魔王城攻略
「おうおう、お熱いねぇ。アル、そいつがエリシア・デュ・リナーシスで間違いないのかい?」
「はい、間違いありません。俺のエリシアです!」
「ふああああああ! ちょちょちょ! ああああああたしは……! それに俺のって……!」
ヴィリディアにそう返すアルフレッドに、あたしは赤面する。
いやちょっと待て、あたしが本当の名前を認めたらまずいのでは?!
「あああああ、ベネットさん、あの……!」
「ああ、ギルドマスターから話は聞いているさ。そもそも、最初から銀級以上の実力を持っていたエリシアちゃんが、なぜそんな力を持っているかは疑問に思われていたからね。俺たちも話を聞いて納得していたよ」
えええええええええええ!
必死こいて隠してたつもりだったのに!!
あたしがジェイルさんを見ると、うなづいた。
「おうよ。まあ、エリシアちゃんが勇者だってバレるとフェルギンから引き渡せと言われる可能性が高いとギルドマスターから言われてたしな。公然の秘密ってやつだよ」
「みんな、エリちゃんが良い子だっていうのはわかっていたからね。それに、シーナって人に恩がある人も多いみたいだし、みんな気づいていても知らないふりをしていたわよ」
「お互い訳あり。詮索しないのがルール。エリが自分の村を滅ぼすなんて誰も信じない」
「どうやら、裏切った勇者の中に強力な魅了の能力者がいるらしいからな。それに操られたんだろう」
本当に、ジェイルさんは一体何者なんだろうか?
それに、みんな知っていたなんてあたしはどうしたらいいんだろうか?
うぅぅぅぅ……恥ずかしくて赤面してしまう。
「それにしても、エリシアは昔に比べて反応が初々しくなった気がするな。うん、俺としてもそういう反応をされるとなんだか照れてしまうな」
ああもうああもう!
と、とにかく話をそらすためにも、本題に戻そう!
「とととととと、とにかく、あたしたちは復活した魔王ユードラシルからアクレンティア姫様を取り戻すためにここに来たの!」
さすがに、あのお姫様をゴブリン害にあった女性のようにサイアクな目に合わせるわけにはいかなかった。
それに、魔王が直接出向いてお姫様を攫うというのは、何かしら目的があるような気がしてならなかった。
「ふむ、なるほどな。それならば、情報を摺合せした方が良いかもしれない。儂らの集めた情報も共有した方がよさそうだしな」
ヴィリディアはそう言うと、少し考えてこう提案した。
「一度エルフの城に向かうべきじゃな。確認したいこともあるしな」
「それだったら、俺たちがここに侵入してきた転送地点があるので、そこに行きましょう」
「転送地点?」
ヴィリディアは眉を顰める。
「ああ、エリシアちゃんが魔王の使った転送魔法を改造して、こことエルフの城を繋げる門を作ったんですよ」
「なるほど、それが彼女の勇者としての能力、と言うわけか」
正確に言うならば、あたしは魔法全般に関してなんでもできるんだけれどね。
まあ、【転送魔法】と言う概念を知らなかったから今まで作らなかったんだけれどもね。
「5階ほど下がったところに転送部屋があるので、そこに案内しますね」
と言うわけで、あたしたちは拠点に戻ることになった。
しかし、それにしてもアルフレッド達がこれだけ派手に暴れまわっているのに警戒度が上がっていないというのは気になった。
それはジェイルさんも気になっていたみたいで、道中ベネットさんに耳打ちをしていたのが気になった。
あたしたちが転送地点に戻ると、その部屋は入り口をエルフの兵士が守っており、中は臨時の拠点になっていた。
「ああ、ベネットさん! 戻ってこられたんですね」
「すまない、まだお姫様は見つけられていないんだ」
「そうですか……とりあえず、少し休憩していってください。それで、そちらの方々は……!」
兵士はヴィリディアを見ると、驚きの表情をする。
「儂らも入っても構わないかの?」
「ええ、ええ、もちろんです!」
さすがは伝説の《英雄》様である。
世界的に有名だからね。仕方ないよね。
あたしたちはパーテーションで区切られた会議スペースに案内されると、さっそく情報共有を行う。
まずは、あたしたちの状況を共有した。
ゴブリン害の話、魔王の話、エルフの国の存亡の危機の話をエルフの兵士の人も交えて行った。
「なるほど。そちらはそちらで随分と切羽詰まった状況だな。それにしても、魔王ユードラシルか。400年前の伝承に残っているような典型的な魔王ではないか」
「はい……どうやら封印が何者かに解除されたと推測されています」
あたしたちが探索に出て1時間ほどしかたっていないため、実質調査中と言ったところだった。
次はヴィリディアが話を切り出した。
簡単にまとめると、この森の近隣の村や町で人が行方不明になる事件が頻発していた。
その攫われた人はいずれも、高い魔力を保持している人物ばかりだった。
当然ながら冒険者もかなりの数行方不明になっており、調査に出た冒険者も行方不明になっていた。
そこに、エルフの森周辺に多くのゴブリン・オークが集まっており異様な雰囲気を出していることがわかる。
その時、修行に来ていたアルフレッドとカイニス達が、探し人の依頼をヴィリディアに渡したところ、行くことを決めたという。
「ふむ、どうしてかかわろうと思われたんですか?」
ベネットさんの質問に、ヴィリディアは端的に答える。
「勘じゃな。強敵の予感と言ったら良いかの? 弟子たちにとって丁度いい強敵が出る予感がした。ゆえに修行として引き受けた。それだけだ」
「は、はぁ……」
流石は唯我独尊な《英雄》様である。
まあ、今回は味方してくれそうだけれど。
「それじゃあ、俺から意見を一つ言わせてもらうよ」
ベネットさんはそう言うと、あの違和感を言葉にした。
「5階上まで探索した感じだけれども、俺たちは違和感を感じたんだ」
「そうなのか?」
カイニスが片方の眉を吊り上げる。
「ああ、降りる時に奇妙だと思わなかったかい? あれだけド派手に、ヴィリディア様のお弟子さんが暴れているにもかかわらず、警戒度が上がっていないことに」
「……確かに、言われてみるとそうだな。登るときはあんなに強力な魔物が階を守っていたのに、降りるときはすんなりと降りれてしまった」
ベネットさんにカイニスが同意する。
だけれども、他にもう一つ違和感があった。
可能な限りマッピングをしていたあたしたちだから、気づけた違和感だった。
「それに、どうやらこの建物は二重構造……すなわち、空白の部分があるんだ。通常じゃ探索できない場所と言った方が良いだろう」
ベネットさんはマッピングした地図をとりだして、その領域を指差した。
それはまるで中心にぽっかりと穴が開いたようにも見える。
「この部屋に転送ポイントがあると言うことは、この階のどこかに、この中央部分に侵入できる通路があるはずだ。そして、そこが本当の魔王の領域!」
「……! なんと、そうだったのですね!」
「外観の城のように見えるのはフェイクだったわけか」
「俺たちは中の塔状の部分が怪しいと踏んでいる。近くを手分けして捜索した方が良さそうだぜ」
ジェイルさんの提案に、全員がうなづいた。
……ヴィリディアは参加するつもりは無いみたいだったけれど、同行はするようであった。
「我々も御手伝いします。そのためにここに来ていますからね」
エルフの兵士たちも手伝ってくれるようであった。
「よし、それじゃあこの階の探索だ。俺たちは東側を、ヴィリディア様のお弟子さんは西側を、エルフの皆さんは南側をそれぞれ探索してくれ」
そうして、あたしたちは入り口の探索に移るのだった。