面にうっすらと切れ目が見える。
エルフの兵士が目くばせをすると、壁の近くの兵士が壁のレンガを押し込む。
すると、切れ目が沈んでいき、階段状になる。ここから先に進めそうだった。
「行こう、みんな」
あたしたちはうなづいて、階段を下りる。
少し進む地下通路? は、光が届かないため薄暗いが、地面には切り捨てた魔物の残骸が横たわっているのがわかった。
そして、すぐそばの扉を開くと、不思議な空間が広がっていた。
「な、なんだこの塔は……?」
筒状の壁に重力を無視したかのようなギミックが浮いている。
塔の内部は変に明るく、直射日光が入ってきているかのようであった。
もちろん、今は夜の時間である。
開いている隙間からは空が見える。
そして、壁を走るアルフレッド達の姿が見える。
「あいつら、壁を歩いているぞ!」
「至る所に魔法の反応が感じられるわ。空間も拡張しているみたい」
サシャの分析は正しいだろう。
どこまで拡張されているかはわからないけれども、この塔はまるで宇宙空間に浮いているかのように感じる。
「……とにかく、先に進もう」
あたしたちはこの謎の塔の攻略を始めた。
この塔の印象は、シーナの知識でいえばとあるゲームのギミックに酷似している。ロックなんちゃらと言った感じだ。
上下の概念が入れ替わり、壁を歩いているときもあれば、天井を歩く必要もある。
ギミックが作動するたびに、グルんとあたしたちを引っ張る力が入れ替わるけれども、物はあたしたちの足元にに落ちるけれども水は地面に設置されたままだった。
あたしの印象としては、ここはまるで実験場からダンジョン化したように感じていた。
「……目が回りそう」
サシャが弱音を吐くのも仕方のないことであった。
あたしとアルフレッド達は完全に分断されており、この塔の進行状況を共有していなかった。
窓の外はどこまでも続く空が映し出されており、落ちればどこまでも落ちていきそうだった。
下に太陽、上に双子月と言った感じで、もういろいろとめちゃくちゃである。
「あの魔王って奴は魔法も研究していたのかしら?」
「400年前の遺跡だから、もしかしたらそうかもしれないな。っと!」
ベネットさんは答えつつ、襲い掛かってくる魔物を倒していった。
あたしたちが無傷で塔を攻略できていたのも、主にベネットさんが魔物の攻撃を盾で弾いてくれるからであった。
そのため、あたしとジェイルさんがギミックを攻略して、サシャとシアが戦闘や補助を行うと言った体制で進んでいた。
「地面を入れ替えるわよ」
あたしが太陽を模したレリーフに光の魔法を当てる。
すると、グルンとあたしたちを引っ付ける力が上に向かう。
あたしたちは体制を入れ替えて、地面に着地する。
「こ、ここまでぐるぐるしていると、感覚が狂ってくるわね……」
「そうね。なんでこんな城を作ったのかしら?」
まるでお姫様を救う伝説のゲームのように、凝ったギミックだった。
「さて、ようやくここまでたどり着いたな。そろそろ最上階かな?」
見上げると、確かに天井に近づいていた。
そのためには、目の前の部屋に入る必要がありそうだけれどね。
「さ、さすがに少し休憩を取りたいかも……」
「サシャに同意……」
確かに、魔物もギミックも、精神的に追い詰めるかのようなものばかりだった。
あたしも若干疲れがあったのは事実だ。
「それじゃあ、ここで少し休憩を取ろう」
あたしたちはこうして、休憩をとることにした。
この城に突入してから、およそ2時間半ほど経過していた。
と、不意にみんなの姿が止まった。
まるで時が止まったように見えるこの光景は、幾分か久しぶりであった。
「エリシア」
「……女神様?」
「ええ、そうです。私です、エリシア」
女神さまの姿は見えない。
だけれども、声は聞こえていた。
「エリシア、休憩している暇はありません。まもなく儀式が完了してしまい、この世界からエルフと言う種族が消えてしまいます」
「えっ?! ど、どういうことですか?」
突然そう告げられても、あたしとしては困るんだけれど……。
それにしても、女神さまの姿は見当たらなかった。
「とにかく、急ぎなさい。エリシア」
「わ、わかりましたけれど、どうして久しぶりなのに姿を見せないのですか?」
「ここは非常に干渉しずらい空間となっています。この場所だから、エリシアにアクセスできたにすぎません。とにかく、急いでください」
この場所だから?
どういう意味だろうか?
あたしの疑問に答えることなく、時間は再び動き出した。
「……あたし、先に行くわ」
あたしは剣を手に立ち上がった。
「エリシアちゃん、どうしたんだ?」
うーん、女神さまからお告げがあったなんて言いづらかった。
そんな妄言なんて、誰も信じないからだろうしね。
「嫌な予感がするのよ。早くいかないととんでもないことになりそうな、そんな予感がしたの」
実際、あと30分程度で……ここだと時間間隔が狂いそうだけれども真夜中になるとエルフが全滅するなんて言われれば、あたしは動かざるを得なかった。
あたしはあたしの世界を滅ぼさないことと、レイプ魔どもに復讐をすること、この二つの目的を果たす必要があるのだ。
だからこそ、魔王の情報を得ることはあたしの目的に合致する。
それに、推測でしかないけれども、この件は三宅がかかわっていると思われる。
……逃がすわけにはいかない。
「……さすがに容認できないね。エリシアちゃんにも今は急速が必要だと思う」
「それでも行くわ」
ベネットさんたちが疲労困憊なのは見ればわかる。
あたしは単独で向かうつもりだった。
言い争う時間も惜しいあたしは、無理やり押し通ることにした。
「あたしが先行するから、ベネットさんたちは休憩が終わったらついてきて」
「ちょっと!」
あたしはそれだけ言い残して、次の扉に進んだ。
扉を開けて先に進むと、これまた妙な空間であった。
霧が立ち込めており、先が見えない。まっすぐ進んでいるはずだけれども、この霧の中だと不安に思う。
しばらく進んでいくと、目の前にあたしの影が現れた。
「なるほどね、この部屋は試練の間と言うわけね」
あたしの影は黒い聖剣を装備していた。
あたしも剣に聖剣を纏わせる。
先に動いたのはあたしの影だった。
怒りに任せた猛攻だった。まるであたしが怒りで暴走しているときのような、そんな速度と力であった。
「ふっ、やっ、はっ!」
あたしは剣をうまく使って斬撃を捌く。
聖剣と聖剣がぶつかり合い、激しい音を立てる。
ものすごい攻撃速度だった。今のあたしはこれほど化け物なのかと実感させられる。
「そこっ!」
あたしの今の剣は冷静なものだったので、怒りに任せた攻撃を見切るのはそれほど難しくなかった。
なんと言うか、あたし自身の弱点を見せられているかのような、そんな気分になる。
あたしが隙をついて切りつけても、あたしの影は紙一重で回避してしまう。
「えぇ……せっかく急いでいるのに、なによこの足止めは!」
普通だったら目にも止まらない速さだけれども、今のあたしは動体視力が相当鍛えられていたのでちゃんと動きが見えていた。
あたしはその場を動かずに、剣で丁寧に打ち払う。
あたしと影の打ち合う部分で火花が飛び散るけれど、丁度境界部分が視認できるほど、猛攻を受けていた。
自分の影の攻撃はすべてあたしは払いのけるけれども、あたしの攻撃はすべて回避されてしまう。
完全に実力が拮抗している感じであった。
「いつまでやってもらちが明かないわね……」
さすがに同じ技量なだけあり、あたしはその場にくぎ付けになってしまう。
このままでは、押し負けてしまうだけなので、あたしは魔法を使うことにした。
あたしは一瞬で、あたしの影の背後に回る。そう、転送魔法を利用したのだ。
短距離ならばテレポートのように使えるように作っていたのが役に立った形である。
あたしが無言で切り付けると、あたしの影は表情は見えないけれども驚いた雰囲気を出したのがわかる。
……なんとなく、違う、そうじゃないと言われている気がしないでもないけれども今は時間がないのだ。
正攻法ではなく転送魔法を応用して、あたしは自分の影を打倒したのだった。
「よっしゃあ!」
あたしは転送魔法で消費した魔力量を気にしつつ、先に進む。
何とか時間にはぎりぎり間に合いそうであった。